心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌-伊丹三樹彦第24句集『続続知見』
伊丹三樹彦 第24句集『続続知見』(沖積舎/2010年7月刊/3000円)

zokuzokutiken.jpg zokuzokutikenura.jpg 【カバー】 zokuzokutikennakaomote.jpg zokuzokutikennnakausiro.jpg 【本体】

 *よろしければ、拡大して、カバーの写真や帯文をお楽しみ下さい。

 伊丹三樹彦氏は、2005年7月に脳梗塞で倒れられたあと、2006年4月より「病後2万句」をめざし日々作句に努められ、見事な回復力で、2010年10月には、「2万句」を達成されました。単純割で1日平均12.26句という数字は、驚異的です。この句集は、『知見』三部作の完成本として、2009年1月から2010年5月までの2560句が収めてあります。たくさんの心ひかれる句の中から、私なりに厳選を重ね、テーマを設けてみました。
*以下の写真はすべて出版記念の絵はがき(写真+俳句:伊丹三樹彦作)より

    susukinote.jpg

〈俳人として生きる〉

盆梅展 俳人顔でおし通す

未使用の言葉幾万 瑞穂の国

燕に仰向くは俳人 あやしむな

白いお髭でいつもお洒落な伊丹三樹彦氏は、見るからに「俳人顔」。好奇心旺盛な俳人にとっては、「盆梅展」のような趣ある催し物も楽しみだし、空を行く燕も軒下の子燕も大いなる関心の素となる。長い人生のほとんどを言葉に費やしても尚、「未使用の言葉幾万」という感慨には、日本語の豊かさ・美しさに心を寄せる作者が、強く感じられる。


〈病後の体、人生を思う〉

お互いに病後の握手 麦の秋

幼児期があっての老年 さくらんぼ

杖突くにも品格おのずから 小春

つくしんぼ 予後は一からやり直し

撫でている 仏にはないのどぼとけ

公園のベンチに委ねた 余生の場

無事に起き 無事に眠れて 四月尽

歩くのが大好きな作者だが、病後は遠出が許されず、近くの公園や家の近辺が、散策の主なコースと聞く。それでも、次々句作ができるのは、深く鋭い観察力と自己を見つめる洞察力と過去に蓄積した多くの見聞が、力となっているからだろう。ここにあげた人生を詠んだ句は、ひよっこの私にはまだまだ詠めない作品群である。


    momizidera1011.jpg

〈生き物への眼差し〉

群鴨の 向きを変えるも一斉に

亀うらら 亀甲文字の世に遠く

飛ぶ鳥にも序列 吾ならしんがりか

とまらねば鳴けず 一樹に蝉の数

耳鳴りも手伝っている 虫の夜

影は地を走っているぞ 伝書鳩

これらの句には、自然体で生き物と一体化した優しさがあり、読み手も同じ目線を持つこととなる。鴨、亀、飛ぶ鳥、蝉、虫の音、生き物の影…、私も日常接するものばかりなので、大変親しみを覚えました。実は、今も虫の音のような耳鳴りを聞きながら、これを書いています。誰か耳鳴りの治し方、ご存知ないですか?


〈植物を愛でる〉

ありなしの流速に乗る 花筏

邂逅の多くは路上 立葵

薔薇園の渦中に浮かぶ 泳ぎもする

落日を真芯にとらえ 彼岸花

丈高きまま 低きまま 枯蓮

土地人の花蔭選ぶ 立ち話

遠くから手を挙げる友 プラタナス

植物だけを真剣に観察した句も、生き生きとして素敵だが、人との関わりの中に配された花も、取り合わせがぴったりで心ひかれる。どの句にも、花が好きで、人が好きで、という作者の温かいお人柄がよく表れている。


    kikukaten1011.jpg

〈人の手になる物への関心〉

狛犬は口開けたまま 黄砂降る

落下点までの上昇 噴水力

斑鳩に三塔揃う 柿日和

吊革の総揺れ 勤労感謝の日

大慈大悲 仏手の水掻き見逃さじ

ルミナリエ その周辺に闇を預け

どの句に詠まれた世界も、言われて初めて気付くといった世界であるが、どれも確かにそうだと得心がいく。物を見る力は、じっと見ることと表現することの繰り返しで磨かれるのだろう。


