心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
季節の詩歌(32)~手紙を読む・書く~
季節の詩歌(32)~手紙を読む・書く~

「空」誌46号掲載の拙文です。長いですので、お時間のある時にでも読んで頂けると嬉しいです。
写真は、本文とは全く関係がないのですが、足に合う靴が手に入って嬉しいので載せました。

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  【元同僚(大先輩)から、今年も立体きり絵を頂きました。新年にふさわしい三枚セットです。】

    ・・・ 読む ・・・

日の暮れるのが早い季節は、わけもなく心細く、人恋しくなる。帰宅して開く郵便受けには、たいていダイレクトメールばかりが入っているのだが、そんな中に手書きの封書や葉書きを見つけると、ほっと心が温かくなる。パソコンや携帯電話からのメールは瞬時に相手に届き、迅速な対応が可能である。だからこそ逆に、時間をかけて届けられる手紙には、大事にしたいものが含まれていると思うのである。

秋灯下金釘流の友の文       笠原 博満

 達筆の人は字を書くのが苦ではないから、比較的頻繁に手紙をくれる。手に自信のない人は「筆不精で」などと言い訳をして、書くことを極力避ける。それゆえ、「金釘流」の友の文は、貴重だ。苦労して書いている友人の顔つきや心の籠った文面が浮かぶ。

秋の灯にひらがなばかり母の文   倉田 紘文

 「ひらがなばかり」の手紙といえば、野口英世の母シカさんを思い出す。作者が受け取ったのも、ひたすら子を思う純朴な母の愛情の溢れた手紙である。どちらの句にも使われている「秋(の)灯」という季語によって、秋の夜の孤独が、その人そのもののような手紙によって慰められているのが分かる。対して、次の歌は、気持ちが届かないばかりか、その失礼さに作者は憮然としている。たとえ悪筆であっても、書き手の見える手紙がほしいのが人情である。

手書き文字の一字だに無き手紙を寄せ返事待つとぞ未知なる人が    辻下 淑子

次の三句は、それぞれの季節感と句の内容が合っていて、手紙を受け取った幸福感が漂っている。相手のために大切な時間を割いて書かれた手紙は、ありがたく嬉しいものである。

陽炎やふくらみもちて封書来る    村越 化石

鞦韆に腰かけて読む手紙かな    星野 立子

紅葉明るし手紙よむによし       尾崎 放哉


春のやわらかな日差しが詰まっているような「ふくらみ」のある手紙、暖かな春の日に気持ちを解放させながら「鞦韆」で読む手紙、「紅葉」明りの下で読む手紙、どれもみな、心の温もりが伝わるようだ。

妻の手紙よみつつおもふ互(かた)みなる吾の手紙も悲しかるべし       佐藤佐太郎

作者の妻も歌人である。互いに日頃から情の深さが分かっている相手だ。離れて暮さねばならない事情の中でやり取りする手紙、そこに、互いの想いを汲み取る作者の優しさが、心に残る。昭和二十年の歌と知って、戦火の中、囚われの身となった杜甫の詩「春望」の一節「家書万金にあたる」を思った。目の前にいない家族の安否ほど心配なものはない。

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          【やっと足の指が自由になる靴に出会えました。foot styleの靴。】


長い手紙の終わりの低姿勢つくづく読めばつくづく哀し             東 直子

 あまりにも「低姿勢」である相手の卑屈さも、それを生じさせてしまった自身の存在も哀しいのだ。人から滲み出る謙虚さも尊大さも、その人がたどってきた人生を想像させ、作者は辛いのだと思う。

白い手紙がとどいて明日は春となるうすいがらすも磨いて待たう        斎藤 史

しろい昼しろい手紙がこつんと来ぬ   藤木 清子


 歌にも句にも詠まれている「白い手紙」は、何も書かれていないことを意味しているのだろうが、伝わってくる心情は異なる。歌の方は、新しく始まる春への期待感で明るい。句の方は「しろい」の繰り返し、「こつん」という硬い響きが、作者の空虚感を表しているようで、どこか不安な気配が漂う。

毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである           枡野 浩一

気持ちのとてもよく分かる歌である。一番欲しいのは「あなた」からの手紙なのに、毎日ドキドキしながら郵便受けを開けるのに、ちっとも来ない。失望の積み重ねが絶望となる前に、恋しい人からの手紙が届きますようにと、他人事ながら祈りたくなる。

日溜りに置けばたちまち音たてて花咲くような手紙がほしい          天野 慶

大好きな人からの手紙なら、自然と笑みがこぼれるような言葉が書かれていたら、どんなに幸せだろう。若い作者が素敵な比喩を使って、素直に想いを述べたこの歌、手紙の力を改めて感じさせてくれる。

どこからも手紙来ぬ日の寒夕焼     森 たけ子

あすはよいたよりがあらう夕焼ける   種田山頭火


 誰からも手紙の来ない日は、自分がこの世から疎外されているような寂しさを味わう。「寒夕焼」は自らの焦がれるような想いの表出でもあろう。山頭火の句の「夕焼」を併せて考えると、大きな自然が、「希望を持て」と励ましてくれているようでもある。
そして、何といっても「夕焼」そのものが、自然からの素晴らしい手紙であり、感動を与えてくれる。

