心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌(歌集)-真中朋久歌集『重力』
真中朋久歌集 『重力』 (2800円・青磁社・2009年刊)

重力表紙背表紙 【本カバーと背表紙】  200904262159598c4[1] 【本体】

 今回は、真中朋久さんの第三歌集『重力』をご紹介します。2002年刊『雨裂』(現代歌人協会賞)、2004年刊『エウラキロン』に続く歌集です。「塔」の選者と「塔」北摂歌会の評者としての真中さんに、私は日頃、大変お世話になっています。また、「塔」にはネットで調べて入ったのですが、その時丁寧に対応して下さったのが、真中さんでした。おかげさまで、今、短歌の世界を楽しめています。
歌会ではいつも、真中さんの詠みのうまさは言うまでもなく、読みの深さと的確さ、そして知識の豊富さに感服してばかりです。年齢は、私より10歳以上お若いかなと思うのですが、パソコンや気象など理系のことだけではなく、文学はもちろん音楽、社会…、とにかく何でも詳しくて、私は秘かに「歩く百科事典」と呼んでいます。ネット上で毎朝10:00直前に更新される3000字余りの散文には、圧倒されっぱなしです。こういった事柄から、きっちりした性格の方だろうなと、私は勝手に推測しています。

 前置きが長くなりました。さて、この歌集のことです。まず外見(装丁)の渋さと背表紙の工夫が目を引きます。表紙カバーの水縹(はなだ)色と本体の布の藍白色とが、ともに銀鼠色がかっていて、着物の色合わせを思わせる粋さがあります。収められている歌492首は、抽象的で難しい歌から非常にわかりやすい歌まで幅が広く、くり返し読むことで面白さが増していきました。歌の終わり方の多彩さ(動詞・助動詞・名詞・助詞など)も、歌集のテーマの幅広さを印象づけるのに、影響を与えていると思いました。
ここでは、ふだん歌に縁のない生活をしている方にも共感を覚えてもらえるのではないかなと思える歌を中心に挙げていこうと思います。同時に、私のお気に入りの歌でもあります。小見出しと分類は、私の読みにあわせて、歌集の中の並べ方とは別に行っています。ご了承下さい。

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〈生きる姿勢〉
直言をせぬは蔑するに近きこととかつて思ひき今もしか思ふ

無理すればかならず腫れる扁桃腺そのさきの無理をすることのあり

人格に言ひ及ぶことのさびしさと読みて便箋は七枚を越ゆ

夕陽すこし雲よりもれていちにちの果てのあかるさがわたしをひらく

そのひとを非難してゐるこゑのぬしをふりかへり見て顔を覚えたり


陰口など非生産的な発言の嫌いな人なのだと思う。きちっとしたことを、相手の目をまっすぐに見て言いたい。自分に対するその誠実さこそが、矜恃(自負心)を保つ方法なのだ。だから、「そのさきの無理をすること」があったり、無神経な物言いに憤りを感じたりする。時には頑なに見えるかもしれないが、自分に正直な作者の生きる姿勢に、共感を覚えた。仕事や人間関係に疲れたときの「いちにちの果てのあかるさ」は、大きな救いだ。

〈家族愛〉
さきに死ぬなとくりかへし言ふひととゐてぬくとき闇に手をさしのばす

「塔」のうたにされちまふぞといふこゑは襖のむかう なにをしてゐるか

鼻息のあらき息子が寄つてくる秋の陽のもとの親子競技

塾にやる金があるなら本を購ふこの親にして子は宿題をせぬ

妻は子のわれは会社の不手際を詫びに行くのみに日の暮れはやし


読む側の私が、ちょっと照れくさくなるくらい仲のよい家族である。歌の中の子どもさんは、ちょっと悪そうに詠まれているが、それは作者の照れ故に…という感じがする。作者の本好きを筆頭に、家族皆が本好きで、互いの風通しがよいという印象を受けた。五首目の「日の暮れはやし」が、その日の気分をとてもよく表していると思った。

