心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌-柴田佐知子句集『垂直』
 柴田佐知子句集 『垂直』 (2009年・本阿弥書店)をご紹介します。

俳句結社「空」の主宰、柴田佐知子さんの第四句集です。いつも「空」誌で読ませてもらって、「なんでこんなに上手なんだろう。」と感心してばかりですが、今回、平成十年夏から平成二十年秋の392句を収めたものをまとめて読むことができ、大変幸せでした。
作者の詠みぶりは、自由自在で魅力的。確かな観察力で、リアルな現実も幻想的な世界も、読み手の心にストンと入ってきます。どの句も、表現された世界を楽しめ、引用したいものばかりですが、今回は、自分の勉強も兼ね、同じ季語や題材を多角的に詠んだ作品を中心に、読んでみたいと思います。

suityokuomote0908.jpg    suityokuura0908.jpg   suityokununo0908.jpg  【拡大すれば帯文が読めます。】

逢へぬ日の水打つ更に遠く打つ(夏)
最近はホースで撒くのが一般的でしょうが、この句の場合は、手柄杓でバケツの水をすくい、家の前に水を撒いていると読みたいです。よそから見れば単に水まきをしているだけの光景ですが、心にはこんな切ない思いがあるのですね。水を打つことで、思いを吹っ切ろうとしている作者の姿が見え、物語のワンシーンが浮かんできそうです。

水打つて家がきちんとしてきたり(夏)
水を打つと、夏の盛りの暑さや土埃がおさまり、しんとした風が家を通っていきます。こんな「きちんとした」句を読むと、「水打ち」をして、夏ならではの涼を味わいたくなります。

         

正座して正視して涼新たなる(秋)
「心頭滅却すれば火もまた涼し」という言葉がありますが、夏でも背筋をぴんと伸ばして、真っ直ぐ前を見る姿勢には、涼しさがあります。まして、秋の訪れを感じさせる風ならば、さらにさわやかに吹き抜けそうです。

涼しくて誰でも好きになれさうな(夏)
暑い夏の一日の中に、ふっと涼しさを感じる瞬間があります。その時のちょっともの寂しく人恋しい感じを、さらっと表現して、言いさしが軽やかな印象です。
同じ「涼」でも、季節の違うのが、日本人の細やかなところ。朝夕涼しい風が吹き始めると、ほっとすると同時に寂しさを覚えてしまう、夏好きの私です。

IMG_4228sora0908.jpg

胸の火も放ち螢の夜なりけり(夏)
「もの言わず身を焦がす」と言われる螢、それに自らの思いも重ねている作者。飛び交う螢の光は、作者の「胸の火」そのものでもあったのでしょう。

螢の夜明けたる草の荒れてをり(夏)
螢の光を追いかけて、川べりを人々が右に左に移動した夜。暗いときにはわからなかった草原の様子が、明けてみると、まるで祭りの後のような虚しさです。

つま先に奈落ありけり螢狩(夏)
螢がよく見えるのは真っ暗な場所で、しかも水辺が多い。あまり夢中になると、思いがけない危険に遭ってしまいますよ。

螢見し夜は枕に川があり(夏)
川音を聞きながらの螢狩りだったのでしょう。その感動がいつまでも脳裏から去らず、螢の残像と川音の幻聴に、なかなか寝つかれない夜となったことと思われます。
前回の「空」誌「季節の詩歌」で、「螢」の俳句と短歌を特集しました。この句集の発刊が、原稿作成の時期よりあとで、これらの句を取り上げられなかったことが悔やまれます。

IMG_4235hana0908.jpg

遠泳の誰も敗者のごと戻る(夏)
長い距離を泳ぎ終え、砂浜に上がってくる人たちの様子は、まさにこの比喩のようです。

遠泳の終りは海を曳き歩む(夏)
陸に上がってもまだ海の続きのような感覚。疲れ切った様子をこう表現するとは、さすがです。泳いでない読み手にまで、重く疲れ切った手足が感じられます。

          

自らの音に大瀧棒立ちす(夏)
水量の多い瀧が、静寂の中、ゴーッという音を立てながら落ちている様子。瀧自らが驚いて棒立ちしているという発想が、面白くて、真っ直ぐ落ちる瀧の姿が見えます。

