心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
季節の詩歌(31)コスモスの花揺れ
 季節の詩歌(31)~コスモスの花揺れ~

「空」誌45号掲載の拙文です。昨日撮った万博公園のコスモスの写真とご一緒にどうぞ。

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小説家で詩人でもある富士正晴のエッセイ「コスモスの花」に、次のような文章がある。

コスモスは花が咲くまでは何かいやに場所をとって、もくもくしていて、うるさい感じがしないでもないではないが、花が咲くと、たいへん親しみやすく、やさしく、にぎやかで、しかも可憐で清潔という感じを受ける。どこに咲いていても場ちがいの感じがなく、気にさわらない。風が激しければ地に倒れ、やがてそのまま枝葉をのばして花をひらく。弱くて素直で、しかも強情で強い。生活力の旺盛さが憎いやつというよりは、可愛いやつという感じ。従順で強い花である。

「コスモスの花が好き!」と言う人は、私も含め、周りにたくさんいるが、この文章を読んで「その通り!」と、拍手をしていることだろう。美しく繊細でありながら、強靭さを併せ持つこの花は、「コスモス=宇宙」という名が実にふさわしい。ギリシャ語の原語は、他に装飾・調和・秩序などの意味もあり、花は幕末に渡来していたという。

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・・・明るく寂しい・・・

風船をつれコスモスの中帰る        石原 八束

縺れあうコスモス畑で子を追えりいつまで若い父なのだろう     吉川 宏志

風船を持っているのは、子どもだろう。丈の高いコスモスは、迷路のように子どもを隠す。句も歌も、美しい彩りの中で、初々しい父親としての喜びが感じられ、微笑ましい。が、同時に、少し寂しさが漂うのは、この幸福感が永遠のものではないと、作者が気付いているからだ。

コスモスの揺れて少女にみな還る      内藤 呈念

コスモスのほそく群れさく陽のなかでこの世のふしぎな時間と言えり 永田 紅

コスモスの群れに囲まれると、今を生きているのだけれど、なんだか過去と未来をつなぐ時の揺らぎの中に居るような感じがする。大人は夢見る少女の頃に戻り、少女は子ども時代に別れを告げる寂しさを味わっているのかもしれない。

コスモスに囲まれてゐて一人かな      戸村よねこ

コスモスの花が明るく咲きめぐり私が居らねば誰も居ぬ家      河野 裕子

白、薄紅、桃色…コスモスは明るい色をしている。花が群れ咲く中に人が集えば笑顔が溢れるが、そうでなければ一層一人が身に沁む。子等が成長し、家族団欒もままならぬほど、それぞれが忙しい日々。頭では分かっていても、寂しさは押し寄せてくる。その孤独感を救ってくれるのは、陳腐な言い方だが、やはり愛だと私は思う。

コスモスや少女のままの妻と居り     徳田 正樹

コスモスよ溢れて咲くよ一人では死なせぬと今ふつふつとする    大塚 陽子

相手に全身全霊寄りそう覚悟の感じられる、優しさと強さの溢れた句と歌である。

コスモスのやさしき色と昏れ残る     恒藤 滋生

ゆらゆらと陽に透けながら昏れてゆくコスモス誰かわが胸よぎる   河野 裕子

晴れ渡った青空を背景にしたコスモスは、くっきりと鮮やかであるが、逆光に花びらの透くさまは儚さを感じさせ、しみじみと秋を思わせる。ことに夕暮れ時のそれは、懐かしさと人恋しさを連れてくる。

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・・・揺れて倒れて・・・

コスモスの上にやさしき風生まれ     西本 輝子

中洲にはコスモスひと本咲きいたりそよろと秋の風は吹くべし         永田 淳

二メートル程の高さになるコスモスは、細く裂けた羽状の葉をつけて、優しく風に吹かれる。茎も細く、風に逆らうこともなく揺れるだけに、激しい風は吹いてほしくないというのが、人情だ。

コスモスの一ヘクタール風も棲む     泉田 秋硯

コスモスの花群(はなむら)に風わたるとき花らのそよぎ風のごときもの     長澤 一作

「風も棲む」という捉え方が素敵だ。広いコスモスの野で、花も風を楽しんでいるのだ。「花らの」から始まる下の句が、花の歓びを伝えてくる。

コスモスに来て奔放な風となる      辰巳あした

たわたわに吹かれ乱るるコスモスは風道(かざみち)の中にあるにやあらむ    宮 柊二

ふだんは見えない風の流れが、花や葉を過ぎるとき明らかになる。私たちは、風に東西南北の名前をつけるが、整然と吹く風なんてないのだ、ほんとは。花だって、私たちが望むように真っ直ぐ立つ訳がないのだが、次のような場面に立ち会って、その厄介さに気付く。そして、それが愛おしくもある。

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コスモスや束ね上げてもからめても        寺田 寅彦