〈職場詠〉
字を書いてゐるとは見えぬ腕のうごきと思ひゐしがメモにイラストがつく

働くひとのうつくしきかなと見てをればむかうむきてのち首と肩まはす

積もらないまま降りつづく雪の日の外勤から傘を払ひて戻る

灰色の男の列のひとりとなり今朝も地上にのぼりゆかむとす

わが身ひとつの疲労きはまりて臥すときに思ふ企業の組織力


同僚を詠んでいる初めの二首の、ユーモアある表現が好ましい。対して、自身を見る目はうつむき加減だ。頑張らなくてはいけないのだけれど、それを越える疲労が蓄積しているようだ。

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〈表現力〉
眠りたるままに着きたる地下鉄を魚のやうな眼でみまはしぬ

理科室の背のなき椅子に座るごとく寄るべなければ背をのばしたり

私が笑ふのではなく背後から首つきだして馬が笑ふごとし


自分自身を客観的に捉えることで、ペーソスのある面白さが出ている。このように表現されると、ああ確かにこんな感覚を、私も覚えたことがあったと共感してしまう。

葱畑のをさなき葱はとりどりの向きにあそんでゐるにあらずや

けぢめなきかんじに揺れるカーテンの半開の窓を見上げて過ぎる

ちからみちてみづから壊れゆくごとき朝のひかりに目をとぢてゐたり


葱畑のまだ育ちきっていない葱、揺れて窓から時々はみ出すカーテン、朝の光、こんなふうに表現されると、みんな歌になる。表現の力がなせる技だ。

〈観察力〉
一筋裏の道たどりゆけば畑あり葱あり白菜ありてしづけし

笙を吹くひと笙を吹くひとを描くひとポケットに手をいれてわれは

蔦の葉のうごく擁壁のかげを歩み歩道尽きしかば道を渡りたり
 
  *擁壁=崖などの土留めのために造った壁

階層をつらぬきてながきエスカレータおのづから仰ぐ姿にのぼる

手の甲が小さく見えて掌のさにあらざるはなにゆゑならむ

浮橋の揺れ船の揺れひと呼吸ためらひてのち妊婦が渡る


ぼんやりと感じていたこと、意識はしていないがなんとなく気配で捉えていたこと、そんなことが丁寧に見る目によって、歌で示されると、なんとも嬉しい気持ちになる。

 歌集全体では、いろんな分野の歌がバランスよく配置されていました。仕事の歌には、転職の時期と重なって、自分にも他者にも厳しいものが目につきました。家族のことを詠んだ歌は、奥さんへの目差しも子どもさんへの視線もとても温かくて、家族をとても大事にされているんだなと感じました。心情や意思をはっきり出した歌も多くあり、ふだん歌会では接したことのない歌だったので驚きました。私が真中さんの歌でいちばん好きなのは、何でもないことをさらっと歌った歌や、表現の楽しさが垣間見える歌です。それらの歌に、真中さんの本領が(と言っても、私が勝手に思っているだけですが…)一番発揮されているような気がします。

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テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

いつも申し上げていますが短歌のことは何も分かりません。
ただ感心するのはこの短い歌の中に詰まったいろいろな事が読み取れる素晴らしさです。

今回の歌では家族の1句目、職場の1句目、そして表現力のカーテンの歌。
温かくて好きです。

家族愛:年齢を重ねたご夫婦はこんな事を語り合うのでしょうか。
それとも新婚さんがラブラブなのかしら。
なんて、いろいろ思いをはせます。


写真が素晴らしいです。
ホントに素晴らしいわ。
引き込まれそうな風景ですね。



【2009/04/27 17:25】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

ベンジャミン(keiko)さんへ
今晩は。寒い一日でしたね。
コメントをありがとうございます。
>ただ感心するのはこの短い歌の中に詰まったいろいろな事が読み取れる素晴らしさです。
歌を詠まれなくても、このように感じていただくだけで充分!です。
専門に歌をやっている人たちの間だけではなく、より多くの人に歌の魅力を知って欲しいなという思いで、ブログにアップしているので、読んでもらえるだけで嬉しいのです。
その上、ベンジャミンさんは、ちゃんと好きな歌も見つけてくださって、想像して楽しんでおられるので、ありがたいなあって思います。
お歌のご夫婦は、きっとラブラブなんだと思いますよ。ご主人の、仕事や歌にかける時間が長くて、心配されているんでしょうね。

