心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く風景&詩歌-京都半木の道&高安国世の短歌
 永田和宏編『高安国世アンソロジー』  (青磁社/2009年11月刊/1800円)

「塔」短歌会55周年を記念して、「塔」創始者の高安国世氏(1913~1984)の短歌のアンソロジーが、永田和宏氏編集で昨秋出版されました。『高安国世全歌集』には、13冊の歌集、5411首が収められていますが、そこから千数百首が選歌され、手に取りやすい歌集となっています。私も、少し校正に関わったおかげで、本を頂きました。その上、巻末の校正者に名前まで入れてあったので驚きました。いい記念になったと感謝しています。

今回は、『高安国世アンソロジー』から、歌集別に一首から数首を目途にご紹介します。作者の個人的な生活背景や時代背景を知らなくても味わえる歌、共感を覚える歌を中心に選んでみました。4月5日に友人と一緒に行った、京都府立植物園と半木(なからぎ)の道の写真をあわせてアップします。尚、このブログでは、字体のすべてが原本に忠実にというわけではありませんので、ご了承下さい。

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眞實(1949年)

悲しみの住まふ我家も或る時は繪の如く見て我は近づく


Vorfruhling(1951年)

かきくらし雪ふりしきり降りしづみ我は眞實を生きたかりけり

このままに歩み行きたき思ひかな朝なかぞらに消ゆる雲見つ

陣痛をこらふる妻とふたり居り世の片隅の如きしづけさ

一首目は、氏の代表作。ブログで以前に「季節の詩歌(14)~雪が降る~」でも紹介しましたが、氏が医学の道から転じ、文学に生きる決意を述べた歌です。


年輪(1952年)

家へ帰りたくなしといふ思ひ妻にもあるをあはれ知る今日

幼き混沌のなかに差しそむる光の如く言葉あり人の口を讀む

戦後の生活苦、長男の急逝、三男の聴力障害など、夫として父親として辛い状況にある自分、その切なく哀しい気持ちを述べた歌がたくさんあります。


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夜の葉に(1955年)

たのしきこと一つ言はぬ我にして月月に遠く来る工場歌会

ひつそりといつまでも妻が編みてゐる鏡の返す夕かげのなか

俄なる春のきざしにガラス張りのビル高層に窓一つあく

私は、境涯を生々しく述べた歌よりも、それを婉曲的に詠んだ歌や、叙景歌に心惹かれます。三首目は明るくモダンで、華やぎが感じられます。


砂の上の卓(1957年)

山かげのプールに満ちし子らの聲その聲の中へ子と入りて行く

ただ一人心包みて生き来しをすべてを今は汝に言いにき

何の旋律か思い出されず裸木の林の奥に日が落ちてゆく

わがことのみ思いて長く過ぎ来しとようやく知りて心老ゆるか

正直に自分の気持ちを述べた歌群。要領よく生きることを好まない、自分にも他者にも誠実な方だったのだなあと思いました。


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北極飛行(1960年)

くれないに流るる雲の下透きて水底(みなそこ)のごと野も町も見


街上(1962年)

枝の上に枝が落せる影があり冬木みずからに交わせる対

帰るさえなお限りなく行くに似て野付(のつけ)岬を吹く海の霧

着く土を選ぶがごとし漂いて光の中の今日の風花


虚像の鳩(1968年)

見おろしの空地よぎりて木より木へ見えざる糸をひきて鳥翔ぶ

さだかなる思考のまにまわがうしろひそかに雪は降りつづくらし

さらに来ん別れに備う別れかとその折折に子を発たしめつ

時刻表にありて来ぬバスひとり待つすでに待つのみの姿勢となりて

かかる重きを負いて父祖らの寡黙なりし知りゆくと思うわが如く子らも

関西に生まれ暮らしておられたのですが、印象的な雪の歌が多く、意外でした。珍しいものを見たという表層的なとらえ方ではなく、魂の奥深いところで雪を見ているような歌が並んでいました。ただ景色を詠むだけではなく、見えないもの、精神的なもの、これから先のこと、それらを表現しようとしている歌が増えています。


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朝から朝(1972年)

かかる折何をして人は時を遣(や)る立ちこめて雨しろき昼すぎ

虹の下くぐり行くとは知るはずもなき遙かなる車見て居り

水の辺はことに光の集まりて風の梳きゆく柳の黄

一首目、白雨(にわか雨)の時の手持ちぶさたな様子。二首目、吉野弘の詩「虹の足」(バスの乗客からは見えるのに、そこに住む人は気づいていないという虹の足)を思い出す。幸福のさなかに在ることに、気づかない私たちを暗示している。三首目、観察が細やかで気持ちのいい叙景歌。どれも自然な詠みぶりです。


新樹(1976年)

わかりましたと言う足どりに去りて行く犬に行く先ありと思えず

壁の如く顔ひしひしと我に向くエレヴェーターの扉があきて

ユーモアも感じさせる余裕のある詠みが魅力的で、思わずにやっとしてしまいます。


一瞬の夏(1978年)

秋日ざしの中に漂う蜂一つかそけき風に乗るとき迅し


湖に架かる橋(1981年)

