心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌(歌集)-山下れいこ歌集『水たまりは夏』
山下れいこ歌集『水たまりは夏』 (青磁社刊/2006年/2500円)をご紹介します。

          mizutamarihanatuhyousi.jpg 【カバーと帯文】    mizutamarihanatuhontai.jpg 【本体】

以前から短歌結社「塔」誌で、愛媛の方だなと思いつつ、「保育園の先生なんだな。ご夫君は革新政党の議員さんなんだな。」と、親しみを感じながら、歌を読ませてもらっていた山下れいこさん。一度お話ししたいなという願いが叶ったのは、昨年夏、東京であった全国大会の休憩時間でした。それ以来、いろんな部分でご縁のあることが分かり、急に近い存在となりました。今回は、そんな山下れいこさんの歌集をご紹介します。


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【家から駅までの並木道】

あとがきに「子ども達を詠いたいとの一心から短歌を始めました。」とあるとおり、歌集には保育園の子どもたちがキラキラと輝いています。まずは、そんな歌から。

おはよーと駆けてくる子を一人づつ両手で受けとめ今日の始まる

歌集の最初の歌です。山下さんは、他の歌から推察するに、どうやら園の代表のようです。この歌から、私は我が子が通っていた保育園の園長先生の姿が浮かんできました。優しくて明るくて穏やかなんだけれど、一本筋が通っていてスマートなN先生と、山下さんとがすっと重なり、「ああ、あんな感じでお仕事をされてたんだな。」と嬉しくなった一首です。

母親の勤務どほりに子らは来る日勤・深夜・準夜・半日

二首目で「あれ?」と思いました。ここに来る子どもたちは、主に看護婦さんの子どもたち。だから、お泊まりもあるのです。国立病院院内保育所という、ちょっと特殊な保育所ですが、子どもたちが無邪気で可愛いのはどこでも同じ。預かる時間が不規則な分、愛おしさは募るかもしれません。

をさなごと目線の揃ふやはらかさ保ちてゐたし今日一日を

歌集の中ほどに、怪我をされ車椅子で仕事をされていたときの歌があります。

車椅子漕げば目線は子と同じ、なるほどおばけだこの壁のしみ

どちらの歌にも、子どもの側に立つ作者の優しく柔らかい心が出ていて、その余裕ある温かさがとてもいいなと思いました。

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【ドングリを拾う園児たち】


お茶碗を割りし子指を二本たて「まだ二歳だもん」と言ひつつ泣きぬ

全身で語りかけくるみどり児と喃語の会話つづく雨の日

「見て!ママ」とうつかりわれを呼びし子とつくりし砂山まだ残りたる

先生と園児達の信頼関係がしっかりできているからこその光景だなと思って、読みました。まるで母と子のような、もしかしたらそれ以上に丁寧に創り上げられてきた関係が、互いを支えている、そんな愛情を感じる歌群です。


子どもらにせがまれ雪の玉作るたくさん作る 標的はわれ

豆を撒く棒でたたくキックする このりりしさは鬼が来るまで

泥だんごを光らせるんだと磨きゐる子らはすつぽり夕日に包まる

こちらの歌は、少し大きい子どもたち。みんな元気いっぱいで、何にでも夢中になる、ちょっとやんちゃなお年頃。でも、やっぱり鬼は怖いんだね。そんな子たちを「可愛いなあ」と微笑ましく見ながらも、対する先生も全身で相手をしないと、子どもたちは満足しない。なかなかの肉体労働だ。時間の経つのも忘れて、ぴかぴかの泥だんごを作っていた我が子のことも懐かしく思い出しました。


保育園の間は守ってあげられた子も、卒園するとそういうわけにもいかない。優しい作者だけに、そんな苦しみが出ている次の歌が切ない。

準夜・深夜月八回の母の留守一人で守る小三の子は

「あづからうか」の一言を押さへたりどこまでだらう手を出せるのは

それだけに、卒園というのは、「もう守ってあげられない」という、悲しみを伴うのだ。

「ちよつとだけだつこして」と去にぎはに抱かれに来る子よ明日は卒園

わがあだ名呼びつつ背なにもたれ来る卒園せし子の確かな重み

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        【万博公園の思いがけないところに紅葉の名所発見!】

