2月に読んだ本の中から私のベストはこの2冊!

シリーズ自句自解Ⅰベスト100『西村和子』 (2015年・ふらんす堂・1,500円) 昨秋、伊丹市の柿衞文庫(かきもり)で講演を聴いて、聡明な方だと感じたのですが、その印象通りの落ち着いた文章で、とてもよい本でした。好きな句が多く、知っている句もたくさんあったので、もともと私の好きな傾向の句を作る方なのだと思います。年が近く、息子さん二人がおられ、関西の北摂に住まわれたことがあるのも、親しみを感じた理由の一つかもしれません。 初学の頃、一度に100句作っては先生に見てもらった話。「俳句は畢竟、空想力だよ」と言われた先生の言葉。句会に欠席がちな境遇の時、ハガキに一日10句を書いて送り合う、一季語で50句を交換する仲間がいたこと。「多作多捨」で身につけた力が大きいと、魅力的な句群を読んで感じました。毎年祇園祭に出かけ、現場を踏んで作句に生かす姿勢などなど、一欠片でもいいから見習わなくてはと思った次第です。
泣きやみておたまじやくしのやうな眼よ (長男が赤んぼの頃) クレーンがキリンに見えて冬霞 (神戸異人館から神戸港を見渡す) どんぐりを拾つて捨てて子等とほし (子等の巣立ちのあと) 林檎剥き分かつ命を分かつべく (胃癌手術後のご主人に) 霜の夜の夫待つ心習ひなほ (ご主人を亡くす。享年六十) 生き残るとてもつかの間さくら咲く (お墓参り)
 昆陽池の鴨 追記:前に来たときはもっと白鳥がいたのに…と思っていたら、先日の新聞に「インフルエンザで20羽死に、5羽は隔離」とありました。確かに5羽は檻の中にいて、どうしたのかな?と皆で不思議に思っていたのでした。せっかく遠くから渡ってきたのに、信頼していた場所で死んでしまうことになるなんて、可哀想でなりません。
尾崎左永子/写真・原田寛『「鎌倉百人一首」を歩く』 (集英社新書ヴィジュアル版・2008年・1,000円) 尾崎左永子さんは、凜とした見た目と同じく、エッセイの文章も魅力的な人で、大好きな歌人の一人です。この本は、たまたま中古書店の閉店セールで見つけ破格の値段で手に入れたのですが、とても丁寧に書かれた素晴らしい本で、鎌倉と縁の深い尾崎さんにしか書けない内容の本だと思いました。また、ふんだんにある写真がどれも物語性があり美しく、印象に残りました。一首だけですが、ご紹介します。
「円覚寺僧堂の鐘なりいでて若葉の奥はいまだともさず」 この歌の作者松村英一は明治生まれ、窪田空穂門下で、平明であたたかい歌境を持つが、「短歌は悲哀の文学」といい切る人でもあった。歌は清明な自然詠だが、どこかに沈静した水のような悲哀感がある。たくさんの僧たちが修行をつづけている円覚寺の夕ぐれ。とくに若葉の重なり合う寺域の、人波をみな吞み込んだ静寂をとらえている。
この無駄がなく的確な文章、しびれます。また、「短歌は悲哀の文学」という言葉にも共感を覚えました。以前は、悲しい短歌は嫌いでしたが、今は短歌の役割は悲しさを詠むことにあるのではないかと感じています。短歌の究極は挽歌。相聞歌の究極も挽歌。相手(人間・動物・植物・自然)を想うことが、歌の基だと思うこの頃です。
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