心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌(歌集)-三井 修歌集『砂幸彦(Sunasachihiko)』 
三井 修歌集 『砂幸彦(Sunasachihiko) (平成20年刊・短歌研究社・3000円)

           砂幸彦カバー0807 【カバー】       砂幸彦中0807 【本体】

2006年・2007年の作品530首をまとめた第六歌集。
三井さんは、1948年石川県生まれ。かつて数年間、中東の砂漠地帯にあるバハレーンに、仕事で駐在。
第一歌集『砂の詩学』により、現代歌人協会賞受賞。現在、短歌結社「塔」選者という、力量のある方です。
タイトルは、歌集内の「帰り来て幾年砂漠の夕焼けの記憶はありやわが砂幸彦に」より。かつてバハレーン日本人学校で、作者の子どもさんが学んでいた頃のイメージだそうです。
引用した歌は、特に心に残ったものを、それぞれの世界に浸ってみたく、私なりに並べ替えてみました。
ずいぶん前に歌集を頂いて、以下の文章も頂いてすぐ書いていたのに、イメージに合う写真がなかなか撮れなくて、今頃のアップとなりました。


 長野県上田市に、太平洋戦争で志半ばで戦地に散った画学生30余名、300余点の遺作、遺品を展示した、戦没画学生慰霊美術館「無言館」がある。冒頭の三十首は、そこを訪ねたときの連作で、作者の歌を作る姿勢を示していると思った。真実を見極めることで、絵を残していった者たちに近づきたいという作者の骨太の優しさが感じられる。

バグダードへトマホーク翔びしかの夜もこの絵は剥落続けていしか

画学生遺作の〈海につづく道〉藍深き海は右上にある

戦死より戦病死がずっと多きこと確かめてゆく薄き明りに


終戦から60年以上が経ち、戦争の体験が風化しつつある現状に、作者は異議を唱えようとしている。「剥落」という言葉に、「剥落」させてはならないという思いを読み取った。

国境はいつも寂しいなかんずく諍(いさか)う国と隣れるところは

視点が、自分の中だけに留まらず、広がっていくところに好感を持った。

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   【生まれ変わりつつある大阪梅田。JR操車場が吹田市に移転し、ここには新しい街が出現する。】

 作者の故郷、能登半島を訪ね詠まれた歌には、郷愁が漂う。一首目と四首目にあるように、
肉親を早く亡くされたのだろう。肉親の居ない故郷では、年をとることができない。ときおり、少年のままで居る自分に気づいてしまう。私自身も似たような境遇なので、とても共感を覚えた歌だった。

われの死者みな若くしてこの家の庭に座敷に井戸端に居る

ふるさとは半島なれば行き行きてあとは再び戻るよりなし

半生の或いはすべて幻でわれはいまだに能登の少年

五十歳にて死にたる母の知らぬ街知らぬ時代に山茶花の散る



 都会で仕事をしていると、自分という存在に疑問を抱いてしまうことがある。その苛立ちを他者に向けるわけにもいかず、どうしようもない自分に疲れ果ててしまう。時々旅に出かけたくなるのは、誰をも傷つけないようにするためである。ああ、これも気持ちのわかる歌ばかり。

今日われは銃の実包 不用意に見るな触るな話しかけるな

ばらばらの両手両足掻き集め日曜の朝を遅く目覚めぬ

ラッシュ時の人の流れに逆らいて駅頭を行く流離のこころに

誰からも呼ばれたくなき午後にして風に散りいる噴水を見る

そして秋の湖を見る 自らが壊れないため出(い)でたる旅の


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   【西梅田スカイビルに映る空】

 砂漠地帯で仕事をされていた影響か、自然豊かな土地に生まれ育った影響か、樹を詠んだ歌に気持ちのこもったものが多い気がする。身近にある樹木への親近感が心地よい。私も、樹木が好きなので、共感を覚える歌がたくさんあり、引用が多くなってしまった。

幼な子が死魚の一尾を埋めゆく一部始終を見下ろして樹は

銀杏樹(いちょうじゅ)の並木に初夏の陽が差せばサバンナをキリンの列行くごとし

濃(こま)やかに春日は照らす白梅とその白に寄るわれのいのちを

多分この樹は老人だ 重たくて敵わぬというように葉を落とす

自らを離れし黄葉(きいば)の積もるなか沈思に入りゆく銀杏の一樹

五十代いよよ深まるわが前に欅は今年の芽吹きを始む

満天星(どうだん)の壺状白花(びゃっか)の小さき鈴微風に聞こえぬ音振り零す

大空のかくも静かに澄み渡り樹下に我が身の気化してゆくも

過ぎ越しの歩みもふっと消えるよな心地して厚き落ち葉踏みゆく



 鳥の歌にも好きなのが多い。空の様子、池の面、梅の花など、鳥のいる情景が鮮明に浮かんでくる。次の一首目の「素の水の流れるような空」とは、ちょうど今くらいの季節の刷毛で掃いたような空だろう。二首目の「最も量感を持つ」という表現が素晴らしい。三首目「首を伸ぶ」のを「遠き地の果てを」見ようとするようにと捉えたところが、素敵だ。最後の一首、鳥が花を食べる様子をよく観察され、「眼球に流れし二月の光」がとても詩的。

