心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
季節の詩歌(4)~素足は語る~
070808hikone.jpg  【彦根城のお濠】 

 先月下旬、高校からの友人Eちゃんの運転で「彦根キャッスルロード」と「醒ヶ井宿」に行きました。
写真はすべて、その時のものです。
彦根では、お城手前の「招福本舗」という猫をテーマにしたお店で盛り上がり、「たねや」では湖東焼きの展示を運良く無料で、しかも丁寧な解説付きで見せて頂きました。
醒ヶ井では、JR駅前の冷たくおいしい湧き水(1000mを超す雲仙山から流れてきている江戸時代の水だそうです!)に感激しました。有名な梅花藻は、6月~9月の水量の少ない時期が見頃だそうです。

070808samei.jpg  070808nouzenkazura.jpg 【醒ヶ井宿の澄んだ流れ。民家の凌霄花(のうぜんかずら)】 

 川の写真と関係があるので、俳句結社誌「空」の夏号に載せてもらった私の文章を転載します。
よろしかったら、読んでみてください。

季節の詩歌(4)~素足は語る~
                   
夏河を越すうれしさよ手に草履        与謝蕪村
暑い季節、澄んだ川を前にすると、私は、すぐに素足になり、ザブザブと水の中に入っていってしまう。素足に触れる水の流れや冷たさが心地よく、子供の頃に戻ったようで、気分が浮き浮きしてくる。この句を読んだとき、自分と同じ遊び心がうれしく、草履を片手に、にこにこしながら浅い小川を渡っている蕪村の姿や、周りの自然の様子が鮮やかに浮かび上がった。夏になると、真っ先に思い出す句である。また、この句の後に続けたいのが、次の、江戸時代の俳人の句である。素足が喜んでいる。
水ふんで草で足ふく夏野哉          小西来山

次にあげるのは、私の大好きな一首で、季節は異なるが、蕪村の「夏河を」の句を思うとき、必ず同時に浮かんでくる歌である。
絵日傘をかなたの岸の草になげわたる小川よ春の水ぬるき  与謝野晶子
蕪村の句と同じ遊び心に、絵日傘の女性らしい華やかさと、春の優しい季節感が加わり、美しい映像を見るようだ。当時の因習に、果敢に向かっていった晶子の強い性格と行動力が、「なげわたる」という一語によく表れていると思う。

 冒頭の句に詠まれている川は、蕪村が幼時に過ごした与謝地方にある小川だという。この句の楽しげな雰囲気は、母親の故郷でもある、懐かしい土地に居る心安さから来ているのかも知れない。小学唱歌「故郷」の「兎追ひしかの山 小鮒釣りしかの川」にあるように、川は故郷の匂いを伴う気がする。
「夏の思い出」という歌で有名な江間章子に、「水と風」と題した、次のような詩があるので、一部引用してみよう。
私が好きな水のにおい / ふるさとの村を / 
たてとよこにながれている / 小さな川の水のにおい / 


長田弘の次の詩ではないが、誰もが心の中だけでなく、現実にも自分だけの川を持っていた時代があるのではないかと思う。
誰もが心のうちに、じぶんだけの川をもっているのだと思う。
川を見つめるとき、ひとは流れを見つめているのではなく、じぶんの心の中を見つめている。
そうして、川の色に、自分の心の色を見ている。 
  (「それぞれの心の中の川」より一部引用)

少年期しろき細脛ゆらゆらと筏遊びの泥の河縁            小高 賢
目を閉ぢて川中に立つわが素足しづかに夏の流れを乱す      坂井修一
縁側にあそびがへりの足あらふ母の雑巾こちょぼったさよ      佐藤通雅

 こんな豊かな経験があるから、次のような句が詠め、また、読む側の私も、幸せな手足の感覚を思い出すのではないだろうか。
帰省して手足を川に浸しをり          阿部静夫
故郷の家に着き、荷を置いてまっさきにすることは何だろう。
身辺に母がちらちらして涼し帰省の折の母の温かさ      福永耕二
おふくろの国に来てゐる端居かな      上田五千石
故郷のもてなし素足になれといふ      柴田佐知子

