心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く本-辰濃和男著『四国遍路』
 sikokuhenrotatunokazuo.png 辰濃和男著『四国遍路』(岩波新書/2001年・2012年第18刷)

 辰濃氏の文章が昔から好きだったのと、数年前に兄が歩いて四国遍路をした道をたどってみたくて読みました。予想通り文章も内容も素晴らしくて、付箋だらけになりました。中に故郷での出来事が詳しく書いてある箇所があって、とても嬉しく思いました。(p130~p135) 色つき字は引用箇所。

 IMG_7383201305.jpg
 【ベランダから。この森の中にいるホトトギスの鳴き声が食卓まで届きます。テッペンカケタカ…】

p9 八方に枝をひろげた巨樹の葉は自在に揺れ、一枚一枚の葉が風の子どもたちを遊ばせている。目に見えない風の子が光の粒になって揺れ、はね、流れ、細かい動作を繰り返している。
ほんの少し読んだだけで、こんな素敵な自然描写に出会えるのですから、読むのが楽しくて…。

p32 こころの鞄がお接待ではちきれそうになると、森の風、木漏れ日、川面の光、水引草の赤い点々、ビルの向こうの夕焼けなどがみな、特別のお接待に思えてくるのがふしぎだった。
宿舎の人、沿道の人、立ち寄ったお店の人、さまざまな人に飲み物やちょっとした食べ物などを差し出され、感謝の気持ちで頂く。そのお接待のこころをしっかり受け止め、自分もいつかお接待をする立場になる。歩くお遍路さんのしんどさを想像できる力が、相手を思う優しい気持ちと行動になるんですね。心が感謝の気持ちでいっぱいになったお遍路さんは、何を見ても感動できるのだと思います。

p130 野口雨情の唄に 伊予の内子を忘れてなろか/人の情の厚いとこ
というのがある。その内子町のはずれの「お遍路無料宿」に泊まった。いわゆる善根宿である。ここに泊まってから、宿、というものへの認識が少し変わった。

自分の故郷に、こんな宿があるとは知らず、改めて人の温かさを懐かしく思いました。

p162 心身が解き放たれるにつれて、自分の思考を縛る「概念的なもの」がたいそうひからびたものに思えてきた。・・・(略)・・・まっさらになったこころで見なくては本当のところが見えてこないと自分にいい聞かせる。概念に縛られてものを見るときは真の驚きはない。概念的なものを否定し、海に融和し、山に融和して見る新しい空間には静かな驚きがある。
辰濃氏と一緒に歩いて、同じような感動を得ているような気になりました。もっと広くて深い宇宙や太古に連なる文章もあるのですが、それは、実際にこの本で追体験をしてもらえたらと思い、ここへの引用は控えます。

 IMG_7389201305.jpg
 【駅までの道。この道に入る手前の茂みではウグイスが鳴いています。ホーホケキョ…】

 実際のお遍路道は、山道や海沿いの自然豊かな道ばかりではなく、自動車が走る国道を歩かねばならないことも多いようで、そのことの苦痛も書かれていました。車の多い国道ではなく、空気のきれいな自然の道や旧道が整備されたら、四国のお遍路道はもっと魅力的なものになるのではと思います。そうなったら、私も歩いてみたいな。霊峰石鎚山と空海に触れた文章があり、まだ石鎚山に登ったことのない私は、ぜひ一度行かねばと思いました。

テーマ:最近読んだ本 - ジャンル:本・雑誌

心に響く風景-京都上賀茂&永田和宏『近代秀歌』
暑くなってきましたね。私は昨日、世界中の人と手をつないで海で泳いでいる夢を見ました。その上、すごいことにビートルズのライブを、生で友人たちと見ている夢!寝る前にビートルズを聞いたわけでも、海の映像を見たわけでもないのに、なんとハッピーな夢。この夢だけで、一日幸せでした。

