心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌-伊丹三樹彦氏の著作
年度末の疲れか冬の疲れか、毎年この時期に体調を壊してしまう私です。ブログの更新が遅れていましたが、やっと元気になりました。その途端に、また長文の記事ですが、よろしければお読みください。

 俳句結社誌「空」に伊丹三樹彦氏の俳句をご紹介した縁で、「写俳」の絵葉書やご本を頂戴しました。「青」色の好きな私は、俳句結社「青玄」の名に興味があり、主宰をされていた伊丹三樹彦氏の名前も存じ上げていましたが、まさか、そんな有名な方からお手紙を何度も頂けるとは思いもよらず、家族には「お宝だよ」と言って、大切にとってあります。今回は、頂いた本や私の持っている本から、伊丹三樹彦氏の作品をご紹介します。

 伊丹三樹彦氏は、1920年生まれで、この春90歳になられました。今もフットワーク軽く写真撮影に、句会にとご活躍のようです。13歳から始められた俳句は筋金入りで、句作70年目の2003年、現代俳句大賞を受賞されました。1970年には、写真と俳句の相乗による「写俳」を創始されました。写真の方も、二科展に何度も入賞された実力派です。俳句結社誌の編集やカルチャーの講師などはもちろん、現代俳句協会副会長など重要な役目も果たされたようです。でも、私が一番素敵だなと思うのは、著者紹介の欄にあった天真爛漫な笑顔!生きているのが楽しくてたまらないというお顔が、実に魅力的です。

伊丹三樹彦著『ナマステネパーリ』(A4版・1991年・ビレッジプレス刊・4000円)

        hellonepalese.jpg

はじめの言葉から引用
僕はネパールがよくよく好きだ。初訪は1980年。以来、5度目の旅を、昨年の11月に写俳仲間とした。・・・今回もカトマンズの空港に降り立ったとき、僕は何故か目頭が熱くなった。大袈裟にいえば、ネパールに着いた、というよりも帰り着いた、の感慨をすら覚えたのだ。それはネパールの自然と生活が、僕が育った時代の原風景と重なり合うからであろうか。・・・僅か8日間の旅で、ポジカラー100本、モノクロ70本のフィルムを消費した事実が、何よりも、旅の昂奮を伝える材料になろうか。・・・特筆すべきは、本集に初めて俳句の英訳が付されたことである。・・・

 私は「写俳」のこの本を、まず「俳句」を読む、次に「写真」に目をやる、という順番で読みました。俳句でイメージを喚起し、写真を見ることで、互いが引き立つと思ったからです。また、写真を先に見ると、俳句を写真の説明として読んでしまう恐れを感じたからです。しかし、その恐れは危惧に終わりました。何度も何度も写真と俳句を往復することで、私の中に深まっていくものがあり、俳句も写真も好きな私には、想像を楽しめる、実に気持ちのいい時間でした。
なかでも特に気に入った句をいくつか。(写真も英語もセットで載せたいところですが…)

     ・ 畏まる犬 対岸に荼毘煙

     ・ 頑として坐る 家長に柱の艶

     ・ 迷いなき女体の投地 仏桑花

     ・ 逆さマチャプチャレを揺って 独りの櫂

     ・ 髪の根まで洗う 泣く子を鷲摑み


 高校生のとき、私はルノー・ヴェルレーが好きで、彼が主演する『カトマンズの恋人』を見て、ネパールに行きたいと思ったのですが、まだ叶っていません。当時の若者は、ヒッピーの自由な生き方に憧れ、インドを聖地のように思っていましたが、今はどうなのでしょう。「インドに行ったら人生観が変わる」という本もたくさん読み、拙ブログでも何度かご紹介したことのある、インド大好き画家の原田先生という先輩を持ちながら、インドを訪ねることもまだ実現していません。伊丹三樹彦氏の初訪は60歳の時!この写俳集や写俳の絵葉書を見ながら、まだ60歳に満たない私は、憧れだけで終わらせてはいけないなと思っているところです。

