心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く風景-天神祭
天神祭の船渡御に行ってきました!2010年7月25日(日)

年に一回、神様が外に出てきて、庶民の暮らしを見るという「天神祭」。16:00~18:00は、3000人の行列で陸を練り歩き(陸渡御)、18:00~は、天神橋で船に乗り(船渡御)、人々の様子を見るのだそうです。
次の二つのHPが天神祭のことがよくわかり、お勧めです。Sさんは、これで事前学習をして行き、バッチリだったそうです。http://www.osaka-info.jp/tenjin_matsuri/      http://www.nnn.co.jp/dainichi/suitosai/ 

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【「天神天満にぎわい船(奉拝船)」乗船前に、可愛い花娘さんたちと記念撮影-大川飛翔橋たもとにて。午後5時から乗船開始ですが、動くのは午後6時頃。神様の乗る船、お供の供奉船、お迎えする奉拝船など100艘あまりの船(普段は土の運搬船をきれいに洗って祭の船に仕立てる)に12000人ほどが乗船。花火と船で10億円かかるそうですが、公的援助はなく、すべて市民の力で。1000年以上続く大阪町民の素晴らしい心意気!浴衣での外出は40年ぶりですが、自力で着られたのが嬉しくて、写真をアップ!】

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【お隣の船は「遊創衆奉拝船」で、ジャズの演奏がかっこよかったです。】

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【災いを福に転じてくれる「花娘」さんたち10人が口上を述べているところ。このあと、花娘さんたちは町娘に変身して、お弁当や飲み物を笑顔と一緒に配ってくれました。「天神天満にぎわい船」は、彼女たちのおかげで華やかでした。岸辺には桜並木が続き、その枝が、岸に着けてある船の上にまで伸びていました。】
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【浪曲界から演歌歌手デビューをした「菊地まどか」さんが歌っているところ。いい声で浪曲や演歌「浪花女のげんき節」などを聞かせてくれました。「本並恵(もとなみめぐみ)」さんという新人の方も、絢香のような歌声でステキでした。手話落語をされる桂福団治さんと弟子の宇宙亭福だんごさんも乗っておられ、落語をされました。】
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【船と出会うたびに「大阪じめ」というのを、一緒にやって盛り上げます。「1.打ちましょ、チョン・チョン。2.も一つせ~、チョン・チョン。3.祝うて三度!チョ・チョンガチョン。」これが気分を高揚させ、互いにフレンドリーな気分になります。人と関わるのが好きな大阪人ならでは!】

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【これは仕掛け花火。帝国ホテル前と造幣局前が花火の打ち上げ所。花火がきれいに撮れたらよかったのですが…橋の上も大川沿いもぎっしりの人で、夜店がたくさん並んでいました。】

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【橋の上の人たちと手を振り合ったり、「大阪じめ」をしたり…。船上の歌声は聞こえていたでしょうか?】

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【御神輿や巫女さん・神主さん達が乗った神様の船も通るのですが、我がカメラの腕前ではうまく写せず。踊りや能を舞っている船もありました。1000年という伝統の力に感動しました。】

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【午後8:30終了の予定が、船が多く9:30に。でも、そのおかげで、花火をたくさん見ることができました。暑い一日でしたが、乗船中は川風を感じ涼しかったです。折り返し点には、下の写真のような松明船が明かりを灯して、船が暗い中を安全に航海できるようにしてくれていました。この大川、江戸の頃は3000艘以上の船が行き来して、ターミナルの八軒家浜は、大変な賑わいだったそうです。】

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 今回、こんな幸せな体験ができたのは、「第1回天神祭短歌大賞」に応募して、思いがけずグランプリを受賞し、その副賞として「船渡御ペアご招待(6万円相当)」と、下の写真のような大きな垂れ幕掲示というご褒美をいただいたからです。一生に一度のこと故、厚顔を承知で、記念の写真をアップしました。
元花娘だった高田ほのかさんが「天神祭を盛り上げよう」と提案され、募集の声かけを頑張っておられたので、「大阪で一番好きな商店街だし、若い方が頑張っておられるので協力しよう」と思った私の気持ちを天神様が見ておられて、こんな素敵な賞を下さったのだと感謝しています。

7月3日の表彰式に、地元の新聞社が取材に来られていました。ネットでも見られますのでよろしかったら、どうぞ。
梅田経済新聞 http://umeda.keizai.biz/headline/811/
大阪日日新聞 http://www.nnn.co.jp/dainichi/news/100704/20100704036.html

