心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌(歌集)-岡本幸緒歌集『十月桜』
岡本幸緒歌集 『十月桜』 のご紹介 

  zyugatusakuraka.jpg   zyugatusakurana.jpg   青磁社/2010年刊/2500円

若い作者にふさわしい、可愛い色合いの歌集が届いた。私の歌集と同時進行で制作されていたようだ。作者の岡本幸緒さんとは、全国大会がきっかけで仲良くなり、絵はがきをプレゼントしてもらったことを覚えている。「塔」誌上で、魅力的な歌を詠まれる方だなあと、毎月注目していた、その岡本さんが、私が「塔」で初めて話をした人なのである。以来、お会いするのは、年に一回の全国大会だけなのだが、必ず笑顔を交わす。今回の歌集発行時期も含め、温かいご縁を感じている。
30代?の岡本さんは、歌歴が私より5年ほど先輩で、繊細で情感豊かないい歌を詠まれる。ぶっきらぼうな私とは歌風が違うのだが、今回、歌集を改めて読んで、いくつか共通点を見つけ、とても嬉しくなった。まずは、「一緒だ!」と思った歌からご紹介します。

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一緒だ!

どこからが空なのだろう さよならの手を振る指の先からが空 
「どこからが空なのだろう?」と思う時ってありますよね。私も「高層のビルの間に色のなき空気張り詰むどこからが空」という歌を詠んでいたので、この歌を見つけた時、すごく嬉しかった。岡本さんの歌は、恋心があって優しい。

丸顔のまるという名の犬を飼い平屋の官舎に七年住みき  
「同じ名前の犬だねえ」と互いに喜んだ歌。私のは「犬のまる十歳のわれ猫のたま家族写真は満ち足りしまま」どちらも懐かしい時代を思い出しているところまで、一緒!

菩提寺はいつもだれかと行くところ末っ子なれば連れられてゆく
私の場合、妹が一歳前に亡くなったので、わが家では私が実質末っ子。菩提寺からの連絡は、長兄の所に来るので、いつだってお寺へは兄と一緒に出かけるのです。

なぜ牡蠣を食べられないかを話しおり傘の中まで濡れているのに
私も牡蠣が食べられません。その理由を話し出すと、なぜか熱くなり長くなるのです。

何歳のころからだろう八重桜と翻訳本に距離を置きしは
少々苦手なんですね、私もです。八重桜のぼてっとした&媚びたような甘さ。翻訳本の変な日本語とカタカナ名の多さ。だから、余り近寄らないようにしてきた…。私は、この頃少しましになってきました。染井吉野が終わったあとの寂しさを慰めてくれる八重桜と金原瑞人さん訳のヤング・アダルト向けの本に出会ったから。

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ふるさと、雪そして父母

だれだってだれかの記憶に残りたい この冬最後となりそうな雪
雪国がふるさとの彼女にとって、雪はさまざまな思いをこめることのできる存在。上の句と下の句がとても合っていて、心に響く。
この冬は寒かったねと言いながら最後の雪をまだ待っている

改札のひとつしかないふるさとの深夜の駅に父母が待ちおり

老いてゆく父母の暮らしに幾つかの根拠を持たぬ決まり事あり

ふるさとの雨粒まとう機窓から東京の灯が見え始めたり

ふるさとの小さな駅で、娘の帰りを待ち続けてくれている両親。ご両親の思い、その思いを推察する作者、その切なさに、涙が出そうになる。「ふるさとの雨粒まとう」の歌を「塔」誌で見つけた時、泣いた。


泣く・涙・淋しい…

風に眼を細めていたり鳥たちは涙をぬぐう腕を持たざり 

理由など海に沈めておけばよい夏の終わりが淋しいことの

「岡本さんは泣き虫さん?」と思うほど、この歌集には「泣く、涙」などさんずいのつく言葉が多い。ここが、おばさんの私と若く感受性豊かな岡本さんとの違うところである。そんな中で、私はこの強い調子の二首が気に入った。「鳥の涙」という詩的な発想が素晴らしい。

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大切な人と

動かない亀や燕を見つけては指さすひとと旅を続ける

さよならを言わなくなりて家族なり「いってらっしゃい」「おかえりなさい」 

夜遅く宿に入りてもう見えぬ海を見るため窓辺に寄りぬ

時と場所きざまれている入場券 胸の高さに振りて見送る  
                          (全国大会・栗木京子選選者賞) 
たぶん、ご主人とのことを詠まれているのだと思う。感性や波長の合う方と一緒になられたのだなと、それぞれの情景を想像して、幸せな気持ちになった。


