心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌(歌集)-山下洋さんの歌集『オリオンの横顔』
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【建物等の写真はすべて、京都国立博物館にて、2008年2月京都市長選の日に撮影。】

 orionnoyokogaokaba-.jpg 【歌集カバー】  orionhontai.jpg 【歌集本体】

 今回は、山下洋さんの歌集『オリオンの横顔』 (青磁社)をご紹介します。

山下洋さんは、昨年6月にご紹介した木村輝子さんと同じく、大阪歌会・北摂歌会でご一緒させて頂いている方で、30年前から短歌を始められたベテラン歌人で、とてもいい歌を詠まれます。
高校の先生をされていて、マラソンが趣味(といっても、かなり本格的)、ご家族の仲もよく、二次会などでのちょっとしたお話に、奥さまを尊敬されている様子が伺えます。私はまだ歌歴も浅く、お人柄を述べる立場ではないのですが、歌会での読みやご自身の詠まれる歌から、自意識に時折とまどう、シャイな方なのではないかなという気がしています。
昨秋、大阪歌会で『オリオンの横顔』の合評会があり、あらかじめ選歌をしてきた参加者が、それぞれに評を述べたのですが、重なった歌は数首のみでした。歌のタイプも、シリアスなもの・ユーモラスな大阪弁のもの・心を深く見つめたもの等々、多岐にわたり、どれをとりあげてもさすがだなあと感心するものばかり、歌をしぼるのに大変迷いました。
ここでは、私なりに「山下洋さんらしいなと思う歌」をご紹介します。お楽しみ下さい。(歌は濃い字

間髪を入れず反論するためにまず適当に喋りはじめる
快速にまず乗り換えて急がねばならぬ理由はこれから探す

「まず」山下さんらしいなあと思ったのは、この二首でした。お仕事の関係で、土曜日午後からの歌会には、途中から参加されるのですが、その時の登場の仕方が、いつもコートに風をはらんでいるというふうで、忙しそうなのです。でも、せっかちな感じではなく、これが一つのスタイルになっていて、「まず」というところに、山下さんならではの生き方が隠れている、そんな気がしました。

繭ごもる少女にかけし電話にて二言三言交わしたるのみ
不登校の少女を「繭ごもる」と喩えたところに、見守る優しさを感じましたし、自分の殻を破れないでいる少女への、これ以上的確な比喩はないなとも思いました。「いつか羽ばたく日が来る!」そんな作者の願いもこめられているのではないでしょうか。
漁師風きこり風はた娼家風パスタメニューになき教師風
面白い歌です。もしあっても、「教師風」パスタは、誰も注文しそうにありません。なんだか偉そうで堅そうで、ちょっと疲れてて美味しくなさそうです。(すみません…。)最近、大人向けに、レトロな給食メニューを出すお店もあるようですが。学校嫌いの小・中学生だった私は、教室の埃や人の詰まった窮屈な感じを思い出してしまって、これも注文はパスですね。
間違えて「放牧の旅」と言う子いて放牧の旅に出でたくなりぬ
「放浪の旅」?「(若山)牧水の旅」?あてどなく旅をする生き方は、一つの憧れでもありますが、「放牧の旅」は、目的があって生き生きしています。言い間違いから、違う世界へワープする楽しさがあります。テストの迷解答なども、ワープできる材料でしょうね。

感情を濾過するように呑みこんで抑揚のなき声を吐き出す
自分の出した声が能面のように表情がなく、はっとするときがあります。自分の気持ちが、冷たくなっているときです。この歌はその時のことを思い出させました。
無意識にいつもの俺のふりをする男を一人飼っている俺
何かになろうとして生きてきた訳じゃない桜紅葉を見上げて思う
「俺」という存在が、「本物の俺」なのかどうか、自分に疑念を抱くときがあります。「教師・父親・夫・ランナー・穏やかな人」どれも自分なのですが、でもどこか自分の本質と微妙にずれている感じ。紅葉の季節には、おのれの人生の秋を見つめてしまうものです。

電柱の背後に一人ずつ隠れ無数のわれがわれを見ている
組まれゆく鉄骨が見ゆ遠からず閉じこめらるる空間が見ゆ

「見えないものを見る。」山下さんの特技のように思えます。一首目の「無数のわれ」に、今まで経てきた瞬間瞬間の「われ」が見え、積み重ねた時間を、こう表現されたことに共感を覚えました。二首目は、多くの方が採り上げておられた歌です。「遠からず閉じこめらるる空間」過去だけでなく未来への時間軸と空間への想像力に、私も唸りました。

亡き友が来べき宵なり呉竹の伏見の酒を冷やしてぞ待つ
ほら工藤また春は来て墓の辺の林檎の花が咲きはじめたぞ

「歌を詠むことでしばしばすくわれた」という作者にとって、学生時代に京大短歌会に誘ってくれた工藤氏は、一生、心の大切な場所を占める友。早世した友を思う歌は、気持ちがストレートで、やはり早くに友を亡くした私の心にも深く沁みて、泣きそうになりました。