 さて、今回は京都市営地下鉄北山駅から北および東を散策した時の写真をアップします。

 写真の下には、所属結社「塔」短歌会の主宰永田和宏先生の最近の著書から、「一緒だ!」と共感を覚え嬉しかった部分を中心に引用(色つき文字の部分)しました。黒字は私の感想です。


       IMG_7338midorogaike.jpg
       【深泥池(みどろがいけ)。ここの生物・植物は国指定の天然記念物。】


(高校時代に通っていた小さな塾の国語教師、佐野孝男先生が)近代の短歌百数十首をガリ版刷りでプリントして、一首一首をいとおしむように鑑賞してくださった。・・・理系の大学教授である永田先生が、短歌にも詳しく、かつ、この本を書かれた理由の一つが分かると同時に、自分の高校時代の恩師(国語科)が同じ名字の「佐野先生」だったので、親しみを感じました。

正直に言うと、私は会津八一の歌が苦手である。どうも生理的に受けつけないのだ。・・・実は私も苦手なので、こういう吐露にほっとしました。


 IMG_7347otazinzya.jpg
 【大田神社かきつばた。これも国指定天然記念物。清楚な花です。】


(与謝野晶子の詩「君死にたまふことなかれ」を引用したあとで)女性の立場から戦争の愚かさを詠った、もっとも早い詩として、これだけでも晶子の詩歌史における意味と意義は紛れもないものである。・・・ほんとうにその通りで、与謝野晶子の力は強大!


       IMG_7366kamigamozinzya.jpg
       【上賀茂神社境内。ここだけでなく、近くの疎水にも鴨がいました。】


彼岸花はとても精巧に作られた花だと思う。名前の由来などを除外して虚心にその花の作りを見れば、いかに繊細に、かつ優美に作られた花かと感心するのである。・・・彼岸花好きには、嬉しい言葉です。


 IMG_7352mitinohuzi.jpg
 【大田神社と上賀茂神社の間にある自然の藤。木の大きさと花の豊かさにビックリ!】


背景を知ることによって、歌の読みの幅が出てくる場合にのみ、背景を導入することに意味がある。・・・同感です!

歌は一首で読むべきか、連作として連作の場のなかで読むべきか、これは古くて新しい、いまなおむずかしい問題なのである。・・・はい。


       IMG_7375kamogawa.jpg
       【賀茂川は、33キロもあるそうです。ずっと畔を歩けるのかな?】


人間は、「無い」と言われることによって、逆に「無い」はずの存在を思い浮かべてしまう。・・・不思議ですが、そうなんですよねえ。

歌における自然詠とは、決して自然そのものを写すことではなく、自らの心のありようを、自然のなかに映すことでもあるのである。・・・そのように詠めるのが、私の目標です。


    kindaisyuka.jpg 永田和宏著『近代秀歌』(岩波新書/2013年/820円)

 ここにあげてある近代短歌100首は、国語の教科書や資料集でも目に触れたことがある歌ばかりでしたので、私はとても懐かしく、また、さらに詳しい読みを手に入れることができ、勉強になりました。次に『現代秀歌』も予定されているそうなので、私は、それがとても楽しみです。

テーマ:風景写真 - ジャンル:写真

手作りが好き!-傘で作ったエコバッグ
 今回の写真は、ケータイで撮ったので、ちょっと写りが悪いです。

    130512_150838daikon.jpg
    【蒔くのが遅すぎた畑の大根は大きくならず、花ばかりたくさん咲きました。】

 折り畳み傘の骨が折れたので、布の部分を使ってエコバッグを作ってみました。
  新しい布でなく、こういう再利用が、貧乏性の私には、あれこれ考えられて楽しいです。

はじめは縫い目を丁寧にほどいていたのですが、指が疲れるので途中から縫い目に沿ってハサミでチョキチョキ。ほつれにくい布なので縫いしろの始末も不要。適度に伸びてくれるので、重ねた布を待ち針で3か所とめただけで直に縫えました。(アイロンで先にしわを伸ばしておくと、作業が楽です。)

持ち手は、以前トートバッグを作った時に残っていたテープを、ちょうど使いきってスッキリ。大きい方の持ち手の位置は、輪の状態にした布をどこで折って長方形にするかで変えられます。(もう少し左右のバランスを丁寧に考えた方がよかったなと思いましたが、しっかりつけた後だったので、これでよし!)

