心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く本-今月読んだ本の中から…。 
 今月読んだ本の中から…。 

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吉本隆明著『ひとり』 (講談社/2010年/2010年)

昨年後半から 「15歳の寺子屋シリーズ」 にはまっていますが、なかでもこの本が一番好きです。いい言葉がいっぱいあり、自分のノートにはたくさん抜いたのですが、ここではほんの一部をご紹介します。

〈書き言葉〉は自分の心の中におりていくための道具

人は誰でも誰にもいわない言葉を持っている。沈黙も言葉なんです。

大事なのはしょっちゅうそのことで手を動かしてきたか、動かしていないのかのちがいだけです。


どれもみな共感を覚え、宝物にしたいと思った言葉です。何よりも吉本隆明氏の「自分の頭でしっかり考える」姿勢に、感銘を受けました。人間を深く広く成長させるには、「自分できちんと考える」ことが大切です。15歳の若者の質問を受け、それに真剣に向き合い、若者と共に考える、氏の誠実さは、大変心地よいものでした。


柳澤桂子著『意識の進化とDNA』 (集英社文庫/2000年)

生命科学者、サイエンスライター、エッセイスト、歌人でもある著者が、小説の形を取りながら(といっても、こちらはおまけみたいなもの)、「いのちの不思議」について、科学的に述べた文章です。こういう分野は苦手な私ですが、分かりやすく書かれていたので、興味深く読むことができました。

特に、面白いと思ったのは、「地球上の物体は全部分子からできている。」「あなたは、一つひとつの細胞の中に、三十六億年の記憶をもっている。」「私たちは誰しも心の奥底に、万華鏡のような多様性と、無限の思いに満ちた世界を持つことができる。」といったことについて、具体例をあげながら説明してあるところでした。

理科的に説明されると拒絶反応を起こしてしまう私ですが、物語形式で展開してあったおかげで、日頃接さない分野に目が開き、大変よい刺激を受けました。


小川糸著『食堂かたつむり』 (ポプラ文庫/2010年/560円)

映画の予告編だけで、「食べることで癒されていく」という内容なのだろうと勝手に思い、また、アマゾンでの書評がよくなかったので読まずにきました。でも、今年は「食」を意識して生きようと考えているので、美味しいメニューが載っているかなと、軽い気持ちで手に取りました。

前半は、映画「地球交響曲」の中の「佐藤初女さんのおむすび」で癒されてゆく人々のことを、思い出しながら読みました。読む前に思っていた以上に、「命を頂いて食べること」の大切さを感じ、特に後半では深いものを受け取りました。後半は、ドキュメンタリー映画「いのちの食べ方」を見たときの衝撃に通じるものがありましたが、映像でない分なんとか耐えられました。私は、とてもいい本だと思います。


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水内喜久雄著『ステキな詩に会いたくて-54人の詩人をたずねて』 
(小学館/2010年/1470円)

詩が大好きな著者が、大好きな詩人を訪ねました。谷川俊太郎、まど・みちお、新川和江、茨木のり子、石垣りん、吉野弘、岸田衿子、工藤直子…、名前を書くだけで羨ましさでいっぱいになります。次のお二人に、若い頃の私は、優しさをいっぱいもらいましたが、次の言葉を読んで納得!です。

永田萌「私の気持ちの中に、悲しい人や辛い人が少しでもそれを軽くしてほしいという想いがあり、描いています。幸せな仕事をさせてもらっています。」

みつはしちかこ「元気がでるもの、生きていてよかったと思うことができるものを書きたいと思います。言葉の力はすごいですね。気持ちが明るいほうに行ったり、おおらかになったりしますから。」



内田新哉画『澄んだ瞳のおくに』 (河出書房新社/2000年/2400円)

大好きな絵なので、とっくの昔に紹介したと思っていたのですが、ブログ内検索をしたら未紹介でしたので…。
優しいタッチの絵で、添えられた言葉も「坂道はいつも僕の小さな旅だった」など、心の琴線に触れ、青春の切なさや憧れを思い出しました。帯に載っていたご本人の写真も穏やかで、絵の雰囲気とぴったりです。


高野秀行著『異国トーキョー漂流記』 
(集英社文庫/2005年・2010年第5刷/514円)

