心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く本-1月に読んだ本から
 1月に読んだ本から

読書用メガネが壊れ、買い換えたところ、これがピタッと合ったものですから、読書が楽しくて仕方ない。本が本を呼び、次々と読みたい本が現れ、またもやこたつの上が本だらけという、あらら…の状況です。新旧を問わず、いい本にいっぱい出会え、うれしい一月でした。そんな中から半分ほどご紹介します。

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高倉健さんの本を読みました。
6年ぶりの映画出演ということで話題の高倉健さん。今日(1月30日)の朝日新聞にも特集がありました。映画で見るだけでなく、文章で知る〈健さん〉も、人間味溢れ魅力的でした。

Ⅰ『あなたに褒められたくて』 (集英社文庫/1993年/580円)
第13回日本文芸大賞エッセイ賞受賞。仕事仲間に対してふざけて悪戯をする一面があり、意外でした。懇意にしている腕のいい散髪屋さんのこと、テレビで観た野球選手に感動し花束を贈ったこと、長野の善光寺参りを長年続けたことなど、〈健さん〉なりのこだわりが素敵でした。〈健さん〉が褒められたかった「あなた」が誰なのか、わかって「なるほど」と心が温かくなりました。

Ⅱ『南極のペンギン』 (集英社文庫/2003年/540円)
唐仁原教久・イラスト付きの絵本。映画の撮影で出かけたさまざまな地で出会ったできごとを、10のお話にまとめてあります。こんなに何度も、命にかかわるような危険な目に遭っていたのかと驚きました。すぐ読めますが、なかなかいい話が揃っていて、さらに〈健さん〉が好きになりました。

Ⅲ南日本新聞社著『アダンの画帖 田中一村伝』 (1995年/小学館/1500円)
高倉健作『南極のペンギン』の中に、田中一村氏のことが書かれていて、興味がわき図書館で借りた一冊でしたが、手元に置いておきたくて、再度文庫本(『日本のゴーギャン田中一村伝』)で購入しました。
2006年夏、奄美大島の田中一村美術館で見た、大変心を惹かれた絵を思い出しながら、この本を読みました。ご本人の写真の目がとてもきれいで、嘘をつかない、俗に紛れない人だろうと思ったのでしたが、その時の印象通りの人生を歩んだ人でした。ますます田中一村の作品が好きになりました。
本文p213より
・・・一村の美の感覚は、時代の持つ醜い部分や、画壇の政治的な力学などに敏感に反応し、拒絶反応を引き起こした。戦後の高度成長期に、一村はまさに最低賃金、あるいはそれ以下の暮らしを生きた。物が豊かになるにつれ、人の心は変わり、世はせちがらくなっていくばかりだった。・・・


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ジャンルの異なる三冊です。

Ⅰ『はげましてはげまされて~93歳正造じいちゃん56年間のまんが絵日記~』
(廣済堂出版/2011年/1365円)
大好きなテレビ番組「ナニコレ珍百景」で紹介されていて、絵がとても上手だったのと、世代的に親子が重なるのとで、即買いました。息子さんが生まれてからずっと書き続けてこられた絵日記ですが、漫画家志望だったというだけあって、画面構成も絵も優れています。テレビがきっかけで、出版に至ったそうですが、まさかこんな形で漫画家の夢が実現するなんて、ご本人も思ってなかったでしょうね。他人事ながら嬉しいです。

次の二冊は、高校時代からの友人Kさんが、知人の書いた本だとプレゼントしてくれました。

Ⅱ寮美千子編・著『空が青いから白をえらんだのです~奈良少年刑務所詩集』
(新潮文庫/2011年/500円)
私の大学時代の下宿の近くに、レンガ造りの美しい奈良少年刑務所があり、懐かしい思いでページを開きました。著者の取り組みと、変わっていく少年たちの様子に、〈言葉の力〉を思いました。著者は、先進的更生教育「社会性涵養プログラム」の先生の一人として、ここを定期的に訪れています。著者と共に学ぶ中で、言葉で表現することを知った少年たちの一つ一つの詩が、心を打ちます。多くの方に、彼らの心の内を知ってほしいなと思いました。

