心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌-伊丹公子句集『博物の朝』
伊丹公子第14句集『博物の朝』 (角川平成俳句叢書20/2010年刊/2667円)

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 作者の伊丹公子さんは、1925年生まれ。現在、神戸新聞俳壇の選者をされています。先日、この句集の出版を祝う集いがあり、伊丹三樹彦・公子ご夫妻主催の句会に参加させてもらっている関係で、私も出席させて頂きました。集いの会場は、お二人のお住まいの近くで、私も新婚時代に暮らして毎日前を通っていた所だったので、とても懐かしかったです。

句会には、この5月から参加しているのですが、句の読みの勉強だけでなく、伊丹公子さんが、詩人の村野四郎氏、伊藤信吉氏に師事された話、伊丹三樹彦氏と榊莫山氏の二人展、小野十三郎氏との関わりなど、私も好きな方たちについての興味深い話が次々出てきて、毎回わくわくしながら生きた文学史を聞かせてもらっています。


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先日の祝う会の挨拶では「合わせて175歳の現役俳人!」と三樹彦氏が喜ばれ、公子さんの方は「年のことは言わなくても…」とおっしゃっていましたが、ご夫妻の温かいお人柄そのままの、とても和やかで楽しい会でした。来られていた方々も、皆さん明るく親切で、初対面であることを忘れるほどでした。とても仲が良く絶妙なやりとりをされるお二人を拝見しながら、このユーモア力と笑顔が、素晴らしいご家族の秘訣なのだなと思いました。

私の高校の恩師が、高校の文芸部で坪内稔典氏(当時「玄」所属)を教えていた頃、当時「玄」主宰だった伊丹三樹彦・公子ご夫妻が来られて句会をされたこと、五十崎・内子町にできたばかりの俳句結社「せきれい」を応援に来られたことなどを、最近恩師から聞き、不思議な縁を感じました。先日の祝う会で、隣の席だったNさんも、「玄」(今は「青群」)に長い間所属されていて、「内子にも松山にも結社の大会で行きましたよ」と言われていました。俳句の盛んな土地に生まれた幸も感じた私です。


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前置きが長くなりました。好きな句がたくさんある『博物の朝』ですが、写真の句と重ならぬよう、とびきり心ひかれた20句に絞ってご紹介します。間に挟んである写真は、『博物の朝』の句に伊丹三樹彦氏の写真を合わせて、句集出版記念の絵はがきにされたものです。許可を頂いて、12枚セットの中から5枚転載しましたので、あわせてお楽しみ下さい。

2007年

寂しいライオン座る 真昼の花吹雪

凌霄花(のうぜん)の あてどなき朱よ 町黙る

象の皺ゆれる 晩秋のひかり分け

一句目と三句目は、動物園での情景。強い動物、大きな動物ほど、動物園という狭くて人工的な場所に縛られている姿が、寂しく見える。動物を間近に見られる喜びを享受しながらも、動物の哀しみが作者にも伝わってくるのだ。
二句目の凌霄花は、夏の暑さの中でもぐいぐい伸びていく強い花。人々は暑さを避けて、家の中に逃れ、町は静まり返っている。夏真っ盛りの中、朱色の花の生命力が印象的だ。


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2008年

入院室から見えぬ桜が 咲いて散る

春風の言葉で 友に見舞われる

花ざかりの外れ 点滴ずっと無音

のち生きる歳月知らず 花ざかり

病気で入院されていたときのこれらの句が、切ない。桜の花盛りに、外気を浴びながらの花見ができないというのは、いちばん辛いことかもしれないと想像した。

秋思の犀 来たりて水に座すばかり

亡き友の確かに居る町 透く秋の

犀、河馬、象、地味な色彩で皮の厚そうな動物が、私はとても好き。三樹彦氏は「河馬が好き」と言われていた。坪内稔典氏も全国の河馬に会いに行かれた。さて、五句目の「秋思の犀」、確かに「秋思」は「犀」が最もふさわしい。「透く秋の」という結句がもの寂しくて、この句にとても合っている。透明感ある秋の気配の中では、亡き友も近くにいるように感じられるはず。抒情豊かで、共感を覚える句。

幾歳月 開け閉めされし戸の並ぶ

言葉の選び方と、戸の「開け閉め」を句にされたところに、心をつかまれた。京都の木屋町辺りの町家が並ぶ夕暮れ時の情景が浮かび、映画の一場面を見るようである。時間(幾歳月)と空間(戸の並ぶ)の奥行きがあり、読み手に物語を紡ぐ喜びを与えてくれる。


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2009年

帰る国ある鴨を いま目前に

「帰る国ある」というところに、他の社会的な事象も思い浮かべ、深く読めた句である。

黄金期の母子駆けてくる 象の前

子どもたちがまだ小さくて、子育ての一番楽しかった時期は、今振り返ると、ほんとうに「黄金期」だと思う。動物園で、真っ先に駆けていくのは、もちろん象の前。懐かしさで胸がきゅんとなる一句。こんな幸せな時代があったことに、感謝したい。