やつれゆくコスモスの庭 咲き残りをりしをたぐり寄せ支柱に結(ゆ)はふ    河野 裕子

結わえられたコスモスは、そのまま残りの花を咲かせたことだろう。ところで、元気だと思っていた花が、思いがけず強風に倒れてしまうことがある。

コスモスや剛く生きたる母なりき         中村 恭子

倒れたるままのコスモス花首をすつくともたげ秋の日に咲く        二宮 信子

大好きな義姉が余命数カ月を宣告された日が、そうだった。しかし、台風になぎ倒されたコスモスはその形のまま、しっかり花を咲かせてくれた。命あるものは、そう簡単に自分を見捨てたりはしないものなのだ。懸命に家族のために生きようとする義姉の姿は、大切なことをたくさん教えてくれた。

したたかに咲きコスモスに星降りぬ        戸村よねこ

倒れ伏しそれでも咲きゐるコスモスにしづかな寒さが降(お)りてゐるなり   河野 裕子

倒れ伏すという厳しい現実を受け入れつつも、決して負けてはいないコスモス。「星」に「しづかな寒さ」に、作者の、花に寄せる祈りを感じる。

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・・・この世もかの世も・・・

「一番好きな花はコスモス」と言っていた三人のことを思いながら、私はこの文章を書き進めてきた。乳がんの転移で若くして亡くなった、同級生、義姉、歌人の河野裕子さん。それぞれを知る私は、三人の共通点をあれこれ思うのだが、ことに励まされるのは、彼女たちが最期まで生ききったことである。

消息やコスモス百花揺るる中       青柳志解樹

コスモスの野原よぎりてバス停に亡き人の来る時刻待ちをり      山田 吉郎

世の中を良くするためにと、社会的活動に専念していた同級生は、一緒に出かけたコスモス園で、三人の子どもたちとの充実した時間を、楽しく語ってくれた。今でも、そこに行くたびに、元気で前向きだった親友を思い出す。いや、彼女との会話がしたくて、一人でそこに出かけると言った方が正しい。

コスモスに逢ひに行きます独り旅     小澤 菜美

コスモスの揺れ咲く丘に尋ね当てし墓標は君の建立とあり      遠役らく子

親友の墓碑は、ワンゲル部だった彼女にふさわしく、六甲山を望む丘の上にあるが、そこにコスモスが揺れ咲いていたら、彼女はどんなに嬉しいだろう。

来し方を思ふコスモス一抱へ       奥田 茶々

これからの日々をなつかしく生きゆかむ昨年(こぞ)せしやうにコスモスを蒔く   河野 裕子

一緒に過去を振り返ることができないと分かった時、人はどうするか。思い出してもらえるものを残していくのではないか。いくつかの経験から、私はそう確信している。
早くに亡くなった私の母は、家族で最後に出かけたダム湖の傍に咲く月見草を、どうしても持ち帰りたいと言い、病床から毎夕咲いた花数を問うた。亡くなる直前、私に買いにやらせた沈丁花と併せて、それらの花は私にとって母そのものである。
義姉は、亡くなる数日前まで編む手を止めず、親しい一人ひとりにふさわしいベストを作り続けた。病院に向かう車中でも編み針を動かす姿には、「休んで」という言葉を寄せ付けない必死さがあった。私の手元には、大好きな猫のベストが残された。

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そして、河野裕子さんは、一番好きなコスモスを、家族の集う庭に残した。最期まで詠み続けた歌と共に。最後の歌集『蟬声』と響きあっていてくれればと編まれた、夫君永田和宏氏の歌集『夏・二〇一〇』には、この世に残された人の思いが溢れている。

「さよなら」に揺るるコスモス大落暉       安岡 房子

もつともつと話しておけばよかつたと思ふのだらうおーいコスモス     永田 和宏

コスモスやいたはり合うてゐるやうな       芝 尚子

たつたひとり君だけが抜けし秋の日のコスモスに射すこの世の光      永田 和宏

コスモスに埋れてゐたし眠りたし         緑川 啓子

このふた月あなたの声を聞かないがコスモスだけが庭に溢れる       永田 和宏

君消えてよりコスモスの揺れ初むる        稲畑廣太郎

コスモスの花揺れ日本手拭が揺れればきみと思ふだらうきつと       永田 和宏

最後の「さよなら」は、もうその人の声を聞くことがない、言葉を交わすことがない、ということである。しかし、目の前に咲いているコスモスが、ここにいない人と自分とをつないでくれる。それは、不思議な確かさである。色を持ち、香りを持ち、風に揺れる花であればこそ、語りかけるような優しさで心に触れてくる。切ない…。

テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

すっかり終わってしまったコスモスをまた見ることが出来ました。
見事ね。

コスモスってなよなよして弱いイメージです。
一昨年、台風の翌日にコスモスを見に行ったとき、職員さんが倒れたコスモスを手で起こしてるんですよ。
そうするとひょろひょろしたコスモスが立ち上がるの。
見に来ている私たちにしゃっきとした姿を見せてくれました。
本当は強いんだなーと感心しました。