お茶よりも何よりも、私は旅装を解き、右(上)の句のように素足になり、心身共に身軽になろうとするのではないだろうか。自分の身にまとっていたものからの解放感は、単に体だけではなく、心も存分に伸び伸びさせてくれる。素のままの自分でいられる気持ちよさ、故郷や身内に身も心も委ねられる安心感、自然を前にしての開放感。そんな思いを、素足が象徴している気がする。縁側で涼むとき、子供のころ遊んだ懐かしい川に出かけるとき、足は、すべての幸福感の表れとして、素足でなければならない。

 しかし、次のような歌を並べ、順番に読んでいくうちに、先に述べた気持ちが揺らぎ、素足は、心細く寂しいものなのかもしれないという感じがしてきた。
空地にはブランコ二つ子供ふたり素足に草を蹴りつつゆらす        花山多佳子
素足というのは、人間の原初に戻れる快感がある。川や草地など、自然を相手にしての素足が心地いいのはそのせいだろう。守ってくれる人がいるという安心感が、子供たちを素足にさせているとも思う。先ほどの俳句で、故郷と素足が優しく結び付くことができたのは、子供に戻れる「帰省」という状況だからかもしれない。
夏の素足はかなく垂らして遊びたり永遠におほきな椅子と信じて      米川千嘉子
永遠に大きな椅子は、保護者でもあり、豊かな自然でもあるのだろう。それが失われた今、素足でいることは危険なのである。

ひとりゐの素足の指をいろいろに動かしてみる夏のゆふぐれ         石川仁木
親から独立し一人で生きていく身になったときの、若者の孤独や不安。それらとどう付き合っていくのか、彼の自由とかすかな焦燥感が、足の指を見つめさせているのだろう。

七月の夜に思ひ出づミシン踏む母の足白く水漕ぐごときを          栗木京子
夏の歌なのに、ひんやりとした感じが漂うのは、ミシンの脚が冷たかったのを、私が覚えているせいか。白い足であること、水を漕ぐようであるという比喩、すべてに涼感がある。

夏過ぎてこの世に財を残さざる父の素足のいよいよ白し           佐伯裕子
勤め人の足か、病人の足か、素足で夏を過ごすことのなかった人の足は、恐ろしく白い。素足の白さが、はかなく頼りなげで、何とも悲しい歌である。足が、その人の人生を語っている。

最後にもう一度、夏の川に戻り、素足を浸けてみよう。
夏川の美しき村又訪はん      高野素十
カヌーイストの野田知佑が、日本には自然の川が残っていないと嘆いているが、それでも彼は、川ガキ養成講座「川の学校」を吉野川で開いている。川と素足は、日本の未来を拓くカギだと思う。


追記:これが冊子になったあと、次のような歌を見つけましたので、付け加えます。
制服のスカート上げて河の中ゆく少女らは楽符のごとし           花山多佳子
与謝野晶子の歌の隣に並べたい。高校の時、故郷の肱川をまさにこの歌のように、Eちゃんと渡ろうとしたことを思い出しました。
素手、素足、傷つきやすき〈素〉と思う誰にも逢わぬ独り居の今日      松平盟子
今回のテーマ(素足)のためにあるような歌で、石川仁木の歌に続けて読みたい作品です。

070808baikamo.jpg  【「醒ヶ井宿」の梅花藻。初め「さめがいしゅく」と打ったら、なんと!「鮫が萎縮」と出ました。】


テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
梅花藻
始めて見ました。
水の中に咲いているのですか。
藻がゆ~らゆ~らしている様子が分かります。
最初のお写真は深い緑と、お堀の色の濃さが夏を感じます。

変換って1人で笑ってしまうことがありますね。
以前エキシナンシス(だったかな)亀さんが面白い変換を書いてくださいましたね。

素足にいろいろな句があるのですね。
亀さんの文章(解説)に共感したり、私にも分かり易いです。
【2007/08/08 17:57】 URL | ベンジャミン #oUPgpoCM [ 編集]

今晩は
梅花藻、私も初めてでした。
もっとアップにして写せばよかったのですが、可愛い花です。
水の中に咲いているのですが、水の少ない時期の方がよく見えるそうです。
梅雨前とか8月に入ってからの方がいいと、駅の喫茶店の方が言われていました。
滋賀県は、琵琶湖を中心に美しい風景が広がり、東岸も西岸ものどかでいいところです。
琵琶湖周辺を巡る旅を、いつかぜひなさってください。ステキですよ。

