心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌-伊丹三樹彦第22・23句集
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伊丹三樹彦第22句集『知見』 (沖積社/2007年刊/3500円)

3600句という厖大な数の句が納められた句集である。2005年7月(85歳)に脳梗塞で倒れ、一時は医者にも見放された作者が、2006年4月末から1日20句を詠み続け見事な復帰を遂げられた。この句集は、その時の「俳句朝日」2006年10月号から2007年6月号まで連載した288篇の[リハビリ俳句通信]と、その後の[自由俳句通信]72篇をあわせた360篇(各篇各20句)から、句数を半減して編んだものである。作者は、病後の身に必死のリハビリを続けられ、今は杖もなく歩かれ、また、大変明るくお元気である。私はただ読むだけでも大変な時間がかかったが、作者にとって「俳句を毎日20句詠む」という実践は、どんなに強靱な精神が必要であったろうと、まず、そのことに深い感銘を受けた。
各篇から1句抜き出しても360句という、普通1冊分の句集が編める数になってしまうので、ここでは精選に精選を重ね、10篇(100句)からほぼ1句の割合で抜いて、ご紹介したい。


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Ⅰ部 [リハビリ俳句通信]1篇~288篇・各篇10句掲載 
 
    麻痺の手のゆるむか 椿のせている    

        帽正す運転手が好き 桐の花      
 
   車座は みな少家族 うまごやし     

        水災戦災震災経た街 夾竹桃       

   葡萄たわわ 頭上に祝祭あるような   

        軍隊の火傷痕にも 湯を掛けて      

   田螺取り 遠い日の灯が増え出した    

        帽脱いで うち仰いでの 蝉時雨    

   母乳知らぬ吾 いちじくの汁たらす    

        冷し鹿 いつ起ち上がる 大仏前     

   銀杏大樹いっぽんの秋 母校跡      

        てのひらで日に酔うている 天道虫   
 
   核の世に 猫は爪研ぐばかりにて    

        桃色の避難階めく 捩れ花        

   松手入 人語を交すことは稀     

        厚物菊 空気抱き込み こんもりと    

   陸上りの老漁夫 ひと日 沖を見て    

        鳥声の俄かに増えて 柿花火      

   園丁が いつもどこかに 薔薇の花    

        金鍔は六面 手抜きもなく焼いて     

   沈む河馬の小耳ぷるるん 十二月     

        外気知らぬ館の蝶が ふわりふわり    

   鶺鴒飛ぶ 次の居場所を考えつつ     

        絶対位置の林檎描きしは セザンヌ    

   実母継母養母義母あり 誕生日      

        颯爽の一語につきる 日野草城(日野草城)

   撫牛のどこを撫でんか 梅の花      

        大仏のお指が 春の景の芯       

   支那靴の三鬼降り来し 神戸の坂 (西東三鬼)  
 
        水釣って 笑顔を見せて 日永老師    

   橋上を去らぬ一人(いちにん)花日和    



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Ⅱ部 [自由俳句通信]289篇~360篇・各篇10句掲載

     車椅子押す無表情 花の河岸      

        日常の起臥一大事 桜散る       

   花明り 文学館には加朱の稿       
 
        市民らに 生国遠し 花大根       

   何掴む手だろう ロダンが刻んだから   

        朝化粧 自愛は女の生き方で       

   ねじり花 例えば 多塔都市の如     

        わが句碑に 一礼すれば 夏鶯      

   座礁船みたいに動かぬ アシカの腹    
 
        ゴリラ不動 ビリケン座りと申します   

   日本沈没 ずぶずぶずぶと 河馬もまた 

        巣燕の大口 如何なる餌とても      

   這わせたる手の裏おもて 螢の香      
 
        蝉の声 お前も通り過ぎるもの      
 
   遠近の蝉声 わが家へ波状なす      
  
        鍬に頤 明日も秋晴つづくじゃろ     
  
   マネキンの目線はるかに 雲は秋     
  
        天駈けて後 地を駈けて 一落花     


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伊丹三樹彦第23句集『続知見』 (沖積社/2009年刊/3000円)

作者89歳の句集。巻末の43ぺージにわたる評・解説・論も読み応えがある。

Ⅰ部 [自由俳句通信]361篇~565篇・各篇10句掲載

ここでも引用は前句集にならって、100句に対してほぼ1句を目途に厳選した。

   吸蜜の蝶と息合う 合わせている     
 
        一つとて欠けず 干柿とその影と    
 
  土地人の顔で路地行く 松葉牡丹    
 
        秋を貰った 日比谷の園の白い椅子    
 
  一幹に光滑らせ 沙羅紅葉       
 
        そこまで来た冬だ 束子の水を切る    
 
  初空をわがものとして 町鴉         

        秋風を通わせるため 埴輪の眼     

  葡萄すする 今更故友の多きこと     

        青空が降りそそぐのみ 転倒後      
  
  束の間の吹雪 摩耶消え 摩耶現われ    
 
        去年の梅知っている眼に 今年の梅    
 
  梅山をくの字下りの 人の声         

        風下に廻るよ 辻に沈丁花        

  輸血の手 点滴の手で妻 喋る喋る   
 
        句碑になった憲吉 われは尚現し身(楠本憲吉)