Ⅲ寮美千子・文/クロガネジンザ・イラスト『ならまち大冒険 まんとくんと小さな陰陽師』
(毎日新聞社/2010年/1365円)
平城京遷都1300年を記念して書かれた本だと思います。ならまちに住む祖父母を訪ね、東京からやってきた小学生の太郎。そこには怪しげな人や妖怪が…。古い町並みを舞台に、まんとくんと太郎が大活躍する物語です。旧友のKさんと詩人のTさんと三人で奈良町を散策した直後に、この本を読んだので、通りやお店(三人で行った、手焼きのユニークな鯛焼き屋さんも登場)がリアルに浮かんできて、子ども向けの本なのですが、大人の私も楽しく読めました。

2005年に大人向けの小説『楽園の鳥-カルカッタ幻想曲』で泉鏡花文学賞を受賞した寮美千子さんには、たくさんの児童文学作品があります。書評で調べたところ、『星兎』『夢見る水の王国』など、大人も十分楽しめる読み応えのある作品のようです。私は未読でしたので、これからチャレンジ!またご紹介できたら…と思っています。


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岩合光昭さんの動物の写真集三冊

Ⅰ『どうぶつ家族』 (クレヴィス/2011年/1890円)
花を顔に引き寄せているリスの写真が抜群に可愛くて、ピンクの花が耳飾りのように見えるパンダの写真も愛らしくて、繰り返し見ては癒やされています。

Ⅱ『いのちの記憶』 (世界文化社/2007年/2520円)
生きる、きずな、いのちの三部構成で、100枚の動物写真と著者のエッセイの、いい本です。

Ⅲ『地球動物記』 (福音館書店/2007年/4935円)
37年に及ぶ著者のフィールドワークの集大成。900枚もの写真があり、野生動物好きにはたまりません。月ごとの構成になっています。1冊だけ買うなら、これ。

岩合さんの撮った動物たちの写真を見ると、「地球を人間だけが住みやすい場所にしてはいけない。いろんな動物がいるから、人間は幸せなんだよ。」って、強く強く思います。


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柴村仁著の青春小説三部作
(アスキーメディアワークス文庫/2009年~2010年)

Ⅰ『プシュケの涙』
物語の舞台は高校。美術部員の由良(男子)と吉野(女子)が、話の核になるミステリー仕立ての前半と、二人の関係を描いた後半からなる。中高校生向きのライトノベルですが、エンタメにとどまらない深さがありました。登場人物、状況設定、物語構成、どれも上手くて、感情に訴えるものがあります。

Ⅱ『ハイドラの告白』
前作から3年後、美術大学が舞台。由良に加え、新たに春川という美大生が登場。怪しい大学教授をめぐるミステリーの前半と切なく可愛い恋物語の後半からなる。

Ⅲ『セイジャの式日』
三部作の完結編。美大を舞台にしたミステリー仕立ての前半と、教育実習生として母校に戻ってきた由良が登場する後半。この三部作を読み始めた時は、ドロドロしていたらどうしようという若干の不安があったのですが、面白くて三冊一気に読み進め、爽やかな読後感にほっとしました。

青春時代が懐かしい人、若者が好きな人、青春まっただ中の人は、特に楽しめると思います。

テーマ:オススメの本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

心に響く詩歌-短歌・俳句の雑誌より
 私の所属している短歌会と俳句会の、若い方々の最近の活躍をご紹介します。

tanka201111.jpg 「短歌」2011年11月号

第57回角川短歌賞次席作品(50首)  海蛇と珊瑚  薮内亮輔(20歳)より

月の下に馬頭琴弾くひとの絵をめくりぬ空の部分にふれて

晩年の姿を残しひとは逝く橋の手摺りを越えて降る雪

窓に背をあてて話せり首すぢは空のけはいを感ずるところ

おしまひのティッシュペーパー引くときに指は内部の空(うつほ)もひけり

眼底に雪はさかさに降るといふ噂をひとつ抱きて眠りぬ

死ぬことはもう識つてゐる小説の挿絵のなかに欅、夕ぐれ

虹、といふきれいな言葉告ぐることもうないだらう もう一度言ふ

光線のながき旅路の終点のひとつに数へたし、ゆふ雲を

忙しき一日よ憶えゐるものは眼鏡のうへの指紋ひとひら

まず一首目を読んで「うまいなあ!好きだなあ。」と思いました。ここに挙げた歌は、言葉も発見も作者の独自性があって、しかも響きに風格があると感じました。また、死というものの本質に迫る歌群に心惹かれました。私も所属する「塔」短歌会の、ホープの一人です。