読みながら、昔夢中になって読んでいた椎名誠の数々の冒険話を思い出していました。それよりもっとたがが外れた感じと言えばいいでしょうか、とにかく面白かったです。
早稲田大学探検部という著者略歴が示すように、著作には、世界の辺境を探検したノンフィクションが多いのですが、これは、外国人との交流を描いたエッセイでした。就職難で若者受難のご時世ですが、こんなにゆるく生きられるんだよ (生活は厳しいでしょうが…)って、人付き合いのコツを教えてもらった気がします。

千葉県あたりの本屋さんが「酒飲み書店員大賞」というのを作り、彼の『ワセダ三畳青春記』が2006年に第1回受賞とあり、早速、この本を買って読んでいるところです。


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森 浩美著『家族の言い訳』(短編集)・『こちらの事情』 (短編集)

『夏を拾いに』 (長編)すべて双葉文庫

短編集の方のテーマは、「絶対的な味方」の大切さ。仕事にかまけて省みることのなかった家族の大切さを訴える本。40代後半から50代前半が主人公で、その子どもも登場する作品が多いので、中学入試問題にもよく採用されているそうです。読む人によって読みがブレることがないのも、その理由でしょう。
作者は男性で、年齢も重松清より2、3歳上なので、設定が似ています。元々作詞家で、ヒット曲を多数手がけてきた点が、作風に影響しているか、少々ベタな感じがするのは否めません。でも、読後感は温かいです。展開が上手いので、ラジオドラマにもよく使われているというのも、納得です。活字が大きいし、文章も読みやすいので、優しい気持ちになりたいときに、オススメです。

『こちらの事情』のあとがきより
前作同様、どの物語にも最後には“光”を残した。“救い”と言い換えてもいい。・・・僕は、甘いと言われようとも、やはり救いはあってほしいと願う。救いがあれば、決定的に堕ちる前に踏み止まれると信じている。

『夏を拾いに』(長編)は、小学5年生の息子を持つ父親が、自分の小学5年生のときの冒険を語るという設定です。「僕なりの『スタンド・バイ・ミー』」を書きたかったそうで、4人の少年たちの夏休みが生き生きと描かれています。40~50年前って、こんな風だったなと、小学校時代の同級生たちの姿が浮かんできました。ちょうど同じ年くらいの親子で読んでみたい本です。


テーマ:最近読んだ本 - ジャンル:本・雑誌

あんなことこんなこと-美味しい話題
 今日は、大寒。寒い日が続いていますが、皆さん、お元気ですか。私は、今年に入ってから、珍しくウォーキングが続いていて、いい汗をかいています。その割に、増えた体重は減らないのが、悩ましいですが…。

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 【夫がはまっている連凧あげ。近くの公園で。】

 まずはとびきり美味しい話題から

 IMG_0475201101.jpg 【こんなにも!】  IMG_0480201101.jpg 【美味しい!】

故郷の友人から、1月半ば、「頑張っている農園の苺を送ったよ。」と電話があり、見た目もきれいな苺「あまおとめ」が宅急便で送られてきました。「洗わずにそのまま食べてください。・・・内子町大瀬 石尾農園」という手書きの説明が一緒に入っていたので、いちご狩りの時のようにそのまま食べました。甘くて美味しくてびっくり!「冷蔵庫には入れず、日光の当たらないところに」とあったので、我が家で一番冷える玄関に置きました。帰宅して玄関に入ると、甘い香りに包まれます。故郷で、こんなステキな苺ができるようになったのかと、喜びもひとしおです。興味のある方は、連絡先をお教えしますので、メールか電話を下さいね。


 つづいて今はまっている美味しい話題
 IMG_0493201101.jpg 【漬物用の小ぶりの器】   IMG_0484201101.jpg 【愛しのパン焼き器】
 
酒粕が体にいいとNHKの「ためしてガッテン」でやっていたのですが、甘酒ではカロリーが高いし酔っ払うしと、ためらいがありました。そんな折、新年の挨拶に伺った書道の先生宅で、とても美味しい粕漬けをいただき、早速、その日から粕漬け開始。作り方は、酒粕・みりん・お酒・砂糖・塩を好みで混ぜて、そこに軽く塩漬けしたキュウリや人参などの生野菜を漬けるだけ。翌日に、酒粕も軽く付けたままいただきます。ちょっとお酒の気分も楽しめて、夕食ごとに幸せ~を噛みしめています。

