心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌(歌集)-立川目陽子歌集『螺旋のつぼみ』
 立川目陽子歌集『螺旋のつぼみ』 (青磁社/2010年/2500円)

   rasenomote1006.jpg カバー   rasennaka1006.jpg 本体


色白できれいな肌のご本人を彷彿とさせる、淡くて上品な装丁の歌集である。昨夏、京都であった「塔」全国大会で仲良くなった立川目さんは、すらっとした外見そのまま、あの暑い京都でも涼やかであった。この歌集も、彼女の印象そのままの端正な歌が、寂しさを底辺に漂わせながら並んでいた。
抑制した表現で、生の気持ちを出さないように心がけた歌の数々。我慢強く、遠慮がちで、おとなしい方なのだと思う。どの歌も、とても「歌」らしい歌で、落ち着いた調べで詠まれている。


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母として

わがために書くと気づけり書き終へし子への手紙の切手はらずおく

子への手紙もつとも伝へたき言葉を白く消したり5センチが照る

四日ほどをバッグにありし子への手紙ゆふもやに濡るるポストに落とす

思春期の息子に、自分の気持ちをまっすぐぶつける母親の漫画「サムライカアサン」というのがある。こんな風に生きられたら、母も子もずいぶん楽だろうと思うが、現実の親というのは、この歌の作者と近いところにあるのではないか。

思ひ出はおもひだす度あたらしく記憶に積めり子を産みし夜も

来世にもふくふく産んで育てたい学卒へし娘と緋ざくらの下

母としては、いろんな不安や心配事もあるのだろうが、振り返ってみると、どれもこれも充足感に満ちた幸せな時代であったのだと気づく。温かくて優しいお母さんだ。


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子として

病む母と謎解きのごとき会話なり母のうなづく笑顔で終はる

ただひとり仰臥する人をみおろせりこの世の父を亡骸として

過去形に言へばすべてのうべなはれ額縁の中の死者がはにかむ

形見分けと畳紙ほどけば唐突にすこやかな母の気配は満ち来

ちちははを救ひし病院と車窓に見つわが住む総(ふさ)の母艦のごとく

五首目の「母艦のごとく」に、共感を覚えた。ご両親への思いは複雑なものもあったようだが、ここにあげた歌はどれも穏やかで、私はとてもいい歌だと思った。


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己自身を

さびしさが微振動するセーターのネックを口元に当てて歌へば

床の上に切られゆく髪ふつさりとかたちをなして放熱はじむ

吾を君と呼びし少年にあくがれき教室のなかの銀色(ぎん)の標準語

藪椿ふるさとの花とおもふとき見上ぐる紅は色あせぬ過去

子育てを終えた寂しさ、両親を看取る寂しさ、子ども時代に二度と戻れぬことに気づく寂しさ…、人生はなんとたくさんの寂しさを抱え込むことだろう。でも、その寂しさは、自分を愛おしむ気持ちと抱き合わせなのだ。過去も今もこれからも、大切にしたい自分の人生、そんなことを思いながら、これらの歌を読んだ。


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命あるものへの共感

乳を飲む赤子の足うら機嫌よし見えないものに絶えず触るるも

採血をせし獣医師のま白き手一度も触れずわが犬の体

この家でもつとも先に逝きし犬 いぬの時間をたつぷり生きて

たまきはる百一歳がはればれと生きてゐるなり電話のむかう

食堂に老人がひとり飲む麦酒ぽつりぽつりと泡が消えゆく

二首目の歌、最近は犬ばかりでなく、人のお医者様も病人の体に触れることなく、検査結果とパソコン画面のみを見ている。幼い人、犬、お年寄り、彼女の目が行くところは、労ってあげなくてはいけない存在ばかり。思いやりに満ちた人なのだ。


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自然への一体感

カーブ曲がる電車の中に傾ぐ時はつなつの光われをつつめり

わたくしの日傘がおほふ道の上に自死せしやうに横たふ蚯蚓

雨が上がった後、アスファルトの路面で死んでいる蚯蚓を見るたびに、申し訳なくなる。人間の都合で、働き者の蚯蚓から土を奪った私たち。それを「自死」ととらえた感性に心ひかれた。故郷を離れ、心の底から都会の住民になれない私も、「蚯蚓のようだ」と、アスファルト上の蚯蚓を見るたびに思う。「都会の蚯蚓」を歌に詠みたいと思いつつ、私はまだ果たせないでいる。

