心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌-伊藤通明句集『荒神』
伊藤通明(いとうみちあき)句集 『荒神』 (こうじん)(角川書店・2008年刊・3000円)

 kojinhyousi.jpg  【表紙】    kojinhontai.jpg  【本体】

今回は、句集 『荒神』 をご紹介します。著者の伊藤通明氏は、私の所属している俳句結社「空」の主宰、柴田佐知子先生の師で、「白桃」の主宰をされています。この句集は、平成7年から平成19年の660句を集めた第五句集で、俳人協会賞、山本健吉賞という栄えある賞を受賞されました。
作品は制作年代順に並べてあるのですが、私はそこからいくつか抜粋し、季節毎に並べてみました。下線部が季語です。少し読みの難しい語は、( )に現代仮名遣いで読みを書き入れました。どうぞお楽しみください。

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 春の句

荒波の巻き込む若布(わかめ)うすみどり   

            立春の佛の耳に見とれたる 

ももいろをはなれて桃の花(しずく)  

            白魚(しらうお)の水の色して汲まれけり

春泥(しゅんでい)をつづけて跳んでまた一つ

            死ぬによき齢(よわい)などなし忘れ雪

長生きをして涅槃会(ねはんえ)の前の席

            源流は音のはじめや山ざくら


*うすみどり、ももいろ、水の色…色が印象的な句が、他にもたくさんありました。
 自分を客観視することで生まれる軽みのある句が、ユーモアをもたらし俳諧に通じる伝統を感じさせます。

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 夏の句

やうやくに高音揃ひし笛   

             直情を力としたりほととぎす

云ひきつてしまへり蟻地獄をまたぎ

             生きることやさしくなりし冷奴

道は道加へ炎天あるばかり

             訪はざりし師の墓もまた灼けをらむ

神棚は板一枚やほととぎす

             あきらめの色となりゆく籠

山椒魚いやでたまらぬ貌(かお)を出す

             手の内を見せて涼しくなりゐたり

曖昧に生きてはをらず油照り 

             はつたいや母につらなることばかり


*はったい粉を練って食べた昔を思い出しました。素朴な味は、母につながります。
 ほととぎす、蛍、山椒魚…生き物たちそれぞれの特徴が、とても上手く表現されています。

       IMG_30620905.jpg

 秋の句

福耳の男の子ばかりや星祭

            白桃を啜(すす)るによよといふ容(かたち)

ややありて庫裡(くり)より応(こた)秋の暮

            山芋とわかる横抱き奥吉野

愛確かなり白桃のかく匂ひ

            刈田(かりた)まで大きく撥ねて祝ひ餅

ことばもう要らざる夜の長きこと

            国の涯いづこも海や渡り鳥


少年の石投げてゐる崩れ梁(くずれやな)

*思春期の憂鬱を抱えた少年なのでしょう、ただただ石を投げている少年。
 結社の名前「白桃」を句にしたものには、他の果物以上に強い愛情が注がれているようです。

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 冬の句

はればれと欅(けやき)木の葉放ちけり

            海の端のかすかにゆるる風邪心地

とどろきて海をひろげし鰤起し(ぶりおこし=雷)  

            凍瀧(いてたき)の力といふを見とどけし

泥中にまだ動くもの池普請(いけぶしん)

          鯉はねる音も時雨(しぐれ)のなかのもの

おほかたは知らぬ道なり龍の玉(りゅうのたま) 
                      

                        法悦のさまに枯れたる大蓮(はちす)

*欅の葉の散る様を「はればれと」「放ちけり」と詠まれたところに、欅好きの私はうっとりしてしまいました。
 凍瀧の句は、「力」という語が効いて、瀧の水の凍った様がまざまざと見えてきます。

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 新年の句

父母も遠くなりけり祝箸           *いろんなことが、しみじみ思い出されます。

 故郷を詠んだ句発見!どちらも季節は春です。

内子座に雨をさけたる桜まじ(=桜が咲く頃に南の方から吹く風)

                          愛媛銀行内子支店の燕の巣

*この句集の中に、思いがけず故郷の名前を見つけたときの喜び、わかってくださるでしょうか。
 知っている建物だけに、「雨をさけたる」も「燕の巣」も、とってもふさわしくて、うれしくてなりませんでした。

 情景の見えてくる句。心情が思われる句。取り合わせの妙が楽しめる句。皆さん、味わっていただけたでしょうか?ここにあげた句だけでなく、ほとんど全部の句が、言葉と言葉のつながりが絶妙で、いわゆる「動かない」組み合わせで、素晴らしかったです。こんなふうに句に詠まれると、「ほんとだ!」と、そんな気になるのは、「句の力だな。」と、つくづく感じ入りました。  