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天神橋筋商店街連合会のHPhttp://www.tenjin123.com/。会長の土居年樹さん(今回の実行委員会会長)https://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/jinzai/charisma/mr_doi.htmlは、街を盛り上げるため積極的な取り組みをされています。

 日本一長い(南北に2.6km)商店街「天神橋筋(1丁目~6丁目)」は、庶民的で美味しい食べ物屋さんや安い値段の服屋さん、本好きの私にはたまらない古書店など魅力的なお店が多く、家から乗り換えなしで行けることもあって、前から一番お気に入りの商店街です。梅田や難波は大きすぎて、私の身の丈に合わないので疲れてしまうため、用件が済んだらすぐ帰ってしまうのですが、ここ「天神橋筋」はぶらぶら歩くだけでも楽しくて、人間くささが懐かしくてほっとします。こんな商店街がいつまでも元気な国であってほしいなと、心から思います。
そして、今回、天神祭の船渡御に参加できて、大阪人の「人間好き」なところにすっかり惚れ込んでしまいました。田舎から出てきて今ひとつ大阪に馴染めないでいた私ですが、今回のいろんな経験で初めて心から「大阪好き」になりました。
私、来年は「陸渡御」を思い切り楽しみたいと思っています。皆さんも、来年はぜひ「天神祭短歌」に応募され、素敵な体験をされますよう!全国から応募できます!

PS:天神橋筋商店街のとても詳しいガイドを見つけました。興味を持たれた方は、覗いてみて下さい。
http://www.geocities.jp/general_sasaki/osaka-tenjin-sho-ni.html


テーマ:祭り/イベント - ジャンル:写真

心に響く詩歌-伊丹公子句集『博物の朝』
伊丹公子第14句集『博物の朝』 (角川平成俳句叢書20/2010年刊/2667円)

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 作者の伊丹公子さんは、1925年生まれ。現在、神戸新聞俳壇の選者をされています。先日、この句集の出版を祝う集いがあり、伊丹三樹彦・公子ご夫妻主催の句会に参加させてもらっている関係で、私も出席させて頂きました。集いの会場は、お二人のお住まいの近くで、私も新婚時代に暮らして毎日前を通っていた所だったので、とても懐かしかったです。

句会には、この5月から参加しているのですが、句の読みの勉強だけでなく、伊丹公子さんが、詩人の村野四郎氏、伊藤信吉氏に師事された話、伊丹三樹彦氏と榊莫山氏の二人展、小野十三郎氏との関わりなど、私も好きな方たちについての興味深い話が次々出てきて、毎回わくわくしながら生きた文学史を聞かせてもらっています。


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先日の祝う会の挨拶では「合わせて175歳の現役俳人!」と三樹彦氏が喜ばれ、公子さんの方は「年のことは言わなくても…」とおっしゃっていましたが、ご夫妻の温かいお人柄そのままの、とても和やかで楽しい会でした。来られていた方々も、皆さん明るく親切で、初対面であることを忘れるほどでした。とても仲が良く絶妙なやりとりをされるお二人を拝見しながら、このユーモア力と笑顔が、素晴らしいご家族の秘訣なのだなと思いました。

私の高校の恩師が、高校の文芸部で坪内稔典氏(当時「玄」所属)を教えていた頃、当時「玄」主宰だった伊丹三樹彦・公子ご夫妻が来られて句会をされたこと、五十崎・内子町にできたばかりの俳句結社「せきれい」を応援に来られたことなどを、最近恩師から聞き、不思議な縁を感じました。先日の祝う会で、隣の席だったNさんも、「玄」(今は「青群」)に長い間所属されていて、「内子にも松山にも結社の大会で行きましたよ」と言われていました。俳句の盛んな土地に生まれた幸も感じた私です。


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前置きが長くなりました。好きな句がたくさんある『博物の朝』ですが、写真の句と重ならぬよう、とびきり心ひかれた20句に絞ってご紹介します。間に挟んである写真は、『博物の朝』の句に伊丹三樹彦氏の写真を合わせて、句集出版記念の絵はがきにされたものです。許可を頂いて、12枚セットの中から5枚転載しましたので、あわせてお楽しみ下さい。

2007年

寂しいライオン座る 真昼の花吹雪

凌霄花(のうぜん)の あてどなき朱よ 町黙る

象の皺ゆれる 晩秋のひかり分け

一句目と三句目は、動物園での情景。強い動物、大きな動物ほど、動物園という狭くて人工的な場所に縛られている姿が、寂しく見える。動物を間近に見られる喜びを享受しながらも、動物の哀しみが作者にも伝わってくるのだ。
二句目の凌霄花は、夏の暑さの中でもぐいぐい伸びていく強い花。人々は暑さを避けて、家の中に逃れ、町は静まり返っている。夏真っ盛りの中、朱色の花の生命力が印象的だ。


