心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌(歌集)-亀谷たま江歌集『雨上がり』
亀谷たま江歌集『雨上がり』 (青磁社・2002年7月24日刊・2500円)

             雨上がりカバー0807 【カバー】    雨上がり本体0807 【本体】

 亀谷さんは、大阪歌会で司会を担当して下さっている、とっても優しい方。歌の読みも詠みも話し方も、独特のソフトな雰囲気があって、周りの人をほっとさせて下さる。私と同様、ちょっとすっとぼけたことをされる時があり、それがまた、親近感がわいて嬉しいところ。歌も人柄も、大変魅力的な方です。
私が「塔」に入会する前に出版された歌集のため、入手を諦めていたのですが、お世話下さる方があり、頂けました。ありがとうございます。すぐに読んで、好きな歌を抜き出していたのに、アップが遅くなってしまいました。


 [恐竜が好き]犀が好き。猫が好き。動物と同じ目線に、ごくごく自然になれる心底優しい方。恐竜の名前はロマンがあって、人を空想に誘うけれど、所も時も問わず、生き物たちと一体化してしまうのが、亀谷さんの素敵なところ。

雌かなと化石見るときジュラ紀さへ親しき遠さマメンチザウルス

カナヘビが尻尾の先まで意識する人はわれなり共に息止む

腹這ひに冬空見上げてとなり合ふ猫の孤独と私の孤独

その角(つの)にうす陽のあたるころならむ春ははなびらを食ぶる白犀

窓の外(と)に出したきわれと出たき蛾と息が合はざり蛾は弱りたる



 [他者への関心]亀谷さんの歌は、河野裕子さんがよく言われる「滞空時間の長い歌」。読むとなんだかとってものんびりした気分になる。誰に対しても穏やかな接し方をされるんだろうなというのが、歌からしみじみ伝わってくる。 

高きビル築ける人ら夕ぐれはその高きビル見上げつつ帰る

歯医者さんは一日人の歯を見ると通ひ始めてしみじみ気づく



 [無機物への意識]人間や動物たちみたいに生きているものだけが、作者の興味を引くのではない。トラック、電柱、見る目があるから、何だって歌になるし、面白い。

ほれぼれと角に見てをり丈長きトラックが倉庫に仕舞はれゆくを

電柱はたよりにされて道ばたにセーラー服の子らまだ話しをり


         042kyoto081015.jpg 【京都岡崎】
         
       
 [体の感覚]とても鋭敏な方だなと思う。ヨガを教えておられる(おられた?)。いつだって、自分の体や心の声を、きちんと耳を澄ませて聞いている人。歌から、そんな印象を受ける。表現が素晴らしくて、歌会の時もいつも「いいなあ」と感心するのだが、次の歌のどれもほれぼれする。とにかく上手い。

秋風に両手広げてすんすんと路地をゆくとき風の振り袖

踏切に止められながら私たち直立に立つ棒あがるまで

木洩れ陽を消しつつ私の影がゆく影の私をなめらかにして

雷過ぎて未(ま)だ耳の澄む身体かな戸を少し開け雨に近づく

カンカンと踏切で鳴れば踏切に馬穴(ばけつ)を持ちて立ちゐるこころ

泣くやうに身体はできているらしく泣きたるのちをぽかんと眠い



 [家族]息子さんたちへの思い、お父様への思い、それぞれに共感できることばかりだ。家族への歌は、他のどこか脱力したような感覚の歌と違って、強い印象を受ける。穏やかな外見と異なり、揺るがない自分を持った、芯のしっかりした人なのだと思う。

「母さんは不死身なのだ」と思ひ込む君らの甘さを励みとしては

春風を飼ひならす廊下風なかに 猫寝て 猫寝て 息子がねむる

私の育児の癖に育ちたる子が独立す夏の来る前

ふいに来し春陽はまぶたを閉ぢて受く父にも促す車椅子止めて

からだ摩ることにて父とつながりぬ深くは物を今思はざり

怖いよと死近き父を弟(おと)は言ふ伴走をせむ死者となるまで


   059senri081015.jpg
   【家の近くの原っぱ-この写真を撮った数時間後に、草は全部刈られてしまいました…。】
 

 [阪神淡路大震災] 一九九五年一月十七日、現地での体験は、衝撃的で心に深く突き刺さるものがある。きちんと見つめ、歌に詠んでおかなくてはという、作者の強い意志が見られる。この歌集の中には、震災の歌がたくさんあり、当時の悲惨な状況が、今もはっきり見える。

