心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く本-有島武郎『一房の葡萄』
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【写真は、以前に本を見ながら描いた墨絵の「葡萄」(ハガキ大)と、ベランダからの夕焼けです。】

 今回は、前の「葡萄」つながりで、「葡萄」というとすぐに思い出す、有島武郎の『一房の葡萄』のあらすじ&心に残る場面(紫の字は原文のまま)を紹介します。

 「僕」が通っていた横浜の学校は、西洋人が多く、教師も西洋人ばかりである。絵の好きな「僕」は、あまり絵が得意でもない級友のジムが持っている、西洋絵の具が羨ましくてたまらなかった。ある秋の日、ついに、その中から夕焼けを描くのにふさわしい二本を盗んでしまう。それは、すぐにみんなに見つかり、大好きな受け持ちの先生のところに連れて行かれる。その大好きな若い女の先生は、泣き出した「僕」の様子にすべてを察し、絵の具を返したことを確かめた後、一房の葡萄をもぎ取って、自分が授業から戻ってくるまで、先生の部屋に居るように言う。戻ってきた先生は、
「そんなに悲しい顔をしないでもよろしい。もうみんなは帰ってしまいましたから、あなたもお帰りなさい。そして明日はどんなことがあっても学校に来なければいけませんよ。あなたの顔を見ないと私は悲しく思いますよ。きっとですよ。」と言って、「僕」のカバンに葡萄の房を入れる。
次の日、なかなか学校に行く気なれない「僕」は、先生を悲しませてはいけない、優しい目で見られたい一心で、登校する。すると、ジムが飛んできて「僕」を先生の部屋に連れて行き、そこで手を握り笑顔を見せてくれた。先生はにこにこしながら僕に、「昨日の葡萄はおいしかったの。」と問われ、「ええ」という「僕」に「そんならまたあげましょうね。」といって、
葡萄の一房をもぎ取って、真っ白い左の手の上に粉(こ)のふいた紫色の房をのせて、細長い銀色の鋏で真ん中からぷつりと二つに切って、ジムと僕とに下さいました。真っ白い手の平に紫色の葡萄の粒が重なってのっていたその美しさを僕は今でもはっきりと思い出すことが出来ます。
 僕はその時から前より少しいい子になり、少しはにかみ屋でなくなったようです。
 それにしても僕の大好きなあのいい先生はどこに行かれたのでしょう。もう二度とは遇えないと知りながら、僕は今でもあの先生がいたらなあと思います。秋になるといつでも葡萄の房は紫色に色づいて美しく粉をふきますけれども、それを受けた大理石のような白い美しい手はどこにも見つかりません。


 絵の好きな少年が、自分は持っていない色の絵の具を欲しくてたまらなくなる、その気持ちが丁寧に描いてあり、盗んでしまうまでの心の葛藤、盗ってしまってからの罪悪感、見つかってからの動揺、どれも読み手の心にすとんと入ってくる。
物にあふれた今の子どもたちには、クラスメイトの物を欲しくて盗むという感覚は、ちょっとわからないかもしれない。今だと、いじめやいたずらで、盗んだり捨てたり隠したりしそうだから…。
私が、この話で何より好きなのは、担任の先生のゆとりと思いやりのある対応である。自分が中学生の時、恐ろしくヒステリックな担任と出会ったせいもあって、なおさら、この物語の先生の心映えの美しさが印象的だった。自分が大人になったときは、絶対こういう本物の大人になろうと心に誓ったのを覚えている。「成れたか?」と問われたら、……?だけど。

 中学時代、白樺派の清潔で理想的な考えにはまり、志賀直哉、武者小路実篤などを読み漁ったが、中でも有島武郎の小説は好きだった。『一房の葡萄』は、絵の好きな男の子が主人公の話だが、他にも、生活の苦労を負いながら絵を描く青年が主人公の話『生まれ出づる悩み』があり、とても心ひかれたことを覚えている。
繰り返し読んだのは、武者小路実篤の『馬鹿一』。お人好しで、何でも善意に取る主人公が素晴らしくて、自分の理想像のように思っていた。今、その本が手元にないのが残念だ。ぜひ、もう一度読んでみたい。

テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌

この記事に対するコメント

「一房の葡萄」読ませていただきました。いいですね。

こころに残ってる先生を思いだしてみました。昔の先生はなんか時間の余裕があり、放課後にいろいろと話をしたように思います。先生のお家に遊びにもいってましたね。
どん底に落ちそうなとき気持ちを察してくれて心地良い言葉や態度を示してくれたときってほんまに救われますね。これから頑張ろうと思いますね。私は高校のS先生ですね。
一度、母が家をでたことがあり、頑固な父がどうしようもなく、なぜか私が早引きして母を迎えにいったのです。その時事情を先生に話ししたら、「私のうちもいろいろあったんよ。あんたも大変やな。」と自分もさらけ出して慰めていただきました。今は仲良く暮らしていますが。
 困っているときに こころから接してもらった経験は人への思いやりが育ちますよね。
しかし 思いもよらない辛い一言や態度が一生、こころに残ることもあるし。
私も中学のとき 授業中にちょっとした私の態度が誤解されて(私はそう思っていますが)、先生からすごく嫌われて、通信簿に赤字で真面目にしてほしいと書かれました。ちょっと自慢させて、オール5でしたが、その教科の赤字はすごかった。
 今日は 国語の授業を受けて、心理や描写を感じました。 ありがとう。
【2006/10/01 16:58】 URL | よりやん #- [ 編集]

よりやんへ
よりやんもいろいろあったんだねえ。

それにしても、高校のS先生は、細やかにみんなの様子を見て、的確な助言をされてたんだ。たくさんのクラスメイトが助けてもらったよね。
私も、とってもお世話になったよ。生意気な私に立腹もせず、根気強く付き合ってくれたS先生に会ってなかったら、生きる気力も沸かず、中学校の時の教師不信も引きずったままだったかもしれない。私には、一番の恩師です。

中学校の時、オール5!すごいなあ!
私は、鈍くさくて、体育がいつも3だったよ。
運動に自信がなくて、いつも目立たないように隠れてた。
赤字で書いた先生は、私と水と油のように合わなかった先生と同じ人かしら?

今度会ったときは、先生の思い出話で盛り上がろうか?!
【2006/10/01 19:59】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


「生まれ出づる悩み」は思春期、青春期には心を動かされる小説でした。
今読んではダメだということではけしてありませんけど。
学校に通っているときどのような先生と出会うかは重要ですよね。
子供たちの世代には恩師と呼んではばからないような先生と出会ってもらいたいです。

葡萄というと、「怒りの葡萄」を思い浮かべてしまいます。
【2006/10/02 00:55】 URL | こもれび #hGt.gl.I [ 編集]


 子供の頃に、いい先生、いい大人と出会うって大切ですね。
それから、いい本と出会うことも。
一人でいいから、本気で向き合ってくれたり味方してくれる大人がいたら、最近問題の子供の非行はなくなるのじゃないかしら。

 久しぶりに、まとめてこのブログを読ませてもらって、
いいブログと出会うこともまた、幸せなことだと思いましたよ。

 いつも癒されたり、笑えたり(例えば、KANEGONのコメントなんて最高)。
そして、琴線に触れる数々の詩歌や小説。紹介してもらったもの全部は
読めないけど、刺激を受けて、去年の自分より少しは読書家になっている気がします。ありがとう!
 
 
【2006/10/02 13:42】 URL | keiko #- [ 編集]

こもれび さんへ
「怒りの葡萄」という立派な小説がありました!映画も!
こもれびさん、思い出させてくださってありがとう。

スタインベックの骨太で、社会問題をきちんととらえた力強い文章。
貧しい者と富める者との格差が広がり、固定化されている今、もう一度読み直す価値がありそうですね。

私は、思春期の心情が好きで、いまだにこだわっているので、そういうタイプの本が多いかもしれません。
【2006/10/02 18:04】 URL | #- [ 編集]

keikoさんへ
いつも丁寧に読んでくださって、パソコンが近くにないときは携帯メールでコメントを送ってくれるkeikoさん、とっても感謝しています。

自分で勝手に、自分の好きなことや、ものを載せているだけなのですが、それでもこんなふうに心優しいコメントを頂くと、励まされます。

私も、この秋は、眼鏡を替えたおかげで、本がとっても読みやすくなり、次々と読みたい本が出てきて、久しぶりに本代がかさみそうです。

ブログで、いろんな方の前向きな気持ちを知ることができ、少し視野が広がったかな?と思う今日この頃です。「生きるって面白い。」と感じています。
【2006/10/02 18:12】 URL | #- [ 編集]