愛情いっぱいに子どもたちを見てきた保育園が、必死の反対行動虚しく、国の政策で〈法人〉となり、民間業者に一括業務委託されることになります。

次年度は〈法人〉となる我が職場守らむと撒く「朝ビラ」100枚

夜勤明けの二時間後には羽田にをり日帰り交渉普通となりぬ

灯をすべて点けても暗しホテルの部屋に次期園長の推薦文書く

誠実に守り育ててきたものが、上からの政策転換で簡単に切り捨てられてしまう、その悔しさ・情けなさが伝わり、私も辛くてなりませんでした。


主の祈り唱へて眠らむ人責むる激しき思ひ消しがたき日を

赦せない人の数はかぞへない土手にそよぎぬどくだみの花

つけつけともの言ひしこと淋しくて高音伸ばし讃美歌うたふ

山下さんは、キリスト教の信仰厚い方で、地元の教会でオルガンも弾いておられます。実は、この部分で、私の母方と縁の深いことが分かりました。伯母とは、同じ教会でお祈りされたこともあるようです。先日は、オルガンの楽譜(中村証二のCDに入っている曲)の件で、行き来がありました。

また、この教会が、父方の親戚とすぐ近くということも、つい最近分かり、驚いているところです。山下さんが働いておられた保育園に、姪もお世話になっていました(直接担当ではありませんが)。同じ町内の叔父は、ご夫君のことも、よく知っていました。保守的な県で、革新議員として長い間活動を続けられる、その心労は、ご家族も含め、どんなに大変だったろうかと思います。

眠れない日々もありたり「志」も持てず議員の妻たる三十二年

電柱にも頭を下げて歩くことが候補者の妻の心得の一

腰低く頭も低く暮し来てたうたうわたしは猫背になりぬ

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【赤い太鼓橋の上にとてもかわいい女の子がいました。】

肱川を抜き手をきつて渡りたる父の頭の白き手ぬぐひ

かぎかつこは点訳済みの印らし父の残せし愛媛の歳時記

思いがけない事故で亡くなられたお父上のことを詠まれた歌の中から、ふるさとの香りがする歌を引きました。正岡子規ゆかりの愛媛の人らしく、俳句をたしなまれるお父上であったのですね。お父上の得意な神伝流古式泳法も、確かO市に伝わる泳法だったと思います。
小学生の時、私のふるさとの町に住まわれていたこと(毎週土曜日にあった夏の夜店で、並んで金魚すくいをしていたかも!)や、ご実家が、私が通っていた高校のある市にあることなど、関わりの多さに驚くばかりです。


退職後半年を経て聞かれたりいつ辞めたのかとおとなりさんに

コーヒーのポットと歌集、電子辞書背負ひて日課の図書館通ひ

角取れしミシンの音のやはらかく風とほる午後Tシャツを縫ふ

退職をしてますますお元気な山下さん、短歌、ウォーキング、ヨーガ、ピアノ…、とフットワーク軽く、あちこちお出かけです。そのおかげで、私もいろいろお話できました。

ふるさとの町出身の歌人、久保斉さん(私の従姉と高校の同級生)や大江昭太郎さん(大江健三郎さんの兄上)の死を悼む歌が、大好きな高野公彦さんの歌集に載っていて、山下さんにそんな話をしていたら、お二人とも地元の短歌結社「にぎたづ」の主宰をされていたと教えていただきました。山下さんも、今そこで大事な役目を持っておられます。