瀧壺にしぶきて瀧の収まらず(夏)
水量豊かな瀧の勢いある様子が見えて、読み手にまで水しぶきがかかってきそうです。

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鰯雲ひらがな母に教はりし(秋)
鰯雲の茫洋とした広がりと、昔の幸福な思い出が、上手い具合に連なって、魅力的な句です。

広がりてもう動かざる鰯雲(秋)
秋の空の広さが、「もう動かざる」から想像でき、景のよく見える句です。

          

満月の道大仏に至りけり(秋)
大きな句で、堂々としています。私は、奈良の大仏様とそこに至る道が、満月に照らされ明るく浮き立つような様子が伺えました。とてもありがたい感じがします。

正座して大仏の冷えいただきし(秋)
仏像の置かれている場所は、たいてい暗くひんやりとしています。秋が深まると、仏像に逢いに行きたくなるのは、この心にも届く「冷え」が、恋しいせいかもしれません。

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日記には書かず忘れず髪洗ふ(夏)
書かないこと、書けないことの方が、忘れられないことであったりするのは、ある意味、人生の真実ではないかしら。「髪洗ふ」という女性ならではの季語が、効いています。

死者に言ふごとき日記や夜長し(秋)
語り合える大切な人を亡くしたとき、私は誰にこのことを伝えられるだろう、そんな不安を抱くときがあります。心の中を話せる相手が日記だけになる、そんな日が来るかと思うと、秋の夜長がひときわ沁みてきます。この句を読んで、そんなことを思いました。

         

群るる気はなしマフラーを巻き直す(冬)
自分は自分の考えで行くという決意、その思いが毅然とした行動に出て、かっこいいです。

マフラーを巻いてやるすこし絞めてやる(冬)
男女の機微を感じさせる句で、互いの関係や作者の思いが感じられて、こういう句を読むと、短歌より俳句の方が、自由な気がします。
マフラーという小道具は、いろいろ遊べそうです。拙句ですが、私にも「編みかけのマフラー別の人に編む」という、ちょっと意味深な一句があります。

IMG_4232hana0908.jpg

母老いて霞の通ふ体なり(春)
存在感が朧(おぼろ)になっていく。「老いる」というのは、悲しいけれども、そういうことなのだと思います。自然と一体化し、何でも受け入れられるようになるのも、「老い」。

すこやかに老いて花種蒔いてをり(春)
「すこやかに」という初句と、「花種を蒔く」という行為が、穏やかな日々を写し、その平安に幸せを感じます。花が咲く未来も見えて、嬉しい老後です。

        

遠足のまた同じ子の叱られて(春)
学校から外に出ると、いつもと違う環境が嬉しくてはしゃいでしまう子がいます。他のものに気を取られて列を離れたり、声高におしゃべりをしたり…。教室の勉強では活躍しない子が、元気をあふれさせ目立つのが遠足。「同じ子」というのが、説得力があり秀逸です。

通るものだれでも狙ふ水鉄砲(夏)
子どもの無邪気な様子を活写していて、こんな悪戯ならいっぱいしていいよと思います。

譲る気のなきぶらんこを高く漕ぐ(春)
結句の「高く漕ぐ」に、気持ちがとてもよく出ていて面白い句で、子どもの意地悪な気持ちが伺え、思わずニヤッとしました。

       IMG_4270tuki0908.jpg

半分は闇の地球よ宝船(新年)
正月に、よい夢を見るようにと枕の下に敷いて眠る宝船の絵。地球のこちら側が昼ならば、あちら側は夜。それを「闇」ということで、単なる暗さだけでなく、世界の混沌とした様子、のんびり明るく新しい年を迎えることなど叶わぬ地方、そんなことまで想像させてくれます。

はじめより案山子は疲れ果ててをり(秋)
こう言われると、ほんとにそうだと思います。古着を着て、一本足で立って、お日様や風雨にさらされ、くたびれている案山子(かかし)。最初からそういう運命の中にあるのですね。

箱眼鏡玄界灘を押さへたる(夏)
水中を覗いて魚や貝をとっているのでしょう。底に張ったガラスの面が、水面に当たる感じは、確かに「押さえる」感じです。それを「玄界灘」と大きく言ったところが、素晴らしいです。

