心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
心に響く本-伊丹公子エッセイ集『港都譚』
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 伊丹公子エッセイ集 『港都譚』 表紙      「青群」第24号・2012年夏

伊丹公子エッセイ集『港都譚』 (沖積舎/2011年/3000円) 書評

             ~ 回想のなかにある花 ~              

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 多くの句集・詩集・紀行文集を出されている著者の、二冊目のエッセイ集である。どのページにも、詩情あふれる言葉を発見し、読む喜びに浸ることができた。

 前半は、二〇〇六年から二〇一一年に「神戸新聞」に掲載された千字余りの長さのエッセイで、「島」「靴」といった、毎回異なるテーマに沿って書かれている。私は、短詩型文学やエッセイを読むのが大好きなのだが、この見開き二ページの文章には、起承転結の美しさを強く感じた。

 例えば、「バリ島のひとびと」と題するエッセイの冒頭の一文「私たちは昼前、幻の鳥ガルーダの羽根の下から、バリヒンドゥーの島へ降り立った。」なんと幻想的な書き出しだろう。ガルーダは航空会社の名前だと明かしてあるが、この一文で一瞬にして、読者は著者と共に、物語のような別世界に降り立つ。具体的な描写のおかげで、鈴の音・僧の声・水の感触・少年や少女のしぐさ・島の人々の踊りに出会うことができる。そして結びの一文「遠い日の島のひかりは、いつも何処かで不意に蘇る。」に共鳴し、自らの中に、今、このエッセイで出会ったばかりの情景を、どこか懐かしい気持ちで思い出すのである。

 このエッセイ集の書評につけた副題~回想のなかにある花~は、最初の文章からいただいた。そこには、師事した詩人村野四郎と作家芹沢光治良、夫でもある俳人伊丹三樹彦、句友Yさんが、思い出とともに語られている。二十一編載っているエッセイの、各回のテーマから引き出される回想は、六十年前のことであったり、つい最近のことであったりするのだが、その一つずつを花のように愛おしんでいる著者を感じ、先のような副題としたのである。

 もう一つ、エッセイ集前半の特徴として外せないと思ったのが「ひかり」である。「街から街」と題したエッセイの中に、著者が移り住んだ「ふるさと」が記されている。土佐の高知・京都の綾部・但馬の豊岡・阪神間の伊丹と尼崎など。長く住まれている阪神間は、港神戸が近い。本書のあとがきに「書名は、港都にての暮らしの歳月のなかで生まれた文章が多いことに拠る」とあるとおり、著者の暮らしは海の光とともにあった。夏ごとに訪れていた三女の暮らす異国にも、海の気配は濃厚である。海や川、日傘が好きだと書く著者は、夏への思いが深い。それは、「仲の良い姉弟だった。その弟が、四歳の夏に死んだ。・・・蝉の命のように短い時間を、私の弟でいてくれたのに。」と書かれた文章と、切り離せない。そして、その思いは、口絵写真の伊丹三樹彦・写「神戸港」の子どもたちや、伊丹啓子・写「静岡(童地蔵)」につながるのである。

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 本書の中ごろにある、神戸のユニークな文化団体「半どんの会」の機関誌に連載された「遠い日」というエッセイには、著者が師事した方々(前出の三氏に加え、詩人伊藤信吉)や詩人小林武雄、両親、弟といった大切な人々との出会いが記されている。その中に芹沢先生の「私はこれまで、多くの方から多くのものを学びました。私の言葉でお役に立ちますようなものがありましたら、何でもお採りください」という言葉が紹介してある。それを受け、著者は「私は大きな木の実が、たわわに実った大樹を連想した。」と述べているのだが、実は、私は、本書を読みながら同じことを感じていた。特に、後半の大部を占める「青群」掲載のエッセイは、句友や後に続く人たちへの贈り物に思えた。

 著者の所属する俳句会「青群」の、6号から20号に載ったこれらのエッセイは、二千字前後と字数の多いこともあって、伸びやかで生き生きしており、著者の好奇心や向上心が全開である。さらに、タイトルに添えられた俳句と併せ読むとき、しみじみとした情感が加わることも魅力である。森羅万象の館、王子動物園、東京、但馬、京都、丹波篠山…を、夫君の三樹彦氏や娘さんたちと訪ねられ、その時々の感動を、句に文章に残されている。また、今のお住まいに移られてからのあれこれを書かれた「ジャカランダの集い」の中に、私は次の文を見つけて、このエッセイの本質に触れた気がした。「遠い流れから、つづいたいまは、なんと、たいせつな時間であることか。」「感動すること、生きることは同義語だった。」それは、著者の生き方そのものでもあるゆえ、多くの出会いを大切にされ、心を豊かにされているのだと思った。なかでも「今本明代さんのこと」の章には、句友ひとりひとりをご自身の中にしっかり受けとめ心を寄せる著者の情愛が溢れ、強く心に残った。心の豊かさは、そのまま題材の豊かさに通じるが、印象的だったのは、植物名を次々とあげ細かい描写をしている箇所である。特に、ご夫妻お気に入りの通称「みどり園」での、木々の描写は圧巻だった。