桜散る彼方へ歩く 今日生きて

この句は、長年生きてきた人にしか詠めない句。いつか私もこういう句が詠めるようになりたい。

飛魚(とびうお)をみた日の睡り 島の宿

旅先での心躍りがよくわかる。海の色や波の音まで聞こえてきそうな、素敵な句。

鮎を焼く 日昏の紫 かさねつつ

上手な句を詠まれるのは当たり前なのだけれど、それにしても上手いなあと思った句。鮎の色(煙や焼き色も)と日昏の紫がとても合っているし、トワイライトブルーを「日昏の紫」と優しく言われたところに感心してしまった。「かさねつつ」も時間の経過を感じさせ、素晴らしい。

窓あけた形に どっと 蟬の朝

一斉に降るように鳴く蟬の声を、「窓あけた形に」とリアルに表現されたところに、ゆるぎない実感がある。

晩秋の壁に映りて 弦の指

とても洒落た一句で、秋の空気感を繊細に表している。八木重吉の「この明るさのなかへ ひとつの素朴な琴をおけば 秋の美くしさに耐へかねて 琴はしづかに鳴りいだすだらう」という詩「素朴な琴」を思い出した。どちらも魅力的で大好きな作品だ。


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2010年

幸せの記憶ばかりの 雑煮餅

この句を読んで、「みんなそうだったんだな」と思った。両親が元気だった頃、餅の数を競って食べた、あの幸せな時代を思い出して、泣きそうになった。

沈丁の香りて 既知の町となる

沈丁花は、私にとっては忘れられない大切な花。春先に沈丁花の香りを嗅ぐと、一気に思いは母へとつながっていく。五感の中で、思い出といちばん強く結びついているのは、嗅覚だと確信した。

初蝶の ひかりおさなく 低くとぶ

「ひかりおさなく」というのが、詩的で心に残った。何かまだ弱くいたわってあげたくなる初蝶の様子が、目に見えるようだ。

 詩情豊かな俳句は、どれもみずみずしく、易しい言葉で優しく詠まれていて、ほわ~んと幸せな気持ちになった。


テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

私も読んでて幸せな気分になった。
そして、がんばろうという気分になってどんどん創作意欲がわいてきた。

・・・上記の美しい画像を見て、一瞬夏バテが吹っ飛んだ。おおきに!
【2010/07/19 12:16】 URL | 中村ケンジ #- [ 編集]

中村ケンジさんへ
こんばんは。
一気に夏になりましたね。
夏バテですか?気をつけて下さい。
今日は、家の中を涼しい風が吹き抜けて、快適です。

俳句を読むと、発想の飛躍に刺激され、創作意欲が沸きますね。
私、頂いた句集や歌集がたくさんあって、ここずっと必死で読んでいます。
【2010/07/19 22:19】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


お写真はどれも伊丹さんがさんが撮られたものですか。
いい写真ばかりなので何度もスクロールして見せて頂きました。


まったく関係ないのに何故か病気の妹が思い出されました。
お盆の時に来てくれたり、メールの回数が増えたりしているからかしら。
何をしてあげられるのだろう、
何も出来ないのだろう、
・・・
また、会わなくなるとこんな感情も薄らぐのです。

趣味があれば・・・そんな問題じゃないのかしら。
でも、何か趣味を持ってほしいです。
俳句をつくる、なんて高尚な事でなくてもいいから。
私から見ると、やりたい事が次々にあって日々の時間がもったいないです。
【2010/07/21 09:38】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

こんばんは
今日も暑い一日でしたね。
私は、昼の長いのが好きなので、暑くても夏がいいのですが、
熱中症で亡くなる方も出たようで、気をつけなくてはいけませんね。
お習字の先生は、暑いのが苦手とガンガン冷房をかけられます。
私は冷房が苦手なのですが、高齢になると先生のようになるのかしら?

お写真はどれも伊丹さんがさんが撮られたものですか。
はい。伊丹三樹彦氏が撮られた写真に、好きな句を組み合わせられたそうです。
かなり高齢になられるまで海外もたくさん行かれていたので、海外の写真も多いです。
人間を入れるのがお好きですが、たまたまここではそうでないのばかりになりました。

写真歴も俳句歴も相当なものですが、90歳の今も心身ともに柔軟で感動します。
85歳で脳梗塞になられ、一時は言葉も出ず体も不自由で車いす生活だったそうですが、毎日20句詠むことをリハビリの一つとされ、今は杖も不要でお元気です。
ご夫妻の貴重なお話を、皆さんにも聞かせてあげたいです。

>私から見ると、やりたい事が次々にあって日々の時間がもったいないです。
ほんとですね。人生、楽しめることがいっぱいあるのに、楽しめないのは悲しいですね。
【2010/07/21 22:35】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年3カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
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