心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌-2006年度角川俳句賞・短歌賞受賞作
今頃、なんですが・・・
2006年度角川俳句賞・短歌賞受賞作品のご紹介

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 昨年11月号の角川書店発行「俳句」誌・「短歌」誌で、第52回角川俳句賞と短歌賞の発表がありました。
偶然どちらも、新米の私が所属させてもらっている結社と、ご縁のある方々の受賞でしたので、ここでご紹介いたします。
「俳句や短歌には興味がないわ。」と言われる方も、少し読んでみてください。きっと、「なかなかいいね。」と思っていただけるかと思います。

 角川俳句賞受賞作品 千々和恵美子さんの「鯛の笛」50句より

箱眼鏡水面すべらせ若布刈る (春)

籠蹴つて張り付く鮑剝がしけり(春)

麦藁帽膝に豊漁祈願受く   (夏)

浜の石嚙ませて祭屋台組む  (夏)

盆僧の渡船に酔うて来たりけり(秋)

網の目を広げて外す寒鮃   (冬)

ここには、審査員の先生方が取り上げられ、私も上手だなあと思った中から、6句のみ引用いたしました。
これらの句は、海辺の生活に密着して、漁師の暮らしを克明に観察し、丁寧に詠まれたものばかりで、私は、具体的な描写(下線部と季節は私が加えました。)に、特に心惹かれました。

私は、これらの句に詠まれているような情景を一度も目にしたことがないのに、自然の様子・人間の営みなどの映像が、ありありと浮かんできます。すべてに動きがあり、物の質感や周りの空気感まで、自分がその場にいるかのように味わうことができます。
とてもきちんとした姿勢の良い句ばかりで、初心者の私には、表現の仕方など学ぶところが多くありました。

『俳句』11月号の選考座談会では、「すでに完成度が高いので、将来性を期待してという賞の意図からは、ずれるかもしれないが、初期の角川賞はこのタイプだった。」という審査員の先生方(矢島渚男・宇多喜代子・正木ゆう子・長谷川櫂の諸氏)の評がありました。

ところで、作者の千々和恵美子さんは、昭和19年生まれの福岡在住の方で、句歴はもう20年というベテランです。「白桃」に入り、伊藤通明氏に師事され、現在は「白桃」と「雪解」に所属されています。私が所属させてもらっている「空」の主宰、柴田佐知子さんも「白桃」に所属されていて、お二人は昔からのお友達だそうで、今回の表彰式にも参加されたそうです。私が「空」に入るきっかけを作ってくださった高千夏子さんも、かつて角川俳句賞を受賞されていて、主宰と同じ結社のお仲間です。

 角川短歌賞受賞作品 澤村斉美さんの「黙秘の庭」50首より

日記よりも出納帳は明るくて薄桃色の線の平行

ひとりでも研究はできる 調べかけの書物に長い鉛筆をはさむ

いくつもの場所で生きたりいづれにも寡黙とされる私がゐる (*)

しやがんでゐたときにリュックが温かく公園の昼 一人づつの昼

その声の笑ひつつかつ本気なる電話の父の「おう、がんばれや」 

はじめから失はれてゐたやうな日々海沿ひの弧に外灯が立つ (*)

作者の澤村斉美さんは、昭和54年生まれの若手で、京都大学に在籍中です。歌歴は、まだ10年になりませんが、「塔」誌でいつも、鋭い感性の歌を発表されるので、上手な方だなあと思っていました。2月に行われた「社会詠」についてのシンポジウムの折にも、パネラーとして、繊細かつ明快な発表をされ、聡明さに感心しました。

ここには、審査員の先生方(高野公彦・河野裕子・小池光・俵万智の諸氏)が取り上げられ、私もいいなあと思った歌の中から6首引用しました。下線や(*)は、私が加えました。
俳句や短歌を読むとき、流行りの歌を聴くときもそうですが、「作り手の思い」だけを直接述べた作品には、なかなか共感できません。作品のどこかにキラッと光る具体的な描写があり、そのディテールに、読み手の私は心惹かれます。

そういう意味で、これらの歌は、細部の描写が素晴らしいなあと思いました。下線部の「薄桃色・長い・温かく」など、心のひだに入って、うーんと唸ってしまいました。しかも、それら具体的な物が、作者と私は親子ほど年が離れているにもかかわらず、《わかる》、というか、「出納帳・鉛筆・電話の父」など懐かしいものばかり。日々を丁寧に生きている方なのだろうと思いました。
(*)をつけた歌は、今まで述べた具体的な歌とは趣を異にし、心情が抽象的に詠われていますが、《わかる》。それは、連作を読み進んできて、作者の生活に共感し、どこか置き去りにされたような孤独な思いを、読み手の私も重ねたせいだろうと思います。