ここでは具体的なお名前はあげませんが、「塔」には、角川賞、歌壇賞等々優れた短歌の賞の受賞者が何人もおられます。


20122kadan.jpg 「歌壇」2012年2月号

第23回歌壇賞次席作品(30首)  温度差の秋  沼尻つた子(昭46生)より

ながつきの真夏日 ストアの扉からにせものの秋の温度は漏れて

店員用ユニフォームに〈がんばろう日本〉おのれでは読めぬ背中へ刷らる

淡雪のようなる埃をぬぐいたり半年を経し義援金箱

のちの世にわれらを祖先と呼ぶひとのありやレシートの数字うすれぬ

かつて薄野原でありしわがまちの空調の風に髪を梳かるる

迎えたるものをあまねく送りだすストアの扉から秋もまた

所属する「塔」には、いい歌を詠む方が多く、彼女もその中の一人。生活感があって力強く、言葉がふわふわしていないので大好きです。この作品群には、個人的なことも詠まれているのですが、私はここにあげた広い視野を持つ歌がとても気に入りました。普段は買わない「歌壇」ですが、応援している沼尻さんの歌を紹介しなくてはと思って、今回は買いました。

予選通過作品の中に、リンク先の宮岡絵美さん(同郷&同級生の友人夫妻の娘さん)の名前を見つけたのも、嬉しいことでした。その宮岡絵美さんのブログに「世界の大学図書館」というサイトが紹介してあるのですが、とても素敵です。


haiku201111.jpg 「俳句」2011年11月号

第57回角川俳句賞候補作品(50句)  塔   織田高暢(昭33生)より

低く来し蝶またぎけり駅へ急く

我が影と別れて休む木下闇

手ざはりは絹蝙蝠をつまみ出す

帰省子の髪の吹かるるデッキかな

窓たたき搗きしばかりのもち食へと

舞ひ降りて一羽一羽に草青む

私は、二句目と五句目が特に好きです。日常見過ごしがちな何でもないことを詠めるのが俳句だと、改めて思った句群でした。全体を通したテーマがわかりにくかったのが、残念でした。私も所属する「空」俳句会の方なのですが、「塔」という題が、私の所属している短歌会の名前と一緒だったのでびっくりしました。
同誌に伊丹三樹彦先生の俳句(連作8句)が載っていたのも嬉しかったです。

ちなみに私の所属する「青群」顧問の伊丹三樹彦先生は2003年に現代俳句大賞を、「空」主宰の柴田佐知子先生は第7回(平成4年度)俳壇賞を「己が部屋」にて、「空」を私に勧めて下さった高千夏子さんは第43回(平成9年)角川俳句賞を「真中」にて受賞されています。


tanka20111.jpg 「短歌」2010年11月号

前年度、紹介を忘れていましたが、2010年第56回角川短歌賞受賞は、同じく「塔」のホープ、大森静佳(21歳)さんの「硝子の駒」でした。青春時代にしか詠めない、淡く切ない恋の歌です。この号には、河野裕子さんの追悼特集があったので、めったに買わない「短歌」を買ったのですが、中に思いがけなく拙歌集『大空の亀』が紹介してあり、驚くと同時にありがたく思いました。

 「若者応援」に便乗して、青木拓人(たくと)のライブのお知らせ

1月30日(月)京都の老舗ライブ「磔磔(たくたく)」にて。平日の夜なので、なかなか難しいかもしれませんが、京都河原町駅から徒歩3分の近さですので、よろしかったらお出かけください。