以前から欲しかった普通のパン焼き器が、お米から作れるパン焼き器が人気のおかげで、超お買い得になっていたので、自分の誕生祝いにと購入しました。材料は、強力粉・砂糖・塩・スキムミルク・無塩バター・ドライイースト・水。準備が出来たらあとは機械にお任せと、いたってシンプル。3時間40分で、ほかほかの美味しいパンが出来上がり、これもただいま夢中で、抹茶パン・ココアパン・ぶどうパン…と次々試みています。音も想像していた以上に静かだし、手間もかからないし、いい買い物でした。
 

 自分で買った誕生日プレゼントは、もう一つあります。

 IMG_0487201101.jpg 【CDケース表面】  IMG_0488201101.jpg 【ケース裏面】
  
いきものがかりの2枚組CD『いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~』。昨年は、珍しく朝の連続ドラマ「ゲゲゲの女房」を見ました(夜の再放送で)。というのも、テーマ曲の「ありがとう」が大好きだったから。毎日聴いてもあきなかったこの曲と「YELL」が聴きたくて、せっかくなので他の曲も聴いてみようと買いました。聴くのにはちょっと若さがいりますが、元気が出ます。


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         【池の面を行くきらきら。歌にしたいのですが、難しい…。】  

 おまけ
102歳の書道の先生は今も15名を越える生徒を教えて下さっているのですが、ほんとに肌もつやつやしてお元気!「ちふれ」の化粧水とクリームをちょいとつけるだけなので、安上がりだそうです。日々の買い物もお料理も、もちろんご自分でされます。ほぼ毎日食べておられる好物は、オリーブオイルで炒めた豚肉・果物・粕漬け、こしあん・チョコレートも好物です。毎晩、ソリティアというトランプゲームをして、運勢を占うそうですが、また、このカードの数字を見て動かすのが速いこと!目も歯も丈夫で、手もよく使われるので、脳もお元気です!この辺りに、自立した102歳の秘訣がありそうです。

テーマ:料理 - ジャンル:趣味・実用

心に響く詩歌(歌集)-武田久雄歌集『寒の水』
 武田久雄歌集『寒の水』 (青磁社/2010年/2500円)

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寒い日が続きますが、お元気ですか。今回は、ちょうど今頃の時期のことをいう「寒」を名前に持つ歌集のご紹介です。1月5、6日あたりが「寒の入り」で、2月3、4日頃に「寒のあけ」。この時期の水は腐りにくく、健康にいいとされ、味噌や醤油・酒作りなどに利用されると聞きます。
表紙の写真が、歌集の題とよく合っていて、いいなと思いました。

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魅力ある写生歌がたくさん収められた歌集です。歌に詠まれている琵琶湖は、私もよく訪れるところなので、情景が浮かびやすく、湖北の静かな雰囲気が伝わってきました。作者が暮らしておられる湖北を詠まれた写生歌に、とても心惹かれたので、それらを中心に以下に二十首ほどあげたいと思います。
本当は、琵琶湖の写真を添えたかったのですが、手元に冬の湖の写真がありませんでしたので、かわりに1月に撮った万博の写真を一緒にアップします。この季節の情景を、歌(他の季節も含む)と写真でお楽しみ下さい。
五七五七七のリズムがとてもいい歌ばかりですので、声に出して読まれることをお勧めします。
読み仮名は、こちらで付けたものがほとんどですが、歌に合わせ歴史的仮名遣いにしています。

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          川越えて鼬(いたち)はふかき雪のなか潜ると見えしに頸(くび)もたげゐぬ

          ふる里の小川に返す月光に残り螢が石垣を這(は)ふ

          山裾の湖(うみ)べはかすかな風の吹き葦むらあたりよしきりの鳴く

          灰いろの雲かげふかき沼のみづ湖北は長き冬に入りゆく

          原発の被ばく圏内北の湖雪の降りつつ夜を風が鳴る

          カハセミの止まる枯葦(かれあし)たわみつつ小雨ふる沼暮れふかみゆく

          ダム故に「鷲見(わしみ)」よりここに移り来し老い人畑を黙し耕す

          重なりて冬雲垂れくる余呉の湖(よごのうみ)野小屋に雀の群れて入りゆく

          あと十年われは生きたし湖(うみ)に浮く船打つ波の音限りなく

          ぽつかりと浮き来し鳰鳥(にほどり)暫(しばら)くは動かざりけり秋の日浴びつつ

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          朝やけの隅(くま)なく湖北を照らす野に野菊はひくく川辺に咲けり