どれもこれも短歌結社「塔」に入ることで始まった出会い…、つくづく人のつながりの不思議を思います。これからも、ステキな先輩の活躍を楽しみにしています。

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【毎年見たい奈良公園の大公孫樹。】



テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

心に響く詩歌&風景-拙歌&秋の奈良公園
11月中旬、秋の奈良公園に行ってきました。

11月23日まで興福寺の仮金堂で、生の(ガラス越しでない)阿修羅像を見ることができるというので、出かけました。10時前に着いたのですが、既に長蛇の列、210分待ちとあったので、即、諦めて奈良公園をふらりふらりと気の向くままに、というか、お気に入りの公孫樹を目指して散策してきました。今回は、その時の写真から。

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【大仏殿を裏手から。表は大変な人出でしたが、裏に回ると人が少なくなるのが、ここのいいところ。】

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        【飛び火野の大木と鹿。ホルンを吹いて、青年がエサの椎の実を与えていました。】

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【奈良公園は、楓・ナンキンハゼ・桜・公孫樹の紅葉・黄葉がいたる所にあり、とても美しいです。】

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        【奈良市内が一望できる二月堂に上がる階段。お水取りで有名。】

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【この二頭の鹿、角はもうないのですが、互いに頭を付き合わせて闘って?いました。】

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        【正倉院の近くを歩いていると、こんなステキな塀に出会えました。】

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【春日大社に向かう参道の途中で。鹿はどこでも賢くモデルになってくれます。アップのもあるのですが…。】

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       【大仏殿の裏手には、池もあり、鹿たちがたくさん休んでいます。公孫樹も大木多し。】

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       【午後からやっと晴れてきて、手向山神社に着いた時、ちょうど日が射してきました。】

 手向山神社は、「このたびは幣も取りあへず手向山紅葉の錦神のまにまに」と歌に詠まれたところで、昔は境内に1000本もの紅葉があったそうです。今は、少し。
来年の遷都1300年祭を前に、道路が整備されたり、新しいお店ができていたりで、変わらないと思っていた奈良にも変化の兆しが見えていました。観光客も、今までになく多く、ちょっとびっくりした一日でした。


 こんな景色を楽しめるのも平和なればこそ。少しでもましな世の中にという思いを込め、詠んだ短歌の連作を載せます。何事もまずは知るところから。少しでもそのお役に立てば、私が歌を詠む意味もあるかなと考えています。

                  黄なる粉「イエローケーキ」  
        
(9月11日、フォトジャーナリスト森住卓氏の講演「イラクリポート」を聴く。劣化ウラン弾が使われた湾岸戦争の後、イラクでは子どもたちに白血病、ガン、奇形が多発しているという。)


     会場の席みな埋まり静けさのなかスライドは映し出される

            日本とイラクはアジアの東西に位置することを改めて聴く

                  写真家の深く澄みたる目の奥にイラクの子らの眼差しがある

     チグリスとユーフラテス川合ふ町に子ども専用墓地(ぼち)があるとぞ

            「写真にてこの現実を知らせよ」とイラクの医師は強く頼みき

                  「伝はればこの子の生まれた意味はある」無脳症の子半時の命

     戦争のあと癌の子の増えしこと数字に示すイラクの医師は

            病院に白血病の薬尽き退院させらる少女サファも

                  放置されし施設に残るドラム缶「イエローケーキ」はその中にある

     ドラム缶欲しさに中の粉を捨つ そを劣化ウランと知らぬ村人

            村人は辺りに黄なる粉を捨て缶に貯めたり尊き飲み水

                  黄なる粉劣化ウランは風に舞ひ土埃のなかボール蹴る子ら
 
    放射線測定器の針振り切らる人も家畜も暮らす村にて

            劣化ウラン弾が貫きしといふ戦車 丘に見立てて子どもら遊ぶ

                  四十五億年 劣化ウランの半減期見届けるヒト残つてゐるか


テーマ:旅の写真 - ジャンル:写真

あんなことこんなこと-収穫の秋
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        【兄にもらった渋柿を干しました…ただいま十日ほど経ち順調に干し柿に変身中】

11月15日午後9時から⑩チャンネルで放送された「死ぬとき後悔する25のこと」より

番組欄を見て興味を持ち「エチカの鏡 ココロニキクTV」というのを、メモを取りながら見ました。
終末医療のお医者さんである大津秀一氏が、1000人の死を看取った体験に基づいてお話しされていました。