みずからに向けて怒りを溜めているそんな顔して今夜の君は
「ブーメランと鉄砲玉とどっちがいい?」と君は訊くけどよう答えんわ

この「君」は、奥さまでしょうか?山下さんは、私と同い年なので、ご夫婦の力関係は、我が家と似た感じかな?なんて、この歌を読んで思いました。私たちの世代の、共働き夫婦は、家事分担なども比較的対等です。精神的には、女性の方が少々強いかもしれません…?一首目の歌には、付き合い方の難しい思春期のわが息子なども重ねて読みました。

黄葉の欅並木よ今ぼくは遠近法を拒みて駈ける
こんなかっこいい歌が浮かんでくるのは、走っているときでしょう。10代の頃の初々しい気持ちのままに駈けておられる気がして、青春歌人の寺山修司を思い浮かべました。
午前五時熊蝉どもに起こされて長い一日なんやね今日も
軽いタッチの歌。下の句の大阪弁が効いています。「ほんまにねえ」あちこちから共感のため息が聞こえてきそうです。シャンシャンと降り注ぐ熊蝉の声を聞くたびに暑い一日を思い、自分を慰めるように下の句を口にする仲間が、この夏は増えそうですね。
積りたる上にしんしん降ってくる雪とはまるで言葉のように
自然を見て、自然を詠んでも、その中に人間の心情が見えてくる感じが、山下さんの歌にはあります。詩人には、降る雪が言葉に見えてしまうのです。なぜなら、自然に寄り添い、一体化してしまうから。
「本質的な歌の苦労を望みたい」あなたにいただいた大切な言葉
「塔」の皆さんに慕われ尊敬されていた、田中栄さんを悼む一連の中の一首です。上手いがゆえに、更に深く高くと望まれてきた山下さん。合評会で、長年付き合って来られた方々が、歌での更なる闘いを山下さんに望んでおられる姿と、この歌が重なりました。敢えて厳しい言葉をかけて下さる歌友を持てる、なんて幸せな境遇だろうと感じました。

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テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

>感情を濾過するように呑みこんで抑揚のなき声を吐き出す

そういう点から言えば、政治家の皆さんは必要以上に大仰に話しますね。
迫力に圧倒させても、少し冷静に意味を考えると中身が薄っぺらなことが多々ありますが。

>快速にまず乗り換えて急がねばならぬ理由はこれから探す
早くというのが人の情ですね。行動に意味がないと不安になる感覚、どうしてなんでしょうね。
【2008/03/02 22:55】 URL | こもれび #hGt.gl.I [ 編集]

おはようございます。
大空の亀さん、お久しぶりです。
覗き趣味の私をどうかお許し下さいね(~_~;)
京都にはこんなに素晴らしい建物があるんですね。
京都の印象はお寺とか日本庭園のイメージしかありませんでしたが
こんな洋風の素敵な建物もあるなんて…
まるで外国に行った気持ちになりました。(^・^)
最近、すっかり読書から遠ざかってしまった私です。
本好きな私も毎日の仕事の忙しさ?なんて、かっこいい言葉をいいたいんですが・・・
やはり大きな影響は、目!です。
老眼…老眼…嫌ですね。メガネをかければいいのでしょうが…
今は、すっかり目を使わない音楽ばかり聞く毎日に生活も変化してきています。
本が読めない私には、大空の亀さんがご紹介して下さる本をここで読ませていただけて
嬉しいです。そして、大切な場所を抜き取ってご紹介して下さるので助かります(^◇^)
【2008/03/03 07:51】 URL | ノロタン #B7q/.fmY [ 編集]

こもれびさんへ
>中身が薄っぺらなことが多々ありますが。
今、とても共感を覚える本を読んでいるのですが、小泉元総理の発言などは、その最たるものでしたね。
言葉を自分の中にいったん飲み込み、しっかり消化してから出す、そういう時間をかけてないから、薄っぺらな中身になり、それをごまかすために、大仰になるのでしょうねえ。

その点、山下さんの歌は、自分というものをよく見つめ、熟慮したあとが見えます。
同じような経験をしていて、気持ちもわかるのに、私にはまだこういうふうに歌を詠む力がありません。

>行動に意味がないと不安になる感覚、どうしてなんでしょうね。
この指摘、面白いと思いました。ほんとだ、どうして?人間が言葉を持ってしまったから?
【2008/03/03 20:03】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

ノロタンさんへ
>京都にはこんなに素晴らしい建物があるんですね。
私も、京都は制覇したと思っていたのに、ここは盲点でした。
すぐ目の前の三十三間堂には、何回か訪れているというのに、ここは初めてで、私も建物の素晴らしさ、中身の充実度にビックリでした。
車も人もこの辺りは少ないので、京都の中では、ちょっと穴場かもしれませんね。
このときは、「憧れのヨーロッパ陶磁展」をやっていたのですが、建物の中も素敵でした。
また、催し物があるときは行こうと思っています。しばらくはまりそうです。
ノロタンさんも、京都にお越しの節は、ぜひお訪ね下さい。
道路を挟んで向かいにあるホテルで、ランチタイムというのもよさそうです。