息子さん、頑張っていらっしゃいますねえ。
親としては応援したくなりますね。

犬塚さんのご主人様もよくなられているようですね。
奥様の努力、ご本人の努力が実ってきているのでしょう。
【2012/11/04 20:33】 URL | ベンジャミン(keiko) #oUPgpoCM [ 編集]


お久しぶり。息子さんのライブ いかがでしたか。私もそのうちに是非。

コスモス きれいね。俳句 短歌に詠まれたコスモス こころにいろいろに感じ染みます。
私には コスモスの 思い出はなく 味気なくてなさけないなあと思います。huさん コスモス好きだったのね。ワンゲルの格好で大学の時わたしの下宿を訪ねてくれて二人でたのしくすごしたのを思い出しました。友人がきたらいつもカレーを作ってましたが。
山が大好きで逞しくいろんな山に行ってたのね。ちなみに 主人もワンゲルでしたが、十和田の学校だったので 内容はすごかったらしいですが。

河野裕子さんのご家族のドラマをNHKでしてましたね。最後のほうだけを見せていただきましたが 短歌をティッシュの箱に書いておられましたね。

亀ちゃんの文章でピンクで群を成すコスモスからいろいろと感じることができました。 

話は変わって コーラス。今 コーラスでオリジナルの楽曲を練習しています。神戸北野をイメージして ジャズやゴスペル、そして きれいなメロディーも入り なかなかおしゃれになっています。音楽療法士の方に私たちの詩をもとに作詞 作曲していただきました。
北野の道ばたにもいろいろな彩りの花が植わっていてコスモスも咲いています。忙しい中で出掛ける道のお花に癒されてます。


先日 バスから 眺めたコスモスを思い出しながら昔のことも思い出しました。




【2012/11/04 20:43】 URL | よりやん #- [ 編集]

ベンジャミンさんへ
こんばんは。お返事遅くなりました。
一昨日は、息子のライブで遅くなり、昨日はその疲れで早々眠ってしまいました…。

>すっかり終わってしまったコスモスをまた見ることが出来ました。
私ももう終わってるかと半分あきらめて行ったのですが、一面満開だったので驚きました。
翌日が「コスモスまつり」の最終日だったので、皆さんに切ってプレゼントされたと思います。
ぎりぎりセーフで撮れたしゃしんです。ほっ。

>本当は強いんだなーと感心しました。
そうですよね。倒れたままでも咲き続けますから。人間もそうかもしれませんね。

>親としては応援したくなりますね。
息子と一緒にライブをした浜田一平さんのお母さんとも知り合いになれました。
応援してくださる方が増えて、ありがたいことです。

>奥様の努力、ご本人の努力が実ってきているのでしょう。
そうですよね。ものすごい努力をされていると思います。うまくいってほしいです。
【2012/11/06 19:15】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

よりやんへ
こんばんは。夜遊びで疲れてお返事遅れました。

>息子さんのライブ いかがでしたか。
おかげさまで、たくさんの人が来られていて、ほんわかと和やかな時間を過ごしました。
久しぶりに来られた方が「うまくなったね」とほめてくださって、ほっとしました。
FM802のDJ平野さんは、先日も曲をかけてくださったようですが、会場にもおられました。
いろんな方が温かい目で見てくださって、ありがたいことだなと思います。

>huさん コスモス好きだったのね。
何度目かの退院のあと、「一番行きたいところは?」って尋ねて、この写真の丘に来ました。
毎年、この丘に立つたびに、ここに座っていろんなこと話したな~って泣きそうになります。
だから、毎年一度は一人でここにコスモスを見に来ることにしています。

>河野裕子さんのご家族のドラマをNHKでしてましたね。
そうでしたね。ご本人はもっと華奢で可愛い方なので、ミスキャストだと残念に思いました。
子どもさんたちも、ご本人のほうが顔もいいし賢さがあふれてて魅力的です。
「塔」の知人は皆、河野裕子さんのイメージと違うと、悔しがっていました。

>音楽療法士の方に私たちの詩をもとに作詞 作曲していただきました。
素敵ですね。歌の力はすごいなって思います。励まされるし癒されますよね。

たくさん書いてくださってありがとう!
【2012/11/06 19:26】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]

おつかれさまです! 
イイ写真ばかりですね~

コスモス…先生の笑顔を思い出しますね。
また明日から、作歌をがんばろうと思います。
【2012/11/13 21:36】 URL | 中村ケンジ #tHX44QXM [ 編集]

中村ケンジさんへ
コメントありがとうございます。寒くなりましたね。
コスモスの花、半分あきらめていたのですが、満開で撮れました。

今月提出の歌、締め切りが近いですから、お互い頑張りましょう!
【2012/11/14 18:11】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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まとめ【季節の詩歌(31)コ】

 季節の詩歌(31)〜コスモスの花揺れ〜「空」誌45号掲載の拙文です。昨日撮った万博公園のコスモスの写真 まっとめBLOG速報【2012/11/20 15:18】

プロフィール

大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年3カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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