          1.健康を大切にしなかったこと
          2.遺産をどうするか決めなかったこと
          3.夢を叶えられなかったこと
          4.故郷に帰らなかったこと(お墓参りなど)
          5.(行きたいところに)旅行しなかったこと
          6.(元気なうちに)美味しいものを食べなかったこと
          7.趣味に時間を割かなかったこと
          8.会いたい人に会わなかったこと
          9.自分の葬儀を考えなかったこと
         10.(我慢に我慢を重ねて)やりたいことをやらなかったこと
         11.人に優しくしなかったこと(人のために一生懸命になりたかった…)
         12.心に残る恋愛をしなかったこと
         13.結婚をしなかったこと
         14.子供を産み育てなかったこと(→無理な場合もありますよね。by亀)
         15.子供を結婚させなかったこと
         16.悪事に手をそめてしまったこと
         17.(リスクを知っていながら)タバコをやめなかったこと
         18.感情に振り回された一生を過ごしてしまったこと
         19.自分が一番だと信じて疑わず生きてしまったこと
         20.死を不幸だと思ってしまったこと(ポジティブに生きる大切さ)
         21.神仏の教えを知らなかったこと
         22.生前の意思を示さなかったこと(延命治療のことなど)
         23.残された時間を大切に過ごさなかったこと
         24.自分の生きた証を残さなかったこと
         25.愛する人に「ありがとう」と伝えなかったこと
                                

 十五歳で、母が亡くなったあと「人はどうせ死ぬのに、なぜしんどい思いをしてまで生きるのか?生きなくてはいけないのか?」ということを長い間悩み考え続けました。
そして、出した結論は「どうせ死ぬのだから、死ぬとき悔いのないように生きよう。いつ死ぬか分からないのだから、毎日毎日が自分の人生、一瞬一瞬を大切に生きよう。自分の生きた証を残そう。生まれてきてよかったと思える人生にしよう。」ということでした。だから、ここに書いたことは、どれも共感を覚えることばかりでした。死ぬ直前でなく、早くに気づけたのは、母の最後の愛だったのだと思います。

義姉の最期のことも思われます。番組の最後の方で、「限られた時間をよりよい時間にすることが大切だ。」「(誰かの言葉ですが…)明日死ぬように生きなさい、そして、永遠に生きるように生きなさい。」と言われていました。家族や周りの者に一生懸命いい思い出を残していってくれた義姉。義姉に悔いが残らないよう、一生懸命尽くしていた家族。短かったけど、いい人生だったなと思います。

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【GANKOちゃんの愛情こもった手作り野菜が届き、鍋物にサラダに煮物に、美味しく美味しく頂きました。】


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心に響く詩歌(歌集)-久保茂樹歌集『ゆきがかり』
 今回は 久保茂樹さんの第一歌集『ゆきがかり』をご紹介します。

yukigakariobi.jpg    yukigakarinaka.jpg 久保茂樹歌集『ゆきがかり』(砂子屋書房・2009年・3000円)

「塔」の北摂歌会・大阪歌会でご一緒させて頂いている久保茂樹さんの第一歌集。
「ゆきがかり上、出しましてん。」と頭をかき照れる姿が見えそうな、いかにも久保さんらしい題名の歌集です。

ずっと30代だと思っていた久保さんが、実は私と1歳違いの50代と知って驚いたのは数ヶ月前のこと。二次会の席で、私の歌を「どれも皆お日様の匂いがしますね。」と言われ、「暗く寂しい歌ではなく、明るく元気の出る歌を詠みたいな。」と思っていた私は、とても嬉しく思いました。でも、ある有名な歌人が「歌というのは、どろどろとして辛いもの。」というようなことを書かれた文章を、その何日か前に読んだところでしたので、もしかしたら久保さんは「あなたの歌は文学まで昇華してないよ。」と暗に言われたのかも知れないなとも、ちらっと思いましたが、いい方にとるのが私の傾向なので…。

