心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く詩歌(句集)-たむらちせい句集『菫歌(きんか)』
 7月2日追加:お知らせ
青木拓人の初アルバム『NOTE TONES』(7月10日発売予定)が、アマゾンで買えるのを先ほど見つけました。「青木拓人」で検索できます。発売記念のライブもあります。詳しくは、右列リンクより。よろしければ、応援してやってください。


たむらちせい句集『菫歌(きんか)』のご紹介  

        kinka.jpg  (蝶俳句会/2011年/2700円)

 作者は1928年土佐市生まれ、1960年より伊丹三樹彦氏に師事。高知新聞俳壇選者、高知県俳句連盟会長、高知県現代俳句会長等を勤めるが、現在は一切辞任。「蝶」主宰、現在は顧問をされている。
第六句集となる『菫歌(きんか)』は、「菫が歌う」の意である。古代の人は草や木が発する言葉を聞きとめたという。その中でも菫の言葉がもっともわかりやすかったそうだ。
繊細な感覚をお持ちの作者は作句のみならず、俳句の朗読も深い味わいがあって魅力的だ。この句集も、氏の朗読の様子や声の調子・響きを思い出しながら読ませていただいた。
2001年から2011年3月までの738句が収めてあるこの句集から、年ごとに二句ずつ紹介したいと思う。帯文に「俳句は老境の華」という言葉があるが、人生を長く歩んでこられた故の深さが、多くの句から感じられる。

        IMG_2216201104.jpg

2001年(平成13年)
鳥渡る遠き虚空に富士を得て
雄大な景色だ。「富士を得て」という結句に、鳥への労りや愛情を感じた。

人死んで月の明るき橋渡る
五・七・五の組み合わせが絶妙だ。緊迫感・寂寥感を「月の明るさ」が象徴している。

2002年(平成14年)
種売の去(い)にて日向を残しけり
涅槃会の時など寺の境内や参道などに、さまざまな店が出る。地面にござを敷いて商売をしていた人も、もう店じまいをしたのだろう。「日向を残す」という表現に心ひかれた。

亥の子餅婆やはらかな顔をせり
陰暦10月の亥の日は収穫祭。新しい米で作った餅は、誰をも幸せな気持ちにさせる。

2003年(平成15年)
笑ひ声せしは野仏菫摘む

吉田拓郎の「野の仏笑ったような…」という歌を思い出した。野仏は素朴で柔和なお顔だ。

影法師なき人たちと日向ぼこ
「日向ぼこ」の懐かしさが、今は亡き人たちへ思いを馳せさせるのだ。共感を覚える。

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2004年(平成16年)
銃抱きし日の枯野あり誰もをらぬ
「枯野」が現実の風景だけではなく、胸中にも存在しているのは、戦争体験があったから。

一本の冬木のために地平あり
凜とした冬木の立ち姿を見ると、このように言いたくなる。冬木への賛歌。

2005年(平成17年)
絵襖の姥に差しくる此の世の月
過去と現在の交叉が面白い。絵の姥も少し華やいでいようか。

夢の中まで紛れ込む落花かな
たくさんの落花を浴びた日は、確かに夢にまで桜の花びらが追ってきそうだ。

2006年(平成18年)
夢の切れ端繋げば花筏になりし
若い時からいくつも抱いてきた夢、どれくらい叶っただろう。「花筏」という発想が素敵。

耳鳴りを雁の羽音としておかむ
虻や蜂や蚊でなく、「雁」というのが、とても俳人らしい。

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2007年(平成19年)
ぬばたまの闇に螢と息合はす
とてもよくわかる。私も螢の明滅に息を合わせて見ていた記憶がある。

分け合うて田へ水の音立ててゆく
田の水の当番は大変だと聞く。水を平等に分け、皆の田の稲がよく育ちますように。

2008年(平成20年)
少年院の紫陽花 雨の銀の柵
寂しいけれど作者の優しさを感じる句だ。あまり詠まれない題材だが、どの語もふさわしい。

死ぬときの一言は蜩に習ふ
蜩の「かなかなかな」という鳴き声は、切なく寂しい。季節の終わり、そして蝉の一生の終わり。

四万十川に沿ひ月光の曲りゆく
川の両岸は草原で暗い。川面に月光が反射し、川の流れが見えて美しい。

2009年(平成21年)
荒星や勤評闘争以後孤独
教師をされていた作者。穏やかな風貌の内部に、芯のように持ち続けている思いがあるのだ。

十二月八日の無言館に入る
日本が真珠湾を攻撃した日。戦場に駆り出された若者たちが残した絵が、ここにある。「十二月八日」と「無言館」が有無を言わさぬ強さで、反戦を訴えている。

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2010年(平成22年)
桜の夜次の世に逢ふ握手して
桜の尋常でない美しさは、人に生死を考えさせてしまう。