素の水の流れるような空なれば番の鳥を放ちやりたし

羽ばたきて池面を発たんとする時に水鳥は最も量感を持つ

空をゆく鳥たちなべて首を伸ぶ遠き地の果てを見んとするがに

さかしまに花食む鵯(ひよ)の眼球に流れし二月の光を思う


          053senri081015.jpg
           【家の近くの三色彩道も色づき始めました。】

樹木の好きな人は、空が好き。空が好きな人は鳥が好き。ちょっとした時間のすき間があると、三井さんは空を仰いでいるのだろうな。「自分とタイプの違う人の歌も読みなさいよ。」と言われたりするが、ここに引いた樹木や鳥の歌は、私の好みのものばかり。思考回路が似ているかもしれないなと思いながら読んだ歌集でした。

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

おはようございます。

夏休みが終わると、小学校は忙しくて・・・。
運動会の練習で、体操服や靴を洗う毎日。
9月末の運動会から、毎週日曜日には行事(市民体育祭・お神輿・・・)の予定が!
その後には、参観日・遠足・音楽発表会。うれしい♪楽しい♪忙しい☆

西梅田スカイビルに映る空、素敵ですね~e-267
眺めに行きたくなっちゃいました。
先日、すごく美しい桃色に染まった夕焼け雲を見つけて、ぼ~っと眺めていて。
そうだ!と息子たちを呼んだところ、もう、色は変わってしまっていて。
亀さんはいつも素敵な雲を空を紹介してくださっていて、おかげで一緒に楽しませていただいています。
いつもありがとうございます。
【2008/10/17 08:15】 URL | kimico #Zr2/WiYY [ 編集]

紅葉
こんにちは~♪

紅葉が待たれる季節になりました。

近所に、少し足を延ばして、日帰りや
温泉旅行、、、

いろんな楽しみ方がありますね。

句友、友人、妹・・・
無理はできませんが、楽しみにしていましょうヽ(´▽`)ノ
【2008/10/17 10:00】 URL | まり #N2y2xK1c [ 編集]

kimicoさんへ
今晩は。コメントをありがとうございます。
>うれしい♪楽しい♪忙しい☆
子どもさんの元気な様子を見られるのは、嬉しいですね。
こんな時期もあっという間。思い切り楽しんで下さいね。

>西梅田スカイビルに映る空、素敵ですね~
そうなんですよ。出かけるとき、普段は、梅田にはカメラは持っていきませんが、
マンションを出た瞬間、きれいな空を見て、これはいける!とカメラを取りに戻りました。
大都会の真ん中で、空やビルに向かって写真を撮っているのは、私だけでしたが…。
都会には都会の美しさがあり、何でも撮りたくなるこの頃です。

今日の朝日の朝刊「声」欄に、青山台文庫でおなじみ(我が家にとってはお花の定期便のご主人の奥様ですが)の正置友子さんの投書が載っていました。
「多彩な企画で文学館存続を」という見出しでしたが、児童文学館で何度か勉強されている姿をお見かけしたことがあったので、文学館の資料的価値がわかっている人は、やはり「移転ではなくさらなる活用を」ということで、同じ意見だなと思いました。
【2008/10/17 18:08】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

まり さんへ
今晩は。コメントをありがとうございます。
過ごしやすく、何をするにも楽な季節になってきました。

まりさんも、だんだん体調がよくなられ、外出や句作、手芸と、行動が軽やかになってきましたね。
私も、外出、読書、創作、手芸と、一日が倍以上ほしいくらい、楽しみたいことがいっぱいです。

続けること、無理はしないけど、ちょっとだけ前進すること、そんな思いで生きています。
いろんなことができるのは、ほんとに幸せで、ありがたいことです。
ついつい欲張って、思いが先行してしまうので、アイデァ帳に書きためて、「少しずつだよ」と自分に言い聞かせながら、進めています。
【2008/10/17 18:15】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