>老眼…老眼…嫌ですね。
私は、何種類もメガネを持って、それぞれに一番ふさわしいので対応していますが、やはり目の疲れはひどく、夜などはすぐウトウトしてしまいます。
大活字本とか短歌や俳句の本は、空間も広く、字も大きいので、すっすと読めますが…。
朝方も、目がまだ疲れていないので、比較的スムーズです。
疲れ目には、40度ほどの濡れタオルを数分間、目に当てるのがいいそうですよ。
仕事が楽になったら読もうと思っていた本は、もしかしたら永遠に読めないかもと、各種全集を前に、正直呆然としているこの頃です。
【2008/03/03 20:16】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


こんにちは^^
ポストカードのような素晴らしいお写真、是非印刷して飾ってくださいな。
写真データを保存しておくだけなんて勿体無いですよ。
↓の心象的な作品も、機会があったら是非プリントするか
写真屋さんで印刷して飾ってみてください。
今はネットでもその場で注文できるプリントサービス(しかも安い)もありますし紙焼きした写真を大空の亀さんに見ていただきたいです^^

>自分の出した声が能面のように表情がなく、はっとするときがあります。

はっとしてしまい、このフレーズがずっと心に残っています。
心も脳も通過しない無機質な声が出ること、確かにありますよね。
声、ならまだしも言葉にしてしまったら相手に失礼極まりないですものね。
反省しました。
【2008/03/04 12:40】 URL | bianca #cK8v8HAk [ 編集]

暖かくなりました
前日記のS先生の句が浮かんできます。
春ってちゃんとくるものですね。
手袋をはめて自転車に乗ると中で汗ばんでいました。

三十三間堂の近くと言う事は京都駅からそれほど遠くないのですか?
異国情緒が漂うどっしりとした建物ですね。
京都も奈良も神社仏閣ばかりが有名です。

「登校拒否」なんて言うよりずーっと優しい「繭ごもり」
読まれた方の心が伝わってきます。
私の子供の頃には「登校拒否」なんてなかったわ。
知的障害を持った子も一緒に机を並べていました。
小学校が大好きだったわけではないけど行くのが当たり前で、嫌いな給食も残さず食べました。
貧しかったのかな~単純だったのかな~
物事を深く考えず、当たり前に学校に行ってました。
【2008/03/04 16:03】 URL | ベンジャミン #oUPgpoCM [ 編集]

biancaさんへ
>ポストカードのような素晴らしいお写真、是非印刷して飾ってくださいな。
ありがとうございます。
そうですね。前のゴミ袋の中のハオは、とても気に入ったので、プリントして知人にあげました。
今のデジカメとよっぽど相性がいいのでしょう。実際以上&私の力以上にきれいに撮ってくれます。
逆光で、あまり画面が見えてなかったり、遠くまで腕を伸ばして画面がはっきり見えてないときでも、予想したよりきれいに撮ってくれるのですから、マイデジカメ様様です。

雪景色も、一度降ったときは、急ぎの用で撮れなくてしょげてたのに、きっちり2週間後の休日に降ってくれ、しかも外に出たら青空が広がり始め…。
なんか、神様がいるかも!って思った一日でした。

声とか口調は、とっても気持ちが出るので、侮れませんね。
話が逸れますが、私の兄は、会社で電話交換をしていた義姉の声に惚れ、顔を見に行ってさらに惚れたそうですよ。声も顔も性格も素敵な人で、大正解でした。
【2008/03/04 20:33】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

ベンジャミンさんへ
>三十三間堂の近くと言う事は京都駅からそれほど遠くないのですか?
バスで行かれる方も多いですが、20分ほど歩けば着くのではないかと思います。
常設館の方は、外国のお客様が、相対的に多い感じがしました。
常設館の方は、外観はもう一つなのですが、展示品は充実していました。
借景の山も、近くの神社やお寺、お店なども研究の余地がありそうです。
また新たな情報が手に入ったら、お知らせしますね。
歌友は、この博物館には、年に数回、もう40年間ものお付き合いだそうですので、尋ねてみます。

>行くのが当たり前で、嫌いな給食も残さず食べました。
確かに行くのが当たり前でしたね。
でも、末っ子で甘えんぼの私は、幼稚園中退の前歴があります…。
今日の新聞に、五味太郎さんも学校嫌いだったってあるのを見つけ、ちょっとホッとしました。
給食は、美味しいとか不味いとかは考えてなかったですね。意外とパンが好きでした。
私は、一応いい子にはしていましたが、学校の変なところばかりが目について、かなり教師不信のきつい子だったと思います。
高校でS先生に出会わなければ、(いえ、その時も生意気な子だったのですが)ずっと教師不信を引きずってただろうなと…、だからS先生は恩人なのです。

私の中で一番長いお付き合いの先生は、本かもしれません。
そういう意味では、本にも感謝しなくちゃいけません。
私みたいなへそ曲がりが今まで生きてこれたのですから…。
【2008/03/04 20:52】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年6カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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