心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌(歌集)-歌集『江畑 實集』
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                                     【写真はすべて、近くの公園で、1月初旬に撮影】

歌集『江畑 實集』をご紹介します。

江畑実集表【表】 江畑実集裏【裏】  『江畑 實集』(邑書林セレクション歌人4・2006年)

昨年(今年も)、「塔」大阪歌会で、詠草をまとめる係をさせてもらっている関係で、「ご苦労様」と、いろいろな方から歌集を頂くという幸運に預かった。この本も、その一冊。

江畑さんの歌は、大阪歌会の他の方の歌とは傾向が違って、前衛的な歌。歌歴の浅い私には、想像もつかない難しい歌も多いのだが、昨年、歌会のあとの二次会で「言葉による美を追求している。」と聞いて、読みのヒントをもらった気がした。自分の体験や見聞を歌にしようとしている私とは違って、言葉や世の中の現象から触発されて、歌を詠まれる。

江畑實さんは、1954年大阪生まれ。1983年「血統樹林」により角川短歌賞受賞、塚本邦雄選の歌誌「玲瓏」の編集長を1986年から6年余りされたという(年譜による)。文章を書く仕事にこだわり、現代短歌への熱い思いを持ち続けておられる。

この本は、『檸檬列島』、『梨の形の詩学』、『デッド・フォーカス』の三冊の歌集から抄出した歌と、小説、藤原龍一郎氏の「江畑實論」を収めた、コンパクトな一冊。邑書林から出ている白い表紙の「セレクション歌人」シリーズには、現代短歌の若手作家の名が連なっており、それぞれの歌人に一通り触れることができる。入門編としてオススメだ。

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私なりに、印象に残った歌を、以下に挙げてみます。今の私の「歌を読む力」で読めたものなので、世間の人が、江畑さんの代表歌とされているものとは、だいぶ異なるかもしれません。

第一歌集『檸檬列島』 (1984年刊)より
どの歌にも、青年の痛いほどの自意識が見え、若いときの神経の研ぎ澄まされた状態と、そのことによる生きにくさが感じられました。自意識過剰だった私自身の青春時代を思い出しました。ここには、私なりに共通点を考え、二首ずつ引用しました。

*現実世界への違和感
貼紙の端秋風になぶられてここぞ世界の剥がるる創(はじ)
もてあそぶ地球儀めぐれすみやかに母國の位置を見失ふまで


*若者の生のはかなさ
地下鐵の窓にもたるるその闇の死はわかものととなりあはせに
かがまりて澤の水飮むわかものの背に夭折の翼透き見ゆ


*家族から離脱している自己
血縁は日向(ひなた)に集ふそこまでの薄氷(うすらひ)われはいつほほゑまむ
ゆふまぐれ父とわれ在るかなしみに麥秋の穂の波のみちしお


*鋭い感受性に苦悩する青年
群の毛絲玉わがたましひに似て編針をつきたてられつ
音樂を否む日日ありわが耳は剃刀よりも研ぎすまされて



第二歌集『梨の形の詩学』 (1988年刊)より
非常に意識的に、前衛的な表現を試みた歌群で、後掲の小説の主人公と重なるものを感じました。体言止めの歌が多いのも、特徴かと思います。私は、表現が柔らかで、調べのきれいな次の二首が特に気に入りました。

秋天の藍ふかまれるもとにしてかなしみがわれを侏儒ならしむる
青磁ふれあふごとし勅撰和歌集にもれし一首の母音の韻(ひび)


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第三歌集『デッド・フォーカス』 (1998年刊)より
自己の内部から世界に向けて視野が開かれたという印象の歌が多く、私は、この歌集の歌が一番好きでした。今の年齢に近いということもあるかもしれませんが、詠まれている内容が、周りの社会や自然に対して「閉じてない」と感じられたことが大きい気がします。

一歩づつつまさき尖るおもひもてあゆむ高層ビルの谷間を
午前七時ニュース聞きつつ一杯の真水とおもふけさの日本
木漏れ陽のごと頭上より聞こえくる音楽にてのひらをかざせり
春疾風(はやて)さからひ歩むわかものに耳翼と鼻翼そのほかの翼(よく)
夕立にずぶ濡れのわれ心めくからだとからだめく心有(も)
精神のいづこにか突き刺さりたるままの六十年代の棘
金融街夕吹きまさるビル風に立てり枯れ野原に立つごとく
数歩さきへころがる銀貨一枚のごとし先送りの終末は
真昼にゑがきたる妄想の数数と真夜に見るこれだけの星星
くびれたる硝子器すべる砂見つつ時間いな血を失ふここち
児のために買ふうすあをき捕虫網ひと振り 浮遊霊の手ごたえ
(む)かれたる梨の果(み)のこのあかるさにおもへり二十世紀のくらさ


若かった頃の過去も忘れず、近未来のことも予測しているような歌群は、歌の題材が豊富で、表現に詩的ロマンがあり、魅力を感じました。これからも、江畑さんの刺激的な歌を楽しみにしています。


