心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌(歌集)-尾崎知子歌集『笹鳴り』
尾崎知子歌集『笹鳴り』  (青磁社/2010年/2500円)

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尾崎知子さんに初めてお会いした(はっきりお顔を拝見した)のは、5月末に東京であった真中朋久さんの表彰式での二次会。ずいぶんきれいな方だなあと、ぼんやり見取れていたことを覚えています。以前、拙ブログで歌集をご紹介した立川目陽子さんからお話があってと、歌集を送って下さいました。早くご紹介しなくてはと思いつつ、自分の歌集のことでバタバタしているうちに、尾崎さんからは私の歌集への丁寧な感想が送られ、全国大会でお会いし、オプショナルツアーもご一緒できるという嬉しいできごとがありました。頂いてすぐ読んではいたのですが、これ!と思う写真がなくて…、今日やっとアップできました。
*8月に松山であった「塔」全国大会の折に撮った写真とあわせて、ご紹介します。

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   【往路の「しおかぜ」の車内】

ビル壁に影絵のやうに動きつつ薔薇売る男の胴長くなる
結句が時間の経過を感じさせて面白かった。作者は、向かい側のビルにある喫茶店にいたのかな。

いちやう散る海岸通りゆく夕べ落葉の上からつぶれ実を踏
上句のおしゃれな感じと、下句のぐにゅとした感触を思い出させる具体的な身体感覚の取り合わせがいい。

桜木にカメラ構えてゐし男三脚たたみ桜に消えぬ
結句で、とても幻想的な歌になり、花の精にとらわれた男の物語が作れそうな気がした。

窓に向き立ち読みしてゐる少年の顔が見えない「少年ジャンプ」 
コンビニの風景をマンガ誌で切り取ったところに、非人間的な社会への風刺も効いている。

無声映画のフィルムのごとく川流れその中に捨てられし自転車
上句の比喩で、都会の川の色やセメントで一定の幅にされている様子がくっきり見える。

負け惜しみのやうに水仙咲き始む道路建設予定地の中
自然が奪われ、また一つ人工的なものが造られていくことへの怒りが、「負け惜しみ」に読める。

ひとり行く道に迷へばロンドンの街に羊の貌のひとたち
ストレイ・シープ(迷える羊)を連想する隠喩が、漱石も暮らしたロンドンの街に合っている。

粉をひく小屋のドアより出てきたる大男なりドアより大きい
結句の観察力とユーモアにひかれる。外国の絵本で昔話を読むような感じがした。

ウィリアム・モリス住みにし田舎家にわれらと入る草原の風
とてもさわやかで、選ばれている言葉がどれも、ウィリアム・モリスの雰囲気にぴったり!と思った。

人工呼吸に胸を押さるる人形は押されるたびにずり下がりゆく
ほんとに!その通り!と思った。経験のある人は皆、リアルに情景が浮かび、共感を覚えるはず。

校庭にセメント製の滑り台つめたき幅を巻き上ぐる風
「つめたき幅」というのが、セメント製の滑り台のひんやりとした質感をよく表していて、体が懐かしい。

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非常に抑制された表現で、一見おとなしい情景描写に思えるが、よく読むと的確な描写に感心する。また、情感や感触がひっそりと伝わってきて、その慎ましさや思いがけないリアルさが魅力的である。淡々と述べているようで、ときおり不思議な世界やユーモアのある世界が現出したりするのも、真面目な観察力のなせる技なのだと思う。巧みな比喩に心惹かれた。          

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   【萬翠荘(ばんすいそう)】

湯船より揚げむとすれば老い母は石灯籠のやうになりたり
意志を持たぬ体、意志はあっても不自由な体、それを持ち上げる時の重さを「石灯籠」に喩えた作者の悲しみが伝わる。

病院食のにんじん食べる母の口不思議な存在感を持ち始む
おかゆなどの流動食と違って、人参は咀嚼することを要求する。長い時間をかけてかみ続ける口が、不思議に見える。

母の乗る車椅子押す昼の道水溜りのやうな影から影へ
下の句の比喩が優しくて魅力的。日向の道を陰を選びながら、ゆっくりと行く母娘の姿に情感があふれる。

夕がたの朝顔のやうに薄くなり母はねむれり捻れしままに
こちらは上の句の比喩が秀逸。お母様の寝姿がくっきりと頭に浮かび、寂しい。

病院の夜間受付に亡き母の名を告げるとき死は立ち上がる
名前は、人格を持つ。呼んでも、もう返事のない名前ほど、辛いものはない。

死者の手の甲に残りし絆創膏張り替へるといふ湯灌せし後
えっ、いまさら?と思うが、死者を労り悼むプロの心配りに、改めて救われる思いがする。

懐石料理は遺影の前にも置かれゐる火皿の付きしミニコンロも混じ
当たり前のこととして進行していくことへの不条理さ。そのことが、母親の不在を自覚せよというようである。

