心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
季節の詩歌(1)~秋の風~
 「空」誌15号(2006年10月)に載せて頂いた拙文です。
2011年5月、「季節の詩歌」のカテゴリーを作り整理し直したところ、抜けていたのがわかり追加しました。

      季節の詩歌(1)~秋の風~                 


立秋を過ぎると、吹きくる風に、ときおり秋の気配を感じ、ほっとすると同時に、なにやらもの寂しい気持ちになる。秋の風は、どの季節に吹く風よりも、感性を刺激するようだ。

試合開始のコール忘れて審判は風の匂いにめをとじたまま      穂村 弘

グラウンドで、暑い日射しや土埃を浴びて過ごした夏も、もう終わり。さわやかな風の匂い、澄んだ青空、ふっと自分の世界に入った審判、情景が見えてくる。

初秋の風を待ちわびているのは、人間ばかりではない。暑い夏をなんとか乗り越えたけれど、だいぶ消耗しているものたち。それは、人も虫も鳥も同じだろう。次の二首は、短歌結社『塔』を代表する歌人の歌。どの言葉も、あるべき場所に収まって、情景を詠んだ歌として、大変優れている。

秋日ざしの中に漂う蜂一つかそけき風に乗るとき迅し         高安国世

風吹けば乾きし砂がまづ走る九月の路上に烏動かず         河野裕子                             
秋の訪れをいち早く感じさせるのは、風に揺らぐ萩。小さな花も可憐だが、枝を垂れ叢生した姿は、存在感があり、野が似合う。見る者に、人生や過去を振り返らせる魅力をも持っているようだ。

秋風は過去の索引そのなかに萩咲けば萩は思ひ出づらむ        馬場あき子

ゆふ風に萩むらの萩咲き出せばわがたましひの通りみち見ゆ      前川佐美雄 

萩、薄、秋桜…秋の植物には、風が似合う。しかし、秋は台風シーズンでもあり、強風に煽られる草木を、心配しながら見ることにもなる。

西へ行くわれの頭上を大いなる台風東へ走れる音す          佐佐木幸綱

窓に近き一樹が闇を揉みいたりもまれてはるか星も揺らぎつ      永田和宏

直接の被害がない時には、一首目のように、「大いなる」自然への感慨もあるだろう。「台風」が、もっと象徴的なものを指しているかもしれない。二首目は「一樹」が主語になった時点で、世界が転換し、遠近感のある面白い歌となっている。

次にあげる三首は、「風」「抱く」という言葉と、作者の心にある「寂しさ」が、共通項でもあるが、描かれた世界は全く異なる。
手をひらき胸を開けど風のほかわが抱擁のなかに入り来ず          稲葉峯子

寂しいとき抱きたし胸でも子でもなく風にそびゆる樟の若幹         栗木京子

風を浴びきりきり舞いの曼珠沙華 抱きたさはときに逢いたさを越ゆ     吉川宏志


受け入れる準備はできているのに、風しか入ってこない「寂寥感」のある一首目。寂しさを真に受け止めてくれるのは、自然の中の生命力ある一木であり、そこから、若くみずみずしい力をもらえそうな二首目。三首目は「曼珠沙華」の花の特徴と、作者の思いが、うまくマッチして印象に残る歌だ。

これら、思いを前面に出した三首と対照的なのは、白秋の次の歌だ。木によって違う風が吹く、という発想が新鮮で、心に残っている。擬音語の響きが、秋を思わせるが、「この山は」常緑の山なのだろう。

この山はたださうさうと音すなり松に松の風椎に椎の風        北原白秋

この歌を読むと、必ず星野富弘の詩を思い出す。
風は見えない / だけど木に吹けば緑の風になり / 花に吹けば花の風になる
今 私を過ぎていった風は / どんな風になったのだろう
 

ところで、今、自分のいる場所に風が吹いていなくても、風は表現できるものだろうか。次の歌は、その可能性を示し、視点の広がりを教えてくれた。

ここに吹かぬ風が向ひの丘にありうらがへりたる葉が白じろし      石川不二子

風見鶏しづかに止まれ逡巡ののち深き知恵得たりしやうに        稲葉京子


風が弱まり「風見鶏」が小さい揺れを繰り返すのを見て、誰がこんなことを考えるだろう。負のイメージの強い「逡巡」を、好意の目で見られる人にしか詠めない歌で、短歌の良さが存分に発揮されていると思う。
風が止むことで、なお一層風を感じることがある。「風」が表現されなくても、風を感じることがある。

この明るさのなかへ / ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美しさに耐えかね / 琴はしずかに鳴りいだすだろう    (八木重吉「素朴な琴」)


この詩の中に「風」という言葉はないが、清澄な秋風に揺れる弦の響きが聞こえてくる。すべてを言い切らなくても、充分にわかる。言い切らないからこそ、読み手を豊かな気持ちにさせてくれる。そんな詩歌との出会いを、これからも楽しめたらと思う。

テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
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300冊、就職後は100冊~150冊。

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2006年 3月17日から始めました。
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