2月3日(金)は、umeda AKASOにて。以前バナナホールがあったところです。AKASOの2月のスケジュールに、なんと!「スガシカオ」!行きたい!でも、残念。SOLD OUTでした。

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

季節の詩歌(26)~心の種をのこす言の葉~
 「空」誌に連載中の拙文「季節の詩歌(26)~心の種をのこす言の葉~」です。
長いですので、お時間のある時にでも読んでいただければ…。今回は、立体切り絵を合わせてみました。前々回に追加した記事「龍の立体カード」の作り手U氏から頂いたものです。

     yosino201201.jpg 吉野蔵王堂

 句や歌を詠む自らを作品にしてはいけないと、どこかで聞いた覚えがあるが、現実には多くの作品が存在する。そして、それらは作者の熱い思いをのせて、俳句や短歌を詠む人間を大いに励ますのである。

杜若われに発句の思ひあり      松尾 芭蕉

私などは、杜若というとせいぜい『伊勢物語』の東下りの段に出て来る「かきつばた」の折句「から衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬるたびをしぞ思ふ」を思い出す程度であるが、日本のみならず中国の古典にも素養のあった芭蕉は、さまざまな情景を思い浮かべたのではなかろうか。旅先での見聞も多かった芭蕉、「発句」から展開していく句作の過程を想像すると、その楽しさが伝わってくる。

恋文のごとく書き溜め牡丹の句    安住 敦

極楽の文学こゝに夕牡丹        星野 椿

華やかな牡丹の花を前にして心ときめき、夢見心地のまま、その感動を句に留めようとしている作者。「恋文」「極楽」という表現に、俳句と関わる作者の喜び・幸福を感じ、私までわくわくしてくる。

花あればこの世に詩歌立ち上がる   角川 春樹

 平安後期以降、ただ「花」といえば、詩歌の世界では「サクラ」のことであり、この句も「桜」と読んで何の不都合もないが、私はもう少し広げて読んでみたい気がする。季節ごとの各地に咲く花、さらには、世阿弥の『風姿花伝』の「花は心、種はわざ」なども思われて、この句の深さと広さが嬉しい。

平凡な言葉かがやくはこべかな    小川 軽舟

ゆりの木の花ひとつづつ詩賜へ    山田みづえ

ある限りの夏木の幹に詩を書きたし  内藤 吐天

白鳥吹かれ来る風媒の一行詩     原子 公平

 花だけではない。草や木、鳥、周りのあらゆる自然が、俳人の詩心を刺激する。路傍に自生する「はこべ」にふさわしいのは、地に足の着いた、飾らない言葉。モクレン科の「ゆりの木」は、チューリップに似た花を高い位置に開き、詩人の憧れを誘う。青葉を茂らせた「夏木」には生命力があり、人を元気にする。「白鳥」に触発されて、詩が体の内側から立ち上がってきたのだ。魂の震えが作品になる。

      hida201201.jpg 飛騨

秋灯かくも短き詩を愛し         寺井 谷子

爽やかに俳句の神に愛されて     田中 裕明

俳句との相思相愛は、俳人にとって一年中、一生続くものであろうが、この二句のように、秋が殊更ふさわしい気がするのは、なぜだろう。暑さが去って、落ち着いて物事が考えられるようになるから。涼しい風がもの寂しさを誘い、人恋しくなるから。歳時記の季節ごとの厚さが、ふと気になった。しかし、愛も極まれば苦しくなる。全力を傾けるからだ。

命より俳諧重し蝶を待つ              阿部みどり女

詩に痩せて量(かさ)もなかりし白き骸(から)    篠原 鳳作

「命より」重いという俳諧への覚悟。その覚悟あればこそ、蝶は詩語を運んできてくれるのだろう。篠原鳳作は、「喜多子を憶ふ」という追悼の八句を詠んでおり、これはその一つである。喜多子は神戸に生まれ、新興俳句の作者としてモダンで繊細な句を詠み、日野草城門下の秀才であったようだが、二十七歳という若さで病没。彼と親交のあった篠原鳳作も、その翌年、三十歳で亡くなっている。若くして才能を発揮した彼らの早世が、惜しくてならぬ。
 同じく私には、忘れがたい俳人がいる。四十代後半に筋萎縮性側索硬化症という難病にかかりながら、句作を続けた折笠美秋である。私の高校時代の恩師が同じ病気で、やはり句作をされ送って下さっていたので、他人事とは思えぬ切実さで次の句を読んだ。