こもれびさん&keikoさんへ
先ほどのコメントに、差出人の名前を入れ忘れました。
今まで自動で入っていたのに、設定が変になっていたようです。ご免なさい。
【2006/10/02 18:35】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


葡萄・・・食べたくなっちゃいました。

生まれ出づる悩み が多分、中学の教科書に出ていて、それを読んでもっと読みたくなって。
探してみたら 惜しみなく愛は奪う の文庫だけが手元に残っていました。
昭和の文庫は今よりもずっと文字も小さくて紙の質も良くなくて・・・

教科書で出会って文庫を買って読んだ本が、かなりあるんですよね。
そんな風に出会っていたんだ・・・て懐かしくなりました。

高校2年の時の倫理社会の先生が リルケ がご贔屓?でその影響でいくつか読んで
大学ではドイツ語を履修しようとしました。
・・・でも先生がくわえ煙草で教室に入ってこられて、黒板で煙草をもみ消し、チョークボックスに吸殻を!
若かったから、それが許せなくて後先考えずぶつかってしまって、履修を取り消されてしまいました。

卒業して何年もたった頃、担任でもなく、特別に言葉を交わした訳でもなかった、倫理社会の成績もぱっとしなかった週2回のおつきあいの生徒をなぜか先生は記憶していてくださって、駅で声をかけてくださいました。
すごくびっくりしました。
先生は大学生に戻っておられたことも!

高校時代に出会った先生は、不思議な方が多かった気がします。
中学校の先生は・・・やさしかったり、嫌な人だったり、やっぱり不思議な大人だった。
先生、とひとまとめにするのは、ためらわれる気がします。

【2006/10/02 20:55】 URL | kimico #Zr2/WiYY [ 編集]

kimicoさんへ
個性的なコメントをありがとう。
昔の文庫を見ると、ビックリしますよね。よくあんな字読んでたって!

教科書がきっかけになった人、多かったです。私も、大好きな谷川俊太郎とか、そうですよ。

そういえば、高校生の頃は、外国の詩を読むのにも凝っていました。
今読むと、「えっ?こんなにストレートに気持ち述べてたんだ!」なんて驚きます。
リルケとかゲーテとかハイネとか、響きだけでも洒落てるものね。
倫社の先生は、もっと深く読まれていたんでしょうけれど。

大学で履修を取り消されるほどぶつかった先生、でも、その先生もきっと、kimicoさんのこと悪かったなあとか、気になってたから覚えておられたのね。

中学校の先生は、こちらも中途半端な年齢ですっきりしないから、なおさら印象が悪いのかなと思ったりします。もちろん、みんなじゃないよ、いろいろだけど。

私は、高校の先生が一番面白かったような気がするわ。
【2006/10/02 22:10】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


亀さん、こんばんは!
手作り・・・素敵な絵を描かれるんですね!
墨絵の「葡萄」、とっても温かみを感じます。何でも出来る亀さんが羨ましいです(^・^)
子供の頃に出会った良い先生・・・何人いたかな?なんて今思い出しています。
パッと浮かばないなんて、寂しいですね(^_^.)
先生よりも私の場合は、部活の仲間の方が心の中に残っています。

週末、れんげ草さんと神戸でお会いされるんですね?
私も行ければいいな・・・と思ったり。まだまだ、はっきり予定がたたなくて・・・(T_T)
【2006/10/02 22:28】 URL | ぴょんこ #B7q/.fmY [ 編集]

ぴょんこさんへ
ぴょんこさん、こんばんは。
私は、すぐ何にでも興味を持って、ガーッとやるんだけど、あきるのも早い。
コツコツ一つのことを続けられないので、何一つものにならないという大きな欠点があります。
でも、ほめてくださると、素直に嬉しいです。

神戸で一緒に遊べるといいのにね!
都合がついたらぜひ連絡してくださいね。
【2006/10/02 22:51】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年3カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
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