          原発に隣り合はすもみづうみのこの夕凪を讃へ吾は生く

          池のべにわが佇(た)つ影を乱しつつ浅瀬の真鴨餌を漁るのみ

          穏やかな水面に映ゆる冬雲の影の重たし鴨の鳴く池

          山越えて県境ちかき祖母の里木を切る音の真上に聞こゆ

          泳ぐ鳥立つ鳥のゐてこの荒るる北湖を終(つひ)とする鳥もゐるべし

          このあたり父の田んぼのありしとこ青鷺(あおさぎ)一羽日溜りに立つ

          風荒き寒の戻りのみづうみに北帰のばさむ鴨のゐるべし

          この村の軒端はいつも芥(ちり)一つ落ちてをらざりわれのふるさと

          刈られたる切藁(きりわら)の上ひかり立ちもそろもそろに蝗(いなご)の動く

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 旅行詠の自然と違って、生活の場所での自然は、すでに作者の一部となっているため、読み手にも深い思いが届きます。自分の暮らす土地に足をつけて生きることは、ある種の覚悟もいりますが、そこから受ける豊かさをとても羨ましく感じました。目に見える場面だけでなく、その場の気温や風の流れなど体感できるものも、これらの歌から受け止めることができました。素晴らしい歌集をありがとうございました。

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テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

季節の詩歌(20)~鴨の声~
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 「空」誌34号に載せて頂いた拙文「季節の詩歌(20)~鴨の声~」です。
   先日、伊丹市にある昆陽池公園で撮った、鳥の写真とあわせてアップします。お時間のある時に…。

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海暮れて鴨の声ほのかに白し     松尾 芭蕉

芭蕉は目だけでなく耳もいい人だったのだろう。有名な「古池や蛙飛びこむ水の音」「閑さや岩にしみ入る蝉の声」、「秋深き隣は何をする人ぞ」、いずれも聴覚が効いている。また、古典をよく勉強していた芭蕉は、新しい詠みにも果敢に挑戦した。ここにあげた句からも、そのことがわかる。さて、冒頭の句は、聴覚を視覚に転化した成功例としてよく引かれるが、「白」をどうとらえるかだろう。「白」と聞いて、すぐ浮かんでくるのは、高屋窓秋の句「頭の中で白い夏野となっている」である。色の「白」をイメージしながら、「空白」につながる「白」。案外、芭蕉はその空漠の中に漂っていたのかもしれないという気がする。そのとらえどころのなさは、夕闇の中に一人立つ寂寞感につながろうかと、次の句を読んで思った。

さみしさのいま声出さば鴨のこゑ   岡本 眸

「さみしさ」といえば、こんなに寂しいことはないだろうと、若い時に読んだ歌がある。

ももづたふ磐余(いはれ)の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ   大津 皇子

よく学び武芸にも優れた皇子が、有能で人望もあったゆえに、政敵に謀反の疑いをかけられ処刑されたという、この歌の作者の悲劇はよく知られている。若くて才能も実力もある皇子が、明日はもうこの世にいない自分を思いながら聞く鴨の声は、おのれ亡き後も命あるものの声であるだけに、哀切である。次の句は、大津皇子の悲運を連想させると同時に、各地に残る悲しい言い伝えを思い出させた。

鴨鳴くや悲しき沼の話聞く       高浜 年尾

ぴいぴいとか細く鳴く鴨の声は、姿の見えない状況の中でこそよく聞こえるようだ。

霧ながら月の照りたる刈り田にはいづらやほそく鴨の啼くらむ       中村 憲吉

月の冷気しづかに降(くだ)り眠るまへに鳴きかはす鴨のこゑこもりゐる  横山未来子

ひんやりとした月夜、一羽で鳴く鴨、仲間で鳴き交わす鴨、どこか別世界を思わせる空気感がある。

水の樹をめぐるみぞれの閃々と鴨ら一つの声に鳴きあふ         河野 愛子

光を受けてきらきらと降るみぞれの中、互いの姿が見えず不安なのだろうか、鴨の鳴き声が聞こえてくる。それを「人恋ふ声」と詠んだ次の句は、作者も寂しさに耐えかねて人を恋うているのだろう。