1304hukurodai.jpg 1304hukurosyou.jpg

クリーニングに出す服や、資源回収のトレイやペットボトルなどがたくさん入るように大きいバッグと、クリーニング屋さんのサービス券やペットボトルのキャップを入れるミニの袋。軽くてとても便利です。

大きい方は、6枚を上下交互(下の写真参照)に縫って、60㎝×45cmです。
小さい方は、余った1枚で20cm×24cmのミニの袋ができました。
元の傘袋に、畳んだ大きなバッグがぴったり入り、重さは60グラムほどです。

もう1つ壊れた傘があったので、作りました。ついでに作り方も。

130512_152636hukuro1.jpg

1、切った布をこのように交互に置いて、隣どうしを縫い合わせます。

130512_1637201hukuro2.jpg

2、合わせる枚数は6枚か4枚など偶数。最後に両側を縫って輪にします。

  130512_164301hukuro3.jpg

3、長方形になるようにして、下を縫い合わせ、上を内側に折って丈夫にします。

    130512_170728hukuro4.jpg

4、ひもをつけたら出来上がり。元の傘の袋にぴったり入って便利です。

   130512_164243amiendou.jpg
   【あまいえんどう豆がたくさんとれました。ゆでてサラダにして美味しく頂きました。】


murakamiharukitazakitukuru.jpg 村上春樹著『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

 前の『1Q84』で、もう村上春樹氏の小説は止めようと思ったのですが、やはり往年のファンとして読んでしまいました。内容は、題名が全てを表しています。今回の物語のBGMは、「ル・マル・デュ・ペイ」(『巡礼の年』演奏ラザール・ベルマン/アルフレート・ブレンデル)。構成は、湊かなえ原作の映画「北のカナリアたち」に似ていました。青春時代に、心に未解決のものを残してきた人にふさわしい小説。
私が彼の作品に惹かれる(た)のは、ストーリーではなく、次のような描写があるのと、漢字とひらがなのバランスが私好みで紙面の文字バランスが美しいからだと、改めて思いました。メッセージ(テーマ)が直に出ているところが二か所あると感じました。

ヘルシンキよりも空気が一段と清浄に感じられた。作りたての空気のようだ。緩やかな風が白樺の葉を揺らせ、ボートが突堤に当たるかたかたという軽い音が時折聞こえた。どこかで鳥が啼いた。よく通る簡潔な声だった。

テーマ:こんなの作りました♪ - ジャンル:趣味・実用

季節の詩歌(34)~雛祭り~
 「空」誌48号に載せて頂いた拙文です。
  4月末発行の今号は「季節の詩歌(34)~雛祭り~」です。
少々季節がずれてしまいましたが、お時間のあるときにでも目を通して頂けると嬉しいです。

 IMG_6460201305.jpg
 【大人買いした私のお雛様】

今年の一月、「空」の初句会で福岡を訪ねた折、柳川まで足を伸ばした。こたつ舟での川下りは、天気にも船頭さんにも恵まれ、心身ともにあたたかいものとなった。春には「さげもん」の雛祭が盛大に行われるのだと、市報の表紙を見せて下さった。それは、目の前の船頭さんが、お雛様のように着飾った子どもたちを乗せている写真で、雛祭の時の美しく華やかな様子がうかがわれた。

古民家の吊り雛とめどなく廻る   中村 英子

毛氈に影やはらかし吊し雛      谷口千賀子


舟を下りて、柳川藩主立花邸を訪ねた。広い座敷に、さげもんと呼ばれる吊し雛がゆるやかに回っていた。古い硝子戸からは光が差し込み、やわらかな影を落としていた。春には賑わうことだろう。また、敷地内の史料館には精巧な雛道具が展示してあり、文武両道の藩主の生き方が偲ばれた。

