心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌-高丸もと子さんの詩集など
 今年(2010年)の1月に拙ブログで、高校の同級生の友人で大好きな詩人のお一人とご紹介した「高丸もと子」さんとのご縁が、また広がりました。友人の和子さん経由で、拙歌集を差し上げたところ、たくさんの拙歌を引いて丁寧な感想を下さった上に、詩集や同人誌などを送って下さいました。何冊も頂いた「蝸牛Katatumuri 詩&童謡」というカラフルな表紙の小冊子に、この9月の拙ブログで、感性豊かで大好きとご紹介した「吉田定一」さんのお名前を発見して、びっくり!「蝸牛」の同人で、高丸もと子さんとは同人仲間だったのです。

IMG_8833katatumuri.jpg  huzisan.jpg  asita.jpg  yasasiizikan.jpg  

高丸もと子+千木貢 詩集『富士山』 (2010年/風聲庵/2000円)

この詩集は、富士山麓の山荘で過ごす方たちの、偶然のつながりの中から誕生したといってもいいだろう。千木貢氏夫妻が、10年前から発行されていた「ドクター・ビレッジの四季」という小冊子には、ご夫妻の作品をはじめとした文芸作品が掲載されている。そこに、仲間の一人として、高丸もと子さんも詩を書いてこられたのだ。美しい自然のもとでの文化的な集まり、なんとも人間らしく素敵なこと!と憧れる。この詩集は、高丸もと子さんと千木貢さん、お二人の作品を収めたものである。

   

  羽が生えるはず
  りんごも赤くなるはず
  そしてわたしの胸は
  もっと多くの安らぎで満たせるはず
  あこがれはいつも空に向いて

  遠い年月だけが
  木にふりつもっていき

  木は大地を抱いて
  空を抱いて
  なお
  抱きしめられないものの
  あることに気づいて

  木は木であることの
  哀しみがわかり
  木は木であることの
  安らぎをおぼえ

  やっと
  木は木になっていく



                    過ごしてきた

                   風が
                   光の粉をふりまいて
                   かけぬけていく

                   これが時間だとしたら
                   このような美しい時間の中に
                   わたしたちはいたのだ
                   それに気づかずに
                   過ごしてきた

                   木々が色を染め上げ
                   いよいよ一枚の
                   光になり
                   影になりして

                   さよなら
                   さよならと
                   こんなにもやさしく
                   手をふって帰っていくのを
                   わたしは気づかずに
                   過ごしてきた


高丸もと子さんの「星を見ながら」「竜の首に五色に光る玉=神秘の山・富士山=」、
千木貢さんの「回想富士」「初日富士」も、とっても好きな詩です。


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詩の風景 高丸もと子詩集『あした』 (絵:内田新哉/理論社/2006年/1400円)

これは、私の好きな「内田新哉」さんの絵(2006年6月の拙ブログに紹介・作品掲載本も紹介したつもりだったのですが、ブログ内検索にはかかりませんでした…)と、高丸もと子さんの詩がコラボをした詩集です。富士山の見える高原に住むおじいちゃんのところで、1年間暮らすことになった少年「はるか」を主人公にした、詩でできた物語。優しい絵とともに、子どもになりきって読みました。

  始業式

  あくしゅ!
  ・・よろしく。
  あくしゅ!
  ・よろしく。
  あくしゅ!
  よろしく!

  ぼくの手が
  だんだん
  あったかくなってくる

  どきどきが
  だんだん
  わくわくになってくる

  ぼくの手が
  どんどん
  のびていく

  だいじょうぶ!