灯の点かぬ街の弱さに押し寄せて夜があらゆる裂け目に溜まる

家囲むブロック塀の崩れ落ち人に見られて物食む家族

友の生死尋ねて歩く道消えて寺の甍も踏み付けてゆく

水もらひ食料もらひいたはられ受け身に居りて背丈が縮む

地の割れし神戸を踏み踏み通ふ人欠勤できぬ祖国なりけり

倒壊のままの屋敷が日々にほふ百年分がぐしよぐしよにほふ

人生の途中に地震(なゐ)に遭ひしこと更地に咲きしひまはりのこと

ポケットに六千の死を分け持ちて神戸の人は少しづつ重い

人の数減つてしまひしこの町に白く小さく駅舎が灯る



 歌を詠むことが亀谷さんを支えてきたのだろうなあ、そして、亀谷さんの歌を読んだ誰もが、心を慰撫してもらってきたんだろうなあ、そんな思いを抱いた歌集でした。
 
          048senri081015.jpg
          【もうすぐ立て替えられる千里ニュータウンの団地】

 今回、連続で3人の方の歌集を取り上げさせてもらいました。だいぶ前に歌集を頂き、好きな歌を抜き出しておきながら、ブログへのアップは、ぴたっと来る写真と一緒に…と考えているうちに日が経ってしまいました。
 作者の皆さんには、事前の相談もせずブログに載せましたので、ご迷惑だったかもしれませんが、今まで載せた方にも「アップしてくださってありがとう。」とお葉書やお手紙を頂き、ほっとしています。
 ふだん、短歌を読まれない皆さんにも、触れていただきたいと、ブログには意識的に俳句や短歌を載せています。少し取っつきにくい内容だったかもしれませんが、「素晴らしい歌を載せてくださってありがとうございました。」というメールを頂き、嬉しく思いました。こちらこそ、たくさんの歌を読んでくださり、ありがとうございました。

      

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

滞空時間の長い歌って表現はいいですね。
うまくは説明できませんが、短歌に限らずそういう創作ができて、
人々の心に温もりを伝えられたらいいなと思います。
【2008/10/26 23:00】 URL | こもれび #hGt.gl.I [ 編集]

こもれびさんへ
>滞空時間の長い歌って表現はいいですね。
同感です。世界がふわーっと広がって、豊かな気持ちになります。
ゆったりとした気持ちでないと詠めません。
せっかちな私には、まだまだ遠い世界です。

>短歌に限らずそういう創作ができて、 人々の心に温もりを伝えられたらいいなと思います。
ほんとですね。あらゆる創作表現に当てはまりそうです。
【2008/10/27 17:56】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


木洩れ陽を消しつつ私の影がゆく
気に入った句
えーこれがいい。
今日もスマイル
【2008/10/27 23:23】 URL | kawazukiyoshi #- [ 編集]

kawazukiyoshiさんへ
>木洩れ陽を消しつつ私の影がゆく影の私をなめらかにして
この歌の上の句が気に入られたんですね。
動きがあって、いい雰囲気があります。
下の句が、ちょっと不思議な感じです。
【2008/10/28 22:16】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


いつも書いていますが短歌のことは何も分かりません。
でも、亀さんのお陰で触れられることが出来ます。

三十一文字の世界に込められた向こう側が見えます。

  電柱はたよりにされて道ばたにセーラー服の子らまだ話しをり
  
   家囲むブロック塀の崩れ落ち人に見られて物食む家族    



草原の写真、刈り取られる前で良かったわね。
【2008/10/28 22:35】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

ベンジャミン(keiko)さんへ
今晩は。
ベンジャミンさんの書いて下さった歌は、どちらも風景が見え、気持ちも伝わってきますよね。いい歌だなあと思います。
わからない歌はわからない歌で、雰囲気を味わえばいいと、有名な歌人の河野裕子さんが、この間言われていました。
それを聞いて、私もほっ。
何かわからないけど、いいよねえ、この歌というのもあるし、この歌、すごくわかる、同じような経験したわというのもありますね。

私は、歌会で、いつも突拍子のない読みをして、元の意味から外れまくってアチャーということがたびたびあります。
歌でも句でも他のものでも、作品は作者の手を離れたところからは、受け手のものと言いますから、許してもらって…と、反省しつつも都合よく解釈しています。v-436

>草原の写真、刈り取られる前で良かったわね。
そうなんです。私、草がウィーンと機械で刈られるのが嫌いで、悲しくなります。風になびいてきれいだったのに…。
【2008/10/29 22:52】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年1月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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