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2008年

入院室から見えぬ桜が 咲いて散る

春風の言葉で 友に見舞われる

花ざかりの外れ 点滴ずっと無音

のち生きる歳月知らず 花ざかり

病気で入院されていたときのこれらの句が、切ない。桜の花盛りに、外気を浴びながらの花見ができないというのは、いちばん辛いことかもしれないと想像した。

秋思の犀 来たりて水に座すばかり

亡き友の確かに居る町 透く秋の

犀、河馬、象、地味な色彩で皮の厚そうな動物が、私はとても好き。三樹彦氏は「河馬が好き」と言われていた。坪内稔典氏も全国の河馬に会いに行かれた。さて、五句目の「秋思の犀」、確かに「秋思」は「犀」が最もふさわしい。「透く秋の」という結句がもの寂しくて、この句にとても合っている。透明感ある秋の気配の中では、亡き友も近くにいるように感じられるはず。抒情豊かで、共感を覚える句。

幾歳月 開け閉めされし戸の並ぶ

言葉の選び方と、戸の「開け閉め」を句にされたところに、心をつかまれた。京都の木屋町辺りの町家が並ぶ夕暮れ時の情景が浮かび、映画の一場面を見るようである。時間(幾歳月)と空間(戸の並ぶ)の奥行きがあり、読み手に物語を紡ぐ喜びを与えてくれる。


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2009年

帰る国ある鴨を いま目前に

「帰る国ある」というところに、他の社会的な事象も思い浮かべ、深く読めた句である。

黄金期の母子駆けてくる 象の前

子どもたちがまだ小さくて、子育ての一番楽しかった時期は、今振り返ると、ほんとうに「黄金期」だと思う。動物園で、真っ先に駆けていくのは、もちろん象の前。懐かしさで胸がきゅんとなる一句。こんな幸せな時代があったことに、感謝したい。

桜散る彼方へ歩く 今日生きて

この句は、長年生きてきた人にしか詠めない句。いつか私もこういう句が詠めるようになりたい。

飛魚(とびうお)をみた日の睡り 島の宿

旅先での心躍りがよくわかる。海の色や波の音まで聞こえてきそうな、素敵な句。

鮎を焼く 日昏の紫 かさねつつ

上手な句を詠まれるのは当たり前なのだけれど、それにしても上手いなあと思った句。鮎の色(煙や焼き色も)と日昏の紫がとても合っているし、トワイライトブルーを「日昏の紫」と優しく言われたところに感心してしまった。「かさねつつ」も時間の経過を感じさせ、素晴らしい。

窓あけた形に どっと 蟬の朝

一斉に降るように鳴く蟬の声を、「窓あけた形に」とリアルに表現されたところに、ゆるぎない実感がある。

晩秋の壁に映りて 弦の指

とても洒落た一句で、秋の空気感を繊細に表している。八木重吉の「この明るさのなかへ ひとつの素朴な琴をおけば 秋の美くしさに耐へかねて 琴はしづかに鳴りいだすだらう」という詩「素朴な琴」を思い出した。どちらも魅力的で大好きな作品だ。


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2010年

幸せの記憶ばかりの 雑煮餅

この句を読んで、「みんなそうだったんだな」と思った。両親が元気だった頃、餅の数を競って食べた、あの幸せな時代を思い出して、泣きそうになった。

沈丁の香りて 既知の町となる

沈丁花は、私にとっては忘れられない大切な花。春先に沈丁花の香りを嗅ぐと、一気に思いは母へとつながっていく。五感の中で、思い出といちばん強く結びついているのは、嗅覚だと確信した。

初蝶の ひかりおさなく 低くとぶ

「ひかりおさなく」というのが、詩的で心に残った。何かまだ弱くいたわってあげたくなる初蝶の様子が、目に見えるようだ。

 詩情豊かな俳句は、どれもみずみずしく、易しい言葉で優しく詠まれていて、ほわ~んと幸せな気持ちになった。


テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

心に響く本-帚木蓬生の小説
帚木蓬生(ははきぎほうせい)の小説

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水神 すいじん』
(上)4刷 285ページ (下)3刷 281ページ
帚木 蓬生(著) 各巻1575円 2009年刊行・新潮社・時代小説
新田次郎文学賞受賞にふさわしい、力強くまじめに前向きに生きる人々の物語。