 物語の始まりを予感させる十六ページにわたる口絵写真と、伊丹三樹彦句集『知見』『続知見』に添えられた巻末の文章は、著者と夫君の二人三脚の人生そのものであり、編集の巧みさにも感心した。最後に、夫であり師である三樹彦氏のことを述べた「命ある日」より、次の二文を引用する。「花、鳥、虫、魚、空、海山 草木、街、それに愛する人々は、すべて彼の俳句の中の住者となった。」「母国日本に在っても、異国に在っても、目前のものを、悉(つぶさ)に見ることは、三樹彦生来の特色であった。」この二文に「自由な想像」を加えれば、それはそのまま、本書の著者の姿に重なると思うのである。若輩の私にとって、学ぶところの多いエッセイ集であった。

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  「青群24号」(2012年夏)に掲載して頂いた拙文を、お許しを得てブログにアップ致しました。
伊丹三樹彦・公子先生ご夫妻には毎月の句会でお世話になっており、優しく、かつ俳句に熱いお人柄や魅力的な肉声を存じ上げているので、なお一層の親しみを感じて読むことができました。

 昔の人の本でも、顔や声を知ることで、ぐっと身近になることがよくあります。まして、現代に生きる著者の場合は、できる限りご本人のお話を生で聞けるようにすると、得るところが多いと感じます。直接お話しを聞いた後は、著書を読んだ時、その方の声や表情などが頭に浮かび、入り方が違います。

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この記事に対するコメント
こんばんは
亀さんの解説がいいです。
書かれた方のお気持ちをよく理解されているのでしょう。
私なら何気なく読み進むところを丁寧に読まれているのが分かります。
「蝉のように短い命・・・」
こんな風に書くことが出来るんですね。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
今日は根津にある「弥生美術館}http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/に行ってきました。
小さな小さな美術館です。
竹久夢二、それいゆ、少女の友、内藤ルネ・・・懐かしい名前や絵に夢中で時を過ごしました。
大正時代の絵なのに今のファッションと言ってもいいようなスタイルの絵もありました。
目の前にある東大の中をバスが通っているので、その広さにビックリ。


明日(9日)の夜、娘夫婦のお誘いで急に京都に行くことになりました。
車で行くと言うので真夜中に着いて月曜日の夜遅く帰宅予定です。
せっかくのお誘いなので行ってきます。
亀さんになかなかお会いできません。
【2012/06/08 20:38】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]

ベンジャミン(keiko)さんへ
こんばんは。
長い文章を丁寧に読んで下さって、ありがとうございます。

京都に来られるんですね。
せっかく近くに来られるのに、私のほうの予定が入っていて残念です。
でも、来年の夏は、関東地方に行けそうです。お会いできるかも。
こちらにもまたいらしてくださいね。早めにわかればなんとか…。

娘さんご夫妻とは、初夏の京都、どこを楽しまれるのでしょう?
私は、今、必要があって、大阪市内巡りにいそしんでいます。
奈良、京都、大阪、神戸、いつかご一緒できたらいいですねえ。
私は、そちらの美術館や箱根が気になっています。

弥生美術館、HPを見ました。内藤ルネさんの絵が可愛い!今でも新鮮ですね。

東大も広いんですね。先ほどテレビで見たイギリスのケンブリッジもすごかったです。
まあ、どちらも観光以外では、残念ながらご縁がないのですけれどね。
【2012/06/08 21:11】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


先日はどうも…
大阪のメンバー、全員元気そうで良かったです。

港都…とても良いタイトルです!

起承転結の美しさ…ドキッとしました(笑)。自分もそういうふうに意識していろいろ書いてみたいです。
【2012/06/10 21:47】 URL | kenji #tHX44QXM [ 編集]

kenjiさんへ
こんばんは。
大阪歌会、お久しぶりでしたね。
お元気そうで、前より落ち着いた感じがしたのは、院生になられたからかな?

たくさんの出詠で、司会者としては嬉しく&フル回転でした。
評者の方はすぐにまとめが来るので、忙しくてお気の毒でした。頭使いますからねえ。

本の題名、ご夫妻そろって(特に三樹彦先生)いろいろ考えられるのがお好きだそうです。
【2012/06/11 22:09】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年3カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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