心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
季節の詩歌(6)~眠りのなかの夢~
 「空」誌20号に載せてもらった文章を転載します。とても長いので、お時間のあるときにでも、よろしければ読んでみて下さい。 【写真は、1月8日に撮ったものです。】

季節の詩歌(6)~眠りのなかの夢~

若い頃、吉田美奈子の「夢で逢えたら」(作詞・作曲/大瀧詠一)という歌をよく聴いた。
夢でもし逢えたら 素敵なことね
あなたに逢えるまで 眠り続けたい
あなたは私から 遠く離れているけど
逢いたくなったら まぶたを閉じるの

そして、聴きながらいつも、小野小町の歌(次の二首)を条件反射のように思い浮かべていた。
思ひつつ寝(ぬ)ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚めざらましを        
うたたねに恋しき人を見てしより夢てふ物は頼みそめてき        

いつも恋しい人と逢えるわけではない。距離的に、時間的に、または心理的に、相手が遠くままならないが故に、「夢」に託す切ない思い。千年の時を隔てても、人の心は変わらないと、妙に安心したものだ。「ゆめ」は「いめ(寝目)」が転じたものだという。
いとせめて恋しきときはむばたまの夜の衣を返してぞ着る                小野小町
たとえ睡眠中の出来事であっても、逢瀬が叶うなら、「衣返し」の言い伝えを信じたいのが人情である。
どんな姿でもいいから、恋人に逢いに来てほしい、そんな思いが次のような夢を見させるのであろうか。
こひびとは般若の面をしてくると萌黄の朝の夢にいふかな                永井陽子
邂逅を遂げたる夢の腕のなかに光となりてわれはひろがる               山本かね子

夢の中で逢えた喜びに恍惚となっている作者は、「光」そのものに変わる。満ち足りた幸福感が辺り一帯に漂う歌だ。目が覚めてもしばらくは、夢の世界の余韻醒めやらず、といったところであろうか。
春あかつき醒めても動悸をさまらず   真鍋呉夫
眠りながら時々あなたの夢を見る目覚めた後もなほしばらくは              松村正直

やがて心身が完全に覚醒する頃には、人は冷静に、淋しい現実に戻っていくのである。
初夢のあひふれし手の覚めて冷ゆ    野沢節子
初夢で逢ひしを告げず会ひにけり     稲畑汀子
 

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これまで見た「夢」は、どちらかというと、現実を離れ、甘い雰囲気を醸し出していた。しかし、夢の中で嬉しい出逢いが待っているとは限らない。
春の夢みてゐて瞼ぬれにけり     三橋鷹女
「春の夢」なら甘美なはずであろうに、涙が出ている自分を認めなくてはならぬとは、辛いことである。ましてや、次の歌のように、心の離れた人を、怒りと悲しみで追う、激情に狂う自分を、夢の中に見てしまった時の、作者の絶望はいかばかりかと思う。
夢のなかといへども髪をふりみだし人を追ひゐきながく忘れず              大西民子
白鳥の首つかみ振り回はす夢     高山れおな

起きているときは、賢明で物静かであろう人が、無意識の眠りの世界で暴れ回り、抑圧されていた感情を爆発させる。思いがけない夢を見て、自分の中に隠れていた激しい感情、残酷さや非情さに気づかされ、愕然とすることもままある。
嬰児(みどりご)のわれは追ひつかぬ狼におひかけられる夢ばかり見き         齋藤 史
かけ違へしシャツの釦とボタン穴無限にならぶ雨夜(あめよ)の夢に           栗木京子
足裏より何か吸ひあぐといふ歌を結句欠くまま夢に置き来つ               阿木津英

どれも、もどかしい感覚である。一首目、「追いつかない」のだから安心してもよいのだが、相手は狼で、幼児の自分は、「追いかけられる」のである。やはり怖い。二首目の「かけ違えた釦と穴」が「無限に続く」気持ち悪さ。雨音が耳に絶えず響いているせいだろうか。「夢の中で浮かんだ歌の結句が思い出せない」むずむずした感じの三首目。どの夢も、妙に鮮明な映像で、眠りの中の人は、矛盾していることに気がつかない。それらは、目を覚ますと消えてしまうのだが、なぜか不思議な感覚だけは残るのである。
大雷雨鬱王と會うあさの夢       赤尾兜子
この句のように、暑さ寒さ、雨や風といった気象条件や、睡眠環境が、夢に影響を与えることは、よくある。しかし、人は、もっと大きな不安や恐怖を感じる夢を見ることがある。
春の夜の夢ばかりなる枕頭にあっあかねさす召集令状                  塚本邦雄
春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなくたたむ名こそ惜しけれ               周防内侍