写真をほめてくださってありがとうございます。
今回の歌集の雰囲気に、この静かな感じが似合うなと思ったので、嬉しいです。
難を言えば、水平線が二枚ともまっすぐでなくて、少し左が上がってるの…。
次に写すときは、もう少し落ち着いて、水平線も確認しなくちゃと、反省です。
【2009/04/27 18:45】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

更新の間隔があいたので
何かあったのかしらと心配していました。お元気そうで安心しました。
【2009/04/28 01:02】 URL | 犬塚 #- [ 編集]

犬塚さんへ
心配してくださってありがとう。
新年度が始まりあれこれ何だか忙しくて、夕飯が済むとバタン…という日が続いていました。連休で回復しなくちゃ。
拓郎の新しいCDを買ったら、追加公演(東京)応募のハガキが入っていました。今度こそ当たって、行きたいな!
【2009/04/28 18:00】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


禁止ワードが含まれているということらしくコメント投稿できません(泣)
【2009/04/28 22:52】 URL | こもれび #hGt.gl.I [ 編集]

こもれびさんへ
お早うございます。
せっかくコメントくださったのに、ごめんなさい。ご迷惑をかけました。
「たぶんこれかな?」と思うのを、禁止ワードから外してみました。
よろしければ、お時間のある時にでも、試していただけるとありがたいです。
【2009/04/29 08:22】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


どこがNGなのか分からず断念しました。
重力ということに関して書いたはずです。
「重力ピエロ」という映画ができて、内容が分からないので重力という意味をあれこれ考えていたところだったんです。
重力があることで少なくとも僕たちは生き物とこの地上で出会えるんだろうなと思います。
もし、重力がなかったら空中を浮遊しているどころか水が拡散して生き物が水を得られることが不可能だっただろうななんて。
すると、僕たちは重力のおかげで生まれてこれたんだと考えることもできそうです。
以前とは文章が変わっているので、もしかしたらNG語はここにないかもしれません。
【2009/04/30 20:45】 URL | こもれび #hGt.gl.I [ 編集]

こもれびさんへ
お忙しいのに、コメントに再挑戦してくださってありがとうございます。
私が予想して禁止ワードから外したのは、「エロ」と「グラビア」でした。
そして、それは、大正解!でした。「重力ピエロ」の「エロ」に反応したのですね。
この禁止ワードは、あまりにも幅が広すぎましたね。外せてよかったです。ありがとうございます。

ところでこの『重力ピエロ』は、原作が伊坂幸太郎さん。探偵推理のジャンルはあまり読まないのですが、彼のは『チルドレン』などは好きで、少しだけ読んでいます。
但し、これは未読。映画化されて、加瀬亮さんが出てるんですね。彼は、魅力があります。
こもれびさんが書かれたのを読んで、原作(ちょっと辛そうな内容ですね)にチャレンジして、「重力」の意味を考えてみたくなりました。

ちなみに、この歌集のもとになった「重力」の出てくる歌は、これです。
重力にさからひて歩むひとかげの尾根のむかうにやがて消えたり
重い荷を背負って登山している人を、詠んだ歌ですが、なんだか不思議な感じのする歌です。
【2009/04/30 22:51】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


大空の亀さん、こんばんは。
今は本を読む時間のない私ですので
こうやって、大空の亀さんが抜粋してご紹介してくださるのが
嬉しくて。助かっています♪
ちょっと、おおちゃくな私ですね(~_~;)
【2009/05/04 21:39】 URL | ノロタン #B7q/.fmY [ 編集]

ノロタンさんへ
今晩は。コメントをありがとうございました。
お返事遅くなってごめんなさい。この連休は、いかがでしたか?
私は、兄のところへ行きました。&ひたすら、家の模様替えと片付けに頑張りました。
というわけで、珍しく、本も読まないで過ごしたのですよ。
でも、ご紹介したい本がいっぱいたまっているので、また時間のあるときにアップしますね。

【2009/05/06 20:36】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年6カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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