  座す石にほどほどの熱 桐の花      
 
        叱らない父だったこと 子供の日     
  
  金盃さながら 未央柳の初一輪      

        点灯夫呼びたい 巴里でなく神戸だが   

  角砂糖沈める 氷山如何かと      

        おお蓮 おお蝌蚪 何でも口にする晩年  
 
  みんな死んで みんな善人 蓮の花    
 
        銅像を仰ぐに 首の骨鳴って       
 
  彼岸花 死への途中の人ばかり      

        風の道おのずからあり 芒原      

  熊手跡だけの境内 祭は明日       

        水切りの石を選んで 父は子は      

  象は知るまい 桜紅葉を背に乗せて    
 
        死ぬために生きる心得 霜柱      
 



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Ⅱ部 [写俳句抄(既刊写俳集より)]566篇~576篇・各篇15句掲載
この本に載せられた写俳集より、それぞれ1句抜粋。

『巴里パリ』第四写俳集  風船の中にも 僕の青空ある

『天竺五大』第五写俳集  死者離れても 人型の 流水花     

『ナマステ ネパーリ』第六写俳集畏まる犬 対岸に荼毘煙     

『バンクーバー夏物語』第七写俳集塗装人去る 昼顔の白は残し

『瞬機の中欧』第八写俳集  クロッカス開いた ショパンの音の粒

『メコン沃地』第九写俳集  水牛守は少年 乗りもし 洗いもし

『ギリシアイタリア写俳便』第十写俳集神々の住処 アテネの屋根の上

『おおオージーワールド』第十一写俳集金髪に飛びつく夕日 彼は来るか

『日本春景』第十二写俳集  鳥雲に 有線無線の混み合う空

『日本夏色』第十三写俳集  日傘開くまでを 日傘に庇われて

『日本秋彩』第十四写俳集  芒は銀 廃工場の奥まで日矢


巻末 『知見』評-宗田安正・越村 藏 /『続知見』解説-たむらちせい・伊丹公子 /「伊丹三樹彦論」-岡井耀毅   

 二つの句集、どちらもものすごくたくさんの句なので、ここに載せるにあたって数を絞るのが大変でした。読み直すたびに、違う句に心引かれて、何度も立ち止まって迷いました。どの句も自然で、俳句をされない方にも、一読、情景や心情の浮かびやすい句ではないかと思います。15歳から始められた句は、まさに自由自在。作者の人生そのものでありましょう。いつまでもお元気で、詠み続けて頂きたいと思っています。


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   *写真はすべて松山城にて(2010年8月)

テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

お疲れ様です。
一日20句ってそうとうスゴイですね~若い人でも作句に体力いるし毎日続けるモチベーションや精神力もいるし大変ですよ。選句してこのHPに掲載するのも相当疲れて大変だったのでは?

私も今日は朝から家に引きこもって「興南春夏連覇」のテーマ詠をこの時間までずっと考えてようやく19首ですよ~自分は人生の折り返し地点(後半戦)に入って年取ったな~って思ってたのに俳句界はみな長寿で健康ですね~上記作品拝読してて感動です。
【2010/09/05 21:49】 URL | 中村ケンジ #- [ 編集]

中村ケンジさんへ
こんばんは。
いつもコメントをありがとう。

読むだけでも相当疲れましたし、ブログにアップするのも字の配分など何回か直したので、かなり疲れました。
でも、作る方は、もっとすごいエネルギーがいりますよね。
まして、病後で、言葉が不自由だったり車椅子に乗ったりという状況で作られたのですから。
現在、ご夫妻あわせて175歳の現役俳人。とっても仲良しで前向きで、俳句に対して情熱的で、お二人のおそばに居られるってことだけで、私はありがたく幸せです。

「興南春夏連覇」のテーマ詠、頑張ってるんですね。
選手もですが、監督さんの言動、素晴らしいですね。とても立派で尊敬します。
【2010/09/06 22:39】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


おはようございます。

久しぶりの雨で草木が生き返ったようです。
扇風機なしに眠れました。

今日の句はどれも難しいですね。
病後に詠まれた、とありますが内からパワーがみなぎっているのでしょう。
1日20句、強い意志を感じられます。

週末はまた、暑さが戻ってくるとか。
お忙しいでしょうけどご自愛くださいね。
【2010/09/09 09:15】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

ベンジャミン(keiko)さんへ
こんばんは。
そちらは、かなりの雨だったようですね。
こちらは、軽いお湿り程度で、もう少し降って欲しかったです。
でも、おかげさまで、朝夕、やっと秋らしい涼しさになってきました。

>今日の句はどれも難しいですね。
たくさんあったので、解説を省略してしまいましたからねえ。
俳句は、一場面を切り取るので、写真を頭に思い描けたらOKなんですが…。
例えば、
「おお蓮 おお蝌蚪 何でも口にする晩年」
年を取ると、感動するたびにすぐ声に出してしまう自分自身を、ちょっと笑ってる感じ。
「おお蓮(はす)が咲いてる!」「おお蝌蚪(かと=おたまじゃくし)がいる!」という具合に。 
【2010/09/09 21:14】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


1日20句、毎日というのはものすごいことですね。
年齢に関係なく、すごいことです、うん。
自分を絞り出すことはつらいことではあっても知らず知らずに自分の可能性を広げているのでしょう。
【2010/09/10 21:34】 URL | こもれび #hGt.gl.I [ 編集]

こもれびさんへ
お早うございます。
>自分を絞り出すことはつらいことではあっても知らず知らずに自分の可能性を広げているのでしょう。
ほんとにその通りです。いろいろなことに当てはまる箴言ですね。
先日、『知見』三部作の最後『続続知見』(第24句集)をいただきました。
目標の病後2万句に向けて、俳句人生を歩み続けておられる姿には、元気とやる気をいっぱい頂きます。
【2010/09/11 10:24】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年5カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
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