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心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌(歌集)-倉松しん子歌集『海がはこぶ』
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倉松しん子第二歌集『海がはこぶ』 (青磁社/2010年/2500円)  

真っ白な表紙に凹版でタイトル、背表紙の文字は青に近い紺色の歌集で、開くと空の写真が広がります。作者に直接お目にかかったことはないのですが、歌集を一読して、元気な息遣いを感じました。私より少しだけ年上の方なのでしょう、自立していく子どもへの思いを詠んだ歌に共感を覚えました。切なさを詠みつつも暗くならないのは、作者が天性の明るさを持っているからではないかと、思い切りのいい歌を読んで思いました。私なりにテーマを設定して、分類してみました。【写真はすべて、京都長岡京にある光明寺で、この秋撮ったものです。】

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子離れ…

息子に確と云いたきことのある口が魚の尾骨を噛み締めている

子育ては苦手と子らに告白す大雨なれば何でも云おう

その頃は育児相談聞く暇もなくていまごろしみじみと聴く

子の手紙にお母さんへとありて今日母であること思いて過す

夏の夜ふらりと猫に会いに来る息子の背(せな)に〈さびし〉とルビふる

行くでなく帰るといいてパソコンを背負い日本を離るる娘

子の発ちて二番目くらいのさみしさに日暮里駅にふわり降り立つ

睡たくて子の泣くなども忘れにき ときおりわれが泣くことにする

梨ケーキ焼き上がるころに帰りゆく息子の背(せな)を猫らが見詰む

縁結びの効ある野苺生りに生り代りてあさあさこの母が食ぶ


*どの歌も、「私もです!」と声を掛けたい気持ちで読みました。「行く」を「帰る」と言われた時の寂しさを、私も常々感じて、何回か作歌を試みましたので、特に共感を覚えます。自分自身を客観視して、戯画化できるところに、作者の芯の強さを垣間見る思いです。

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表現の妙

スカートのゴムのきつさよ 土曜までがっぷり椅子に穿かせておこう

窓越しの空に腕上げ真昼間を溺るるさまに泳ぎて春過ぐ

生ゴミも積みて近くに引っ越せば夕日が遅れてじわりと従(つ)き来

寝るつもり無けれど深く寝てしまい二時間老いてキッチンに立つ

手づかみに食ぶるも似合わぬ歳となりフォークに刺せり夢やなにかも

雨粒のひとつぶずつに応えいる水面見るうち疲れてしまう


*「がっぷり穿かせる、溺るるさまに泳ぐ、生ゴミも積む、二時間老いる、夢やなにかも刺す、ひとつぶずつに応える水面」、気持ちに余裕があるので、クスリと笑いを誘う発想・表現となっています。作者の真骨頂は、こんなところにあるのではと思いました。

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作者を支えてくれる存在

伝わらぬ言葉いくつかもちて生く猫にはすんすん伝わる 笑みも

沈丁花の匂をはじめて嗅ぐ猫よおまえも母をたっぷり想え

おもいがけぬロックンロールに昼過ぎの床を拭き上げ猫をも洗う

足早に階段下りゆく猫の背のつちのこに見ゆ 電話をせねば


*猫との生活は、心が通うようで慰められたり励まされたり…四首目、わが家のハオも「つちのこ」に見えることがあり、「発見しました!」と言いたくなるので、同類の猫のみならず同類の人間も見つけて、嬉しくなりました。

植うるなら渋柿にせよと老婦いう甘柿一樹は食い切れぬとぞ

星ひとつねだるわたしに地を打ちてここが星だと父の云いにき

このわれを決して嫌いと云わざりし母おもいおり白芙蓉の辺に


*作者は『星の王子さま』が好きで空想壁のある、お父上にとっては少し心配な子どもだったのかもしれませんが、この父上もなかなかのものです。

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心をよぎるものたち

白鷺の傍あゆむ今に水色の付箋をつけて頭(ず)にしまいおく

野の花を待つ鉢に来てまっさきに立ち上がりたるは春女苑なり

風知草を眺めての日日これまでに知らざる風の絶え間なく生(あ)る

この先はよく笑う人を友とせん大き白花咲く樹もよろし

抽斗の中身そっくり捨てたれば春風どんと四角に入りぬ

ひとひらのハンカチ洗う水量に遠くのいのち思う真昼間

転びたるスケーターの母のかなしみが寝付くまで去らず 風のいできぬ

問い合わせの電話の向こうのため口にわが物云いをじわじわ直す

樹の名札に住所も記すべし今日ここに会いたる礼を明日には出さな

空色の洗濯挟み二つ選りシーツをひろびろ大空に留む

自転車の影がわれ乗せ川沿いの家並の屋根大きく越ゆる

前の駅うしろの駅の見ゆる町陽は沿線に細長く照る


*どれもいい歌。私もいつかこんなふうに詠めたらいいなと思って、歌集を読ませていただきました。ありがとうございます。

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テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