巻末の伊丹公子さんのエッセイから引用
・・・私たちからみれば、非衛生的で、文化から遠いと思われる暮らしぶりなのに、多くの人々は、落ちついていてあかるかった。・・・日本の最新のカメラを目にするなんて、それこそ驚異的出来事であるのだろう。三樹彦がフイルムの入れ替えをしているときなど、四方から折り重なって、カメラに顔を近々と寄せ、目を凝らしている。子供たちにとって、これは、魔法の箱みたいなものなのだなと思うと、私はとたんに、何故か涙が出てきた。知らないことを知ろうとする気持って素敵だなと思ったからだろう。それに誰もいきいきとした表情だったからだろう。きっと。・・・私にとってネパールはどこまでも詩的なとちであり、ひとびとであった。


伊丹三樹彦著『ギリシア イタリア 写俳便』(A4版・2003年・ビレッジプレス刊・4000円)

         greeceitaly.jpg

はじめの言葉から引用
・・例によって、先写後俳による句作を終えたが、超季俳句、現代語俳句の自在性に自ら感じ入りもした。・・・写俳集の場合は、まず何千枚というポジフィルムの中からの選出の仕事がある。で、200枚位の候補作をプリント焼きにして、今回の例だと60枚まで絞るのだ。・・・大賞審査会後の席上、顕彰係の中村和弘が、図らずも、僕の写俳の作品について、ドキュメントの要素を見逃してはならぬ、との発言があった。これは当の僕が驚きもし、慌てもした。そういえば、生前の岩宮武二が「伊丹さん、写真の本質は記録だよ、記録」と繰返し、告げたことが鮮やかに思い出された。・・・

「写俳」で、写真を載せず俳句だけ引用するのは申し訳ないのですが…。
     
     ・ 水没に対策の有無 ベニス灯る

     ・ ドラマやオペラや 拍手以前の 以後のビラ

     ・ 老いても伊達男 壁画を抜け出して 
 (表紙の写真)
     
      ・ ヘアメイクは人の世のこと 日向猫

     ・ 一宿一飯の中庭 夏落葉


 二句目は写真がないと少しわかりにくいかもしれませんが、あとは句だけでも十分情景が想像できるのではないでしょうか。写真だけでも一人前、俳句だけでも一人前であってはじめて、「写俳」の価値が出るということがよくわかります。ちなみに二句目には、ビラを何度もはったりはがしたりした壁面の写真があり、句とあわせてみると、劇場の音楽や芝居の声が聞こえてきそうでした。どの俳句も写真も素晴らしくて、何度も何度もページを繰りました。


伊丹三樹彦著『日本秋彩』(2005年・ビレッジプレス刊・4000円)

             nihonsyusai.jpg

 これも「写俳」集。写真とセットでアップしないと、私の感動は伝わらないかもしれませんが、皆さんで写真を想像してみてください。物語を感じてもらえると嬉しいです。写真を見た私は、目の前に写真がなくても、句を読んだだけで、写真がはっきり見えてきます。それだけ、句も写真も印象深いということですね。私の知っている所がいっぱいありましたが、目の付け所が面白くて、とても勉強になりました。昨日、仕事で、懐かしい感じのする場所を歩いたのですが、カメラを持ってなかったのが悔やまれました。あらゆる所に被写体があると、この本を見て、改めて認識しました。いわゆるきれいな所でなく、生活感のあるところを写して、俳句を作ってみたいです。

     ・ 秋高しとは / 鳥のこと 梢のこと
     
     ・ ライブタイム確かめて去る 赤い扉
 
     ・ 水溜り 架線の空が落ちていた

     ・ 飛石を飛んで 祖父母を見返って   (表紙の写真)
    