江戸時代、筑後川の近辺にありながら、高台で水不足に苦しむ江南原と呼ばれる地域の村が舞台。五人の庄屋が財産、生命をかけて郡役所、近隣の村、百姓などを説得し、筑後川を堰きとめて水路を作り村々に流す大事業を成し遂げる物語。「打桶」と呼ばれる、朝から晩まで毎日、川の水を桶で汲み出して田んぼに流す仕事を続ける二人の百姓(元助と伊八)とその庄屋(助左衛門)を中心に、話が進んでいく。当時のお百姓さんたちの生活がリアルに描かれている。

お百姓さんたちの労力、立派な庄屋の存在(高田村庄屋山下助左衛門〈地図作成〉、菅村庄屋猪山作之丞〈文才ある能筆家〉、今竹村庄屋重富平左衛門〈武士と遠縁〉、清宗村庄屋本松平右衛門〈薬草に詳しい医師〉、夏梅村庄屋栗林次兵衛〈助左衛門の娘婿〉)、理解ある老武士(久留米藩士菊竹源三衛門)、これら皆の協力があって初めて成し遂げられた事業に、深い感銘を受けた。今まで見過ごしていた水路や、建設の苦労を書いた石碑も、この本を読んだ後では違って見えてくると思った。

本好きの友人、時代小説好きの兄に「いいよ、ぜひ!」と勧められて、初めて読んだ作者だったが、丁寧な作風と庶民への深い愛情に裏打ちされた文章に、力量を感じた。私からも強くお勧めします。


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国銅 こくどう』
帚木 蓬生(著) 新潮文庫2006年刊 単行本は新潮社2003年刊
上432ページ、620円 単行本は317ページ
下447ページ、620円 単行本は320ページ

長門の榧葉(かやば)山で、都に献上する銅をつくるため、懸命に働く人々。まず、その命がけで過酷な労働に驚く。どこに配置されても一生懸命努力し真面目で熱心な、若き主人公、国人(くにと)は、その人柄ゆえに、よい出会いが多い。なかでも薬草や文字の知識を与えてくれた僧、景信(けいしん)との出会いは重要である。

やがて、若者を含む村人15名は、大仏の造営の命を受けて奈良へ旅立つ。その旅も命がけの厳しいものである。東大寺の大仏建立のため、のべ何十万人もの人夫が、このように全国各地から大事業に駆り出されたのだ。大仏を作るための過重な労働の日々も、人々は体を酷使して懸命に働く。任期の3年は5年になり、もっと長期の人も居るが、任期を終え故郷に帰る道は、往路以上の困難に見舞われる。

こちらも感動大作。最近の小説のように気楽には読めないが、読んでよかったと思える本だ。現在の奈良の大仏は、2回の消失により再建されているが、一部、天平時代のものが残っているという。こういう建造物を、時の権力者の側からではなく、労働力としてかり出され懸命に働いた人たちの魂がこもったものとして、これからは見ていきたい。

上P199より
お前たちひとりひとりがお前たちの主だ。お前がお前の燈火だ。自分の燈火で自分の足元を照らすがいい。

下P159より
お前に特に厳しくしたのは見込みがあったからだ。教えありて類なしと言う。人は何を学んだかで決まる。地位や境遇や貧富貴賤はとるに足りないというのです。・・・苦しむことを好きになれば、その仕事からも好かれるようになる。

テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌

心に響く詩歌(歌集)-立川目陽子歌集『螺旋のつぼみ』
 立川目陽子歌集『螺旋のつぼみ』 (青磁社/2010年/2500円)

   rasenomote1006.jpg カバー   rasennaka1006.jpg 本体


色白できれいな肌のご本人を彷彿とさせる、淡くて上品な装丁の歌集である。昨夏、京都であった「塔」全国大会で仲良くなった立川目さんは、すらっとした外見そのまま、あの暑い京都でも涼やかであった。この歌集も、彼女の印象そのままの端正な歌が、寂しさを底辺に漂わせながら並んでいた。
抑制した表現で、生の気持ちを出さないように心がけた歌の数々。我慢強く、遠慮がちで、おとなしい方なのだと思う。どの歌も、とても「歌」らしい歌で、落ち着いた調べで詠まれている。