           ありがとう

          ありがとう
          握手してくれたこと
          ぼくの手がおぼえている

          ありがとう
          声をかけてくれたこと
          ぼくの背中がおぼえている

          ありがとう
          待っていてくれたこと
          ぼくの靴がおぼえている

          ありがとう
          けんかしたから
          ぼくはわすれない



                  空

                 飛行機雲が
                 下からのぼってくる
                 空って
                 ぼくの背よりも
                 低いところにもあるんだ

                 カメラをのぞきながら
                 おじいちゃんが少し横へと
                 合図をした
                 ぼくは胸をはって
                 富士山とならんだ
                 でっかい
                 牛も写った

                 さっきの飛行機雲
                 どんどんのぼって
                 空のてっぺんを
                 ぬいていく


「まっさらさらさら」「地球のどこかで」なども載せたかったのですけれど…、皆さん、できましたら1冊丸ごと、小学生と一緒に読んでみて下さい。

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『一編の詩がぼくにくれたやさしい時間』
(水内喜久雄編著/PHP研究所/2008年/1300円)

私が、最初に高丸もと子さんの詩に出会ったのは、「水内喜久雄」さんが編集された本でした。彼の編集は信頼できて、というか、私の好きな詩ばかり紹介して下さるので大好きなのですが、この本は、まず表紙を見て「内田新哉さんだ!&大好きな水色!」と気に入りました。いつもは編集に徹する水内喜久雄さんが、ここでは詩と関連させながら自分を語っておられるのが新鮮で、さらに親しみを感じました。

「ただいま おかえり」の歌詞が印象的で大好きなミスチルの「彩り」をはじめ、いろんな分野の人が書いた詩が載っています。字の色が紺色というのも優しい感じがして素敵です。

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 保護色で、猫たちに寝場所を作ってやりました。他にも古いTシャツをひも状にして編んで、猫専用敷物を4枚。これも、明るい色や派手な色は嫌なようで、1枚は植木鉢敷きになりました。

テーマ:詩・ことば - ジャンル:小説・文学

あんなことこんなこと~歌集を出してから2ヶ月…
あんなことこんなこと~歌集を出してから2ヶ月… 

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 今朝、「10月22日指定」で、きれいな花鉢が届いた。「DENMARK CACTUS いちごちゃん(赤)」という名札が付いていた。ぞろ目にこだわった私の歌集に合わせて、今日届くようにして下さった出版祝いのお花である。添えられたカードの言葉とともに、こんな粋な計らいに心が打たれた。10月17日にあった「河野裕子を偲ぶ会」のことにも触れてあったので、きっと心の区切りをつけてから送って下さったのだろう。

 17日の「偲ぶ会」は、佐佐木幸綱氏、篠弘氏、秋葉四郎氏(代読)、吉川宏志氏の四氏による弔辞、岡野弘彦氏、高野公彦氏、今野寿美氏によるお言葉、岡井隆氏、馬場あき子氏、辻原登氏、花山多佳子氏による講演、松村正直氏、永田和宏氏、永田淳氏による挨拶、参列者全員による献花があり、真中朋久氏の司会で粛々と進められた。河野裕子氏を敬い慕う方々が、短歌の分野にとどまらず多く参加され1100名の参列があったと聞く。先にあげた方々の心のこもったお話によって、河野裕子氏のさまざまな姿やお人柄を改めて知ることができた。お話を伺いながら、「ご本人にこのお話を聞かせてあげたい。」と何度も思った。これからの私にできることは、「河野裕子氏の歌を読み続けることと多くの人に伝えること」である。

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 先日、ある人に「ブログをしてるってこと自体が目立ちたがりだもんね。」と言われ、「そうか、私は目立ちたがりなんだ。」と、かつて恥ずかしがり屋だった私は、しばらく落ち込んだ。そもそも私がブログを始めようと思ったのは…と考えて、「マスコミでは拾いきれない身近な人たちを紹介したい。特に、短詩型文学ファンとして、頂いた詩歌集を中心に紹介しながら、一人でも詩歌に興味を持って下さる人を増やしたい。」という原点を思い出し、立ち直った。「誰だって頑張っている人は応援したいし、有名人でなくても人間の価値は一緒なんだから目立ったらいい。」そのためのブログだもん、と開き直ることにした。