そんなことがありましたねえ。「エキシナンシス」でしたか?
今、試しに打ったら「駅至難死す」となりました。こんな感じでしたっけ??
こういう「おもしろ変換」のコンテストもあるんですよね。

俳句や短歌を、一つのテーマを決めて探し読みするのも、けっこう楽しいんですよ。
【2007/08/08 21:23】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


こんにちは。
水のある風景はいいですよね。
私も梅花藻は初めてです。涼しげでかわいいお花。
流れのあるところに育つのですか?
流れが急すぎると受粉が上手くいかないかもしれないし、
きっと環境を選ぶ植物なのでしょうね。

句に添えられた亀さんの文、とてもとても心地よく、心に響いてきました。
多くの詩歌を読まれている亀さんならでは!
そして亀さんのいろいろなことが思われて、江国香織さんが『日のあたる白い壁』(これは、絵画についてのエッセイ集)で「出会った絵について書くことは、でも勿論私について書くことでした」と述べておられるのを思い起こしたりしました。
共感しながら読み進むうちに、「今年こそは!」と川を『ぞぶり』たくなった私です。(明日からしばらく帰省です。)
【2007/08/09 14:49】 URL | keiko #- [ 編集]

keikoさんへ
今晩は。
今日は、親戚の大事な人の手術で、一日病院に詰めていました。

梅花藻は、水が少ないと花がよく見えるけれど、やはりきれいな水がある程度流れてないと、駄目なんじゃないかしら?

『ぞぶり』去年盛り上がりましたね。早いなあ、もう1年…。
>亀さんのいろいろなことが思われて
思いの深いkeikoさんらしい感想、どうもありがとう。
先ほどNHKに吉永小百合さんが出ているのをちらっと見て、keikoさんと雰囲気が似ているなあと思いました。

江國香織さんの『日のあたる白い壁』は、白い表紙の可愛い本ですね。
>「出会った絵について書くことは、でも勿論私について書くことでした」
そうですね。文章って、材料は違っても、結局は自分を書いているのかもしれません。

そんな中でも特に、彼女の文章は、何を書いても「江國香織」になるなと言う気がします。
最近読んだ『十五歳の残像』も、いろんな人にインタビューしているんだけど、やっぱり「江國香織」。
『間宮兄弟』や『ホテルカクタス』も、登場人物は男の人なんだけど、やっぱり「江國香織」。
今の世の中を感じさせつつ、独特の個性があります。

田舎の空気をいっぱい吸ってきてくださいね。できましたら、私の分も。
【2007/08/09 22:35】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

こんにちは。
梅花藻・・・始めて見ました。
すごい!この目で見てみたいです。
きっと、立ち止まってしまって前に進まないかも?
とても、涼しげですよね。
彦根城も行ったことがありません。
こうやってみると、行ったことがない場所が多いこと・・・
サーモンピンク色?の、のうぜんかずらも可愛いお花ですね。

>故郷のもてなし素足になれといふ      柴田佐知子

この句が私は気に入りました。
故郷がない私には、こんな風に出来る場所が欲しいです。
いいです・・・素足って表現(^・^)
【2007/08/11 16:45】 URL | ノロタン #B7q/.fmY [ 編集]

ノロタンさんへ
ノロタンさん、今晩は。
梅花藻、とっても可愛い花なんですよ。
この写真は、最初に見たもので、まだいっぱいあるだろうと、しっかり撮っていませんでした。
ところが、他は、まだ水が多くて、花が少ししか咲いていませんでした。
こんなに皆さんに「はじめて!」と言っていただけるなら、最初にもっとアップに撮っておけばよかったと、ちょっぴり残念です。

彦根城は、桜が有名で、春はお雛様の展示も立派です。
お店も結構充実しているので、きっと楽しめますよ。
近くには、長浜もあって、観光施設が充実しています。
琵琶湖は湖畔を散策するのも、ぐるっとドライブするのも気持ちいいです。
美術館や水生植物園、お寺など、ゆったりしていて、私は好きな所がいっぱいあります。

>故郷のもてなし素足になれといふ      柴田佐知子

>この句が私は気に入りました。
私もなんですよ。実は、「素足」をテーマに俳句や短歌を集めようと思ったのは、この句を知ったのがきっかけでした。
素足って、気持ちいいですよね。

【2007/08/11 19:52】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年5カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
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