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母として

わがために書くと気づけり書き終へし子への手紙の切手はらずおく

子への手紙もつとも伝へたき言葉を白く消したり5センチが照る

四日ほどをバッグにありし子への手紙ゆふもやに濡るるポストに落とす

思春期の息子に、自分の気持ちをまっすぐぶつける母親の漫画「サムライカアサン」というのがある。こんな風に生きられたら、母も子もずいぶん楽だろうと思うが、現実の親というのは、この歌の作者と近いところにあるのではないか。

思ひ出はおもひだす度あたらしく記憶に積めり子を産みし夜も

来世にもふくふく産んで育てたい学卒へし娘と緋ざくらの下

母としては、いろんな不安や心配事もあるのだろうが、振り返ってみると、どれもこれも充足感に満ちた幸せな時代であったのだと気づく。温かくて優しいお母さんだ。


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子として

病む母と謎解きのごとき会話なり母のうなづく笑顔で終はる

ただひとり仰臥する人をみおろせりこの世の父を亡骸として

過去形に言へばすべてのうべなはれ額縁の中の死者がはにかむ

形見分けと畳紙ほどけば唐突にすこやかな母の気配は満ち来

ちちははを救ひし病院と車窓に見つわが住む総(ふさ)の母艦のごとく

五首目の「母艦のごとく」に、共感を覚えた。ご両親への思いは複雑なものもあったようだが、ここにあげた歌はどれも穏やかで、私はとてもいい歌だと思った。


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己自身を

さびしさが微振動するセーターのネックを口元に当てて歌へば

床の上に切られゆく髪ふつさりとかたちをなして放熱はじむ

吾を君と呼びし少年にあくがれき教室のなかの銀色(ぎん)の標準語

藪椿ふるさとの花とおもふとき見上ぐる紅は色あせぬ過去

子育てを終えた寂しさ、両親を看取る寂しさ、子ども時代に二度と戻れぬことに気づく寂しさ…、人生はなんとたくさんの寂しさを抱え込むことだろう。でも、その寂しさは、自分を愛おしむ気持ちと抱き合わせなのだ。過去も今もこれからも、大切にしたい自分の人生、そんなことを思いながら、これらの歌を読んだ。


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命あるものへの共感

乳を飲む赤子の足うら機嫌よし見えないものに絶えず触るるも

採血をせし獣医師のま白き手一度も触れずわが犬の体

この家でもつとも先に逝きし犬 いぬの時間をたつぷり生きて

たまきはる百一歳がはればれと生きてゐるなり電話のむかう

食堂に老人がひとり飲む麦酒ぽつりぽつりと泡が消えゆく

二首目の歌、最近は犬ばかりでなく、人のお医者様も病人の体に触れることなく、検査結果とパソコン画面のみを見ている。幼い人、犬、お年寄り、彼女の目が行くところは、労ってあげなくてはいけない存在ばかり。思いやりに満ちた人なのだ。


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自然への一体感

カーブ曲がる電車の中に傾ぐ時はつなつの光われをつつめり

わたくしの日傘がおほふ道の上に自死せしやうに横たふ蚯蚓

雨が上がった後、アスファルトの路面で死んでいる蚯蚓を見るたびに、申し訳なくなる。人間の都合で、働き者の蚯蚓から土を奪った私たち。それを「自死」ととらえた感性に心ひかれた。故郷を離れ、心の底から都会の住民になれない私も、「蚯蚓のようだ」と、アスファルト上の蚯蚓を見るたびに思う。「都会の蚯蚓」を歌に詠みたいと思いつつ、私はまだ果たせないでいる。

紅椿おもたく咲ける一樹あり支ふるものはつね無言にて

あらたまの昼の光をためてゆくきんかんの実の一つひとつが

どちらの歌も、単なる情景描写ではなく、家族や人生を暗示しているように感じた。「無言」であることへの矜恃。あらたま(新玉の年)の光の、めでたさ、ありがたさ。明るい未来を願い、健康や平和を祈る気持ちが出た二首目の歌には、一日一日を丁寧に生きていこうという作者の決意も伺える。

ほ、ほ、ほ、ほ、とまあるい光を産みながらにほひつづける臘梅のはな

まだ寒い中、春の訪れが近いことを知らせてくれる臘梅の花、外の光を受けながら芳しい香りを辺りに漂わせ、光の粒のように開いていく様子を、とても素敵に表現されていて、嬉しくなった一首である。花の形も「ほ」という言葉がぴったり!これからも、自然を詠んだステキな歌を、たくさん読ませてほしいな!

 紫陽花の写真は、今年の6月20日に万博記念公園で撮りました。

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年5カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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