 というわけで、嫌らしいかなと今まで遠慮していたことを思い切って書くことにした。歌集を出して2ヶ月、たくさんの方々から、感想文・お手紙・お葉書・メールをはじめ、何冊もの歌集や本、特産品・文房具・お菓子・切手や図書券・現金・布製品等々を頂いた。拙い歌を読んで頂くだけでありがたいことなのに、加えてこのような温かいお心遣いを頂き、身に余るご厚意に感謝の気持ちでいっぱいである。60首・100首・120首もの歌を引用して下さった方もいて、その労力を思うだけで頭が下がった。また、国際電話でお話というような思いがけない出来事もあったり、旧交を温めたり、新しい出会いがあったり、「元気が出た。」という嬉しい言葉を頂いたりした。そして、それらすべてに私は大いに励まされ、これからもしっかり勉強していこうと思った。こんなことを書いて、自慢してるとか物欲しげって思われるかもしれないが、そう思われるのは私の人徳のなさ。仕方ない。

 実は、歌集を出したことと皆様から頂いた温かい思いを一番伝えたいのは、もうこの世にはいない両親と姉妹である。肉声では聞けないのがわかっているのに、「よかったね。」の一言が聞きたくて、自分のことを叱咤激励しているのだ。「人間って、淋しく哀しい生き物だ」と、自分を見てつくづくそう思う。

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 大阪日日新聞さんが、天神祭短歌のご縁で、10月7日の新聞に大きな記事を載せて下さった。あまりの大きさにびっくりし、同時に、温かい扱いをありがたく思った。全国紙ではないので、皆さんの目に触れる機会もないと思いますので、ここで紹介させてもらいます。(完璧なお多福顔だ…。)
今年は、天神祭のおかげでいいことがいっぱいありました。天満にある天神様にお礼のお参りに行かなくてはいけません。天神様として祀られている菅原道真公には、百人一首に次のような歌があります。

     このたびは幣もとりあへず手向山紅葉のにしき神のまにまに 

                                        紅葉の季節ももうすぐですね。

 10月29日追記 : ご紹介ありがとうございます。
角川『短歌』11月号「歌集歌書を読む 三井 修」のコーナー(p260~p264)に、拙歌集を紹介して頂きました。
3段組の中の1段15行ほどですが、こんな専門誌に載せて頂けるなんて思ってもなかったので、びっくりしました!ほんとに幸せな歌集です。心よりお礼申し上げます。
*同じ時期の出版で以前にご紹介した岡本幸緒さんの『十月桜』も載っていて、一緒にいい記念になりました。

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

心に響く詩歌-伊丹三樹彦氏の写俳の本4冊
伊丹三樹彦写俳集を4冊ご紹介します。

月1回の句会(三樹彦俳句サロン)に伺うたびに、いろいろご本を頂き私の宝物がどんどん増えていきます。
今回の4冊は、いずれも「写俳集」。俳句と写真を組み合わせた作品のどれもが魅力的なのですが、そこから3句ずつ選んでご紹介します。

『天竺五大』 tenzikugodaiomote.jpg tenzikugodaiura.jpg 
(1990年/ビレッジプレス/4000円)

前書きより~昨年(1989年)は1月に北印度、11月に南印度への旅をした。・・・特に印度は、昔の人にとっての天竺。中国の唐とひっくるめて、唐天竺は世界のすべてでもあった。ならば、天竺は地の果て、空の果てをも意味したであろう。今は、ジェット機で直航すれば、10時間前後で行けるが、それは印度であって天竺ではない。僕は印度を天竺の心で歩くべく努めた。印度の、いや天竺の天地風水火の五大を、脳裏に抱きながらである。

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     貿易風 サリーを鰭(ひれ)とし 翼とし

     死者離れても 人型の 流水花

     振り向く牛 神にも人にも仕える顔



『バンクーバー夏物語』 natumonogatariomote.jpg natumonogatariura.jpg 
   (1996年/ビレッジプレス/4000円)

前書きより~バンクーバーへは、この年(1990年)以後、夏ばかりを狙って三度の旅をした。・・・俳句を人間採集の詩と考える僕の写真は、同じく、人間採集の映像詩を志すことが多い。為に、一枚の写真から、被写体となった人物の背後にある物語を描き出したい、との意図をもつようになった。

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        シーバス接岸の瞠目(どうもく) 三才児
        
        母と異なる未来が 金髪ゆずられても
        
        天使雲 氷河の水を甘露とし



『瞬機の中欧』 tyuuouomote.jpg tyuouura.jpg 
(2000年/ビレッジプレス/4000円)