冬の鴨人恋ふ声を上げにけり     長沼 紫紅

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切ないほどの鴨の鳴き声を聞いたあとで、鴨肉を食する詩歌はどうかとも思うが、古来、貴重な蛋白源として、食してきたのも事実であるから、目を逸らさずに読んでみよう。ふだん私たちが鴨鍋などで頂くのは合(あい)鴨(がも)で、真鴨(まがも)もしくは軽鴨(かるがも)と家鴨(あひる)の交配種である。近年は、合鴨農法が盛んになったため、シーズン終了後の合鴨を食用に回すことも多いと聞く。

鴨を煮て素顔の口に運ぶなり     澁谷 道

私の生活に近いのは、上の句である。「素顔」が人間の中に潜む野性味を示唆していて、「鴨」とよく合う。次の句や歌にみえる鴨撃ちは、私の身近にはない。

猟夫(さつお)と鴨同じ湖上に夜明待つ     津田 清子

照準のなかなる鴨が朝焼けの沼の明りに頸(くび)を伸ばせり      津川 洋三

「鴨」と「猟夫」の対比が際だつ句と歌である。はやる気持ちを抑え「夜明」を待つ「猟夫」と、そうとは知らず穏やかに「夜明」を待つ「鴨」。「同じ湖上に」というところに、作者の張り詰めた心情が感じ取れる。句の状況をさらに具体的に述べると、隣に並べた歌のようになるだろう。「照準」を合わす撃ち手の緊迫感と、のんびり「頸を伸ばす」鴨の対照的な様子が、こういう場での人と鳥とを描ききっている。それは、非情とか痛々しいという言葉を超えたもので、一つの真実としか言いようがない。

撃ちし鴨掴めば薄目あけにけり    奥坂 まや

雪の沼に撃ちたる鴨をさげて來ぬ病み臥る我をなぐさめむため       結城哀草果

鴨の骨叩く音なり二階まで       後藤 綾子

人が生きていくということは、こうやって他の命を頂いていくことなのだ。撃たれた鴨の「薄目」を見た作者は、一生その目を忘れないだろう。また、「我」のためにと提げて来られた「鴨」に、作者は複雑な思いを抱いたのではないか。二階まで聞こえる骨を叩く強い音に、この鴨はどんなに逞しい脚や体で、今まで生きてきたことであろうと、作者は胸を痛めているに違いない。無用な殺生は不要だし、まして遊びでの狩猟など全く共感できないが、撃った以上はきちんと食べないと申し訳ない。都会に住む私は、整った結果を享受するだけであるが、狩猟を生きる糧にしている人がいるのも確かなのだ。と書きつつ、次の句を読んだとき、涙がこぼれた。

吊るされて鴨は両脚揃へけり      土肥あき子

「鴨は」の「は」にすべて凝縮されている。作者にとって、これは他人事ではないのである。空を飛び、湖沼に遊ぶ鴨を知っているからこそ、心に堪えられない現場であり、「揃へけり」の主語を鴨にして詠まずにはいられなかったのである。

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毎朝、通勤途中に鴨を見て、親しみを感じている私にとって、狩猟の対象となる鴨の詩歌は、やはり辛い。ところで、この季節、飛来した鴨を数えるのが、私の楽しみの一つになっている。異常気象が取り沙汰される昨今であるが、今年も十月中旬から戻り始めた鴨たちは、例年と同じ四十羽ほどになった。

水中の陽を囲みたる鴨の陣         寺井 谷子

鴨の陣ただきらきらとなることも       皆吉 爽雨

鴨たちが朝の光を引きながら水面を滑るように泳ぐ姿は格別美しく、時間を忘れて見とれてしまう。また、水上に円陣を組んでいる様子も興味深く、つい見入ってしまう。水面に映る朝日を囲みながら、今日一日の予定を皆で確認しているような鴨の様子は、なんだか人間くさくて面白い。鴨を囲む、空からの光と水面を反射する光の「きらきら」は、見る者に幸福感をもたらしてくれる。行くときに見る朝の鴨もよいが、帰りのまだ暮れきるには早い時間帯に、じっくり眺める鴨も味わいがある。

心こそ光るにあらめ夕日映る水を走りて鴨ら遊べる      馬場あき子

鴨が自在に泳いでいる様は、まさにこの歌の「遊べる」がふさわしい、楽しそうな情景である。水面に映える夕日も輝いて美しい。そんな中、これと決めた一羽ではないが、時々動きの気になる鴨が現れる。