最後の写真の、三色彩道は樹木の枝がすごいですね。
こんなに道路に広がっているのはあまり見たことがありません。
落葉時期の雨の日は危険だなとよけいな心配。
【2008/10/17 22:11】 URL | こもれび #hGt.gl.I [ 編集]

こもれびさんへ
お早うございます。コメントありがとうございます。
ここは、歩いて10分ほどの並木で、唐楓と台湾楓とで三列になっています。
車はあまり頻繁には通らないので、車道の落ち葉が危険だとは聞いたことがないのです。
歩道の方は、落ち葉の季節になると、そのまま積み重なっていくので、歩くのがとっても楽しみ。
でも、確かに雨の日は、ちょっとこわごわ歩くかなあ。でも、それも楽しいですけどね。
【2008/10/18 07:55】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


ビルに写った雲がきれいです。
亀さんらしいお写真ですね。

都会は日々変化し続けています。1年くらい行かないと「ここはもと何があったの?」と首をかしげるところだらけです。
クレーン車だらけの街がどんな風に変るのでしょう。


「30%の幸せ」
読みました。
心が温かくなりました。
「天ぷらそば」(笑顔の紳士が物忘れ・・・)これを読み終えた時は胸が熱く、ウルウルしてきました。
いい本を紹介してくださって有難う。
【2008/10/18 12:24】 URL | ベンジャミン #oUPgpoCM [ 編集]

ベンジャミンさんへ
こんにちは。コメントをありがとうございます。
今日は、外出日和ですが、私は珍しく家で過ごしています。
やりかけると止まらない私、今日は朝からミシンで、あれこれ縫い物に励んでいます。
といっても、コースター、ランチョンマット、ブックカバー、手提げ袋、と、例によって、まっすぐに縫うものばかりですが、数が多くて、さすがに疲れてきました。ちょっと休憩…。
布を前にすると、あれもこれもと、作りたくなって、困ってしまいます。

>「30%の幸せ」
読んで下さったんですね。嬉しいです。
ベンジャミンさんに、とても読んでほしいなと思っていました。
「天ぷらそば」のお話もよかったですね。私も、いろんな話で泣きました。
ジグソーパズルの娘さんの話は、ベンジャミンさんの優しい娘さんたちと重なりましたよ。

梅田の再開発は、緑の地帯を作ろうという案もあるようなので、そうなることを祈っています。
【2008/10/18 16:01】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


ふたたび、こんばんは。
ミシン掛ですか? 私は今日生地を買いに行ったので明日、姪に頼まれた学校用スモッグやエプロンを縫います。


ジグソーパズルは別の思い出があります。

長女が二十歳の時にプレゼントした2000ピースから家族中がはまりました。
あまり買物をしない夫が自ら買ったものもあります。
2000ピースだけで何枚もできました。
夫が病気で入院が決まった時も、やりかけがありました。
その頃の夫はもうできなくなっていたので毎晩、娘たちと3人で泣きながら夜中までかかり埋めて、入院の前夜に最後の1ピースだけを残しました。
病院に行く前に夫に最後の1ピースを入れてもらいました。
その様子を写真に収めました。

それっきり、ジグソーパズルは出来なくなりました。(たぶん娘たちも)
今は想いでだらけの額たちの処理に困っています。
【2008/10/18 22:45】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

ベンジャミン(keiko)さんへ
お早うございます。
よいお天気だというのに、昨日は、ミシン掛け三昧でした。
おかげで、ず~っと前から気になっていた布の利用ができました。
気持ちが手芸モードにはまっているので、今日もあれこれ作りそうです。

椅子に座ると、ハオがすぐ「遊ぼうよ~」と必死の誘いをするのですが、床に直に座っての作業なら、傍でいい子にしているのもわかったので、裁縫の時間もとれるようになりました。
ただし、布を広げると、「私のおもちゃよ~」とばかりに、遊び倒しますが…。

昨日は一日家にいたので、棚や引き出しなども片付いて、だいぶすっきりしました。
まだまだ再利用したり、廃棄したりして、整理したいものはいっぱいですが…。

>ジグソーパズルは別の思い出があります。
小説より、ベンジャミンさんの事実の方が、ずっと深いものがあります。
>病院に行く前に夫に最後の1ピースを入れてもらいました。
あの小説でも、最後の1ピースには、泣かされましたが、
ベンジャミンさんの家族の思いを想像して、また、泣いてしまいました。
ここに書いて下さりながら、ベンジャミンさんも思い出して泣かれたのではないかしら…と思ったりもしました。大丈夫でしたか?
ご家族の様子がありありと浮かんで、小説以上の温かい心を感じました。
ご主人様と皆さんの思い出を書いて下さって、ありがとうございました。心に残りました。
【2008/10/19 09:22】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年6カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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