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   【甘えん坊のミューは、ハオと一緒の時が一番好き。お母さんみたいに安心するのでしょう。】

    ・・・ 書く ・・・

十八歳で初めて親元を離れた頃、ちょうど流行っていたのが、井上陽水歌・作詞・作曲の「心もよう」である。家族とも友人ともそう簡単には会えない距離で、唯一つながることができるのは手紙であった。生の声を聞くには、公衆電話を利用するしかなかった時代のことである。今とは隔世の感がある。

淋しさのつれづれに 手紙をしたためています あなたに / 黒いインクがきれいでしょう 青い便せんが悲しいでしょう / (中略) /悲しさだけを手紙に詰めて 故郷に住むあなたに送る / あなたにとって見飽きた文字が 季節の中で埋もれてしまう アア…

女性の多くは、インクや便せんの色に気を遣う。相手にも、それを読み取る感性があると信じているからだ。手紙には、相手が目の前に居ないことによる良さと弱点がある。面と向かっては伝えにくいことが書ける半面、受け入れてもらえないのではないかという怖さもある。繰り返し読まれることもあれば、読まずに捨てられることだってある。書く側と読む側には、時間のズレなど様々な条件が介在し、思いがけない齟齬が生じたりもする。歌詞の「見飽きた文字」という語が、二人の今後を暗示している。

天の川余白を多く書く手紙     沼尻巳津子

天の川という季語から、牽牛と織女の物語を連想した。余白にこそ読み取ってほしい想いがある手紙、受け取った側はどのように読むだろうか。

知らぬ間に文長くなる秋灯下     山本ふみを

寝て書いて長き手紙や種茄子    岸本 尚毅


秋の夜長は、一人の時間を持て余す。いちばん心を許す人に手紙をしたため始めたものの、次々と書きたいことが溢れ、思いがけず長くなってしまった。翌朝読み返して、気持ちの発露に驚くのではないか。

由布に雪来る日しづかに便書く    橋本多佳子

「クロッカスが咲きました」という書きだしでふいに手紙を書きたくなりぬ     俵 万智


季節の移りを感じた時、そのような情感を伝えたい相手がいる。自分と似た感性を持ち、安心して気持ちを委ねられる相手である。「由布に雪」という穏やかな響きや「クロッカスが咲く」明るさがいい。

白鳥の来しこと告げて書く手紙遠き一人に心開きて                道浦母都子

たましひの手くらがりにて人の世のひとりにてがみ書きゐたりけり        高野 公彦


この二首に、手紙は「一人(ひとり)」にあてて書くものであるということを改めて思った。言葉の奥にある、自分の大切な「心」を届けるのである。もしかしたら自分自身だって気付いていない「心」が、語り始めるかもしれない。そういうことも含めて全面的に信頼を寄せることのできる相手なのだ。

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            【履きやすくて歩くのが楽しいfoot styleのブーツ。】

いとけなきものに手紙を書く朝のひらかなばかり善きことばかり           高尾 文子

長き長き手紙を書かむと思ひしにありがたうと書けば言ひ尽くしたり        稲葉 京子

口つけて水道の水飲みおりぬ母への手紙長かりし夜は               岸上 大作


幼い人に書く手紙はひらかなで善いことばかり、感謝の手紙には万感の思いを込めた「ありがたう」、故郷の母への手紙を書き終えたあとに、ほーっと長い息をついて水を飲んでいる作者。さまざまな手紙がある。相手のことを思いながら言葉や文字を使い分けることは、思いやりに満ちた優しい行為だ。

貝のうた一首書き添へ潮にほふ名瀬の街角のポストに落とす            大内須磨子

手に触れしポストの口も夜霧かな   中島 斌雄

二通目の手紙大切いわし雲      ふけとしこ


メールで済ませたのでは絶対味わえない自然との関わりが、手紙にはある。ポストまで足を運ぶ時、手紙には潮の匂い、夜霧の湿り、秋の空気感が添えられる。人の手を経て届くということに、安らぐ。

秋の淡海(あふみ)かすみ誰にもたよりせず  森 澄雄

 自然と交感し合うことで充足している、凛とした作者を思った。すべてを己の懐に入れ、一人で立っているのだ。この潔さに至るには、時間がかかる。
そして今、私が究極の手紙と思っているのは、自分が書いて自分が読む手紙である。アンジェラ・アキ歌・作詞・作曲の「手紙~拝啓十五の君へ~」は、そのことに気付かせてくれた歌である。

「拝啓 この手紙読んでいるあなたは どこで何をしているのだろう / 十五の僕には誰にも話せない 悩みの種があるのです / 未来の自分に宛てて書く手紙なら きっと素直に打ち明けられるだろう」で始まり、
「拝啓 この手紙読んでいるあなたが 幸せなことを願います」で終わる歌、