ことごとくまことをうつし雛調度     本田あふひ

針程のきせるも飾る雛調度       森 千代子

家紋付き金の蒔絵の雛道具     澤田 藤子


展示ケースには、百人一首が書かれた小指の爪ほどの札、木製の庶民の台所、豪華な塗り物などが並び、精緻を極めた雛道具に思わず見入った。
この頃は、雛祭も全国各地で伝統継承と観光による地域振興で、年々盛んになっているようだが、数年前に訪れた奈良県高取町の「雛巡り」は、ほのぼのとした手作り感があった。街道沿いの家々が雛を飾り、見物に訪れた人たちを家に招き入れ、各家庭の雛にまつわる話を聞かせて下さるのだ。

街道に残る旧家や雛まつり     樋口みのぶ

一部屋を占めて雛壇飾らるる    遠藤 まめ

豪商の一部屋使ふ御殿雛      榎並 青蘆


ここにあげた句に詠まれた情景は、高取町ばかりでなく、多くの市町村で見られるであろう。日本家屋に飾られる立派なお雛様は、それらを持たぬ者にとっても、懐かしく美しい眺めである。

 IMG_7267201305.jpg

私の故郷では、月遅れの四月三日、女の子たちが、お重を入れた小さな木箱を提げ、友達の家を順番に廻る。お雛様の前で、各自が持ってきた巻き寿司や、出された雛菓子を頂くのである。

夢色の雛のあられと膨れつつ    石塚 友二

吸物に手毬麩ふたつ雛の日     能村 研三

一寸ゐてもう夕方や雛の家      岸本 尚毅


翌日には「雛送り」といって、桜が満開の河原に各家庭からご馳走を持ち寄り、男親たちが石組みの竈で汁ものを作ってくれた。温かい思い出である。

雛の日や憂ひなかりし日のことなど 桂 信子

父やさしく母きびしくて雛祭      右城 暮石

盆地より出ぬ雲のあり雛祭      高倉 和子
 

この三句は、盆地の小さな町で、親からの愛をたっぷり受けた私の子ども時代を思い出させてくれる。それは幸福感に満ちた、最高に居心地のいいものであった。地方ごとに異なる雛祭の風習は、互いに語り尽くせないほどあるだろうが、次の句にあるような、寂しさの漂う雛祭も忘れてはいけない。

雛の軸睫毛向けあひ妻子睡(ね)る    中村草田男

雛もたぬ子の吹く笛のトレモロや     文挟夫佐恵


 IMG_7264201305.jpg

さて、雛祭といえば、やはり主役はお雛様であろう。衣裳の色や顔の輪郭など、それぞれの好みによって選ばれる雛人形であるが、やはり決め手は眼差しである。似ているようでどこか違う顔付きが、買い手一人一人の情感に訴えるのである。

筆入るる目を細うして雛師かな    森川 暁水

ひそやかに話して雛の品定め      鈴木 花蓑

見にもどる雛の売場の雛の顔     岡田 史乃


雛人形を真剣に選ぶのは、高価なこともあるが、どこか家族の一員を迎えるような気持ちになるからではないかと思う。一年に一度の出番しかない雛たちは、大切に扱われ心を込めて飾られる。

老いてこそなほなつかしや雛飾る    及川 貞

雛飾りつゝふと命惜しきかな      星野 立子

をみなごを持たざる妻の飾雛     出口 治郎


女児の喜ぶ姿が見たくて手に入れた雛人形であるが、これらの句にあるように、本当に心を寄せているのは、大人の方ではないかと思う。息子しかいない私も、実は大病の後、どうしても立派な雛人形が欲しくなり購入した。自分の命を託す分身のような気がしたのだろうと、十年を過ぎた今、思う。