紅椿おもたく咲ける一樹あり支ふるものはつね無言にて

あらたまの昼の光をためてゆくきんかんの実の一つひとつが

どちらの歌も、単なる情景描写ではなく、家族や人生を暗示しているように感じた。「無言」であることへの矜恃。あらたま(新玉の年)の光の、めでたさ、ありがたさ。明るい未来を願い、健康や平和を祈る気持ちが出た二首目の歌には、一日一日を丁寧に生きていこうという作者の決意も伺える。

ほ、ほ、ほ、ほ、とまあるい光を産みながらにほひつづける臘梅のはな

まだ寒い中、春の訪れが近いことを知らせてくれる臘梅の花、外の光を受けながら芳しい香りを辺りに漂わせ、光の粒のように開いていく様子を、とても素敵に表現されていて、嬉しくなった一首である。花の形も「ほ」という言葉がぴったり!これからも、自然を詠んだステキな歌を、たくさん読ませてほしいな!

 紫陽花の写真は、今年の6月20日に万博記念公園で撮りました。

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

更新、待ってました~

それにしても、相変わらず写真の技術はスゴイけど一首一首の説明の文章力もスゴイです。

オレも次の歌集は、上記のようにかっこよく紹介してもらえたら幸いです。
・・・さぁ、今夜も作歌がんばろうっと!
【2010/07/02 23:18】 URL | 中村ケンジ #- [ 編集]

中村ケンジさんへ
こんばんは。
おほめ頂いて恐縮です。
歌作り、頑張ってくださいね。

風邪引きの方を見舞いに行って、逆に風邪をもらってしまいました。
冬には風邪を引かないのに、夏の冷房に弱くて、参ってしまいます。
夏は暑いのが当たり前なのに、異様に効き過ぎる冷房、何とかならないかしら。
【2010/07/03 21:25】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


中村さんの書かれているように写真、素晴らしいです。
紫陽花もそろそろ終わりですね。


『母として』から
私も娘に書いた手紙は何通にもなります。
渡さず破り捨てたものが多いです。
書き直して何枚もオブラートをかけたもの、渡した後も娘たちの反応が気になって気になって仕方がないんです。


先日、同じように娘2人を持つ友人と話しました(彼女も未亡人)
 ・娘たちの生活の邪魔にならないように生きる。
 ・言いたい事、言っておきたい事がいっぱいあるけど頭のいい(私より)娘に口ではかなわない。
 ・娘と言い合いになって、その後の重苦しさが夜になっても翌日になってもなかなか消えない。
 ・ひと言、「ほっとけよ」「気にするな」「俺から言っておくよ」と言ってくれる夫に居てほしい。



その友人が言いました。
「傷つくのが怖いのよね」
「私が育てたのよ。」
「今の私、娘にそれだけの事を言える人間かしら」って。

女同士(母娘)ってかなりシビアです。
【2010/07/04 09:29】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

ベンジャミン(keiko)さんへ
こんばんは。
風邪がなかなか治らなくて、困ってます。
冬には引かなかったのに、夏の冷房でやられてしまいました。
先生の風邪と同じ症状なので、私がすべて引き受けたようです。
まあ、それで、先生がお元気になられたら、それはそれでいいのですが。

>女同士(母娘)ってかなりシビアです。
そうなんですね。
私は、自分の母に対抗できるほど母が長く生きてなかったし、自分にも息子二人しかいないしで、この辺のところが全然わからないのです。
作者の立川目さんは、娘さん二人と息子さん一人がおありだし、お母さんも長生きされたようだから、女同士(母娘)のいろんな思いがあるのだろうなと、推測するばかりです。

同性だから、互いに要求が高くなるし、見る目も厳しくなるんでしょうね、きっと。
我が家は男ばかりなので、無口。お互い何にも言わないので、わかりません。
楽と言えば楽ですが、こんなんでいいんかな?とは、時々ちらっと思います。

立川目さんもそうなのですが、字がきれいな人は手紙を書くのが苦でないですよね。
面と向かって言いにくいことや、何としても伝えておきたいことは、形に残るものの方がいいのだろうなと思います。

【2010/07/05 18:11】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


風邪・・・早く良くなってほしいです。

お大事に!
【2010/07/05 23:06】 URL | 中村ケンジ #- [ 編集]

中村ケンジさんへ
ありがとうございます。
仕事には行っているのですが、夏風邪は治りにくいですね。
【2010/07/06 18:00】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年6カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
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