心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌(歌集)-中村ケンジ第一歌集『祖国復帰』(私家版)
1月19日追記:それぞれの歌に、感想を付け加えました。歌は、二首ずつ関連させてとりあげています。

sokokuhukki.jpg  中村ケンジ 第一歌集 『祖国復帰』 (私家版)

作者は、短歌を始めて3年目の若い方で、ここにもよくコメントを下さる中村ケンジさんです。昨年、短歌とふるさと沖縄への熱い思いを、300首に載せて自費出版されました。私は「塔」の歌会でお付き合いがあり、拙ブログと愛媛(特に道後と内子)が好きということで、貴重な歌集を頂きました。その中から私の心に響いた歌を選んで、宇津木さんの切り絵(沖縄編)を添えてご紹介します。*切り絵にカーソルを乗せると、蝶の名前がわかります。

第二次世界大戦で米軍に上陸され大きな被害を受けた沖縄、その後も日本政府から冷遇され続け、いまだに島のいちばんいい場所を米軍基地に占められている沖縄。新政権になっても、基地問題は未解決のまま、混迷状態が続いています。以下は、そんな沖縄の人たちの思いとふるさとへの愛を詠んだ歌の数々です。


           アオタテハモドキs



死者も吾も祖国復帰の夢を持ち辺土岬より北方見つめる

日米の思惑の中に揺れ動く沖縄にもかわらぬ生活はある

なぜ沖縄ばかりが、犠牲を強いられなければならないのか。本土の私たちが嫌なものは、沖縄の人も嫌。だったらどうすればいいのか。他人事として沖縄のことに無関心でいることは、沖縄の人たちを孤立させ絶望させる。


旧盆に還る御霊かこの海の青さ増すほど流血ありて

戦争を許さぬ心を持ちて見るオキナワの海の青すぎる青

沖縄の海もサイパンの海も、人々の悲しい命を受けとめて、この歌のように「青すぎる青」色をして、怖いほど透き通っていました。断崖に追い詰められ身を投げた多くの人々、その一人一人の命を忘れてはいけません。


走っても走っても基地のフェンス沿い椰子の花やわらかき風の抜け道

日の丸と星条旗のあるフェンスの外ジョギングすれば米兵とあう

マラソンが趣味の中村さんらしい、実感のこもった歌です。「走っても走っても」「米兵とあう」に、沖縄の現実がよく出ています。旅行者でしかない私にも、この光景がありありと浮かんできます。基地が町を占領しています。


「沖縄忌」六月二十三日慰霊の日「季語」となりたり平穏にあれ

限りある一生を花や鳥のようにいちずに生きたいと思うことあり

沖縄の辛い日を忘れないように、二度と戦争が起きないように、平和だからこそ楽しめる俳句・短歌。そのような作者の願いを感じました。人も自然の一部として、意味なく争うことなく、穏やかに暮らしていきたいものです。


    オオゴマダラs


天の蒼盗め盗めと噴水のあふれる水の力わき立つ

「好きなだけ青を売ります」すずしげな空いっぱいに夏びらきする

繰り返している言葉に、若さを感じました。夏の生き生きとした生命力の出ている歌です。


黙祷の一分間さえ長かりきわれのヒロシマ風化しはじめる

開花予報外れ謝る予報官平和ニッポン春まっさかり

次々と新しい情報が入る今の世の中、ひとつの出来事に十分に浸りきらないまま、私たちは流されてしまいそうです。忘れてはいけないヒロシマすら例外ではなく・・・自戒をこめて。二首目は、平和ボケしたニッポンをしっかり風刺した歌です。


誘い合うごとく水滴重なりてグラスをつたい流れ落ちゆく

どこまでも転がる石は坂まかせ迷ったときは石になりたい

落ちていくもの、転がっていくものの動きを表した歌。無心であることに、心引かれる作者が見えます。


夕映えがひと足遅れで乗り込んでローカル線は動き出したり

精いっぱい噴きて上がれど噴水はやがて静かに落ちてくるなり

情景を表した擬人法で効果的で、景色だけではない、それを見ている人の心情まで想像できそうです。


    モンシロチョウs


沖縄の人たちの怒り・憤り・嘆きを代弁しようと一生懸命歌を詠んでいる作者の姿と、ときおり垣間見える作者の若く柔らかい感性が魅力の歌集でした。自らの体験や見聞を歌にしたもの、心情をそのまま正直に表現した歌に、私は心引かれました。
中村さんは、少し理が勝り老成した歌を詠んでしまう傾向があるようです。いろいろな短歌の大会に応募して、いくつも賞をとられたと聞きました。持っている歌の力を生かし、今の中村さんにしか詠めない、若い感性の作品をたくさん読めることを、期待しています。