前書き(インタビュー)から~僕流の写真術といえば、スタンディング(どこへ立つか)、フレーミング(どこへ合わせるか)、タイミング(いかなる時にシャッターを切るか)の三つがありますが、特にこの中でもタイミングにほとんどの神経を集中させています。そのタイミングということを考えると、まさしく「瞬機」ということです。

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     自転車こそ王道 月日は追うものと

     水脈(みお)広げの鴨に ブルージュの夜明け

     レース店 故国に母系家族待つ



『メコン沃地』 mekonyokutiomote.jpg mekonyokutiura.jpg 
(2002年/ビレッジプレス/4000円)

鼎談(ていだん)より~結局、私の一番の資本はものを見る目、俳句を見る目、写真を見る目、この目玉だけですね。俳句で長年培ったものを見る目というのは、それは実は俳句的な目なんだけど、それをレンズを借りたら俳人の目はこんな目なんだよ、目配りはこんな目配りなんだよ、ということ映像を通して多くの方に知っていただきたい。それも私は写俳運動の効用じゃないかなと思っています。

     mekonmonzentigo.jpg
     門前稚児 背後に化粧筆の母

     後押しの踏ん張りは妻 炎暑の坂

     棒あれば影 影あれば揺れ 湖水


haiku201010.jpg 【「俳句10」小特集:伊丹公子】 haikuaruha201010.jpg 【「俳句α10-11」顔:伊丹三樹彦】

この春には伊丹公子氏の第14句集『博物の朝』が(以前にご紹介しました)、夏には伊丹三樹彦氏の第24句集『続続知見』(来月紹介の予定)が出版されました。俳句への情熱は、お二人で175歳の今も衰えることなく、瑞々しい感覚で俳句を詠まれ続けています。この10月には、お二人それぞれに俳句誌で特集が組まれ(画面をクリックすると拡大します)、私も嬉しく読ませて頂きました。伊丹三樹彦氏は85歳で脳梗塞で倒れた後、病後二万句をめざし句作に励んでおられ、目標の数字が近づいてきたそうです。
 私は月一回お会いするだけですが、俳句のことだけでなく、多くのものを学ばせて頂いています。


テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

心に響く詩歌-高倉和子第二句集『夜のプール』
高倉和子第二句集『夜のプール』のご紹介

yorunopu-ruomote.jpg  yorunopu-runaka.jpg  【空俳句会/2010年/2800円】

俳句雑誌「空」で、素晴らしい句と魅力的な鑑賞文「俳句展望」を書かれている高倉和子さんの第二句集です。私も縁あって所属させて頂いている俳句結社「空」は、福岡の地にて、主宰の柴田佐知子さんと編集長の高倉和子さんの奮闘で、確かな歩みを続けておられます。作句歴24年になるという作者の、平成5年から平成22年の2000句を超える作品の中から絞り込まれた365句はどれも良質で、俳句初心者の私にとって大変勉強になりました。情景が浮かんで特に好きだなと思った句を厳選し、季節別に分けてみました。最後に、作者の自選十句をあげますので、重なるものは省きました。