お久しぶりです。ちょとトンネルに行ってました。

まだそちらは紅葉がきれいですね。
もうこちらは雪の季節です。朝晩もストーブなしではすごせんません。

子離れの詩心にしみますね、私は息子たちは早くに家から出しましたそれも、
私から提案して、その時はそれが一番だと思ったんです。
今になって早すぎたと思っています。
長男が20歳次男が19歳そして娘が18歳です。
早すぎですよね…今、夜が長いです。
【2010/12/17 14:46】 URL | 夢詩 #- [ 編集]

夢詩さんへ
こんばんは。お久しぶりです。お元気でしたか。
すっかり寒くなってきましたね。こちらも、紅葉はほぼ終わりました。

>早すぎですよね…今、夜が長いです。
私たちの時代は、18歳が当たり前でしたから、私も18で家を出ました。
だから子ども達も同じように考えていましたが、周りを見ると、就職難のせいもあって、けっこう遅くまで同居の方が多いですね。
広いお家なら、大家族制で暮らされる方もおられるでしょう。
そんなのを見聞きすると、早すぎたかなって思うこともありますね。
何より親としては、寂しいですものね。美味しいものも食べさせてやりたいですしね。

子どもの側からは、どうでしょうね。
私の場合は、心細く不安もあったけれど、一人でやってきたというのは、根っこのところで、すごい自信になっています。
親のありがたみも強く感じたし、それはそれでよかったのかもしれませんよ。
【2010/12/17 20:08】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


光明寺の写真・・・美しいですね。

倉松氏の歌集・・・表現の妙の6首が心を揺さぶります。
東京の方ですか?
多分お会いした事はないのかな~と思います。
【2010/12/17 21:58】 URL | 中村ケンジ #- [ 編集]

中村ケンジさんへ
こんにちは。
昨日はいろいろ忙しかったので、今日はのんびり疲れをとっています。
光明寺、昔はあまり知られてなくて穴場だったのですが、今はすごい人出です。

倉松さんは、東京の方のようです。お上手ですね。
さまざまな能力を持たれた方があふれていて、感心します。
私は私らしく、自分の人生を歩んで行きたいと思います。
【2010/12/19 15:14】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

リンクさせて頂きました

こんにちは はじめまして。
年末で忙しいところ申し訳なく思いますが・・・

伊藤通明先生の下、勉強しました。
通明先生は強くたくましくそれで誰よりもやさしい方です。
いちばん尊敬しているんですよ^^

紅葉の写真 綺麗ですね
先生の句で

 絹ずれの音と間違ゐし紅葉谷

この句、好きなんですよ^^ まがゐし・・・ひらがなだったなぁ~(笑)


また寄らせて頂きます。

失礼致しました。



【2010/12/29 15:14】 URL | PARALLEL #- [ 編集]

PARALLELさんへ
初めまして。
リンクして下さったとのこと、ありがとうございます。
私も後ほどリンクさせて頂きます。今後ともよろしくお付き合い下さい。

早速、伺いました。
「吉田拓郎」ファンとお見受けしました。&同世代のような…。
私も40年近く「拓郎」さんのファンです。
PARALLELさんの文章(詩)の題名を見ただけで、ドキッとしました。

今日は空の写真と中島みゆきさんの歌が流れていて、どちらも好きな私は嬉しく思いました。
彼女の歌では、何と言っても、拓郎作の「永遠の嘘をついてくれ」が好きです。

>伊藤通明先生の下、勉強しました。
素晴らしい先生なのですね。直に学ばれて羨ましいです。
もしかして、福岡の方でしょうか。
私の所属する「空」俳句会主宰の柴田佐知子先生も編集長の高倉和子さんも、伊東通明先生主宰の「白桃」同人です。ご存知かもしれませんね。
>絹ずれの音と間違ゐし紅葉谷
きれいな句ですね。「紅葉の錦」っていいますものね。
【2010/12/29 21:31】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴43年(1980年3月~)。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 17年10月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !
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