「塔」には、河野裕子さん、河野美砂子さんなど角川短歌賞の受賞者が複数おられ、また最終候補に残られる方も毎年のようにおられるので、今後も若い方々が、次々活躍されるんだろうなと、眩しい思いです。
「塔」誌2月号の編集後記に、河野裕子さんが「角川短歌賞授賞式」の様子を書かれていましたが、同じ席に、「塔」誌や「空」誌で存じ上げている方々がおられたと思うと、どちらも入って間なしの私ですが、なんだか嬉しい気分です。

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

どの句の情景も海辺で育った私には具体的です。素直に読めますが其処からの広がりが深いですね。
この頃ますます俳句が解らなくて。観念的なものも惹かれることもあれば独りよがりに思えることもあり、あまりに写生句だとそれがどうした!と思う事も。でもここで久しぶりに丁寧な句を拝見しました。
【2007/03/30 00:29】 URL | 犬塚 #- [ 編集]

犬塚さんへ
これらの句は、よく観察して、とても丁寧に作られているなと思います。
たまたま私の引いた句が、「~て」でつながれているものが多くなってしまい、作者の方に申し訳なかったのですが、50句の連作は、つなぎ方・切れ方バラエティに富んでいます。

先日、「現代短歌フェスティバル」で、どなたかが「俳句は女性の作者が増えて、まじめな句が多くなり、本来の滑稽味が薄れている。」とおっしゃっていました。
女性云々は別として、わざとらしくない滑稽味も忘れないでいたいなと思いました。

最近は、農村や漁村近くに住み、本物の自然とともに暮らし、それが詠める環境の方が羨ましく思われます。旅行詠でなく、風土詠というのでしょうか。
【2007/03/30 10:13】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


そうなのです。私もこの頃生活の実感のない吟行句が空しくて。風土句とはうまい事を言いますが、私はもう少し踏み込んで生活句と言いたい。自分のことで厚かましいのですが、田舎で暮らす母の句を読むと、俳句が生活の中にあって、自然で、しかも深く繊細な命の鼓動を伝えていて、これが俳句だなあと思います。でもそれは自然環境と自分にゆったりした時間があってのこと。それがない時に無理に詠む事に意味があるのかと、私の環境での俳句への疑問ばかり。17文字は独りよがりにも言葉遊びにもなりかねないし、考えると難しいですね。
【2007/03/31 01:01】 URL | 犬塚 #- [ 編集]

犬塚さんへ
犬塚さんの書かれた「田舎で暮らす母の句を読むと、俳句が生活の中にあって、自然で、しかも深く繊細な命の鼓動を伝えていて、これが俳句だなあと思います。」
実は、私も伯母たちが時々作る短歌に、同じことを感じます。地に密着した強さですね。

他の方が作った旅行詠を読むとき、行ったことのない土地の歌や句に感動しにくいのは、詠み手も旅先で、第三者の位置から詠んでいるせいだろうなと思います。

小説に、ファンタジーなど空想ものと実生活に密着したものとがあるように、両方楽しんでもいいかなとは思います。でも、自分の気持ちに嘘をついたものは、嫌ね。

前にお話しした船団のSさんが、三橋敏雄さんの言葉「感動したら俳句は作らん。自分の作った俳句に感動するんや。」を紹介されていました。「写生=写意」でもあると。
深く深く考えてみると、何かのヒントになるかも?

すでに多くの名歌・名句があるのに、それでも自分で詠みたいのはなぜか?私は、私の今のこの時の気持ちを残したいからかな?と思ったりします。
【2007/03/31 10:26】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


何度も私物化した投稿を御免なさい。今日母に、私たちのやり取りを電話で話しました。で、旅行詠での大空の亀さんの分析に、電話の向こうでいたく肯いていたのでご報告です。吟行は自分へ向けるべき問い掛けを、風景に流してしまうので、「ホトトギス」好みのさらっとした、よく言えば品の良い、今の私には「それがどうした!」の淡白なものになるのでしょうね。俳句は詠むよりも、他の人の作句を読み取る力が求められそう。そんな点でも「船団」のメンバーには興味が尽きません。今の私には興味深い今回の特集でした。ありがとう。
【2007/04/01 20:37】 URL | 犬塚 #- [ 編集]

犬塚さんへ
いえ、いえ、全然。
お母さまに頷いていただけて、とても嬉しいです。
俳句・短歌の話題になると、みなさんコメントを遠慮されるし、周りにこういう話題でお話しできる人もいなくて、寂しい思いをしていますので、犬塚さんとのやり取りは、とても楽しかったです。

「それがどうした!」」という犬塚さんの感じ、すごくわかって、思わず私もうんうんと頷いてしまいました。だからといって、わざとらしいのは嫌だけど。
俳句の役割の大きなものとして、「挨拶」つまり、「あなた(人間・自然)を尊重していますよ、よろしくね。」というのがあると思うの。
私は、割とそういう気持ちが詠めているかどうかを、気にして作るかな。

最近読んだ片山由美子さんの評論集『俳句を読むということ』(角川書店)が、とても良くて、線をいっぱい引きました。役立つのではないかしら。
【2007/04/01 21:18】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年3カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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