心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
季節の詩歌(2)-お正月の詩歌
俳誌「空」16号(2007年1月発行)に載せてもらった文章を転載しますので、よろしければ読んでみて下さい。

        季節の詩歌(2) ~お正月~ 
                
 毎年、年末になると、帰省ラッシュの様子が報じられる。故郷の愛媛県を出て三十五年、既に両親も里の家もないが、それらのニュースには郷愁をそそられる。

古里や臍(へそ)のをに泣くとしのくれ       松尾芭蕉 

伊賀上野にある芭蕉の生家に掲げてある句である。故郷を思うとき、私たちは、そこで過ごした子ども時代を思い、親の情を思う。昔も今もそれは変わらない。殊に、昔から受け継がれてきた行事の恩恵に浴するとき、大切に育てられた子ども時代の幸福を感じる。

むつまじきものや餅搗く(もちつく)町つづき      羽笠 

貧しかったけれど、希望にあふれていた昭和三十年代が、今注目されている。私の子ども時代はちょうどその頃だが、親たちが組を作り、各家庭を順番に回っていく餅つきは、特に楽しみな行事だった。あの時のワクワク感と大人への信頼感は、今も鮮やかだ。

正月を迎える準備は限りがなく、大晦日まで続いた。紅白歌合戦を見るようになってからは、年に一度許された夜更かしで、朝寝坊の元旦になってしまった。
除夜零時過ぎてこころの華やぐも      山口誓子

願(ね)ぎ事はもとより一つ初詣         高浜虚子

年玉を並べて置くや枕元            正岡子規


 枕元の新しい肌着に着替え、皆が新年の食卓に揃う頃には、父が、井戸から汲んだ若水で作った雑煮ができている。普段は水道水の生活だが、「若水」の儀式を持ち込むことで、病弱な母を休ませてあげたのだろう。

若水を無垢の闇より汲みにけり     高千夏子

母の胸父の腕(かいな)に育ちしを雑煮食ひつつ思ひ出しをり     時田則雄

いただきし賀状一枚一枚を炬燵に座して妻と分け合ふ         斉藤清毅                       

餅の数を子らと競い、十個以上食べて勝つのは、いつも父。年賀状も、父の嵩だけ高い。父の、もう一つの独擅場は、百人一首だ。「貧しくて学校に行けなかったのに、どうしてそんなに強いの?」と、尋ねたことがある。昔は、若衆が集まって、娘さんの家に「カルタをしよう。」と訪ねたのだとか。意中の人を手に入れるには、強くなくては…という訳だ。

田子の浦にうち出でて見れば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ     山部赤人          

  百人一首のこの歌は、「新古今集」からのものだが、「万葉集」の原歌は、次のように力強い写生歌である。

田子の浦ゆ打ち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける    山部赤人      

時代が求めているものが違ってくると、歌の叙情性も異なってくるのが、面白い。
次の、「万葉集」最後の一首には、もう次の時代の優美さが見えている。

新(あらた)しき年の始の初春の今日降る雪のいや重(し)け吉事(よごと)   大伴家持  

元旦は、快晴で初日の出が拝めれば申し分なし。しかし、雪模様であっても、家持の歌のように詠めば、雪の白さと相まって、神聖で目出度いものとなる。

何となく、
今年はよい事あるごとし。
元日の朝、晴れて風無し。         石川啄木
 

一年ごとに区切りを作り、新しい年を迎えるシステムは素晴らしい。たとえ、大晦日まで暮らしに追われていても、年が明けると、気持ちを切り替え、新たなスタートをきることができる。まして、元日が晴れ渡り、神々しい富士山の姿まで見えたとしたら、自ずから新年への期待も高まるだろう。

ゆゆしくも雲をぬく富士現れて浄天の日をほしいままにす      梶井重雄 
                      
元日の朝、五階より降りて来て神の空席のごとき街を行く      高野公彦


日常と異なる光景に戸惑う作者がいる。最近、元日から商売をする店が増えてきたのは、不景気のせいか、褻>(け)と晴れの境が明確でなくなったせいか。
家族皆がそろい、いつもより少しかしこまって、何をするでもなくのんびり過ごす時間こそが、正月には大切な気がする。

正月に写真撮りたり水平に家族の並ぶは久しぶりにて        栗木京子 
                    
 生き続けている私たちに、毎年プレゼントされる新しい年。どんな一年にするかは、自分次第。次の詩のように、いい一日を積み重ねていきたいと思う。

元旦   新川和江

けさ わたしは頂きました
新しいカセット・テープのような
一巻(ひとまき)の時間を――
(二連目省略)
一日一日をていねいに生きて
いい音だけを 入れて行こうと思います
一年ののち
すっかり消してしまいたい思いに
苦しんだりすることのないように
十年ののちにも
微笑んで聞きかえすことができるように

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

高浜虚子の句に一番ぐっと来ました。
新年を迎えられることのありがたさを忘れてしまいがちです。
遅ればせながら、松の内なのであけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
【2007/01/06 23:02】 URL | こもれび #hGt.gl.I [ 編集]

こもれびさんへ
お早うございます。今年もよろしくお願いします。
「新年を迎えられることのありがたさ」!その通りですね。

こちらは、昨夜からの強風に加え、吹雪で、閉じこめられています。
とはいっても、雪国の大変さとは比べものにならないでしょうが。

高浜虚子の句は、大らかだけど、核心をついていますね。
「一番ぐっと来ました。」の言葉に改めて読み直し、思いが深まりました。
【2007/01/07 10:22】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年1月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
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