さて、この歌集、歌会や二次会でのご本人の口調を彷彿とさせる個性的で面白い歌集で、日頃から、歌会や毎月の「塔」誌で強い印象を受けていた歌もたくさんあり、大変親しみを感じました。言葉の細かい部分にまでこだわりのある作者の特徴が随所に見られ、言葉がそれぞれの持ち場で喜んでいるようで、作者の、歌を詠むのが楽しくてたまらないという気分が歌集からあふれていました。

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〈家族との関係は…〉

何といっても、久保さんの歌で印象的なのは、奥さまを詠まれた歌の数々。

子のわれとおとなの妻が泣いてゐた夢の不思議に半日が過ぐ

ラーメンを直(ただ)に鍋からたべをれば扉に倚りて妻ゐたりけり

とほ花火こたへはいつも遅れつつきみは話題をかへてしまへり

書き留める言葉は死んでゆくものと濃いめに眉を引きつつ言へり

コンサートに妻ら行きけむ味の素の壜を重石(おもし)にメモはありたり

わたくしのことは今日からぜつたいに歌にしないで 今朝言はれたり

最後の歌は、「塔」誌で見つけた時、「あらまあ、もう読めなくなるの?」と思わず言ってしまったインパクトの強い一首。最初の歌に見えるご夫妻の力関係が、奥さまを詠まれたどの歌にも伺え、微苦笑を誘う。他の身内を詠まれた歌もそうなのだが、自意識による照れが、ご自身を戯画化させ、それが、読者に、漫画や映画を見るような面白さを感じさせるのだろう。といっても、詠まれる家族にとっては、恥ずかしく照れくさく、かなり迷惑・・・、といった心境なのかもしれない。すべてが事実というわけではないのだろうけれど・・・。

編み棒を毛糸の玉に刺したまま子はふたつめの恋ををはれり

スピッツをこの子は好きで少しばかり大人しすぎるとおもふも云はず

子どもさんのことを詠まれた歌は、かなり遠慮がちであるが、魅力的である。男親というのは、気軽に声を掛けられない哀しさを抱えているのだろう。「スピッツ」は犬種ではなくて、歌のグループの「スピッツ」だろう。私も好きなグループだが、まじめな曲が多く、確かに大人しい。

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〈音に言葉を聞く耳〉

音がすぐ言葉にかはるゆふぐれだ喇叭吹きつつ豆腐屋がくる

円居(まどゐ)といふ死語に句点を打つ如し電子レンジのその終止音

はじまりはええんかいなといふ風(ふう)で高らかにいま笛吹きケトル

暑いなかを来てよかつたと思はせるかなかなに似たこゑこんにちは

こんな歌を読むと、久保さんの耳のよさと言葉へのこだわりを思う。そして、言葉と音が離れがたく結びついていることに改めて気付く。生活のなかの音が詩情を伴って聞こえてくる日々は、なんだかメルヘンのようだ。

一首目、豆腐屋の「と~ふぃ~」というラッパの音を、「音がすぐ言葉にかはる」と詠まれたところに、作者の歌の力を感じた。「ゆふぐれ」の切なさが歌全体に流れ、大好きな一首である。
二首目、電子レンジの「チン」という音は、単に「出来上がりましたよ」という合図だけではなく、昔からの家族団らんへの決別を示す音も暗示しているようだ。
三首目、「笛吹きケトル」のためらいがちに鳴り始め、思いきり沸点に達するあの音を、なんと上手に表現されたこと!
四首目の上の句のように思ってもらえる声を、私も出せるような人でいたいなと思う。声には、感情も人柄も、思っている以上に込められる。だから、受け取る側も敏感になる。

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〈自分自身を見つめる〉

唐突に電話は切られわたなか(=海中)の海月(くらげ)のやうにぽわぽわとせり

無精ヒゲ生やして人を追い払ふ鬼の気持ちがわかりかけてる

階下より呼ぶ声のしてこたふるときわれはカラスとどこがちがふか

男女の違いはあるけれど、同じような気持ちを抱いたことのある人は結構いるのではないかしら?自分の気持ちを「海月」や「鬼」「カラス」に喩えたり比べてみたりすることで、より見えてくるということがある。というか、理屈や言葉で説明できない気持ちだからこそ、歌になるのだと思う。