 自分では全然うまく詠めない俳句ですが、こんなふうに上手な俳句に出会うと、今自分が居るのとは違う場所や時間にワープでき、楽しくてたまりません。
  
 追記:「NHK俳句9月号」P43に、柴田佐知子さんの句集『垂直』から
    虫売りのまはり平たく子がしやがむ
    が紹介してありました。これも、取り上げたかった一句で、子供の様子がよく見えてきます。

                                    

 追記お知らせ
バイオリン演奏家の高橋真珠さんから、次のようなお知らせを頂きました。お近くの方、よろしければ…。
兵庫県立美術館のエントランスホールで12日(土)の2時から無料で演奏をお楽しみいただけます。
曲:ブラームス:雨の歌、ウイニアフスキ:華麗なるポロネーズ、クライスラー:コレルリの主題による変奏曲、タイース:瞑想曲 ほか



テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

日中は残暑で日差しが強いです。
水の写真で清涼感を味わっています。
水のある場所(海はちょっと…)が好きです。

三日月の写真はもう秋を感じられますね。


「はじめより案山子は疲れ果ててをり」
おもしろい句ですね。
案山子の身になって考えたことなんてなかったわ。
あと少し、案山子には頑張ってもらいましょう。
【2009/09/06 10:07】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

ベンジャミン(keiko)
こんにちは。コメントありがとうございます。

>日中は残暑で日差しが強いです。
朝夕はさわやかですが、日中は、ホント!かなり強烈な日差しで驚きます。

>三日月の写真はもう秋を感じられますね。
ASA340で撮ったら、お月様もこの程度だったら撮れることがわかったので、v-280 今夜は、満月にチャレンジしてみようかな?

今朝は、雲一つない青空だったので、近くの公園をぶらぶらカメラ片手に散歩してきました。
銀杏や山帰来などが木の実をつけ、葛の花がたくさん咲いて、しっかり秋の訪れを教えてくれました。
これが、さらっと句にできたら言うことないのですが…。難しい…。

>あと少し、案山子には頑張ってもらいましょう。
あと少しで、お米も収穫の時期ですね。
秋は、人恋しくてもの寂しいけど、実りの季節であるのが、大きな慰めです。
【2009/09/06 16:17】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

ベンジャミン(keiko)さんへ
すみませ~ん。さきほどの訂正です。
>ASA340で撮ったら、お月様もこの程度だったら撮れることがわかったので、今夜は、満月にチャレンジしてみようかな?
ASA340ではなくて、ISO3200でした。それに、満月は、昨日でしたか?
v-436
【2009/09/06 22:07】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

こんばんは
ISO3200
デジカメですので分かりません(-_-メ)
亀さんは一眼レフですか?
それともデジカメのことですか?いい加減なベンジャミンです…

満月は昨日のようでしたね。
でも今、べランダに出てみましたら私の眼にはまんまるく見えました。
これからは亀さんの大好きな空が美しい季節ですね。

今日は「調布よさこい」がありました。
ボランティアの友人、娘の友人とそのお嬢さんが参加するので娘と婿と見て来ました。
【2009/09/06 22:50】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

ベンジャミン(keiko)さんへ
こんばんは。暗くなるのが早くなってきました。

>ISO3200
実は、私もなんのことか全然解らないのですが、きっと感度がいいということかと…。
私のデジカメは、もちろんコンパクトな携帯程度の大きさのものです。
メニューの中に、夜景や花や子供などがあって、ISO3200 もその中の一つでした。
それだと、フラッシュ要らずで、夜景モードで撮るよりはっきり撮れたのですよ。

>これからは亀さんの大好きな空が美しい季節ですね。
そうです、そうです。清澄感がたまりません。
また、空を眺める時間が増えるんだろうなあ。
お月様は、私の目にもまん丸に見えましたが、写真は残念ながらぼやけました。

>参加するので娘と婿と見て来ました。
この参加するというのが、なんとも羨ましいことです。
踊りだと、体を動かすのが自然にできるから、心身ともにいいだろうなと思います。
知っている方が踊られると、見る方も楽しみが増しますね。
【2009/09/07 18:15】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


