心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌(歌集)-万造寺ようこ歌集『そよぐ雀榕(あこう)』
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【写真はすべて万博公園にて。最初と最後は冬。中の3枚は秋。最後の2枚はどちらも西大路のポプラ並木。】

今回は、万造寺ようこさんの歌集 『そよぐ雀榕(あこう)』(青磁社刊/2009年/2500円)をご紹介します。

        soyoguakoukabaa.jpg 【カバーと帯付き】    soyoguakouhonntai.jpg 【本体】

1997年から2006年までの10年分を、ほぼ編年順に600首内にまとめられた第二歌集です。
あとがきにある「出会ったすべてのことの、そのときどきのその姿、表情。過去の思い出の中の忘れてはいけない大切なこと。それら大切なことを大切なようにまとめたい。」という気持ちが、読み手に穏やかに伝わってくる歌集でした。
また、あとがきに「自分が自分のことを話そうという気持ちよりは、語り部のようにこんなことがあったよと人に伝えたい人間だと感じた。」と書かれている通り、読む側も「万造寺さん個人の出来事」を読むという感じではなく、「物語」を読むような印象を受けました。
作者は非常に聡明な方で、歌会での読みも深くて的確で、詠まれる歌は、地上から少し浮いたところを歩いているような不思議な感覚があります。それらが、ご本人の鷹揚とした感じとよく合って、魅力的で、読み返すたびに、異なる歌が立ち上がってきました。
ここでは、私なりにテーマを決めて、特に心に残った歌を、テーマ別に引用しました。


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「死」を想う

お父様をはじめ身内の方々の死、長年共に暮らした犬や猫の死、教え子や友人の死など、多くの大切な存在の喪失が詠まれているのですが、両手で丁寧に包み込まれるように詠まれていて、読み手に優しく響いてきました。

墓原のなかにできたる町ならむ見知らぬ死者と重なり住めり  

死後もまたかういふ気配かロンドンの弓なり街路行く先みえず 

すこしづつ死んだものたちがはひりこみやがてわたしは死ばかりとなる  

とりあへず洗濯をせむもやもやと死の一日分がわれに近付く   

人ならば死んでも子どもの中にある猫は死んだら空泳いでる  

二十七の昔のわれと二十七で逝きたる姉と窓を出で会ふ  

大樹となり空にそよげる雀榕(あこう)の樹亡きものたちの声落としくる   

いづくよりかなつかしい手の伸びてきて背中たたかれしがもう振り向かぬ   


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「不思議な感覚」

私も同じような情景を見たことがあったり、同じような体験をしたりしたことがある。でも、こんなふうに表現することはできない。万造寺さんの歌には、どこか異界に導かれるような、でも、感覚はすとんと自分の体に入っていくような、そんな特徴があります。

朝のひつじぼうつと草を食べずゐるぼうつとかたまつて永遠を見てゐる 

壁の面にブラインドの影だんだらの写らぬやうに通り抜けたり 

いつもかうだつた時間はづれの食堂のいすは机上に並べられ  

進むほど退くやうななつかしさ蒼い日暮れは鏡のやうに    

地下牢の四角い入口はひりたい人はひりたくない人と別れぬ [イギリスにて] 

乗客はみんな知り合ひであるやうな昼の路線バス停まり停まり行く 

突き当たりの塀の横には身の幅の抜け路のあり行きて気づきぬ  

落葉松を差し込むひかり縞となる道をあゆめりだれか歩めり  

電球の切れたる風呂場のくらがりはもらひ風呂のやう母がそばにゐる  

藤の花咲きしだれゐる小園に行く道が本当にあつたのだらうか  
       

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自然と「同じ目線」で

犬・猫・鳥などの小動物、植物を好きという気持ち以上に、同じ立ち位置で詠まれている歌の数々。自然と一体化できるのは、ものごとにとらわれない自由な心で生きておられるからこそ、という気がしました。

手に抱かば体熱芯より伝ふらむふつくら輝いて白鷺がゐる 

水分くるやうにカーテンを頭(づ)で押して猫は向かうの夜へ出でゆく  

向かう岸を連れられて行くレトリーバー進む速さに合はせて歩む   

夕靄のさくら明かりのなかに来る犬は静かに己が影を嗅ぐ  

さゐさゐと銀杏もみぢの散りやまずこころの底がもうからつぽだ  

猫はまだ家ぬちを歩みゐるならむ隙間あけおく襖も窓も  

白薔薇の大きな花を剪るときに空のかすかに歎くを聞けり  

もう守つてくれなくてもいいからと耳を動かす犬に言ひ聞かす  

シロツメクサ絵手紙に描かう金網の下の雨から引き出して来る  

芽を出すとき苦しくないのかあぢさゐの長い枯れ色枝のさきまで  

よく舐めてをりしに腫物に気づかざりき跳びつき喜ぶ顔ばかり見て  


        IMG_5941201001.jpg

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

大空の亀さん こんにちは。


日本語・・・って、本当に美しいことばなんだなぁって、読んでいて感じました。


2月はお誕生日・・・記念日がたくさんの月でしたよね?