周防内侍の歌から本歌取りをした、塚本邦男の有名な歌である。春の夜の甘美な世界に酔いしれているうちに、赤紙と言われた召集令状が来るという夢。世の中を厳しく見つめていた作者にとって、それは単なる夢ではなかった。太平の世に浮かれている私たちへの警句でもある。生来の詩人の感性は鋭く、世界の危うい状況を、人より先に感じ取るため、暗い暗い闇のような夢を見てしまうのである。
もつと暗くもつと暗くと落ちてゆく夢の穴 途中で花などをつかみ            栗木京子
囚(とら)はれの銀河系中獏枕         三橋敏雄
追いつめてゐたりしものは何ならむ夢よりさめてまたしんの闇             小野興二郎

苦しい夢は、眠っている間も、人を休ませてはくれない。寝汗に目覚めた後は、現実に持ち越された夢に、人は疲れたり悩まされたりするのである。
力竭(つく)して山越えし夢露か霧か      石田波郷
初夢の中をどんなに走ったやら        飯島晴子
絶体絶命というふところにて夢切るる 拭ひつつあるは死体の汗か            斎藤 史

次の歌のように、家族や美味しい朝食が待っていても、完全には救われない。「半熟卵」に、夢の不気味さを引きずっているような気がする。
おそろしき夢の界より立ち戻り半熟卵を子らと食(たう)ぶる                  島田修二
できれば恐ろしい夢は見たくない。しかし、気持ちのよい夢、望ましい夢を見る保証もない。現実に気にかかることがあればあるほど、夢にパラダイスを見ることは難しいようだ。それどころか、寂しい夢ばかり見る。
夢にさへ距(へだ)てられたる子となりてはやも測られぬ背丈を思ふ             雨宮雅子
さめても思い出せない不安な夢である     住宅顕信

自由律俳句の創作に懸命だった、夭折の俳人の句である。病気、孤独、困難なことばかりの日々は、彼に絶望感を抱かせ、不安な夢を見させる。現実も夢も苦しい。

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せめて、初夢ぐらいは「一富士二鷹三茄子」、縁起のよい夢を見たいものだが、そう簡単にはいかぬようだ。
初夢の思ひしことを見ざりける     正岡子規
初夢の扇ひろげしところまで      後藤夜半
起きてすぐ忘れしほどの初夢なり   能村登四郎

どうも、昔の人のように素直に、よい「初夢」を見ることができないようである。しかし、「期待はずれ」「途中まで」「すぐ忘れる程度」では、せっかくの新年なのに味気ないではないか。次の句は、めでたい正月らしく、「少しの嘘を加え」、明るい夢のお裾分けを、皆にしてあげようといった風情だ。
初夢に少しの嘘を加へたる       高倉和子
よい夢のさめても嬉しもちの音       五筑

よい夢を見るために枕の下に敷く「宝船」の絵。しかし、「宝船の絵=よい夢見」と簡単にいかないのも、皆は過去の経験から知っている。だから、「素直に」敷くし、欲張らず「ただよい眠り」を願うのである。
宝船こころすなほに敷いてねる     横山蜃楼
願ふことただよき眠り宝舟        富安風生

心安らかに眠ることができれば、人は、自然と一体となり、心地よい夢を見ることができる。
山霧のいくたび湧きてかくるらむ大山蓮華夢にひらけり                 前登志夫
ずっと浸っていたかった夢の世界。まるでその続きかと思う情景が、目の前に広がり、夢か現かわからなくなることも、人の身には起こるのである。
玻璃片のごとく朝の陽窓に射しこゑ過ぎにけり夢の鶯                  影山一男
春の夜の夢の浮き橋とだえして峰にわかるる横雲の空                    藤原定家
幾十のからす揚羽のとぶ宙(そら)を夢と知りつつ夢みてゐたり             島田修二