〈「春」の愁い〉

残されてばかりの長寿 春愁

春昼の何ともなしに 髭撫でて

足先で血は引き返す 春の闇

体調から話すが習い 春の辻

桜まで 桜までよと 生き延びて

来年を言わず 語らず 落花浴ぶ

長生きをすることは目出度いことではあるが、「残されていく」ことでもあり、何とも言えない寂しさがある。寝床で「足先で血は引き返す」んだなと、改めて思っている作者は「独りの人間」であることを噛みしめているのではないだろうか。「桜」は芭蕉の句「さまざまのこと思ひ出す桜かな」や西行の歌「願はくは花のもとに て春死なむ その如月の望月の頃」にも詠まれているように、人生と離れがたい花である。最後の二句は軽い調子で詠まれているが、大病を克服され、90代の日々を悔いなく生きておられる作者であるゆえに、とりわけ深いものがある。


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 巻末の解説に、たむらちせい氏が「三樹彦の句材の得意とするのは、春は梅に桜、夏は蝉、秋は彼岸花、冬は枯蓮」と書かれているとおり、これらの題材への作者のこだわりは相当なものがあります。同じく解説の中にある伊丹公子さんの詩が、おしどり夫婦を彷彿とさせる愛情に満ちていて、とても魅力的です。

現在90歳の伊丹三樹彦氏には、すでに10代で「長き夜の楽器かたまりゐて鳴らず」、20代で「誰がわざや天衣あかるむ花菜など」、30代で「父死して得たり無用の洋杖(ステッキ)まで」、40代で「古仏より噴き出す千手 遠くでテロ」といった代表句があります。これらの句を読むたびに、無駄のない表現と豊かな抒情にうっとりします。

50代で始められた「写俳(しゃはい)」には、現代版「俳画」とも言える芸術性があります。近年、写真と五・七・五の取り合わせを見ることが多くなりましたが、「写俳」の創始者としての伊丹三樹彦氏とその作品は、もっともっと評価されるべきではないかと考えます。なお、80代以降の作には「死ぬために生きる心得 霜柱」といった深い境地のものも多く、80年近く俳句を詠み続けてこられた姿勢に、私は学ぶことばかりです。


テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

単純計算で1日20句とはならなかったようですが、見事2万句の目標を10月に達成されたのですね。
こういった創作はコンスタントにできるものではなく、日によってバイオリズムがあると思いますが、何よりも病と向き合いながら、継続して目標を達成したことに頭が下がります。
【2010/12/01 23:26】 URL | こもれび #hGt.gl.I [ 編集]

こもれびさんへ
こんばんは。
多い日は20句も30句も。同じ題材で100句など勢いのある日もあれば、スランプの日もあったそうです。でも、スランプの時こそ、多く詠むことが大切だそうです。

>何よりも病と向き合いながら、継続して目標を達成したことに頭が下がります。
大変な意志の強さと俳句への愛(=全身全霊「俳句」という生き方。俳句に生かされているという思い。)が、あってこそですね。
車椅子から杖、そして、今は杖も不要と、俳句を詠み続けることで、回復していかれたことに、ほんとうに感動します。人生のお手本です。
【2010/12/02 19:42】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


とにかくスゴイ!のヒトコトです。
俳人はみんな向上心が強くてモテるイメージがあります。

歌人はみんな地味で控え目な気質の人が多いですよね~

私も生きてる間に10万首目指してがんばります。
【2010/12/02 22:46】 URL | 中村ケンジ #- [ 編集]

中村ケンジさんへ
お早うございます。
>私も生きてる間に10万首目指してがんばります。
すごいですねえ。10万首を目指すだなんて、驚きます。

俳人と歌人の違い、俳句と短歌の違い、句会と歌会の違いは、両方やっているとよく分かりますね。
俳句に比べて、短歌はより個人的で、自分の気持ちにこだわることが多いかなと思います。
一人の人間の中には、俳句的な部分と短歌的な部分、両方の要素がありますけれどね。
【2010/12/03 08:30】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年8カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
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