孤老と猫の暮しちりめんじやここぼし
この軽妙さが、猫好きの私には嬉しく思えた。「孤老」と「猫」は似合う。

バナナ一本食べて笑つてまだ此の世
「バナナ」という軽さが、いい。悟りの境地に作者はあるか。

あるだろう水母になつて浮かぶ日も
生まれ変わったら自分は何になっているだろう。水母(クラゲ)も案外悪くないか。

2011年(平成23年)
地図から消えた村の李(すもも)の花盛り
社会性と自然の美と両方を詠み込んだ句で、とても印象に残った。

大和しうるはし千手は落花享けるため
慈悲の「千手」が「落花」を「享(う)けるため」であるという、耽美的な空想が「大和し(強め)麗し」と合っていて、春を豊かに享受できた。

 言葉遣いに格調があって、気持ちよく読めた句集だった。未知の言葉に出会って辞書を引くのも楽しく、とても良い勉強をさせてもらえたと感謝している。

テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
すばらしい
どのお写真も相変わらず、素晴らしいです。
川に写った夕焼けなんて亀さんならではの発想だわ。


菅谷藍先生を拝見しました。
もう、ビックリです。
お顔は張りがあってシワなんて見当たりません。
毎日、きちんと身だしなみをされて、見習わなくっちゃ。
マイナス20才と言われても信じられます。
ご自分の足でスーパに行かれる。
お肉がお好きとか。
出来ることはご自身でなさる。

80才代で人の手を借りて生活をされている方がたくさんいられます。
この差って何なのでしょう。
最近の私の大きなテーマです。
【2011/07/03 10:26】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]


おはようございます。
写真素敵ですね、なんだか懐かしいような気がします。
私が生まれ育ったところにどこか似ています。

私はあまり俳句はわかりませんが、
>夢の切れ端繋げば花筏になりし
なんとなくですいませんが、心に娘の姿が映りました。
何かを感じさせてくれるんですね
【2011/07/04 10:24】 URL | 夢詩 #- [ 編集]

ベンジャミン(keiko)さんへ
こんばんは。お返事遅くなりました。
先生のテレビ、見て下さったんですね。ありがとうございます。
大変な読書家でもあるのですが、もうお一方もそうでしたね。

>お顔は張りがあってシワなんて見当たりません。
ほんとにいつもあの通りで、つやつやすべすべのお肌で、傍で見てもしわがありません。
お化粧は、コールドクリームで拭き取って、あとは「ちふれ」の化粧水と乳液をつけるだけだそうです。
石けん洗顔は入浴したときだけ。洗いすぎが一番よくないと言われていました。
とてもきれいなお肌で、半分ぐらいの年の私たちの方が負けています。

もちろん、入れ歯でもないし、カツラでもありません。
結核で早く亡くなられたご主人も弟さんも歯科医だったので、先生の歯への意識は高く、一日5~6回は軽く磨かれるそうです。
月に1回は、歯科医にお掃除をしてもらいに行かれます。
髪はさすがに染められていますが、こちらも月一の美容室通いで、私たちは白髪を見たことがありません。

やっぱり一人暮らしで、自分のペースで暮らせていることが大きいと思います。
お庭もいつも季節のお花を植えて、よく手入れされています。
お習字の時は、いつも先生好物のスイカを食べやすく切って出してくださるのです。
昨日はパイナップルを切って(切りにくいのにね)出して下さいました。
マメに動くこと、好奇心が旺盛なこと、人に頼らないことでしょうか。

お元気なので、介護は1で、週1時間お掃除に来て下さるだけだそうです。すごいです。
痛かった膝も、階段を上り下りされているうちに、治ってしまわれましたよ。
体温が高くて、免疫力が強く、風邪でお医者さんの薬を飲んだら逆にしんどくなって、飲むのを止めて、自力で治されました。
よく笑われるし、世間で言う長生きのコツをすべてもっておられますね。
【2011/07/05 20:23】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

夢詩さんへ
こんばんは。コメントありがとうございます。

>夢の切れ端繋げば花筏になりし
人生の中で、人はいろんな夢を抱きますよね。
なかなか完全に夢が実現することはありませんが、少しは近づいたり実現できたりもします。
まだ叶わない夢の部分をつないだら、新たな夢ができるのかもしれませんね。
「花筏」は、散った桜の花びらが水面でくっついて「筏」になったもの。
きれいな言葉ですね。少し寂しい、でも華やかさも残した「花筏」のような「夢」。
娘さんにも、ステキな夢がおありなのですね。

>写真素敵ですね、なんだか懐かしいような気がします。
ありがとうございます。夕焼けは、我が家から。
真ん中の花の写真は、奈良の明日香村で撮りました。
6月にまだ咲いていたタンポポと、もう咲いていたシモツケソウです。
【2011/07/05 20:32】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年6カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
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