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新年

青空に抛り出されし初雲雀

餅飾る役目を父は譲らざり



聞くたびに笑ふ話や葱坊主

誉められて育てられしよ春袷

青空を整へながら剪定す

凧上げの少年空に曳かれゆく

時間割大きく貼りてチューリップ

「空」好きの私は、ついつい「空」を詠み込んだ句に立ち止まってしまう。それぞれが、取り合わせたものと合っていて、素敵だ。こんなふうに「空」を詠んでみたい。

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みな笑ふ家族の写真夏の雲

教はりし道を行くのみ青嵐

縁側の高き生家や初鰹

夕立に追ひつかれたる下校の子

汀長し胸より乾く海水着

まつすぐに道の伸びゆく海開き

振り向かず猫の出てゆく薄暑かな

遠泳の裏も表もなく戻る

青空の中に顔入れラムネ飲む

どの句からも夏の空気感が伝わって、「夏好き」の私は心がわくわくする。夏空のもと、人にも自然にも、元気でまっすぐな夏があふれている。

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うしろにも人の声ある良夜かな

落鮎や山に暮せば山の顔

川風に煮炊きの匂ひ地蔵盆

樹の皮も混じりてゐたる茸籠

台風のそれたる空を見るばかり

芋の露転がりながら太りけり

山影に収まる村や秋気満つ

こうやって季節ごとに並べてみると、目に見える風物だけでなく、五感すべてが季節を感じているのがよくわかる。秋はやっぱりもの寂しく、人恋しい。

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寒鯉を掴むに水を裂きにけり

電飾の樹の幹暗し十二月

それぞれの部屋に戻りし寒さかな

顔の幅に障子を開けて問ひにけり

誰かれに頭叩かれ雪達磨

身の軽くなりて焚火を離れたり

日向ぼこ母の隣にゐるごとし

自覚していないことも、このように詠まれると、「ああ、確かにそうだな」と思えてくる。俳句や短歌を詠むときの喜びの一つは、そういう無意識を顕在化してもらえるところにある。ものを見る目を訓練しないと、こうはならない。

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作者の自選十句

死ぬほどといふはどれほど心太

母病めば家ごと臥して大寒なり

知りたがる子のついてくる曼珠沙華

笑ひだす前に眼が合ふ赤のまま

鯛焼の冷めゆく重さありにけり

ふるさとに居れば娘や福寿草

父いつも母を急かせて花八つ手

襟巻のうしろは闇の中なりし

父の戦地母の戦後や柘榴の実

涼しさや振り向く故郷あることも

五句目の「鯛焼の重さ」のリアルさに俳諧味を感じて、とても面白い発見だと思った。一・三・四・八句目の句も、それぞれに機知や発見があり、深いところまで詠もうとしている作者の感性に心惹かれた。また、ご両親やふるさとを詠まれた句からは、「ありがたい」という作者の感謝の気持ちが伝わり、温かく懐かしい気持ちに浸ることができた。

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テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

心に響く詩歌(歌集)-岡本幸緒歌集『十月桜』
岡本幸緒歌集 『十月桜』 のご紹介 

  zyugatusakuraka.jpg   zyugatusakurana.jpg   青磁社/2010年刊/2500円

若い作者にふさわしい、可愛い色合いの歌集が届いた。私の歌集と同時進行で制作されていたようだ。作者の岡本幸緒さんとは、全国大会がきっかけで仲良くなり、絵はがきをプレゼントしてもらったことを覚えている。「塔」誌上で、魅力的な歌を詠まれる方だなあと、毎月注目していた、その岡本さんが、私が「塔」で初めて話をした人なのである。以来、お会いするのは、年に一回の全国大会だけなのだが、必ず笑顔を交わす。今回の歌集発行時期も含め、温かいご縁を感じている。
30代?の岡本さんは、歌歴が私より5年ほど先輩で、繊細で情感豊かないい歌を詠まれる。ぶっきらぼうな私とは歌風が違うのだが、今回、歌集を改めて読んで、いくつか共通点を見つけ、とても嬉しくなった。まずは、「一緒だ!」と思った歌からご紹介します。

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一緒だ!

どこからが空なのだろう さよならの手を振る指の先からが空 
「どこからが空なのだろう?」と思う時ってありますよね。私も「高層のビルの間に色のなき空気張り詰むどこからが空」という歌を詠んでいたので、この歌を見つけた時、すごく嬉しかった。岡本さんの歌は、恋心があって優しい。

丸顔のまるという名の犬を飼い平屋の官舎に七年住みき  
「同じ名前の犬だねえ」と互いに喜んだ歌。私のは「犬のまる十歳のわれ猫のたま家族写真は満ち足りしまま」どちらも懐かしい時代を思い出しているところまで、一緒!