蓮揺れて その影揺れて 縫うのは鴨    伊丹三樹彦

岸辺に近い植物の群生しているところや、この句のように蓮の茎が林立しているところを、動きにくいだろうにわざわざ選んで泳ぐ一羽の鴨がいる。植物相手に一人遊びを楽しんでいるようにも見えるし、仲間はずれにあってしょげているようにも見える。結果、私はじっと見つめることになる。

鴨の中の一つの鴨を見てゐたり        高浜 虚子

鴨群るるさみしき鴨をまた加へ         大野 林火

群れに戻ったのを確かめて、やっと視線が他のところに移り、全体の景色が目に入ってくるのである。

鴨のからだの通りしほそき跡のこし薄暮の色にしづみゆく湖(うみ)    横山未来子

水脈を引く鴨の詩歌が意外に少なかった中、若い作者の、この繊細な表現と静かな雰囲気に心惹かれた。


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鴨は、晩秋から初冬にかけて渡ってき、つがいをつくって越冬し、春には群れになって北方の繁殖地に帰る。池や湖沼に棲む真鴨などの淡水鴨と、海に棲む海鴨に大別される、そのそれぞれを見てみよう。

鴨流れゐるや湖流るるや       深見けん二

冬の蓮折れてこまかきかげのなか浮く鴨らみな息(いこ)ひのかたち       上田三四二

枯はちすひれ伏すところ黄昏(くわうこん)の水となりつつ鴨一羽浮く       三國 玲子

水面下の脚の動きは見えないが、陸から見る限り、それはただ水の動きに任せて浮いているようにしか見えない。意志を持って移動しているのでも留まっているのでもなく、脱力しているような姿が、私たちは気になるのだろう。入り日を受けて黄昏色に輝く水面に浮く鴨は、ブロンズ像のようだ。これが、いざ羽ばたこうとすると、静寂の世界から一転、次の句のように羽音も聞こえそうな力強い情景となる。

水に立ち羽ばたかんとす暮の鴨    山田 六甲

水の上に下りむとしつつ舞ひあがる鴨のみづかきくれなゐに見ゆ     古泉 千樫

こちらは、鴨の動きのみならず、水かきまで細かく観察して、典型的な写実の歌となっている。

下りて来し鴨の一群(ひとむれ)は蒼(あを)潮(じほ)の大きうねりにのりて漂ふ 川田 順

飛ぶ鴨も夕日も波のしぶく中      橋本 榮治

海に出て伸縮自在鴨の列        右城 暮石

鴨の動きが伸びやかに見えるのは、雄大な海が背景にあるからだろうか。しかし、限りのない海の、その果てのなさは、自由も不安も感じさせる。

渡り来てはぐくむ鴨よ戦はぬ誇りあやふき国の水辺に        竹村紀年子

はじめての雪見る鴨の首ならぶ鴨の少年鴨の少女ら         佐佐木幸綱

社会性を感じさせる歌、初々しい抒情の歌、どちらも、情景描写だけではない魅力をたたえている。新しい見方を教えてくれる詩歌との出会いは、歌や句を読む喜びを尚一層大きなものにしてくれる。

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テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

心に響く風景-天王寺七坂巡り
 お正月の運動不足解消のため、 「天王寺七坂」巡り に出かけました。

谷町九丁目駅からすぐの所にあるのが「藤次寺(とうじじ)」で、別称「融通さん」。約1150年前に藤原冬嗣の発願により開山された真言宗の名刹で、以後代々藤原氏一門の氏寺として栄え、九條家の永代祈願寺でもあるそうです。境内に阿波野青畝の句碑「動く大阪うごく大阪文化の日」がありました。

石畳の道を探して歩いていると、①真言坂の石の標識が見つかりました。緩い坂の先に幅の広い階段があり、「いくたまさん」の呼び名で有名な「生國魂(いくくにたま)神社」の東の入り口がありました。ここは大阪最古の大きな神社で、敷地内には末社がたくさんあり、絵馬の図柄も、写真のように色々あって楽しい。
芭蕉がこの社で詠んだ「菊に出て奈良と難波は宵月夜」の句碑や、同じくこの地の南坊で井原西鶴一が昼夜四千句独吟の記録を樹立した記念像などもありました。近松門左衛門の浄瑠璃の舞台として、また落語発祥の地としても、上方文化にとって大切な場所と説明にあります。谷崎潤一郎や織田作之助などの小説にも登場している神社です。