生活の底辺にありという思い歌を支えき歌が支えき

わが生くる限りは母も在りというをひとり思えり旅の山路に

亡き人の歌集を読めば気づかざりしよき歌多し告げたきものを

人生を振り返っての感慨。二首目は、私もいつも思っていたことなので、大変共感を覚えました。


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光の春(1984年)

「深き眠りもまた旅なり」と蔦覆う墓石に読めり四行の詩(うた)

はかりがたき粉雪ひとひらひとひらの動きもついに土におりゆく

雲の影大いなる幕引くごとく林の中をかすめて過ぐる

耿々として眠れざる一夜ありほのかなる心の芯をめぐりて

ゆるくゆるく過ぐる病院の一日よ忘れいし生命の速度と思

人の世に求むるは無しただ父に母に今日までのこと語りたし

昨日の朝日歌壇に、先日亡くなられた竹山広氏の生前最後の歌集から「あな欲しと思ふすべて置きて去るとき近づけり眠つてよいか」という一首が紹介してあり、ここにあげた一首目と重なりました。最後の一首、「その通り」と思いながら読みました。子を持ち親になっても、ずっと「父と母の子」なのです。心の底から「頑張ったね。良く生きたね。」とほめ言葉をかけてくれ、無償の愛を注いでくれるのは、父と母。自分のことを認めて、満足して頷き、優しく穏やかな目で見てほしいのです、いくつになっても、子どもというものは。


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未刊歌篇

春の日に照りて我が亡きあとの街かくと見て行く癒えたる今日

いまだ目にさやかならねど落葉松の芽吹きの気配森に満ちたり

寒き春山辺の木々の芽吹きいまだきらきらと枝は光を交わす

「我が亡きあと」を自覚しながら、しかし、明るい春の到来を待っている、これらの歌に、氏の、未来に生きる人たちへの希望と期待を感じ、胸がいっぱいになりました。

テーマ: - ジャンル:写真

この記事に対するコメント
一番乗りかな?
こんばんは。
日本列島異常気象ですね。そして中国の地震・・・・。続きますね。

良い短歌が沢山で、まだじっくりと読ませては頂いていないのですが、
パッと目に留まったのが次の歌です。
  *わが生くる限りは母も在りというをひとり思えり旅の山路に
このところ何かとお着物で出かける機会があるのですが、つくづく
あ~こうして母と出かけたかったなぁ~、と思うのです。
子どもたちの前でもポロリと言う時もあって、「おばあちゃんは今お母さんと
一緒に着ているんじゃないかな?そう思ったら楽しいよ」とそんな言葉に励
まされています。
『母』ってやはり特別な存在ですね。父親には申し訳ないとも思いますが・・・。

またゆっくりおじゃまいたしますね。 
【2010/04/14 21:27】 URL | 初夏 #r0k8YTqw [ 編集]


どうもです・・・

桜・・・とってもキレイですね~まるでプロのカメラマンみたいです。
見ていてこっちがすがすがしい気持ちになります。

工場歌会・・・? どういう意味だろうとフト気になりました。
どの作品も深みのある素晴らしい短歌だと思います。

こっちは夏~秋に第二歌集を出すべく作歌に取り組んでいる状況です。
前作の続編で、普天間詠(多分、日本初?)を中心にした一冊に仕上げる予定です。
上記のような良い作品に出合うと、いい刺激になり創作意欲がどんどん湧きます。
最近好調で一か月で百首作歌した事にビックリ!です。

では、また・・・
【2010/04/14 21:42】 URL | 中村ケンジ #- [ 編集]

初夏さんへ
こんばんは。
一番乗りのコメント、ありがとうございます。
>日本列島異常気象ですね。そして中国の地震・・・・。続きますね。
ほんとに。人間が地球にひどいことをしているだけに、警告のように思えます。

>わが生くる限りは母も在りというをひとり思えり旅の山路に
亡くなった人も、自分が思い出す限り生きていると、常々思っていましたので、私も、この歌は自分のことのように感じました。
>あ~こうして母と出かけたかったなぁ~、と思うのです。
そうですよねえ。私も、和服の好きな母や姉が生きていたら…と、何度も思います。
親御さんの介護で大変な方もおられるけれど、やはり長く生きて一緒に過ごせた方は羨ましいです。
それにしても、娘さんの言葉の優しいこと!
ご主人も優しそうでしたし、皆さん穏やかに、心を大事にし合って暮らされているのが、目に見えるようです。
【2010/04/14 23:17】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

中村ケンジさんへ
こんばんは。
写真、ほめてくださってありがとう。
先日の歌会の時も、ほめてくださる方があって、嬉しく思いました。
でも、桜のおかげです。
今回の1枚目は、アップして気づいたのですが、銀色の日傘が目立って、ちょっとショックなのです。

>工場歌会・・・? どういう意味だろうとフト気になりました。
昔は、職場歌会や職場句会が流行っていたようですよ。
工場で働く人たちが職場で歌会をされるのに、高安先生は評者でお出かけだったのだと思います。

>最近好調で一か月で百首作歌した事にビックリ!です。
すごいですね。頭と心が「短歌」モードになってるんですね。
歌集も意欲的に取り組まれてるんですね。楽しみにしています。
中村さんの場合、ふるさと沖縄の歌は、実感も愛情もこもっていて、やはりいいですね。
【2010/04/14 23:24】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年3カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
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