最後に二首、「素」のままの健気な中村さんが出ている歌を選んでみました。

滋賀京都旧月北摂大阪と和歌山歌会の六つで学ぶ

我の中にもう一人別の「我」がいて孤独はその「我」を見失うこと


           シロオビアゲハs


 先日読んだ本に、歌人の加藤英彦氏が次のようなことを書かれていました。 「歌や詩のもつ豊かさとは、そこに書かれた言葉が、書かれていない世界をどこまで引きつれてくるかにあるように思う。」よく言われる「滞空時間の長い歌」と意味することは同じだと思います。私など、歌を詠むとき、そうありたいと願いながら、なかなか難しくて苦しむところです。 「散文的に意味を伝えようとするのではく、言葉で想像する豊かさを読者に渡せるような歌を。」加藤氏の文章にあった言葉を、初心の今も慣れてきてからも忘れずにいたいと、改めて思いました。

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

やった~
切り絵付きでキレイに紹介されているのでうれしいです。
ありがとうございます。
ここに紹介されるのが夢で、出版したので良かったです。
次の目標は今年中に第二歌集を出す事です。がんばります。
明日は東海歌会へ行ってきます。
初のナゴヤなので今からワクワク、ピクニック気分です。
では、また・・・・
【2010/01/16 22:48】 URL | 中村ケンジ #- [ 編集]

中村ケンジさんへ
お早うございます。
早速のコメント、ありがとうございます。
>ここに紹介されるのが夢で、出版したので良かったです。
なんていうスゴイ言葉に驚いていますが、喜んで頂けてよかったです。

今日は、東海歌会ですか!
全国くまなく回るのでしょうか?
交通費がたくさん要るだろうな・・・と要らぬ心配が・・・
でも、趣味と精進を兼ねた「小旅行」と考えたら、素敵な歌人の方々にもお会いできるし、充実した時間ですね。
若い方ならではの行動力!名古屋で楽しんできてください。
【2010/01/17 08:52】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


「きり絵」を中村様の立派な文と一緒に掲載していただき、たいへん光栄に思って
います。

文章に込められた想いの深さに比べれば、単に風景を切り取って映しただけの
作品ですが、自分が感じた南の島の情景を蝶とともに図案にして伝えられれば
と思いながら制作しています。

これからも紹介されて恥じない作品を作って行けるように頑張って行きたいと
思っていますので、どうぞよろしくお願いします。
【2010/01/19 23:38】 URL | みのお市・UTSUGI #- [ 編集]

UTSUGIさんへ
こんばんは。
コメントをありがとうございます。
きれいなきり絵と短歌の相乗効果で、おかげさまでいい感じになりました。

先日のUTSUGIさんの個展に出かけた中国語の仲間も、感心されていました。
切り絵の年賀状まで頂いてと、UTSUGIさんの心配りに驚いておられました。
作品も心配りも細やかなのがUTSUGIさんのすばらしさですね。
ますますのご活躍、期待しています。
【2010/01/20 22:16】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

沖縄
こんにちは。

中村様の沖縄に寄せる歌を読ませて頂きました。
”走っても走っても基地のフェンス沿い椰子の花やわらかき風の抜け道”

本当に沖縄の現実を感じますね。”椰子の花やわらかき風の抜け道”に中村様
は沖縄を愛する気持ち、そして希望を込めていらっしゃいますね。

多くの日本人が関心を持ち心を寄せて見つめている「沖縄」だと思います。
中村様、これからも作歌を続けてください。楽しみにしています。

美智子皇后様がこのような御歌を詠まれていらっしゃいますね。

  いたみつつ なほ優しくも 人ら住む
           ゆうな咲く島の 坂のぼりゆく

美智子皇后様の沖縄の方々への深くあたたかい祈りが感じられて涙がこぼれて
きます。


大空の亀様の解説もまたとっても読み応えがありました。
ありがとうございました。

【2010/01/23 16:02】 URL | 初夏 #r0k8YTqw [ 編集]

初夏さんへ
こんばんは。
中村さんの歌に心のこもったコメントをありがとうございます。
>”椰子の花やわらかき風の抜け道”に中村様は沖縄を愛する気持ち、そして希望を込めていらっしゃいますね。
ほんとにそうですね。初夏さんが丁寧に読んでくださったので、さらに歌が力を持ったという気がします。
自分の詠んだ歌に、感想を頂くというのは、とても嬉しいことなので、きっと中村さんも感謝していることと思います。

>いたみつつ なほ優しくも 人ら住む  ゆうな咲く島の 坂のぼりゆく
気持ちのおだやかな、ゆったりとした調べの、いいお歌ですね。
沖縄の人たちに、心を添わせて詠まれたのが、よくわかります。

このような歌を読むと、「思いやる」ということの大切さが、よくわかりますね。
生きにくい今の時代、「他を思いやることのできるゆとり」が、人々に少なくなっていると感じます。
でも、人生でいちばん大事なのは、「自他ともに思いやること」ではないかしらと、つくづく思うこの頃です。
「想像して、思いを馳せる」-人間だけでなく、動物や植物に対しても同じですね。
【2010/01/23 18:51】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


初夏様・・・

コメントありがとうございました。
とてもうれしいです。
これからもがんばります。
【2010/01/24 01:04】 URL | 中村ケンジ #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年7カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
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