そう、人は「夢」と知っていても、「眠りのなかの夢」に見たいものがあるのである。夢に出てきて欲しいものは、冒頭に述べたような恋人とは限らない。次にあげた歌や句には、過去への想いが詰まっている。
旅に見し老い杉も老い藤も夢に来て人間として笑めば泣きたり             米川千嘉子
戦ひののち失ひし雛(ひいな)など木々芽ぐむ夜の夢に立ち来よ            尾崎左永子
白く病みてもどらむきみ待つとしどろなる寒の夜の夢                   山田あき
黒豆が泡立ち煮えて母が居り母よにほひなき夢の界にて                上田三四二
初夢に見たり返らぬ日のことを       日野草城

人はまた、物語の頁をめくるように、「夢の続き」を見たいと思うことがあるし、見ることがある。
いま見たる夢のつづきを或は見む夜半の小床にみじろがずをり             三ヶ島葭子
いつの間に寝ている俺かきのう見た夢のつづきが始まっている              山下 洋
たとふればめぐる轆轤(ろくろ)をふむごとく目覚めて夢のつづきを思ふ         佐藤佐太郎

人が、目覚めた後も、「夢の続きを思い」、夢にとらわれるのは、そこに「もう一人の自分の存在」を感じ、確かめたい欲望があるからである。

霧の朝080108

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

こんにちは。
大空の亀さんはどんな初夢でしたか?
毎年「今晩は初夢だ」と期待して眠るものの、たいした夢は見てないですね~
夢というのは、心の中に引っかかってることや気になることがなんらかの形として夢となることが多いようです。
または、大切なメッセージとして夢でそれを伝えてきたり。
なんでもないような夢だと思っても、結構奥が深いみたいですよね。

それにしても大空の亀さん!写真が素晴らしいです。
先日も書かせて頂きましたがこれは風景写真だけれども、心象風景と言っても良いと思います。
心で見る風景、素晴らしいなぁ。
色もつぶれていないし色の諧調もしっかり表現されてるし、光の読み方や構図がとてもお上手なんですね。
コンテストにも十分挑戦できるレベルの作品だと思います!
【2008/01/11 14:40】 URL | bianca #cK8v8HAk [ 編集]


起きてすぐ忘れしほどの初夢なり

私の初夢は何だったのかしら?全く記憶にありません。
眠りが浅いので夢は常に見ている気がします。

3年ほど前に大声でうなされる夢を3回みました。
離れた部屋の娘が起こしに来たほどです。
その3回は内容をメモしてあります。

しばらくみなかったのに1月4日に、まだ成人していない娘と3人でいる部屋に賊が押し入ってきて捕らわれている夢を見ました。
私の夢は途中で「これは夢だ」と気付くので大声を出して助けを呼びます。起こして欲しいのです。
でも今回は1人だったのでなかなか目覚めずとっても恐かったわ。

夢でもし逢えたら 素敵なことね
あなたに逢えるまで 眠り続けたい
あなたは私から 遠く離れているけど
逢いたくなったら まぶたを閉じるの


夫の夢をみたいけどどうしたらみられるのでしょう。
思い出さない日はないのにね。
夢の中の夫が現実ではあり得ない裏切りの夢を見たことがあります。
でも、夢の中でも、目を覚ましても全く腹が立っていませんでした。
【2008/01/11 17:40】 URL | ベンジャミン #oUPgpoCM [ 編集]

bianca さんへ
写真、とってもほめていただいて、ありがとうございます。
私は、ほんとに何も難しいことは考えずに、この部分を切り取りたいと思って、撮っているだけなので、全面的にカメラと自然の力なのですよ。
でも、写真って、楽しいですね。v-212

この日は、大変な濃霧で、電車が動かなかったところもあるくらいでした。
私は、朝からベランダで、霧の景色を撮っていたのですが、いい写真が撮れそうだなと思って、いつもより早く家を出ました。
出勤途中の道で、撮ったのが、これらです。偶然、光の加減がよかったようで、イメージ通りに撮れました。

私の真上のお家のご主人が、抜群に写真が上手くて、昨年は「国定公園フォトコンテストのカレンダー」に花火が選ばれていました。
この方や、biancaさんのように、本格的な写真は撮れませんが、自分の気持ちに沿った写真が撮れると気持ちいいですね。
ガンコちゃんも、さすがセンスありますね。ガンコちゃんに負けないように、私も楽しみます。
【2008/01/12 22:24】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