良い2月になりますように・・・
 
 
【2010/02/05 14:38】 URL | kimico #Zr2/WiYY [ 編集]

kimico さんへ
こんにちは。
>日本語・・・って、本当に美しいことばなんだなぁって、読んでいて感じました。
こんなふうに思ってもらえると、とっても嬉しいです。言葉って、素敵ですよね。

>2月はお誕生日・・・記念日がたくさんの月でしたよね?
そうです、そうです。特に今年は平成22年だしね。
JR大阪で、記念入場券を22も222も発売するようだから、手に入れなくては!

22の方は、今月、京都の拾得で歌うそうです。あがた森魚さんの翌々日かな?
【2010/02/05 20:15】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


万造寺さんの歌集紹介、写真もキレイですばらしいです。
「死」の作品群が印象的です。
【2010/02/05 22:07】 URL | 中村ケンジ #- [ 編集]

中村ケンジさんへ
こんばんは。
万造寺さんの歌集紹介は、写真も原稿も3ヶ月前からできていたのですが、今頃アップしたので、結局最初と最後の写真を入れ替えました。

>「死」の作品群が印象的です。
そうですね。歌集批評会では、私は一首目を鑑賞しましたが、みなさんは三・五・七・八首目を取り上げておられました。
ご本人を存じ上げているだけに、歌とご本人の雰囲気とがよく合っているのがわかりますね。
【2010/02/05 22:29】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

こんにちは
どれも素晴らしい写真ですね。
最後の2枚は良く撮れていますね。
亀さんてすごい!

こんな風に撮るにはどうしたらいいのかしら。
感性の違いね( 一一)


…水分くるやうにカーテンを頭(づ)で押して猫は向かうの夜へ出でゆく…

短い文字なのに情景が浮かんでくる歌ですね。
【2010/02/07 20:04】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

ベンジャミン(keiko)さんへ
こんばんは。
写真、ほめてくださって、ありがとう。
最後の2枚は、同じ場所なのに、季節が違うと全然違うのが、面白いです。
先日たずねた折には、昨年の台風で、倒れた木々が、何本も補強されていました。
今年は、エキスポ70から40年目。
一度、この公園にもいらして、ポプラ並木を歩いてみてください。
きっと、同じ写真が撮れます!

万造寺さんの第一歌集名は『うしろむきの猫』。猫の歌も犬の歌も上手な方です。

もう一人のkeikoさん、パソコンが壊れててブログが見られないとかで、時々携帯にメールがあります。
先日は、映画『おとうと』に出た薬局の写真を送ってくれました。
【2010/02/07 21:11】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

今日は19度。

こんにちは。
お庭の手入れをしたくなる陽気です。水仙、桜草、クリスマスローズが咲いていて
静かだったお庭が少しずつ活気付いてきました。

万造寺ようこ様の短歌のご紹介ですね。  
「自分が自分のことを話そうという気持ちよりは、語り部のようにこんなことがあったよ
と人に伝えたい・・・」という歌集のあとがきは、読み手がその短歌を自分のものとして
受け止められる自由さを感じさせてくれます。

  乗客はみんな知り合いであるような昼の路線バス停まり停まりゆく

人が深い悲しみや苦境に沈んでいるとき、一つのバスに乗り合わせている乗客たちに
いとおしさや慈しみを感じ慰められる。そして自分もまたいつもの自分よりもっとあたた
かな眼差しを送っている・・・。どなたも経験のあることを午後のひかりのような温もりを
もって詠まれていて”いいなぁ”と心から思いました。

   白薔薇の大きな花を剪るときに空のかすかに嘆くを聞けり

青い空にくっきりと咲いている大きな白い薔薇を作者はこよなく愛している・・・・・ので
しょうね。”空のかすかに嘆くを聞けり”、「空」はもう一人の自分の心なのでしょうか。
あるいはどなたか既に側にはいない方が大切にされていた白い薔薇?
絵画的に印象づけられる歌です。