すぐ飾りをへてさびしき雛かな      林 翔

われにふかき睡魔は来たるひとりづつ雛人形(ひな)を醒まして飾り終ふれば  小島ゆかり

段飾りの身分差を厭ひ一列に並ぶるは吾より始まりしこと              春日いづみ
 

さまざまな飾り方があるものだなと思う。ガラスケースに入っていて、箱から出せば終わりという雛、短歌の雛は、どちらも魂を持ち生きているようである。持ち主と共に年を重ねているのだろう。武田百合子のエッセイ『ことばの食卓』の「雛祭りの頃」に、子ども時代の思い出が綴ってある。

・・・臥(ね)ていて見上げると、仕丁も五人ばやしも官女もお内裏様も、雛段ごとせり上って、だんだん大きくなってゆくように見える。反り気味のこわばった格好が一層こわばって、いまにも仰向けにひっくり返りそうに見える。・・・

子どもの目は確かにこんなふうに雛飾りを受け止めている、と思った。

 IMG_7266201305.jpg

雛の日の畳に差してにぎはしきひかりのなかを子は這ひめぐる          杜澤光一郎

い寝よとぞ母は言へども孤りして雛にむかひてわが少女遊ぶ           宮 柊二

弟が盗りて小さき掌の裡に隠してゐたる雛の簪                  今野 寿美
 

一首目、幸せが満ち溢れた情景である。赤児にはどんな記憶が残るだろう。少女の興奮と喜びが伝わる二首目、女の子のお祭が羨ましい男の子の三首目。どの歌にも、普段と異なる晴れがましさが漂う。

はうらつにたのしく酔へば帰りきて長く坐れり夜の雛の前             宮 柊二

落ちてゐる鼓を雛に持たせては長きしづけさにゐる思ひせり            初井しづ枝


男女の違いはあるが、「長く」「長き」が、作者の気持ちを語ってはいないだろうか。次の句や歌には、一人静かに雛に向かい、自分自身と語っているに違いない作者が感じられる。人の気持ちを内側に向かわせる不思議な力を、雛人形は持っているのだろう。

雛を手にとれば聞こゆる雛の声     橋本美代子

弥生雛かざればあわれ音もなくおりてくるかな家の霊らも             伊藤 一彦

来し方や何か怺へし雛の貌       菅井富佐子

薄墨のひひなの眉に息づきのやうな愁ひと春と漂ふ                稲葉 京子
 

人が気持ちを託す雛なればこそ、見る人によって、その時の気持ちによって、次の句のようにもなる。

笑ふかに泣くかに雛の美しく      上野 泰

眠るごと唄へるがごと雛かな      成瀬正とし


 IMG_7175201305.jpg

私たちが、雛人形に美しさだけではなく、哀れさや愛おしさを感じるのは、それらが、やがて目の前から消えると知っているからではないだろうか。

並びゐし雛人形をしまふとき男雛女雛を真向かはせたり               田宮 朋子

雛の面紙もておほふややありて絶え入るこゑやはつかもれたる          平井 弘

白絹は葬りのごとし雛をさめ       井沢 正江

雛少し抵抗しつつ納めらる       稲畑廣太郎


どの歌も句も、雛に心があるように感じている。人形に情が移って、まるで作者そのもののようだ。

オルゴールの「雛祭り」の歌もう一度鳴らして妻は雛仕舞ひをり          上田 善朗

老妻のひゝなをさめも一人にて     山口 青邨

嫁ぐ子の刻かけて雛納めをり      手島 靖一


作者は、いずれも男性である。自分は手を出さず、妻や娘が雛を仕舞う様子を、後ろから眺めているのであろう。寂しく、どこか悲しい後ろ姿である。とはいえ、家の雛であれば、また一年後に逢うことができる。

 IMG_71632013045.jpg

それに対して、どうにも辛い思いが付きまとうのは、「流し雛」である。もともと雛人形が祓の具であったことを考えると、形代として流されるのは当たり前のことではあるのだが。