他人(ひと)の死にひとは怯えて生きるゆゑわが死は誰を怯えさすらむ

海の香のつよきにわれはなぶられて言葉少なくなりてゆきたり

いもうとをみるときの目に取り替へるわれに妹は居ないけれども

こんなふうに自分を客観視できるのは、心に余裕があるからだ。自分を見つめることは、自分を愛さないとできない。冷たく突き放しても大丈夫だという、自分自身への信頼がないと詠めない歌だ。ここには、作者の人間性が強く出ていて、好ましい。

       
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〈優れた観察力と表現力〉

ふとぶとと縦一文字書き初めぬまだもじになるまへのたて棒

モロッコの牛乳売りは朝やけをわれは夕日をいまともに見き

当たり前のことなのだけれど、そう言われると確かにそうだ!と、読み手の心に引っかかる歌を詠むのが、久保さんは上手い。
一首目の歌も、下の句で感心させられた。まんまと作者の術中に陥ったわけだが、それが妙に心地いい。実は、「縦一文字」から始まる字は意外と少ない。「口」「日」「目」か「門」か…、一画目を太く書く文字を考えるのも面白い。私は「日の出」や「門出」を思った。
二首目の茫洋とした詠みぶりの中に真実があり、「モロッコ」の位置を頭に描かせるところが、先に述べた歌同様、二度楽しめる味わいがあって、いかにも久保さんらしい。


せはしさはわが内にあり庭すみのつゆ草の上を飛ぶせせりてふ(蝶)

ゆふやけはまぶたの内のあかるみに熾火(おきび)のごとくしばらくはあり

うしろから背中を押されしかたなくここにゐますといふふうに雲

濃き青を押しのけながら来し月のひとりぽつちを連れて帰りぬ

ていねいに筋(すぢ)剥き終へしひと房をみつめたるままはなしはじめぬ

外の景色と自分の心情との取り合わせが絶妙で、「付きすぎず離れすぎず」が素晴らしい。
一首目、蝶の飛び方は恐らくせわしないのだろう。「せせりてふ」という名が、そんな印象を与える。でも、そのせわしさは自分の内にあるのだという感じ方が、優しく詩的だ。
二首目、夕焼けの色とあたたかさを、「熾火」に喩えるとは、さすが!まぶたを閉じて思う夕焼け。
三首目、四首目、「雲」も「月」も、人格があるように見えるときがある。それは、自分の心が、「雲」や「月」に重なってしまったとき。人は生きる孤独を、時々自然と同化させる。
ぽつぽつと大事なことを話し始めるとき、人は最後の歌のような動作をしているな、確かに。筋を剥きながら、考えるともなく、出だしの言葉を考えたり、頭の中を整理したりしているのかもしれない。

*言葉にこだわり、言葉にできない思いを表現しようとこだわった歌集に、久保さんの意欲を感じました。

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テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

猫日記「ハオ&ミューの日々」40回-T さん家の猫たちも
 猫日記40回  写真で知っていただけの、Tさん宅の愛猫「テッちゃん、モモちゃん」に会ってきました。

 真っ黒でりりしいのが雄猫の「テッちゃん」。1枚目、『魔女の宅急便』のジジみたいでしょ?

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 優しい色合いのカーテンがよく似合う雌猫の「モモちゃん」。見た目そのままのおっとりさんでした。

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 相変わらずやんちゃで甘えん坊の、我が家の雄猫「ミュー」。毎朝「おはよ~」と鼻を合わせてご挨拶。

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 無口の「ハオ」は、目で物を言うのが得意。よく食べよく寝てどっしり姉御になったのに、狭い所が好き。

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テーマ:猫写真 - ジャンル:ペット



プロフィール

大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年6カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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