俳句おもう以外は死者か われすでに       折笠 美秋

空谷や 詩いまだ成らず 虎とも化さず 

山月嗚呼 妻子まず思うべきや 詩思うべきや

頭脳は鮮明なのに、全身が付随になり自発呼吸も発声もかなわなくなるという過酷な病気。家人の支えがなければ生きてはいけない厳しい状況の中、それでも俳句を作り続けたのは、そのことが生きることそのものであったからだ。文学に魅せられた美秋の脳裏に、時として『山月記』(中島敦著)の主人公李徴が浮かぶ。詩作のため人との交流を絶ち、人気のないさびしい谷で暮らし、ついに虎となってしまった李徴。昔の友に出会えた折にも、生活に困窮する妻子を思うよりも、自身の詩業を伝えることを優先してしまう。詩家として名を遺そうとした李徴に、表現者としての悲しみと苦悩を見ながら、自身は、そこまで徹していないのではないかと句に詠む美秋である。

       kouhukuzi201201.jpg 興福寺五重塔

短く取り組みやすいが故に、芸術面で不当な扱いを受けることもあった俳句・短歌であるが、問題にすべきは、詠み手の心構えや詩魂であろう。今まで見た俳句にもこれからあげる短歌にも、私は詩心を感じるし、人生の真実が描かれていると思う。そして、その感動こそが文学に通じる道ではなかろうか。

力こめ太々とわれは詠(うた)ひたし一首一首がたたかひなれば         武田 弘之

凄絶な一首が欲しき凄絶な一首欲しくば身を殺(そ)ぐと知れ           小西久二郎

 歌を詠むことは、己との闘いである。そのために自らの「身を殺ぐ」覚悟をお前はしているかと、作者は自身に言い聞かせる。読み手も覚悟を迫られる強さが、この二首にはある。自ずと背筋が伸びる。また一方で、次のような多角的に物事をとらえる歌のあることが、文学の豊かさであろうかと思う。

うたは慰謝 うたは解放 うたは願望(ゆめ) 寂しこの世にうたよむことも    道浦母都子

日々の暮らしの中で歌を詠まずにはおれないことが、生きることの寂しさを表しているのだ。それをもっと自虐的に述べると、次の二首のようになろうか。

読み返すことも稀なる歌などを苦労して作る不思議な病             吉野 昌夫

幸せといふべきか不幸といふべきか歌に執して世をせまく生く         吉野 昌夫

少々散文的でありのまま過ぎるため、抵抗を感じる人がいるかもしれないが、断定した結句が面白い。歌を作る自分を客観視して詠んだこれらの歌に、共感の微苦笑を誘われる人も多いであろう。

歌だけを生命の表れと思ふなかれ歌は生命の滓に過ぎぬなり          小暮 政次

歌はただ此の世の外の五位の声端的にいま結語を言へば             岡井 隆

右の二首は、「歌を詠むなんてことは大層なことではなく、〈生命の滓〉や汚い〈五位(鷺)の声〉みたいなものだ。しかし、だからこそ歌を詠むのである。」という、作者の謙遜と矜恃が共存している。

        amusuterudamu201201.jpg アムステルダム

また、次の二首は、実に率直に詠まれている故、自ずと後輩への温かい励ましになっているようだ。

作るほど下手になるといふ理論自ら明かす如く作り来りぬ            土屋 文明

ぼやき歌二つ作りてひとつ捨て残るひとつも苦労して捨つ            竹山 広

 これらの歌を芸術というには、疑問を抱かれる方もあろう。桑原武夫ではないが、作者名がわからなければどうなんだと追求されそうな二首である。しかし、このような瑣事を詠んだ歌にこそ、人生の真実があることも事実である。鴨長明『発心集』序に「道のほとりのあだごとの中に、わが一念の發心をたのしむばかりにや」とあるように、「たわいもないこと」に気づき楽しむことが、詩歌の心につながろう。また、西行は『古今集』では、雑の歌をよくよむように忠告したという。そこには、個人の肉声が浸み透っていると、大岡信氏の文章にあった。

