心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌&風景-河野洋子歌集『約束』&大和郡山城址の桜
 染井吉野が終わり、八重桜と木々の若葉の美しい季節になってきました。寒暖の差が激しい日が続いていますが、皆さん、お変わりありませんか?3回連続で、桜の写真と歌集とをあわせてアップしてきましたが、それはとりあえず今回で終了です。

最後の今回は、河野洋子(こうのようこ)さんの歌集『約束』 (2009年/北冬舎)と、4月3日に撮った大和郡山城址の桜とを、あわせてご紹介します。

IMG_6741100403.jpg

冬なれば冬の月見る人ひとり忘れ難ければ忘れねばよい
あるがままの自分で、自分に嘘をつかず、生きていこうという作者の意志が読み取れる冒頭の歌です。人生の真実はシンプルであるということに、共感を覚えました。

誰も誰も一番きれいだつたときありて今年の花便りかな
たぶんそれは、与謝野晶子も歌に詠んだ「美しい二十歳の頃」。年をとるというのは、寂しいものです。

降り立ちて無人駅なる改札を抜ければ異郷に入りたるごとし
旅人の心で降り立つ駅の先には、見知らぬ世界が待っているようで、空想が広がります。

楠の花かそけき匂ひを風は運び誰かに優しい言葉を言はむ
花の香に優しい気持ちをもらった作者が、それを今度は人にという優しさが好きです。

草原に身を横たへてゐたりけりモンゴルの風は風の原型
モンゴルに憧れ続け、いまだに行けていない私の頭の中のモンゴル。この歌を読むと、草原に寝転がり、遮られるもののない風な中に、私もいるようです。

IMG_6709100403.jpg

水引き草の素枯れたるが咲く廃駅にひとり遠く来て遠く帰りぬ
遠く来たのだから、遠く帰るのは当たり前なのですが、帰りの遠さが強く思われます。

一人よりふたりが寂しと詠ひたる若き日何も知らざりしかな
私にも似たような若い日の覚えがあります。今、ほんとうに一人になって知る寂しさに、言葉のない作者なのだと思います。

いくつもの選択肢あつたはずなのにああいつまでもつづく坂道
登り道がしんどいとき、下り坂が不安なとき、「もし、あの時、違う方を選んでいたら…」と思うことがあります。みんな、同じように思いつつも、何とか生きているんですね。

こののちの独りを思ふ気の遠くなるほど永き独りかも知れぬ
連れ合いを亡くしたあとの孤独感。「気の遠く」に、この五月で百二歳になられる方の、結婚数年にしてご主人を亡くされた、その長い時間を思いました。「永き」なのです。

まだ温きあなたの骨を拾ふなり箸に拾はず指もてひろふ
この一首で、作者にとって、ご主人がどんなに大切な方であったかが、痛いほど伝わりました。亡くなった方にも、この思いは届いていると信じたい、そう思わせてくれた歌です。

       IMG_6697100403.jpg

月命日の今日を忘れて悲しみもいつか花散るやうに忘れむ
生きるということは、そうなのでしょう。でも、この歌のように忘れられればいいと思いつつ、決して忘れることのできない作者が居ることも確かなのです。

君がゐてもいつも静かな夜だつた指が勝手に折り鶴を折
穏やかなお二人が静かに読書をされている、いつもそんな夜だったのでしょう。

幸せを競ひ合ふやうな会話あれば人日(じんじつ)車中に目をつぶりたり
人日とは、1月7日のこと。子の進学・就職・結婚、夫婦での趣味や旅行など、本人たちは身辺報告のつもりでも、他者や弱者には「自慢話」のようで、いたたまれない気持ちになることがあります。

吊り広告は「男のすべて大バーゲン」少し可笑しい正月十日
前の歌に並んだユーモラスなこの歌。電車の中は、人間や世相の観察に事欠きません。

「このまま老夫婦にならむ」と言ひかけて言はざりし冬 言へばよかつた
言霊ということを考えました。結句のような思いを抱えて生きること、多いです。そして、それは寂しく悲しいです。