不安感

世界中の羊数えて夜が明ける何が不安か分からぬままに

肋骨は折れやすき骨その中に心はいつも護られている

ばさばさと物を捨てゆく本当に捨てたいものにたどりつくまで

たぶん今は何かをじっと待つ時間 浜辺に並ぶ風車のごとく

どの歌も表現の上手さに、ほれぼれした。心の中の言葉にしにくいものを、このように表せるのが、短歌の魅力の一つだと思う。

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身体感覚

身体だけ取り残されていくようにエレベーターは急降下する

つま先から時間をかけて冷えていく素足をさらす秋の縁側

魂が右の肩から抜け出して旅をしてきたように目覚める

確かに体はこのように感じることがある。感じても、誰もがこのように表現できるわけではない。


機知・ユーモア

なくしてもたいしたことはないけれどせんたくばさみの数を数える

遅れたり進んだりするだけなのに時計は狂うと言われていたり

さらさらの血液持っているような秋の雲にも悩みはありぬ

イチローの打率よりもという喩え分からぬままに頷いていつ

ペンネーム持ちたるごとし名を変えてすべての海はつながっている

みずからがつくる波紋を振り向かず水鳥ふゆの川面に遊ぶ

感性のアンテナがよく働いているから、私たちがふだん見過ごしているようなことにも、きちんと言葉が届く。言われたら、「ホントだ!」というようなことばかりなのだけれど、それを先に感じて表せるのが、詩人なのである。言葉の楽しさ、面白さと同時に、日常生活には詩歌の材料があふれていることを教えてもらった素敵な歌集でした。ありがとう。            【秋桜はすべて、先週末(9月26日)に豊能(とよの)の里にて撮影】

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テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

更新、待っていました!
いつもキレイな画像で心がいやされますね~

・・・岡本さんってひょっとして女性ですか?
「塔」で注目していて大好きな歌人の一人ですが、今まで20代男性かな~と思っていました・・失礼しました。
本人に謝っといて下さいね。

上記掲載の作品、たしかに「大空の亀」さんに似ている面もありますね。おっしゃるとおりです。
一字空けの作品が2首ほどありましたけど、私は成功していると思います。

雪、関連の作品は亡き父を思い出しました。
私の父は雪を見るのが夢でしたが、ついに一度も見る事も無くこの世を去ったのが残念です。
元気になったら東北とか北信越とか旅行に連れて行ってあげようと計画していたんですけどね~

表紙もかわいらしい感じでイイと思います。
【2010/10/01 20:41】 URL | 中村ケンジ #- [ 編集]

中村ケンジさんへ
お早うございます。
いつもコメントをありがとうございます。
このコスモスは、先週の日曜日に、家から車で1時間ほどの所で撮りました。
午前中だったので、空気もきれいで空も澄んでいて、どの花も全部撮りたい美しさでした。

>「塔」で注目していて大好きな歌人の一人です
情感のあるいい歌を詠まれますよね。中村さんも注目していたとは、驚きです。
驚きと言えば、昨日の探偵ナイトスクープで、沖縄の海底に落としたカメラが徳島に流れ着き、中味も無事に持ち主に戻る!というのをやっていて、驚嘆しました。
たった一ヶ月で潮が流してくれ、しかも防水がバッチリで壊れてないなんて、すごい!!

>雪、関連の作品は亡き父を思い出しました。
中村さん、お若いのにお父様を亡くされているんですね。
沖縄の方にとって、雪はあこがれ。見せてあげたかったですね…。
【2010/10/02 08:51】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


青木さん、ありがとうございます。

たくさん歌を取り上げて下さってうれしいです。
コスモスもとっても、ステキ!

お近くに十月桜がありましたら、見に行って下さいね。

ありがとうございました!o(^o^)o
【2010/10/04 13:17】 URL | 岡本幸緒 #- [ 編集]


こんばんは。
コスモスが青空に向かって咲いていますね。
とうとう今年は彼岸花の群生地に行けませんでした。
今日はボランティアに歩いて行くとアチコチで金木犀の香りが漂ってきて30分の時間が幸せでした。

どの歌も私みたいな素人にも分かりやすくて好きです。
昔、夫に「泣き虫だな」と言われていましたが今はポロポロ涙を流す事が殆どなくなりました。
可愛くない女性になったのでしょう。

亀さんも岡本さんもエレベーターにぼーっと乗っていらっしゃらないんだな~って感心しています。
【2010/10/04 18:11】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

岡本幸緒さんへ
こんばんは。
ご本人からのコメント、とっても嬉しいです。
私、「十月桜」って、知らなかったのです。
秋に桜が咲いているのを見て、「返り花?二度咲き?」なんて認識だったもので…。
小振りな八重で、春の八重とは違って、清楚で可憐な印象ですね。
今年見つけたときは、ちゃんと「十月桜」と認識して眺めますね。

コスモスも別名「秋桜」。ちょっと「十月桜」と重なるでしょ?
季節的に、ちょうど歌集のイメージにぴったりの写真が撮れて、ラッキーでした。
【2010/10/04 22:04】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

ベンジャミン(keiko)さんへ
こんばんは。
お花の時期は、あっという間で、時期が合うのとそうでないのとでは、印象が雲泥の差ですものね。
また、来年、彼岸花の群生にチャレンジして下さいね。写真、楽しみにしていますから。

金木犀も、もう香っているんですね。
今年は、彼岸花・ススキ・コスモス・稲の実り・金木犀・・・一気に来ましたね。

>どの歌も私みたいな素人にも分かりやすくて好きです。
喜んでもらえて、よかったあ!
小説はたくさん読まれても、短歌や俳句はちょっと・・・という人が多いなか、最近、その短歌や俳句ばかりを紹介しているもので、少し申し訳なく思っていました。
でも、ベンジャミンさんのようにしっかり読んで下さる方がいて、嬉しいです。
ステキな短歌でしょ。気分のままに自由に楽しんで下さいね。
【2010/10/04 22:13】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年3カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
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