明るくてまだ冷たくて流し雛       森 澄雄

雛流す藁の褥を厚くして         荒木 睦枝

菜の花も添へて童の雛流し       谷 迪子


日が永くなり日差しも川面も光を受け明るい春である。だが、まだ、辺りの空気やときおり吹く風、水の温度は低く冷たい。身代りに流すという行為自体も、なんだか痛々しく感じられ、藁を厚くしたり菜の花を添えたりと、優しくしないではいられない。「流し雛」の行事は、全国各地にあるようだが、なかでも桟俵にのせ川に流す鳥取の「流し雛」や、和歌山淡島神社の海に流す「雛舟」は有名である。

臥すは嘆き仰ぐは怨み流し雛      岡本 眸

雛の眼のいづこを見つつ流さるる    相馬遷子


流される雛になりきっている両句である。嘆き怨んだ後、虚ろな目となって、現世に生きることを諦めたかのような雛の姿。生身の人間ではないと分かってはいても、魂を感じてしまうのだ。

たゆたいて人の手恋うか流し雛沖への波にいまだなじめず           下野 惠助

岩肌を辷るがごとき川の瀬を流しびな危ふく越えてゆきたり            国岡 翠


あっさり流れてしまうのも、どこかに引っかかったり、転覆して沈んでしまったりするのも、気がかりである。ついに見えなくなっても、どうか無事なまま流され続けて欲しい、でき得れば良き世に辿り着いてと思うのが、人情であろう。

雛流れ去りたる方を見て佇てる     大橋 敦子

流し雛見えなくなりて子の手とる    能村登四郎

終夜潮騒雛は流されつづけゐむ     松本 明


 IMG_7309201305.jpg

テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

心に響く風景-連休の万博公園&長田弘さんの言葉
 皆さん、連休はいかがお過ごしでしたか。私は人混みと渋滞が苦手なので、近くの万博公園を散策するのが、連休の定番です。いつもはそんなに人の多くない公園ですが、お天気に恵まれ家族連れでにぎわっていました。子どもたちが小さい頃、こんなふうに過ごしたなと懐かしく思いながら、自然の中で幸せそうな人たちの様子を撮ってきました。一つ一つに紡がれる物語を感じ取ってもらえたら嬉しいです。

写真の下に引用したのは、長田弘著『なつかしい時間』の一部です。本の中すべてが素敵な言葉ばかりですが、ここにはそのほんの少しだけ…。一冊丸ごと読まれることを、心の底からお勧めします。


 IMG_7219201305.jpg

自分がそのなかで育てられた風景というものに助けられてわたしたちの経験、あるいは記憶はつくられています。 (「大切な風景」より) 


       IMG_7222201305.jpg

それぞれが自ら時間をかけて育てるべきものが記憶であり、ひとは記憶によって育てられ、記憶にみちびかれて自分にとって大切なものを手にしてきました。 (「記憶を育てる」より)


 IMG_7239201305.jpg

読書というのは、振り子です。たとえ古い本であっても、過去に、過ぎた時代のほうに深く振れたぶんだけ、未来に深く揺れてゆくのが、読書のちからです。 (「古い本を読もう」より)


       IMG_7235201305.jpg

故郷というのは、過ぎ去った時間の手ざわり、感触といったものではないか、と思われてなりません。 (「時間のなかの故郷」より)


 IMG_7245201305.jpg

目の前の風景を眺めていて、気がつくと、自分の人生の風景を眺めている。そうした「思い」を深くするのが「眺め」です。 (「『眺め』の大切さ」より)


       IMG_7285201305.jpg

一度でも一人で、大きな樹の下に足をとめ、黙って、まっすぐ真上の、大きな枝々を見上げると、葉の緑のかさなりのなかから音もなく降ってくる時間のかすみ網に、自分が柔らかに包まれて運び去られるような不思議な気もちに襲われます。 (「樹が語ること」より)