この歌に救われる十五歳がたくさんいるだろう。合唱コンクールで定番となったこの歌を、皆がとてもいい表情で歌っている。会場の人々も想いを馳せる表情を浮かべ聴き入っている。その誰もが涙ぐんでいることに、連帯感を覚えるのは、私だけではないだろう。感受性の鋭い十代は傷つくことも悩むことも多いだろうが、若い君たちには大きな「未来」が待っているのだよと励ましてくれる、人生の先輩からの優しく温かい応援歌である。

テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
こんばんは…
「手紙、ハガキ」に関する俳句・短歌作品が、こんなにあるとは知りませんでした。
と、同時に情報収集力と分析力がスゴイと思いました。
かなり読書をしてるのでは…

【2013/01/12 21:12】 URL | ケンジ #tHX44QXM [ 編集]

ケンジさんへ
こんばんは。
早々とコメントをありがとうございます。
今日の歌会・批評会・懇親会、どれも充実していてよかったですね。

>かなり読書をしてるのでは…
テーマに合わせて、句や歌を探すのは、魚釣りをするみたいで楽しいです。
ただこの頃は目が弱ってきて(老眼ですね)、思うように読めないので困っています。
【2013/01/12 22:02】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


こんにちは。

ハオちゃん、ほっぺの下に手をしいて寝てる!
下のコに、そんなクセがあって思わず「一緒や!」って指さしてしまいました。
でも、ちょっとちがうかしら?
ハオちゃんの手ではないのかも?


>毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである

こころが痛くなりました。
待ち焦がれていた、そんな日があったような気がします。
もう、そんなドキドキも遠い過去・・・・・・・

手紙の、1番の思い出は・・・
祖母が入院し、母が毎日付添に行ってた・・・私が小学校の1年生だった時に、
食卓にいつも母の手紙が置いてありました。
なんてことない文でしたが、私も先に家に戻る子どもたちに手紙を書いておくのが習慣になっています。
手書きの文字って、やっぱり好きです。
内容もインクも便せんも・・・選んでしまいますね。
でもでも、息子がまだ文字を覚えたてのころ、なんかのおまけでメモ帳をもらい、私に書いてくれた手紙が、今でも大事なたからもの。 


【2013/01/14 18:18】 URL | kimico #Zr2/WiYY [ 編集]

kimicoさんへ
こんばんは。
いつも優しいコメントをありがとうございます。

>ハオちゃん、ほっぺの下に手をしいて寝てる!
Rちゃんもですか。なんか可愛いですよね。
気持ちよく寝ている場所をいつもミューーにとられ、それでも静かに譲ってやる優しいハオです。

>もう、そんなドキドキも遠い過去・・・・・・・
ほんとですねえ。寂しいことです。

>食卓にいつも母の手紙が置いてありました。
いいお母さんですね。そのままkimicoさんに遺伝しているんですね。

>息子がまだ文字を覚えたてのころ、なんかのおまけでメモ帳をもらい、私に書いてくれた手紙が、今でも大事なたからもの。
ああ、いいなあ。一番の宝物ですね。

昨日は、T校の(私にとっては最後の)卒業生たちとの同窓会がありました。
笑顔の多い優しい子たちでしたが、みんなとっても素敵な大人になっていて、嬉しかった!
卒業の時に書いた自分に宛てた手紙も渡すことができて、ほっとしました。 
【2013/01/14 19:22】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


手紙の短歌 俳句 いいですね。私も手紙 大好き。万年筆で書く手紙が大好きです。指に力を入れずに 書く感覚が何ともいえない。昔 いただいた大切な手紙をときどき読み返すのもこころ和む。鉛筆も大好き。小刀で削るのもいい。高校のとき 数学のけめこ先生が答えにいきずまったら 鉛筆をけずりなさいとおっしゃったのを覚えています。最近 かわいい回転式の鉛筆削りを買いました。たまにはらくしてきれいな鉛筆を見たくて。

いい靴が買えましたね。亀ちゃんがかわいいく履いている姿が浮かびます。
良かったですね。

私たちの世代は何度も 書いたり 読んだり 線を引いたり、字をいっぱい書く習慣がありましたね。こういうことが見直されているかもしれませんね。

老化防止にも いっぱい 字を書きましょう!!

【2013/01/15 19:46】 URL | よりやん #- [ 編集]

よりやんへ
こんばんは。
いつも優しいコメントをありがとうございます。

>万年筆で書く手紙が大好きです。指に力を入れずに 書く感覚が何ともいえない。
今も万年筆ですか。いいですねえ。
私は、水性ボールペンや筆ペンが多いですが、ほんとは万年筆に憧れます。
鉛筆もBとかの、力の要らないのが好きです。

>数学のけめこ先生
うわあ、懐かしい!どうされてるかしら?一度会いたいな!

この靴、とっても気に入ってます。
靴底も厚くないので、裸足で歩いているみたいで、足裏がぽかぽかしてきます。
私のようにワイルドでワイドな足には、ぴったりです。

>老化防止にも いっぱい 字を書きましょう!!
賛成!本も線を引きながら読む癖がついていて、引かないと頭に入らないのですよ。
【2013/01/16 18:23】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


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大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年6カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !



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