ベンジャミンさんへ
私も、ベンジャミンさんのような恐怖感でいっぱいの夢を見たことがあります。
でも、私の場合は、声が出せないのです。
夢の中で助けを求めているのに、口がぱくぱくするだけで、どうしても声が出せないのです。
ベンジャミンさんは、
>途中で「これは夢だ」と気付くので大声を出して助けを呼びます。
とのこと。同じように怖い夢を見ても、この違いはなぜ?なんでしょう。

1月4日のベンジャミンさんの怖い夢は、潜在意識の中の不安感が見させているのかもしれませんね。
私も、若い頃、神経が疲れていたとき、再び眠るのが怖いような夢をよく見ました。
でも、外の空気をしっかり吸って、心身の健康を取り戻したら、見なくなりました。

昔は、同じパターンの夢もよく見ました。
物語にできそうな、きちんとストーリーのある夢もよく見ました。
でも、最近、とんと夢を見ていない、というか、覚えていないのです。
子どもの時は、よく見ていたし覚えていたから、これも老化現象かしら?

ベンジャミンさん、一度、昔の人がしていたように、パジャマを裏返しに着て寝たらどうかしら?
それとか、ご主人の写真かお名前を書いた紙を、枕の下に敷いて寝て見て下さい。
夢の中でもいいから、大好きなご主人に逢えたら、嬉しいですよね。v-10
私も、両親などが夢に出てきてくれると、すごく嬉しいです。
「上手くいったわ」というご報告を、楽しみに待っています。
【2008/01/12 22:51】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


この日の朝は、霧のフィルターにおおわれて昇る太陽を
真正面に眺めての通勤でした。
いつもは眩しいだけの太陽が、この時はとても幻想的な光景でした。

もっとも、見とれていることは出来ません!
クルマの流れについてバイクを運転しないといけません。
ああ・・カメラに収めたいと、思ったものです。

こちらのブログに何枚も載った写真を見て、あの朝を思い出しています。
このような美しい光景も、通勤の足に大きな影響があったようで
自然の営みと我々の生活がずい分かけ離れてしまっていると言うこと
でしょうか・・

次に感動を与えてくれる現象に出合うことが有るか楽しみです。
【2008/01/13 21:31】 URL | みのお市・UTSUGI #- [ 編集]

UTSUGIさんへ
>ああ・・カメラに収めたいと、思ったものです。
わかります。時間が経てば、霧は晴れてしまうし、タイミングってありますものね。
しかし、あの朝、バイクや車を運転するのは、怖かったでしょうねえ。

そういえば、高校時代、通学路の途中にある橋の上が、冬の間いつも大変な霧だったことを思い出しました。
すぐ目の前を歩いている人も見えないほどの濃霧が、毎朝。
川の上を流れる霧の姿は、カメラマンの興趣をそそるのでしょう、何度か、テレビで特集が組まれたりしました。
その頃は、写真に特に興味がなかったので、見過ごしていましたが、今思えば、垂涎もののいい景色がいっぱいありました。
いつか、故郷の写真を撮りに帰りたいなあ。

自然の写真は、朝夕の時間帯に撮りたいなあと思う瞬間が、私の場合は多いです。
本格的に撮られる皆さんは、どうなんでしょう?
【2008/01/14 19:16】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


「夢で逢えたら」、いろんな人がカバーしていますね。
ぼくにはラッツ&スターとアン・ルイスが特に印象に残っています。
夢って、季語にもあるんでしょうか?
あるとしたら新春しか考えられませんが。
夢、あこがれの希望膨らむものである一方、はかなくもありますね。
【2008/01/14 22:52】 URL | こもれび #hGt.gl.I [ 編集]

こもれびさんへ
>ぼくにはラッツ&スターとアン・ルイスが特に印象に残っています。
ありましたねえ。ノリのいい曲だから、いろんな人に歌われたんですね。

夢の季語は、「初夢」だけではないかしら?
次回は「起きて見る夢」にしようと、ここずっと「夢」の付く詩歌を探していました。
その結果、やたら「夢」の字が目に付くようになり、「夢の狩人」の気分でした。
現実には見えないものなのに、夢には、いろんな意味があって、興味深かったです。

ベンジャミンさんのところに、「最近夢を見ていません」とコメントしてから、なんと不思議なことに、毎夜印象鮮明な夢を見ています。
【2008/01/15 19:47】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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プロフィール

大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年6カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
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