敷島ややまと言の葉海にして拾ひし玉はみがかれにけり             藤原 良経

いにしへも今もかはらぬ世の中に心の種をのこす言の葉             細川 幽斎

良経は、西行・慈円に次いで多くの歌が『新古今集』に収録されている歌人である。戦国大名であった幽斎は、近世歌学を大成させた。昔の歌人のこの二首が、言葉の海から拾った「玉」と「心の種」を詠んでいることに注目した。歌の大切なポイントを的確に示した歌であり、作歌の基本に据えたい。

詠み得しと己頷く歌一つこのよろこびは一生につながる             植松 壽樹

かすかなるものの心に触れしとき奥ある歌となるをぞ思ふ           植松 壽樹

 「詠み得たよろこび」を知ると、歌から離れがたくなる。もしかしたら、一生に一度かもしれないが、その瞬間のために詠み続けているとも言えそうだ。俳句や短歌を作っていなければ見落としたであろう小さなことに、人生の機微や真実を見つけ、言葉に残す。詩歌をよむ喜びは、まさにそこにある。

遠きものに眼指(まなざ)し向けて生きむのみ吾が終焉は歌もて蔽へ       千代 國一

暗きより生まれて遂に冥(くら)き身の来し方行方(ゆくへ)歌しか知らず       千代 國一

大変なことは多々あっただろうが、歌に生き、歌に生かされた一生と言い切れる、この作者の幸せを思う。短歌・俳句・小説・絵画・音楽などの文化にとどまらず、スポーツ・料理・栽培等々、打ち込めるもののある人生には、悔いがない。

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

お知らせ三つ-展覧会など
 私のお気に入りの展覧会など、お知らせを三つ

 2012年1月29日まで/大阪府立弥生文化博物館にて
子規の叔父「加藤拓川」が残した絵葉書
― 明治を生きた外交官の足跡 ―

正岡子規の叔父として『坂の上の雲』にも登場する、パリの外交官加藤恒忠(号 拓川・たくせん)の残した絵葉書から、当時の世界の様子を知ることができます。所蔵者の正岡明氏と書家の梅原先生(前回ミニ軸を掲載)のご主人が同級生だったご縁で、この催し物をされることになったそうです。大阪府の財政を立て直すという名目で、この博物館も存続の危機に立たされています。なんとか人の集まる催しをと、チラシやポスターなど、上記のお二人が自力で準備して頑張っておられると伺いました。梅原先生の書道展に出かけた折に、ご主人から絵葉書を見せて頂き、その熱意に感心しました。洒落た絵葉書が多くて、私も見に行くのを楽しみにしています。皆さんも、常設展も見がてら、お出かけになりませんか。

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 2012年2月29日まで/大阪歴史博物館にて
柳宗悦(やなぎむねよし)展 ―暮らしへの眼差し―
「民芸の美、大集合。」没後50年・日本民藝館開館75周年

中学時代から有島武郎・志賀直哉・武者小路実篤といった白樺派の小説が好きで、大人になってからは芹沢介・河井寛次郎・濱田庄司らの作品に心ひかれていました。なかでも柳宗悦は、「白樺」の創刊に参加したり、「民藝」という語を作って民衆的工芸品の価値を皆に知らせたりした、民芸運動の核となる人です。一度、東京にある日本民藝館を訪ねてみたいとずっと思っているのですが、まだ実現しそうにないので、とりあえず近くの特別展に出かけました。予想通り、素敵なデザインの器や道具、木喰仏(もくじきぶつ)などが並び、気持ちよい時間を過ごしてきました。「民芸」の好きな方にお勧めの展覧会です。