 IMG_7273201305.jpg

人というのは、生きている本だと思うのです。ですから、死んだ人間は、誰もが「一冊の本」をのこして死んでゆく。それが書かれた本であろうと、書かれなかった本であろうとにかかわらず、です。死者と語らうというのは、死者ののこしていったその本を、一人読むことだと思うのです。 (「死者と語らう」より)


 natukasizikan.jpg 【長田弘著『なつかしい時間』 岩波新書/2013年/840円】

 今年の連休の最大の収穫は、この本を読めたことでした。長田弘さんの詩は、いつ読んでも素晴らしいのですが、この本に書かれた言葉は、私の胸をしっかり掴み、心に栄養をいっぱい与えてくれました。「私の知っているあの人に、この人に、プレゼントしたい。」と思いつつ読みました。でも、そんなお金持ちじゃないので、皆さん、自分で買ってぜひ味わってみてください。今年、今日まで読んだ62冊の中で、一番お勧めの1冊です。

久しぶりに長田弘さんの詩集を読みたくなって、図書館で3冊借りてきました。『幸いなるかな本を読む人』(2009年第2刷)、『詩ふたつ』(2010年)、『詩の樹の下で』(2011年)。今から読む時間のことを思うだけで、わくわくします。

テーマ:ある日の風景や景色 - ジャンル:写真

あんなことこんなこと-映画「舟を編む」
映画「舟を編む」

 本好きの友人達から熱い薦めがあって、観に行ってきました。原作のイメージに合った配役で、しかも私の好きな人ばかり!原作のほうがよかった…という映画が多い中、これは、原作以上にいい映画に仕上がっていたと思います。「レ・ミゼラブル」のような感動とは、もちろんタイプの違う映画で、お話としてはあっさり単純ですけれど…。

       humewoamusinario.jpg 【映画パンフレット】

 写真のパンフレットは、なんと128ぺージという厚さで、シナリオまで入っているのですから驚きです。一見地味そうな辞書を作る話なのですが、リアルさとエンタメのところとがあって興味深く、二時間以上ある映画とは思えない面白さでした。配役も美術も上質で、本だらけの世界は、本好きにはたまらなく幸せな映像です。

       IMG_7186201305.jpg

松田龍平…主役として、とてもいい味を出していました。顔の作りの小さいところと肌のきめの細かさが、タレントの千秋に似ていませんか。

オダギリジョー…加瀬亮と並んで好きな男優です。西川美和監督の「ゆれる」、リリー・フランキ―原作の「東京タワー」でも素敵でしたが、今回も魅力的でした。

宮﨑あおい…彼女の出るテレビCMが好き。彼女が世界を旅して書いた本が好き。しっかりした考え方から先に好きになった女優さん。もちろん可愛い顔も大好き。

八千草薫、小林薫、加藤剛といった、好きなベテラン陣も見られて嬉しかったです。猫も!元気な自然体の渡辺美佐子はなんと80歳!

30歳前の石井裕也監督、脚本の渡辺謙作、フィルム撮影にこだわった藤澤順一、「北のカナリアたち」でも美術を担当した原田満生等々、スタッフの充実ぶりもあってのいい映画だというのが、パンフレットから伝わり、映画の余韻に浸りました。

       IMG_7204201305.jpg
       【2枚とも休日の大阪大学構内で撮影】

テーマ:映画館で観た映画 - ジャンル:映画

心に響く風景-新緑散歩
 今の季節の緑が大好きです。柔らかくて明るくて優しくて…そして、せつなくなります。
今回は、散歩コースにある新緑の木々をアップします。平和な緑が永遠に続きますように。

       IMG_7144201305.jpg

        春風のお地蔵さんは無一物

       IMG_7156201305.jpg

        さてどちらに行かう風のふく

 IMG_7161201305.jpg

        うららかにして風

       IMG_7171201305.jpg

        ひろがつてあんたのこころ
  
       IMG_7279201305.jpg

        われとわれに声かけてまた歩きだす

       hutonhuuwari.jpg すべて山頭火の俳句カレンダーより。

テーマ:季節の風景 - ジャンル:写真



プロフィール

大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年8カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !
2017年 9月26日カウンター343434通過



カテゴリー



最近の記事



最近のコメント



リンク

このブログをリンクに追加する



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カウンター



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



ブログ内検索



RSSフィード