IMG_6737100403.jpg

独身の夏は如何と問ふ便り愉しいと言へばいいのでせうか
元気を出してもらおうと思って出した手紙かも知れません。でも、無神経な言葉は、刃(やいば)の冷たさです。

駄菓子屋のガラス戸ゆがみ夕ぐれの町は鼈甲色をしてゐた
映画「三丁目の夕日」を思わせるようなレトロな世界。どの言葉も、無条件に懐かしいです。

父の齢はるかに越えて生きるとも死ぬまで子なり夏三日月よ
「死ぬまで子なり」は、真実です。

独りゆゑひとり眠れば夢にさへわれは一人でもの食みゐたり
当たり前と言えば当たり前なのかも知れませんが、せめて夢ぐらい…と思いますよね。

さみどりのキャベツをきざむ春の歌赤ちやんがきた赤ちやんがゐる
上の句の明るさと下の句のリズムがぴったりで、お孫さんを迎えた喜びがあふれています。


IMG_6752100403.jpg

水匂ふ三条蹴上インクライン 歩きたし人と手などつなぎて
京都は学生の街というイメージが、私たちの世代にはあるせいでしょうか、哲学の道をはじめとし、京都の町は歩いていると、学生時代の気分に戻ってしまうようです。


 9年前の春、ご主人を亡くされたと、あとがきにありました。優しく静かな気配の漂う歌集に、作者の思いが慎み深く託されていて、私もその気分に浸りながら読ませてもらいました。引用した歌に、挽歌が多いのは必然だったのだと、あとがきから知りました。
歌の中に出てくる「奈良町や小西通り、中也や道造、サガンや一葉」、同じような所で、同じような青春を過ごしていたのかしらと、どこか旧友に会うような懐かしさのある歌集でもありました。一度お会いしただけなのに、なんだか自分と似たタイプの方と話をしているような、そんな気分で読んだ歌集です。


テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

ただいまです・・・

今日は滋賀県春季短歌大会でした。滋賀県歌人協会役員なので会場案内や打ち上げで疲れて帰ってきてこのHPのキレイな桜の大画面を見て、少し疲れがとれたトコです・・・ありがとうございます。

今年は秋に草津のホテルで歌人協会30周年記念大会があり講師に馬場あき子を迎えるのでその準備に忙しい状況です。

また、どんどん更新してこのHPを見ているみなさんを癒してくださ~い。
【2010/04/18 19:49】 URL | 中村ケンジ #- [ 編集]

中村ケンジさんへ
こんばんは。
いつもコメントをありがとうございます。
滋賀県の歌人協会で、お忙しいのですね。
馬場あき子さんは、凛とした感じの、とても真面目な方みたいですね。

桜は、まだ万博のもあるのですが、
あっという間に桜の季節も終わり、アップしようかどうしようかと迷っています。

この頃ひそかに「写真俳句(写俳)」を、楽しんでいます。
【2010/04/18 21:10】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


お久しぶりです。
時々お邪魔していまいた(こっそりと)
そちらはもう春満開ですね、こちらはまだまだです。
桜を見ていると、心がほっこりと暖かくなってきます。
載っている詩もなんだか今の私の気持ちに似ています。
娘が東京へ就職して一年が過ぎました。

>こののちの独りを思ふ気の遠くなるほど永き独りかも知れぬ
とくにこの詩が心に沁みました。


【2010/04/20 10:18】 URL | 夢詩 #- [ 編集]

夢詩さんへ
こんばんは。
お久しぶりです。お元気でしたか?
私も、すっかりご無沙汰していました。

>こののちの独りを思ふ気の遠くなるほど永き独りかも知れぬ
娘さんが独り立ちされて、親としては嬉しい反面、寂しさもありますね。

>そちらはもう春満開ですね、こちらはまだまだです。
こちらは、すっかり散ってしまい、もう牡丹の季節です。
が、日によっては、思いがけない寒さで、職場ではストーブをつける日もあります。
夢詩さんのところは、連休あたりに一斉に春が来るのでしょうか。
北国の春は、待ち遠しい分、美しさが際立つ気がします。

【2010/04/20 18:55】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


桜の色が亀さんの目を通すとどれも優しいです。
長かった今年の桜、さすがに終わりましたね。


どの歌も共感できるものがありました。
最後の説明で納得できました。

独身の夏は如何と問ふ便り愉しいと言へばいいのでせうか元気を出してもらおうと思って出した手紙かも知れません。でも、無神経な言葉は、刃(やいば)の冷たさです。

受け取り方って人それぞれですものね。
相手の何げなく言った言葉、本当は元気づけるための言葉だったのかもしれませんが刃になった時がいっぱいありました。
【2010/04/20 19:44】 URL | ベンジャミン(Keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