散文 江畑 實作「僕を呼ぶもの」 (小説作品)
絵画サークルを舞台にした小説。そのアトリエの主催者が、主人公に言った言葉が、単に絵画に関することだけではなく、短歌も含めてあらゆる表現に関して発している言葉のように感じられ印象的でした。作者が自問自答しつつ、こだわっているテーマなのでしょう。例えば、
「…敢えて今、超現実主義ここまでこだわる必要があるのか。作者の内的必然というものを、問いたい。」
「生き方の問題。それは確かに、超現実主義的な方法とつながっています。…しかし生身の人間が、現実を拒絶するとはどういうことか、考えてみたことがありますか」
等々。


江畑 實論  藤原龍一郎著「悲哀の貴種流離」
巻末の2段組10ページにわたる丁寧な江畑實論は納得のいく内容で、角川短歌賞選考の折の斎藤史、塚本邦雄の推薦の言葉も、共感できるものでした。

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【この写真は、我が家のベランダから】

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

大空の亀さん、こんばんは。
とっても素敵な写真ですね。心が晴れ晴れします。
寒さの中だからこそ、こんな風景と出会えるのでしょうね。
真っ青な空と木々たち、寒空なのに気持ちいい。
歩いてみたい、この風景の中を…
ベランダから写された写真も心を落ち着かせてくれます。
黄昏…私、きっと、大空の亀さんのベランダにずっと立ちっぱなしになりそうです。
本もたくさん…すごいですね(^・^)
私も、頑張って読みたいなぁ~最近、目が弱って?活字から逃避?してます。
読書は良いですよね。いろんな事を発見したり気がつかせてもらえたり(#^.^#)
今は、大空の亀さんの書いてくださるコメントで読ませて頂いています♪
こちらは、この二、三日寒さが厳しいんですよ。ブルブルです。
大空の亀さんもお風邪をひきませんように(^_^)v
【2009/01/11 23:42】 URL | ノロタン #B7q/.fmY [ 編集]

ノロタンさんへ
こんにちは。成人式の話題も、遠い遠い世代となってしまいました。もう1回20歳になれたら、ノロタンさんはどんなことをされるかしら?

>歩いてみたい、この風景の中を…
ほんとに何にもない公園で、だだっ広くて、自然だけがあります。人も少ないの。
犬の散歩や、たこ揚げ、ラジコンカーやヘリコプターで遊ぶのには持ってこいです。
家から歩いて5分という場所なので、とってもありがたい、お気に入りの公園です。

>黄昏…私、きっと、大空の亀さんのベランダにずっと立ちっぱなしになりそうです。
私の住むマンションの唯一の自慢は、眺望がいいことなのですよ。
日の出から日の入りまで、ずっと太陽と一緒に時間が流れていきます。
ベランダにベンチを置いているので、気候のいいときは、コーヒーでも飲みながらぼんやり過ごせます。
と書きつつ、気候のいいときは、あちこち出かけるので、実際にベンチでゆっくりすることはないのですけれどね。

私も、読みたい本はいっぱいなのですが、やはり目がネックで、加減しています。
昨日は、犬塚さんが勧めてくれた映画『ミーアキャット』を観てきました。とても良かったですよ。
【2009/01/12 17:17】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


葉を落として現れる細かい枝のカラマツ。
絵になりますよね。
多くが剪定が必要な都会と離れ、しかも材木としても枝打ちが不要?(なはず)ためシルエットが美しいです。
【2009/01/12 20:41】 URL | こもれび #hGt.gl.I [ 編集]

こもれびさんへ
葉をすっかり落とした木というのも、ほれぼれとする美しさがありますよね。
言われて写真を改めて見ると、下枝が残っていて、きれいな円錐形。木も幸せですね。

特に遊具も花壇もない、この公園、昔は物足りないと思っていたのですが、
今は、よくぞ、何もせずワイルドなまま残してくれたと、ありがたく思うこの頃です。
【2009/01/12 22:27】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

寒中お見舞い
日本中が冷凍庫の中のようですね。
今朝は16度弱でした。 湿度は30%をきっています。
寒さは耐えられるけど乾燥は苦手です。
お写真のからも「シーン」とした寒さが感じられます。

短歌は難しいです(-_-メ)
でも、『デッド・フォーカス』 の歌は少~しだけですが分かります。

目は大丈夫ですか?
読書、私も今年は今のところ順調に進んでいます。
【2009/01/13 19:17】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

ベンジャミン(keiko)さんへ
こんばんは。寒いですね。
さすがに今日は、エアコンを入れています。
今までは、ホットカーペットかコタツのどちらかだけだったのですが。
寝るときは、足元や布団の中に猫がいて、暖かくて汗をかくほどです。
平安時代の人たちが猫を飼っていたのは、案外コタツの役目もあったかも…。

>短歌は難しいです(-_-メ)
丁寧に読んで下さったんですね。ありがとうございます。
江畑さんのは、特に難しくて、歌会の時も、読みがあたると、まともに読めなくてドキドキします。
逐一説明できなくても、短歌の雰囲気や空気感が、なんとなくわかればそれでいいと思います。
言葉できっちり説明できることなら、短歌にする必要ないですものね。

だから、「うん、何か知らんけど、なんか言いたいことは分かる気がするわ。」というので、楽しむ分には充分なのではないかしら。
音楽や絵だってそうですものね。なまじ言葉だから、プレッシャーがかかって、分からなくてはと思ってしまうのかもしれませんね。
ベンジャミンさんの「少~しだけ分かる」読み方で、OK!また、懲りずに読んでみて下さいね。
【2009/01/13 20:56】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年1月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
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