     ・ 後ろ手を組み / 沖を見る 常世見る
    
     ・ 飛ぶは飛び / 歩くは歩く /外濠を
 
     ・ 平成の西国街道 / 大夕焼
    
     ・ 老は独り / ビルのグリルのランチタイム

                                                  /は改行の印


伊丹三樹彦句集『一気』 (2006年・角川書店・2381円)

                ikkihaiku.jpg

著者21冊目の句集。巻末に12ページにわたって、たむらちせい氏による解説があり、著者の俳句の軌跡をたどることができます。現代俳句史に重なる著者の句業は、圧巻でした。心に響くたくさんの句の中から、章ごとに8句選んでみました。

Ⅰ部 海内(かいだい)

「地上逆風」1996年

     ・ 誰彼の 生死の渦の中で生く

     ・ 脛立てて眠る 活断層の上

     ・ 一石も投げられずして 湖鏡

     ・ しあわせはひととき さくらは 天に地に

     ・ 財無くて 熟柿に舌を甘やかす

     ・ 一村に人影はなし 柿花火

     ・ 旅人の振り返り癖 柿花火

     ・ 綿虫に問う 儚さの飛び心地


「羽衣の翁」1997年

       ・ 火焔樹の震え 基地発つジェット機音

       ・ 穴を出て蟬 その穴のほとりの死

       ・ 四肢伸ばしきる水ありて 青蛙

       ・ 後でなら泣ける 棺の蓋をする

       ・ 仰向けの骸ばかりの蟬 蟬 蟬
 
       ・ 遺語めくにおのれ驚く 白木槿

       ・ そのために空は真澄の 返り花

       ・ 友垣に女人増えゆく 奈良扇


「異端者の髭」1998年

         ・ 初詣 二月三月四月堂

         ・ 満面に紅梅明り 誕生日

         ・ 横丁好き 裏通り好き 沈丁花

         ・ つと起って捩花に水 世継ぎの尼

         ・ 今日は今日の風の吹きざま 茅花の穂

         ・ 真清水を一指ではかる おお冷た

         ・ 二の腕の傷は舐めとく 花茨

         ・ 蟬叫ぶ 天変地異の世に出でて
        
         


「僕の居場所」1999年~2000年3月

              ・ 梅の花 鴉は句碑を定座とし

         ・ 雨足を猿沢で知る 柳の芽

         ・ 阿修羅とは敢えて会わぬ日 鹿の糞

         ・ 指出せば 露風の里から赤とんぼ

         ・ 山頭火句碑が隣人 わが句碑 秋

         ・ 歩を合わす妻も頷く 夜涼のこと

         ・ 冬紅葉 京を歩けば京の顔に

         ・ 一身に老年 少年 年迎う


 季語がなくても、現代仮名遣いで書かれていても、俳句の風格をしっかり持った作品ばかりで、長年作り続けられておられる力を目の当たりにし、学ぶところがたくさんありました。私は、作者の伊丹三樹彦氏と同じ関西圏に住んでいるので、情景が浮かびやすく、懐かしい場所、好きな場所も多く詠まれていたので、大変興味深かったです。同じ情景を目にしたことや似た気分を味わったことも思い出して、とても嬉しかったです。

Ⅱ部 海外

     ・ ゼラニウムの散りやまず ギター洩れる窓 〈イタリア〉

     ・ 戦傷者の胡弓 ワットの入日歪む 〈カンボジア〉

     ・ それでもの施錠は針金 地鶏の村 〈トルコ〉

     ・ 居残れば トルコの老農かも知れぬ 〈トルコ〉

     ・ 足漕ぎ舟は道化師もどき 浮田を縫い 〈ミャンマー〉

     ・ 風車の影崩すに夢中 かいつぶり〈オランダ/ベルギー〉

     ・ 十字架はイエスの体位 復活祭 〈オランダ/ベルギー〉

     ・ 墓地目指す孤老 秋日に影を伸ばし 〈オーストリア/ハンガリー〉
     
     ・ 茄子の花 眠り足らざる子を抱いて 〈中国〉

     ・ 草の花 いずれはこの村棄てるつもり 〈中国〉

 私が実際に出かけたことがあるのは、残念ながら中国だけですが、自分の中でイメージしている風景や人々と印象が重なり、私もその地を歩いている気分を味わいました。それにしても、俳句をしていなければ、「空」に入っていなければ、主宰に「お好きにお書きなさい」と誌面を頂かなければ、伊丹三樹彦氏とのこんなご縁はなかったことでしょう。「句縁の福」を感じた出来事でした。

テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
ブログ更新
この間から感激しきりの伊丹氏ですね。私も伊丹氏の俳句で異国の旅をしました。
又後日ゆっくり拝読します。取り急ぎ、「更新で一安心」をお伝えしたくて!
【2010/03/19 21:22】 URL | 犬塚 #- [ 編集]

犬塚さんへ
ありがとう!
ご心配をおかけしましたが、一安心。
またゆっくり読んでくださいね。感想、楽しみにしています。
私の偶然力が、夫にも移り、今日は内子の話で、家庭は盛り上がっています。
【2010/03/19 22:51】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


90歳か~長い長い道のりですね~
今の目標が50年後も光り輝く歌を作り続ける事です。
あとは、還暦までに第十歌集まで出したいな~
そして生きている間に10万首作歌を達成したい。

健康で長生きしなきゃね~
【2010/03/20 00:21】 URL | 中村ケンジ #- [ 編集]

中村ケンジさんへ
おはようございます。
今日は一日、よいお天気になりそうですね。

>生きている間に10万首作歌を達成したい。
すごいなあ~。歌で、頭の中がいっぱいなんですね。
1日10首で3650首。10年間で36500首。30年あれば、達成できる計算かな?
伊丹三樹彦氏も、興がのったら、一晩で50吟というのがおありのようです。
井原西鶴も多作の人でしたね。
たくさん作ると、ある時、一つの山を越えて、別の次元に達するっていいますもんね。
【2010/03/20 09:09】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


おはようございます。


>ネパールに着いた、というよりも帰り着いた、の感慨をすら・・・

15歳のとき、ひとりで列車にゆられて長崎に降り立ったとき、私も「帰ってきた」って感じました。
ブリスベンに到着したときも・・・。
とても不思議な感覚でした。

両親が山が趣味で、来月、父が何度目かのカトマンズ。
魅力ある場所のようです。


今日は黄砂でやられちゃってます。
私は花粉もダメなんですが、黄砂は更に・・・・・
その上、理事の集まりが今日も。
今週はもう5度目の会合です。
次年度の方に、なるべく仕事を軽くして引き継ぎたいんですけれど・・・ね。
 


【2010/03/21 10:04】 URL | kimico #Zr2/WiYY [ 編集]

kimico さんへ
こんばんは。
今日の黄砂はすごかったですね。
午後からは徐々に晴れてきましたが、朝起きたときは「霧に包まれてる!」って思いました。
「3月21日は嵐になるので漁に出てはいけない」という言い伝えが北海道にはあるそうです。
101歳のお習字の先生が、若いとき、それを知らずに出かけた函館で大火に遭ったそうです。
火事が起きたら大変なことになっただろう思わせる今日の風と寒さと視界の悪さでしたね。

kimico さんもボヘミアンでしたね。
お父様譲りなんですね。
「帰ってきた」と思う感覚、確かに旅先でかんじること、ありますね。

今日は、朝日新聞と大阪芸大共催の「書物の現在~21世紀に出版文化は可能か~」に行ってきました。
生の角田光代さん、中沢けいさん、ともに魅力的でした。
岩波書店の社長さんが若々しくて、いい話をされました。
「本は総合芸術。100年後も残る本を作りたい。」などなど、28日の朝日朝刊にまとめが出るそうです。

理事会、今週だけで5度目って、それは大変…、お疲れの出ませんよう。
【2010/03/21 21:56】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年6カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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