心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌(歌集)-酒井万奈さんの歌集『水辺』
酒井万奈さんの歌集『水辺』

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【写真は、歌集『水辺』の表紙、及び中の布地の装丁(とてもきれいな水色)】

 「塔」主宰の永田和宏先生の帯文が、この歌集の特長を的確に表現されているので、その一部を引用します。

酒井万奈さんの歌には凛とした一本の芯があり、以前から注目していた。…(中略)…この歌集には、戦後という時代を必死に生き、今また、その「後の日々」の充実した生を生きている、ひとりの女性の時間が濃密に刻まれている。

 酒井万奈さんの歌集『水辺』(青磁社)より10首

《子どもさんの入院(隔離病棟)》
会いに来し我を見詰めいしが唐突に子は折り紙を破りはじめぬ

《聾学校の教師として》
「何でも食べると聞こえるようになりますか」胸つまらせて答さぐりぬ

拙き手話の我にさえ忽ち心開くそのゆえよしを思いていたり

《ご主人の入院(半身不随)》
病院を出ずれば夜の街こともなげに歩む人らの足ばかり見る

《自らも難聴に》
物言わぬ魚と耳遠き我の向きあえるアクアリウムは薄闇の中

《人生を思う》
我に来ん未来は知らず今しばし眼のはしに虹描かせたまえ

満ち潮は音たて川をのぼりゆく遡(さかのぼ)りて美しき過去などあらず

枝ひろげ空暗くする欅(けやき)道見えざるはよし死までの距離も

容れ物の形のままに古りてゆく水のようなる老いを怖るる

柔らかく老いも受け入れ拒否もせん山茶花濡らす静かな雪解け

 2月10日(土)「塔」大阪歌会。
いつもは、1時~5時まで、30人ほどの参加者が、作ってきた歌(2首ずつ)を、司会者のもと、解釈をしたり感想を述べたりして、選者の黒住先生と真中先生の評やアドバイスを頂くという形式で行われます。

今回は、酒井万奈さんが、第一歌集『水辺』を上梓されたので、前半は歌会、後半は歌集の読書会となりました。参加者は当日までに歌集を読み、3首選歌をして、その読み取りや歌集全体の感想などを、原稿用紙1枚にまとめ、人数分用意しました。

当日は、そのレジメを見ながら各自、歌集について述べ合うという方法で、初めての経験だった私は、大変勉強になりました。また、読み手の体験や感性によって選ばれる歌が異なり、重なる歌が少なかったのも興味深く思いました。

冒頭にあげた10首は、その中から複数の人が選んだものです。
歌のはじめの簡単な説明《 》は、初めて読まれる方にもわかるように、私が付けさせてもらいました。

八十歳を越えて、初めて出された歌集で、真摯に生きてこられた人生が凝縮されており、困難にまっすぐ立ち向かっていかれる強い姿勢に圧倒されました。ふだん歌会でお見受けするときは、穏やかな、ほんとに優しい雰囲気の方で、詠まれる歌もどこかロマンチックな気配が漂っているという印象でしたので、歌集を読んで、芯の強さに驚きました。

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

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【2007/02/14 20:43】 | # [ 編集]

コメントありがとう
同感です。長く読み続けておられるから、歌に格調がある気がします。

こういうのを、「歌評会」って言うのですね、さりげなく教えてくださってありがとう。
さすがベテラン揃いの大阪歌会、おっしゃるとおり、皆さん、素晴らしい読みでした。

自分の詠みも読みも、ふわふわ飛んでいきそうなくらい軽いものに思えます。
いつかベテランになれるよう、お互い、頑張って続けていきましょうね!
【2007/02/14 21:07】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

生きる
>病院を出ずれば夜の街こともなげに歩む人らの足ばかり見る

「あら、なんてことないじゃない。」 ほかいろいろ、、、
人は事もなげに言いますが、当人の気持ちはわからない。

いえいえ、私にはわかります。そんなことは言いません。
と言いつつ、口から飛び出している人も結構います。
自覚のないのは、もっと悲しいです。
嘆き、苦しみ、、、  そんなこと、病気をして知りました。
私の思いやりは、見せ掛けだったのだと。

弱者という世界があるとすれば、
私は、強者の世界とふたつを知りました・ヽ(´▽`)ノ
【2007/02/15 16:38】 URL | まり #N2y2xK1c [ 編集]

まりさんへ
今晩は。
「弱者という世界があるとすれば、
私は、強者の世界とふたつを知りました」という、まりさんの言葉。
一つの事柄が、どちらの側に立って見るかで、全然違って見えることを、体験されて、今は両方の世界を持たれたのですね。
大変な経験だったけれども、二つの視点を持たれ、人間としてそれまで以上に豊かになられたのではと、思います。

元気な人間が、当たり前にやっていることや言っていることが、そうでない人をひどく傷つけることは、よくあることです。
ただ、だから、その元気な人は意地悪かというと、そうでもない訳で…。
無神経で想像力がないと言えばそれまでですが、弱者としての経験がない故のことで、責めるのも、なんだか悪いような気がします。
まりさんも書かれているように、見せかけでない本物の思いやりを持つことは、なかなか難しいことです。

この歌の場合、ご主人が突然半身不随になられて、落ち込んでいる作者の目に、いとも簡単に歩く人たちの姿が目に入り、「ああ、昨日までは、歩くことなんて、易々とできることだったのに…、その歩くことの何と難しいことよ。」と、ご主人の身を思われているのでしょうね。

昨日までのごく当たり前の生活が、当たり前でない日が訪れた時、人は弱くもなるし辛くもなる。それは、認めた上で、また、立ち上がれることを信じたいなと思います。
【2007/02/15 20:19】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年5カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
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