私も白いバラを育てています。「新雪」という蔓バラです。すこしやわらかな白さと咲き
方がたまらなくすてきなのです。切花にしようと切るとき、お友達に差し上げようと切るとき
、やはりためらいがあります。

以前NHKの俳句の番組でこのような句を紹介していました。

  白ばらのしろまったきに去りがたし  (埼玉県の方)

この俳句はとても気に入って、一層バラの季節を楽しめるようになりました。この句を詠まれた
方に感謝しています!「白いばら」う~~ん、なんとも言いがたい魅力がありますね♪

詩歌・俳句の鑑賞はなかなか難しいものも多いですが、良寛様の「分かるだけにて事足れり」
のことばを受け止め、何度も読み味わい自分の鑑賞する力や感性を培っていきたいなぁと思い
ます。 ありがとうございました。

  
【2010/02/09 10:58】 URL | 初夏 #r0k8YTqw [ 編集]

初夏さま
こんばんは。
心細やかなコメントをありがとうございます。
19度ですか!暖かいはずですね。
>水仙、桜草、クリスマスローズが咲いていて静かだったお庭が少しずつ活気付いてきました。
いいですねえ。我が家はベランダだけなので、お庭でお花なんて、うらやましいです。

>歌集のあとがきは、読み手がその短歌を自分のものとして受け止められる自由さを感じさせてくれます。
確かに!30人ほどで、各自3首ずつ選んで歌集の合評会をしたのですが、重なる歌が少なくて、皆さんそれぞれに歌の世界を楽しまれていました。

>どなたも経験のあることを午後のひかりのような温もりをもって詠まれていて”いいなぁ”と心から思いました。
>”空のかすかに嘆くを聞けり”、「空」はもう一人の自分の心なのでしょうか。
どちらの歌も、とても素晴らしい読みで驚きました。
ここまで読まれたら、歌を詠まれるほうも十分の力がおありですね。
心を寄せて丁寧に読まれているので、万造寺さんも喜ばれると思います。

>私も白いバラを育てています。「新雪」という蔓バラです。
白で蔓というのは、魅力的ですね。
私は一重で清楚なバラが好きです。
蔓バラも素朴な感じがして好きです。
「新雪」はきっとそんな感じのバラなのでしょうね。

>良寛様の「分かるだけにて事足れり」のことばを受け止め、何度も読み味わい自分の鑑賞する力や感性を培っていきたいなぁと思います。 
よい言葉をありがとうございます。
私も謙虚に&大胆に、詩歌を味わって楽しんでいきたいなと思っています。

新川和江さんの詩に「二月」という好きな詩があります。
初夏さん、もし二月に朗読会がありましたら、ぜひ朗読なさってください。
拙ブログ右列に「ブログ内検索」というのがあります。
新川和江と入れれば、見つかるかと思いますので、よろしければ。
月つながりで、茨木のり子さんの「六月」も、大好きな詩です。

では、また。素敵な2月になるといいですね。
【2010/02/09 19:13】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


こんばんは。

新川さんの詩を読ませて頂きました。
何れの作品も表現がすばらしくてただただ感嘆するばかりです。

「二月」はもう少し私の心のポケットで温めてから手放します(^^)。
「きさらぎの川」はもっともっと口ずさみ味わうことにして、
「二月のハミング」の方を朗読したいと思います。
この詩を乗せる曲さがしもまた楽しいんですよ。

寒さで縮んでいた心をふわ~~っとやさしい風がとおり過ぎていった
ような、そんな気持ちにさせて頂いた『二月の詩』でした。
有難うございました。

それにしても”言葉の宝もの”がいっぱいのHPですね~♪大空の亀様の
コメントがまた素晴らしくて、ほんとうに勉強になります。

↑のハオちゃん、いいですね。我が家にも二匹います。

【2010/02/15 22:12】 URL | 初夏 #Zy1BwZ1k [ 編集]

初夏さんへ
こんばんは。
新川和江さんの詩を読んでくださって、ありがとうございます。

>「二月のハミング」の方を朗読したいと思います。
明るくて可愛い詩ですよね。
ちょうどこちらは梅の花が満開。
楽しい曲がぴったりで、すてきな朗読になりそう!

私も、こんな詩を作りたいな。
私の詩は、ちょっと硬い社会派?のものが多くて。

万造寺さんが、親身なお歌の評、喜んでおられました。

>”言葉の宝もの”がいっぱいのHPですね~♪
ありがとうございます。
私の元気の素は、空と言葉&猫と息子たち!
初夏さんのおうちも、猫ちゃんが!いいですよねえ、猫って!
【2010/02/16 18:36】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年3カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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