凄い!
なんか前にも同じ題名を使ったような。でもこれしか思いつかない。これしかマッチしない。
京都の桜も良いけど、(私はバスの中から、ピンクに煙る並木を見ました。さすがに下はすごいですね。夜通ったけど、昼間の景色とは違います。夜はちょっとおどろおどろしい)桜ってやっぱりお城に似合いますね。城壁に映えて、時代が解からなくなりそう。藤沢周平が好んでこの花を取上げる意味が解かります。

所で、歌はどれも心に染みました。喪失感を歌った時、格別に立ち上る物があるのでしょうね。河野洋子さんのお名前覚えておきます。お綺麗な方なのでしょうねえ。麗人と言う言葉を思い出しました。
【2010/04/21 03:03】 URL | 犬塚 #- [ 編集]

ベンジャミン(Keiko)さんへ
こんばんは。
東京は、今日は夏日で、明日はまた寒くなるそうですね。
こちらも暖かいようで寒く、セーターをなかなか片付けられません。
連休には、衣替えをきちんとできるといいのですが…。

写真のおほめの言葉、ありがとうございます。
これだけ連続して載せたら、さすがに今年の桜も満足です。

>どの歌も共感できるものがありました。
>最後の説明で納得できました。
そうですね。私も読みながら、なんどもベンジャミンさんのことが浮かんできました。
ベンジャミンさんや、私の兄の気持ちになって読んでいたと言っても、過言ではないかもしれません。
大切な人を喪うということは、自分の隣に、埋められない大きな穴ができた感じとでも言えましょうか。

言葉は、人を救ってもくれるし傷つけもする、大切だけれど難しい存在ですね。


【2010/04/21 22:04】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

犬塚さんへ
こんばんは。
桜をほめてくださってありがとう。桜にもほめ言葉が聞こえるといいな。
桜は、お城や寺社仏閣などの建物が映えますね。人間に近い花なのでしょう。
また来年、きれいな桜を楽しめますように。

>歌はどれも心に染みました。喪失感を歌った時、格別に立ち上る物があるのでしょうね。
そうですね。挽歌は、いちばんの愛の歌だと思います。
とても素直に気持ちを詠まれていて、すっと心に入ってきました。

>河野洋子さんのお名前覚えておきます。お綺麗な方なのでしょうねえ。
歌からわかるんですねえ。
小柄で慎み深い印象の、お顔も可愛い方です。
がさつな私としては、ちょっとも見習いたいところ。
所属結社が違うので、詳しくは存じ上げないのですが、少しご縁があって歌集を頂きました。

【2010/04/21 22:15】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


アマゾンの中古の本の売買ガイド!
運営者の浜田健次郎と申します。

内容に深みがあるサイト運営をなさっていることに素晴らしいと思いました。
そこでと言ってはなんなのですが、そのようなサイト様とぜひとも
相互リンクをしていただきたいと思い、連絡させていただきました。
なお、貴サイトは既にリンク済みとなっております。

サイト名・・・アマゾンの中古の本の解説!
サイトURl・・・http://used-book.tongari-pocket.net/
貴サイト様リンク掲載URL・・・http://used-book.tongari-pocket.net/links3.php
アマゾンで中古の本を売買して、有効利用するためのアドバイスを行います。

よろしくお願い致します。
【2010/04/23 11:05】 URL | #- [ 編集]

浜田さま
コメントとリンクをありがとうございます。

アマゾンで中古本を売ることはしたことがありませんが、買う方は、お得意様だと自負しています。

図書館で借りた後、どうしても手元に欲しい本は、郵送料を勘案して購入の是非を決めます。
増えるばかりの本に、「書斎よ、手に入れ!」と、念じている日々です。
【2010/04/23 19:06】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kamenoashioto.blog52.fc2.com/tb.php/398-dc236d68
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年3カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



カテゴリー



最近の記事



最近のコメント



リンク

このブログをリンクに追加する



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カウンター



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



ブログ内検索



RSSフィード