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会場にあった柳宗悦氏の「今見ヨ イツ見ルモ」という言葉が、心に残りました。「いつも見ているものでも、初めて見るような新鮮な気持ちで接することによって、本当の美を発見することができる」というこの言葉は、俳句や短歌をはじめ、あらゆることにあてはまる、とてもいい言葉だなと思いました。


 ネット上の「俳句美術館」
松山に在る萬翠荘の館長、八木健さんが開いておられるサイトです。
http://pc-fit.ddo.jp/HAIKUWORLD/

俳句に関連した様々なアートに触れることができ、興味深いです。私は、伊丹三樹彦先生から「僕と岩崎さんの写俳が見られるらしいよ。」と伺って、初めて知りました。所属している俳句会「青群」の伊丹三樹彦先生・岩崎勇氏の「写俳(写真と俳句)」作品をたくさん見ることができます。とっても素晴らしいです。他の方の作品も素敵です。また、「萬翠荘提供」全国の俳句結社のコーナーでは、伊丹先生と「空」主宰の柴田佐知子先生の色紙を見ることができ、浮き浮きしました。俳句や俳句関連アートに関心のある方、よかったら覗いてみてください。

 追加:2012年1月10日、拙ブログのカウンターが、222222を通過しました!

  *前回の記事に「龍の立体カード」を追加しました。お時間があれば見てください。

お知らせ追加:1月13日から23日まで大阪なんば高島屋で「大東北展」やっています!

おいしいものや、工芸品などいいものがいっぱい!皆さん、ぜひエールの交換を!私は、「雄勝硯」(雄勝町産の天然石の硯です。石巻市のご自宅は流されてしまって、今は娘さんのところにおられるそうです。)「ゆべし」「アーモンドのお菓子」「しそ巻きあんず」「山ぶとう漬のらっきょう」を買いました。皆さん、いい方ばかりでした。

テーマ:展示会、イベントの情報 - ジャンル:学問・文化・芸術

心に響く風景-のんびりと新春
  謹賀新年  2012年

旧年中は大変お世話になりました。拙いブログですが、今年もよろしくお付き合いください。

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新しい年が始まりました。1日、2日とよいお天気で、室内にいるとこの写真のミューのようになってしまいます。ミューは、いつも私に甘えるお気に入りの場所でとろけていますが、体が大きくなってきて、時々ズルッと落っこちそうになります。
マンションの大改修工事が年末に終わり、すっかりピカピカになりました。ベランダからは、遠く梅田のビル群が見えます。右手のビルは、千里中央付近で、目の前は豊かな森と池です。

厳しい環境の中で新年を迎えられた皆さんにも、一日も早くのんびりゆったりできる時間が訪れますように。

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同級生は辰年で、今年還暦を迎えます。私は早生まれなので、ちょっと遅れて仲間入り。
写真は左から順に 「書家の梅原先生から頂いたミニ軸」 「書道仲間のTさんから頂いた折り紙」「宇津木さんに教えてもらって作った切り絵」「年賀状に使った彩龍墨」我が家の「龍」尽くしです。

   手より竜のぼると夫の連凧は    (亀詠む)

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 昨年あたりから、手書きの魅力にはまっています。デジタル化が進んだ反動でしょうか、妙にアナログに心ひかれる自分がいます。この一年、手を使うことにこだわって生きてみたいなと思っています。今年はおせちのアップはしませんが、いつものように作りました。これからの人生、機械文明からちょっと遠く暮らしてみるのも、いいかな…。

  遠きにて同じ書を読む友ありて吾(あ)はあたたかく夜を灯せり  (亀詠む)

  今年はまとめてでなく、もう少しこまめに、本の紹介ができるといいなと思っていますが…。

1月10日追加:我が家の「龍尽くし」に加わりました。

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正月休みが終わり職場に行くと、元同僚のU氏から立体切り絵のカードが届いていました。かっこいい龍だけでなく、金の文字も切り絵です。とても緻密で細やかな性格の方で、立体建築のカードも以前に何枚も頂きました。
それにしても皆さん、なんて器用なのでしょう!

テーマ:スナップ写真 - ジャンル:写真



プロフィール

大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年1月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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