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長い石段の②源聖寺坂の途中には、木彫に凝った立派な建物の「齢延寺」や近松心中物に出てくるお千代・半兵衛の比翼塚の建つ「銀山寺」がありました。
次の坂までしばらく、お正月で閑かな松屋町筋を行きました。新撰組大阪旅宿となった「萬福寺」、緑豊かな「大覚寺」、タージマハールみたいな「心光寺」など、立派なお寺が並んでいて、興味が尽きません。

織田作之助の「夫婦善哉」にも登場する③口縄坂では、猫が三匹日向ぼっこをしていました。坂を上ったところで、私たちと同じように「七坂」巡りをしている大阪在住のドイツ人夫妻に、再び会いました。 「浄春寺」には画家田能村竹田などのお墓があるそうです。
 
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         【この坂は、口縄坂】

鎌倉時代の歌人で、『新古今和歌集』の撰者の一人でもある藤原家隆のお墓や、聖徳太子創建という大阪最古の木造建築「愛染堂」を見て、急な坂④愛染坂を下ります。

続いて広々として、石垣の蔦紅葉が美しい⑤清水坂へ。坂を自転車で下って来た人を見ると、タレントの「ぼんちおさむ」さんでした。高台にある清水寺境内からは、通天閣などが一望できました。道路に菱形の石がはめ込まれている所を見つけて歩くと、自然に「天王寺七坂」(は、すべて石畳の道)を巡れると、今頃になって気づいた私たちでした。

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⑥天神坂には、「天王寺七名水」の再現モニュメントが作られています。江戸時代、この辺りの水は水質がよく、それを汲んで売り歩く「水屋」という商売があったそうです。「安居天神」には、この神社の境内で戦死した真田幸村の碑と銅像がありました。

南へぬけると、⑦逢坂で、これは幹線道路の谷町筋沿いの道。道路を挟んで向かいには、モダンで立派な「一心寺」が広い敷地に建っていて、たくさんの人がお参りに来ていました。付近には大きな仏具屋さんが何軒もあり、独特の感じでした。

最後の目的地「四天王寺」へ。推古天皇元年(593年)に聖徳太子が建立した日本仏法最初の官寺とあって、敷地もゆとりがあり建物も仏像も堂々としています。ただし、度重なる戦火・天災により、何度も再建されたとのこと。さすがに歩き疲れたので、3000坪もあるお庭は、また別の機会に訪ねることにしました。
 
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  【1326年に石造に改められたこの鳥居は、日本で2番目に古い石鳥居で、重要文化財。】

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  【まん中が五重宝塔、右手に仁王門、左手に金堂、その奥に講堂がある。】

天王寺駅までは、「四天王寺参道」という赤い飾りが並ぶ商店街を行くと、五分ほどで到着。

 この散歩の間、屋台の出店以外に食事場所がなくお腹が空いていたので、この参道で1本100円の焼き芋を買いました。安いのにおいしくて、嬉しかったです。
びっくりするほどたくさんのお寺があり、おかげですっかり線香臭くなりましたが、上方文化の一端に触れることができ、有意義な半日でした。昨年5月に訪れた東京の「谷中」に似た雰囲気を感じました。道案内をもっと充実させ、途中にちょっと休めるそば屋さんや茶店などがあると、さらに魅力的なコースになると思いました。


テーマ:日帰りお出かけ - ジャンル:旅行

あんなことこんなこと-謹賀新年
          明けましておめでとうございます。
      今年もよろしくお付き合い下さい。
 

   年賀状buroguyou 2011

   ブログ版年賀状です。ハガキ版は縦書きの日本語です。
   簡単な貼り絵を作りスキャナで取り込んで、文字をパソコンで入れました。


   IMG_00432011hatumoude.jpg    IMG_00462011hatumoude.jpg    IMG_00402011oseti.jpg

1月1日は、例年通り近くの神社に歩いて初詣。よい天気に恵まれ、たくさんの方がお参りに来られていました。
お節は、年々質素に&量も減らし気味ですが、子どもの時から作ってきたので、さすがに手も頭も覚えていて、短時間でできました。親が生きていた頃は、これに、父が捌いたハマチの刺身がつきました。

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プロフィール

大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年6カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !
2017年 9月26日カウンター343434通過



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