追記:帯文に「父祖の地を離れず」とあるように、著者は福岡に生まれ育ち、ずっとその地で句作を続けておられます。 何でも「東京」に集中しがちな世の中で、この姿勢に共感を覚えます。 
句集名の『荒神』には、「竈(かまど)の神様」という以外に、「地神(じがみ)=その土地の神様」という意味がありますから、ずっと地元でやってこられたことを踏まえて、名付けられたのだと思います。                                                                

テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

大空の亀さんと同郷の方なんですか?
違いますよね。
本を読んでいても自分の故郷の文字に出会うと「力を入れて」読んでしまいます。
【2009/06/07 22:05】 URL | こもれび #hGt.gl.I [ 編集]

こもれびさんへ
今晩は。
紹介の時に、肝心なことを書き忘れましたが、伊藤通明さんは福岡に生まれ、ずっと地元で句作を続けておられる方です。(本文に追加します。)
そのことに自負心を持っての『荒神』という書名です。

>本を読んでいても自分の故郷の文字に出会うと「力を入れて」読んでしまいます。
そうなのです。年をとればとるほど、望郷の念が強くなるようで、大江健三郎氏の作品を読む時なんかは、特にその意識が強くなります。
【2009/06/07 22:27】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


こんにちは。


台所におまつりしてある神さまを「おこうじんさま」と言っていましたが、「お荒神様」と書くのですね。
「はったいこ」のことは「おちらし」と言いませんでしたか?
練って食べさせてくれた日々が懐かしい。私には祖母との思い出です。
その祖母は、「まじ(南風)」という言葉を日常語として使っていましたよ。
今時の若者に「まじ?(本当?)」と言われそうですが・・・。

「死ぬによき齢などなし忘れ雪」
義父をなくしたばかりなので、この句が胸に響きました。


【2009/06/11 11:48】 URL | keiko #- [ 編集]

keikoさんへ
こんにちは。日が長くて嬉しいです。もうすぐ夏至ですものねえ。

>「はったいこ」のことは「おちらし」と言いませんでしたか?
う~ん?わたしは「はったいこ」かなあ?遠い遠い昔のことだから?
くしゃみでもしたらパッと飛ぶから「おちらし」なのかなあ?

>今時の若者に「まじ?(本当?)」と言われそうですが・・・。
私も知らなくて、歳時記で調べました。もしかして、若い?
お祖母様にとっては、日常語だったんですね。「桜まじ」っていい言葉だわ。

>義父をなくしたばかりなので、この句が胸に響きました。
そうですね。何歳になっても、亡くなるというのは、ご本人にも周りにも寂しいことですね。
でも、keikoさんは優しくて、ほんとによくしてあげていたから、幸せだったと思いますよ。
これからは直接会うことはできないけれども、思い出の中では何度でも会えますね。

天童荒太さんの『悼む人』が、そんなことを深く感じさせてくれるようです。
前から読みたいと思っているのですが、予約待ちです。
【2009/06/11 18:12】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

どの句も深いですね
心にしみる句ばかりです。
それに添えてある写真が初夏の風と光を感じさせてさわやかですね。
菖蒲(アヤメ? 漢字にすると一緒なのですね)園の水辺の鳥は何だろう?鮮やかでまるで絵画のようです。
【2009/06/12 22:52】 URL | 犬塚 #- [ 編集]

犬塚さんへ
>どの句も深いですね
ほんとに!いつか、こんなふうに心に沁みる句を詠めるようになりたいです。

>写真が初夏の風と光を感じさせてさわやかですね。
ありがとう!
5月末に、万博公園で撮りました。言われるとおり、「初夏」をねらいました。
鳥は、鴨ですね、きっと。
菖蒲の周りをぐるぐる回って、いいモデルになってくれました。
そばに吟行をされている一群がいて、羨ましく感じました。
初夏は、吹く風もさわやかで、とても好きな季節です。
【2009/06/13 09:57】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

こんばんは
以前、娘がおもしろい事を言っていました。
テレビを観ていて成功した人、名をあげた人たちって何故か福耳なのよね~、って。
それを言われてから気にするようにしていますが・・・

はったいこ、しっています。
やはり母を思い出しますが私は苦手でした。
口がボソボソするのでしょ。
【2009/06/13 21:35】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

ベンジャミン(keiko)さんへ
>成功した人、名をあげた人たちって何故か福耳なのよね~、って。
私も、ずいぶん昔から、同じことを思いながらテレビを見ています。
確かにそうだなと思うのは、なぜかしら?なんかゆったりした感じを与えるんですよね。
「福耳の男の子ばかりや星祭」の句。
七夕の願い事が叶い、福耳の男の子たちみんな、立派な大人になりそうです。

>はったいこ、やはり母を思い出しますが私は苦手でした。
美味しいものではないですね。母が練ってくれたというのが嬉しい…という食べ物ですね。
【2009/06/14 09:16】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年1月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
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