お久しぶりです!
いつにまにか夏が過ぎて、涼しくなりましたね。
お元気でしたか?
今年は初盆だったので、いつもより長く帰省していました。
「ともしあげ」という法要をすませ、「次は年末の巳午(亡くなった人のお正月らしいです)ですね~」と教えられて帰ってきました。
知らないことが多く、助けられてばかりの毎日です。
そうそう、戒名を墓石に刻んでもらったのも同級生のK君なんですよ!
有難いご縁です。
そういうわけで色々あり、こちらに帰ってしばらくはぼーっとしていましたが、
また活動モードになりつつありますので
これからもよろしくお願いしますね。

きのうはお泊り客(夫の学生時代の友人)があり、にぎやかに食べて飲んで、夜中までおしゃべりしました。こういう時間は楽しくて、大好き。
そして寝る時、亀さんのことを思い出していたのですよ~。
去年会った時のこと。
ベンジャミンさんやれんげ草さんとも会えて楽しかった夏の日。

柴田佐知子さんの俳句、感動しながら読みました。
「書かず忘れず」にドキッ!・・・こういう気持は心の一番深いところにありますね。






【2009/09/09 14:10】 URL | keiko #- [ 編集]

keikoさんへ
今晩は。
お久しぶりです。keikoさんは、今年も忙しい夏でしたね。

確か、6月に、ここに紹介した柴田佐知子さんの先生に当たる伊藤通明さんの句集『荒神』を紹介したとき、お義父様が亡くなられたばかりだとコメントにありましたね。
keikoさんには、keikoさんばかりでなく、ご主人様にも大変お世話になっていたのに、ちゃんとしたお悔やみもできてなかったなと、申し訳なく思っています。ごめんなさいね。

法要など伝統的なしきたりは、私もわからないことばかりで、不義理や失礼なことをいっぱいしているだろうなと、冷や汗ものです。
K君とのご縁、ありがたいですね。

keikoさんご夫妻の温かい歓迎に、お友だちも楽しかっただろうなあと、前にお宅にお邪魔してご馳走になったことを、思い出していました。
去年の夏も、楽しかったですね。あのとき買ったバッグを使うたびに、懐かしく思います。
短歌の会、今年は京都でしたが、来年は松山。そして、なんと、オプションで、内子町を回るそう。また、何日か滞在して過ごそうと思います。

>柴田佐知子さんの俳句、感動しながら読みました。
俳句の深さを感じますよね。

>「書かず忘れず」にドキッ!・・・こういう気持は心の一番深いところにありますね。
keikoさんもですか!誰もこんな部分を持っているんでしょうね。だから、人生、面白いのかもしれませんね。
【2009/09/09 21:03】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


はじめまして ゆき むらさきと申します。

詩歌を詠んでいて、俳句を学ぶ30代です♪

以前に詩歌を検索していましたところ
こちらのブログを知って
とても綺麗な写真や美しい言葉の紹介を
拝見し、時々遊びに来ています。


鰯雲ひらがな母に教はりし

群るる気はなしマフラーを巻き直す


とても勉強になる句ばかりです。
また遊びにきたいと思います☆


【2009/09/09 23:21】 URL | ゆき むらさき #- [ 編集]

ゆき むらさきさま
はじめまして
コメントをありがとうございます。
昨日、今日と透明感のある空が、とても美しかったですね。
短歌や俳句にしたいと、気がつくと、空ばかり仰いでいました。

>詩歌を詠んでいて、俳句を学ぶ30代です♪
ステキ!
俳句と詩歌が好き!なんて一緒ですね。
マイナーな世界なので、お仲間が増えると嬉しいです。
お若いから、これからのご活躍が楽しみです。
これからもよろしくお付き合い下さいね。

>時々遊びに来ています。
ありがとうございます。励みにします。
私も早速、ゆき むらさきさんのブログにお邪魔しました。
とてもお洒落なブログですね。
またゆっくり再訪問させていただきます。

>とても勉強になる句ばかりです。
私もいつも勉強させてもらっているんですよ。
「空」という結社に、縁あってお世話になっています。
またいつでもお訪ね下さいね。楽しみにしています。
【2009/09/10 21:53】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年6カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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