菩提寺はいつもだれかと行くところ末っ子なれば連れられてゆく
私の場合、妹が一歳前に亡くなったので、わが家では私が実質末っ子。菩提寺からの連絡は、長兄の所に来るので、いつだってお寺へは兄と一緒に出かけるのです。

なぜ牡蠣を食べられないかを話しおり傘の中まで濡れているのに
私も牡蠣が食べられません。その理由を話し出すと、なぜか熱くなり長くなるのです。

何歳のころからだろう八重桜と翻訳本に距離を置きしは
少々苦手なんですね、私もです。八重桜のぼてっとした&媚びたような甘さ。翻訳本の変な日本語とカタカナ名の多さ。だから、余り近寄らないようにしてきた…。私は、この頃少しましになってきました。染井吉野が終わったあとの寂しさを慰めてくれる八重桜と金原瑞人さん訳のヤング・アダルト向けの本に出会ったから。

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ふるさと、雪そして父母

だれだってだれかの記憶に残りたい この冬最後となりそうな雪
雪国がふるさとの彼女にとって、雪はさまざまな思いをこめることのできる存在。上の句と下の句がとても合っていて、心に響く。
この冬は寒かったねと言いながら最後の雪をまだ待っている

改札のひとつしかないふるさとの深夜の駅に父母が待ちおり

老いてゆく父母の暮らしに幾つかの根拠を持たぬ決まり事あり

ふるさとの雨粒まとう機窓から東京の灯が見え始めたり

ふるさとの小さな駅で、娘の帰りを待ち続けてくれている両親。ご両親の思い、その思いを推察する作者、その切なさに、涙が出そうになる。「ふるさとの雨粒まとう」の歌を「塔」誌で見つけた時、泣いた。


泣く・涙・淋しい…

風に眼を細めていたり鳥たちは涙をぬぐう腕を持たざり 

理由など海に沈めておけばよい夏の終わりが淋しいことの

「岡本さんは泣き虫さん?」と思うほど、この歌集には「泣く、涙」などさんずいのつく言葉が多い。ここが、おばさんの私と若く感受性豊かな岡本さんとの違うところである。そんな中で、私はこの強い調子の二首が気に入った。「鳥の涙」という詩的な発想が素晴らしい。

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大切な人と

動かない亀や燕を見つけては指さすひとと旅を続ける

さよならを言わなくなりて家族なり「いってらっしゃい」「おかえりなさい」 

夜遅く宿に入りてもう見えぬ海を見るため窓辺に寄りぬ

時と場所きざまれている入場券 胸の高さに振りて見送る  
                          (全国大会・栗木京子選選者賞) 
たぶん、ご主人とのことを詠まれているのだと思う。感性や波長の合う方と一緒になられたのだなと、それぞれの情景を想像して、幸せな気持ちになった。


不安感

世界中の羊数えて夜が明ける何が不安か分からぬままに

肋骨は折れやすき骨その中に心はいつも護られている

ばさばさと物を捨てゆく本当に捨てたいものにたどりつくまで

たぶん今は何かをじっと待つ時間 浜辺に並ぶ風車のごとく

どの歌も表現の上手さに、ほれぼれした。心の中の言葉にしにくいものを、このように表せるのが、短歌の魅力の一つだと思う。

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身体感覚

身体だけ取り残されていくようにエレベーターは急降下する

つま先から時間をかけて冷えていく素足をさらす秋の縁側

魂が右の肩から抜け出して旅をしてきたように目覚める

確かに体はこのように感じることがある。感じても、誰もがこのように表現できるわけではない。


機知・ユーモア

なくしてもたいしたことはないけれどせんたくばさみの数を数える

遅れたり進んだりするだけなのに時計は狂うと言われていたり

さらさらの血液持っているような秋の雲にも悩みはありぬ

イチローの打率よりもという喩え分からぬままに頷いていつ

ペンネーム持ちたるごとし名を変えてすべての海はつながっている

みずからがつくる波紋を振り向かず水鳥ふゆの川面に遊ぶ

感性のアンテナがよく働いているから、私たちがふだん見過ごしているようなことにも、きちんと言葉が届く。言われたら、「ホントだ!」というようなことばかりなのだけれど、それを先に感じて表せるのが、詩人なのである。言葉の楽しさ、面白さと同時に、日常生活には詩歌の材料があふれていることを教えてもらった素敵な歌集でした。ありがとう。            【秋桜はすべて、先週末(9月26日)に豊能(とよの)の里にて撮影】

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テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年1月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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