母逝きて無口な父の存在が日の差す道幅いつぱいになる
気配りのできる明るいお母様だったのだろう。「無口な父」と前向きに付き合っていく決意が下の句から読める。

わが母の嫁入り箪笥開けるたびハモニカのファの音のするなり
「塔」誌で読んだ時から印象に残っていた一首である。音の記憶がいちばん郷愁に近い気がする。

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お母様のことを詠まれた歌群も、やはり感情を抑えた表現になっていて、作者の静かな眼差しが感じられる佳品になっている。何一つ声高に言うわけではないけれど、寂しさや悲しさ、哀しさがひたひたと迫ってくる歌群に、作者の歌の力を思った。

 尾崎さんの抑制しきった歌を読むと、私は抑えているようで随分気持ちを表に出した歌を詠んでいるなあと思った。非常に落ち着いて寡黙な詠みぶりの彼女の歌を読んで、歌にはどうしようもなく人柄が出るのだなあと、おっちょこちょいの私は背伸びしようのない自分の幼さを自覚した。たった31音なのに、個性が出てしまう恐ろしさと面白さ…、各自の持ち味を楽しみながら、これからも皆の歌を読んでいきたい。尾崎さん、貴重な歌集をありがとうございました。

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   【復路の「しおかぜ」の車窓より】


テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

久しぶりにコメントできるのでうれしいです。

四国と言えば、アンパンマン列車ですよね~なつかしいな~

上記の歌集、いい作品が多いですね。コメントが素晴らしいと思います。
尾崎氏は東京の方ですか?自分は知らなかったのでいつかお会いしてみたいです。

私の意見として・・・非常に安定感のある手堅い作風の歌人で、国語の教科書に掲載しても少年少女の模範になると思います。私も参考にしてこれから尾崎氏の作品に注目したいです。

自分もますます創作意欲がわいてきました。がんばろうっと・・・
【2010/08/30 21:22】 URL | 中村ケンジ #- [ 編集]

中村ケンジさんへ
お久しぶりです。
まずは、遅くなりましたが、興南春夏連続優勝おめでとうございます。

松山での全国大会も内子へのオプショナルツアーも、大会委員長をはじめとした皆さんのがんばりと協力で、とてもうまくいって、充実したいい時間を持つことができました。
来年は長野、再来年は大阪です。ぜひ、ご参加を。

尾崎さんは、横浜の方で、(私の知る限りでは)とてもおとなしい方で、すごく可愛くきれいな方です。歌も、ご本人の印象と合致しますね。
【2010/08/31 18:34】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


松山に行っていらしたのですね。
洋館の萬翠荘は良い建物ですね。
やはり明治の創建でしょうか。
【2010/08/31 21:58】 URL | こもれび #hGt.gl.I [ 編集]

こもれびさんへ
こんばんは。お久しぶりです。
松山で、短歌の結社「塔」の全国大会があり、前後の旅も含め4泊5日で出かけてきました。
萬翠荘は、元松山城主の久松氏の別荘として、大正時代に建てられたようです。
写真写りの良い建物ですね。
すぐ傍の愚陀仏庵は、この夏の大雨で全壊してしまい、再建の準備中でした。
【2010/09/01 19:33】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

お久しぶりです
暑さがおさまらないうちに新学期が始まりましたね。

先日、31日のお昼ごろ外に出ると小学生がランドセルを背負って帰宅してきます。
???  今日って何日?
今年からその小学校だけ30日に始業式だったそうです。

相変わらず、どのお写真も素晴らしいですね。
「坂の上の雲」はドラマを観ました。
友人が突然、ひとりでここに行ってきたそうです(春)。
2泊で街を歩き回ったと言っていました。



『無声映画のフィルムのごとく川流れその中に捨てられし自転車』
この歌の情景が浮かびます。
それが歌の素晴らしさですね。


【2010/09/02 08:54】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

ベンジャミン(keiko)さんへ
こんばんは。
朝夕は、それなりにましになってきましたが、昼間はたまりませんね。
猫たちが、どうやら私に似てクーラーが嫌いらしく、つけると、暑いベランダに出てしまいます。
というわけで、猫たちが探し当てた風の道に、私も便乗しています。

春に、お友達が松山に…。
二日かけて歩き回るのに、ちょうど手頃な大きさの街です。
お城の石垣に「登るな!」とあり、誰がこんなとこ登るかしら?ロッククライマーぐらいよね。
と言っていたところ、たまたまお城から帰りに乗ったタクシーの運転手さんが、その張り紙の原因でした。
学生時代、登山部で調子に乗って登っていたら、新聞に載ってしまい、厳重注意を受けたそうです。
ということは、40年ほど前から張ってあるのかしら?思わぬ出会いにびっくり!でした。
松山では、こんな悪さをするお調子山を「よもだ」と言い、運転手さんが「わしは、よもだやったから。」と、懐かしい話をいっぱいしてくれました。
【2010/09/02 18:33】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年5カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
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