心に響く本・詩歌・言葉・音楽・風景
私の読んだ本や聴いた音楽、出会った風景の中から心に響いたものを紹介します。
あんなことこんなこと-伊丹三樹彦著『俳句現代派秀句』と句縁
今回は、下記の本から、伊丹三樹彦先生の俳句観と、ふるさとの恩師つながりの記事です。

伊丹三樹彦全文叢 第6巻『俳句現代派秀句』(平成8年/沖積舎/9000円)

 haikugendaihasyuku201302.jpg

93歳になられた伊丹三樹彦先生、昨年あたりから、本だらけのご自宅を頑張って整理されておられ、句会に伺うたびにご本を下さいます。今回ご紹介する本も、その1冊です。400ページを超える二段組みの中身がぎっしり詰まった本でしたが、伊丹先生の言葉が素晴らしくて、ぐいぐい読み進みました。

13歳から始められた俳句を80年間続けてこられた、その原動力は弟子を育てることにあったのではないかと、一人一人の句を丁寧に見て励ましておられる言葉に強く感じました。村上護氏が書かれた帯文の「彼の軌跡を渉猟すれば、いつも行き当たるのが三樹彦の志。いやそれがまた無私の精神なのだ。」というのに、共感を覚えました。

「自分のことよりひとのこと」を優先され、第一句集の出版も遅かった伊丹先生ですが、10年前の2003年、俳句界への貢献が評価され現代俳句大賞を受賞されました。その後、病気に倒れられ、50年続いた「青玄」を終刊されることになってしまいましたが、必死のリハビリ(病後二万句達成)により見事復活、今は新たに「青群」の顧問をされ、やはり俳句に打ち込む日々を公子先生とお二人で続けておられます。

この本には「青玄」雑詠欄の選評、昭和27年4月からの20年分が収めてあります。読み始めてまず、伊丹先生が33歳(私はこの8カ月後誕生)の時から、こんな立派な文章を書かれていたことと、個々の俳句への気持ちの添わせ方と読みの深さに感動しました。傍線をいっぱい引いたこの本の中から、先生の俳句観が伺える部分を少しだけご紹介します。下線部は、特に共感する大切な部分なので、私が引きました。 (作品に沿って具体的に書かれているので、併せて読むと更なる感動があります。)

 IMG_6419banpaku201302.jpg
 【2月21日万博公園の梅。まだほとんどがつぼみでした。】

P13(S27年7月号)
【前略】成程、俳句に限界がないとはいえない。しかし、その限界は例えば水平線のようなものであって、これに向かって突き進む者にとってはどこまでも伸び展がってゆく、いわば無辺際なものとして考える方が、可能性を信じてこれが実現に努力をする真に実作者らしい態度とはいえないだろうか。
・【中略】・この世に生存する限り、時代や社会と無縁ではあり得ないし、そうした事象との交渉によって生ずる今日的感動を無視しては実作をなし得ないのが本当であろう。・【中略】・尤も俳句を通じての社会批判や時代抵抗が直接的な効果をあげ得ないことに対する疑問も起きようが、俳句はどこまでも俳句であって、思想運動の方便に扱わるべきでないことだけはしかと肚に据えて置かねばならない。

P75(S35年2月号)
【前略】好調不調のあるのは誰しも経験することである。好調の波に乗ったときは、精一杯そのエネルギーを発揮したらいいし、不調の波に沈んだときは必ず脱出口のあることを信じて凡ゆる努力を惜しまぬことが肝要である。いずれにしても実作者であるためには自恃の精神を堅持しなくてはならぬ。【後略】

P107(S36年3月号)
【前略】俳句はやはり単純化が決定的な魅力だということを改めて教えてくれる作品だ。

P145(S37年8月号)
【前略】詩に使う言葉はやはり読者を頷かすに足るものでなければならぬ。青玄が主張する「現代語の導入」は、その前提として「現代語に対する意識」を働かさねばならぬ。一句に用いる言葉が、現代に生きているかどうか。今日の読者に果して理解されるかどうか。についての考慮が必要なのである。
既成の言葉が手垢まみれになっているからとて、矢鱈と奇語や造語の類を用いようとするのは、短詩型作家が陥り易い言葉の罠の一つであろう。むしろ、既成の言葉の垢落としを果たす方向にこそ積極的に挑んで欲しいものだ。その点、今回の作品はみな平易な言葉を使いながら、内容的には深くもあり、新しくもある詩の世界を現出させていた。【後略】

P160(S38年1・2月号)
【前略】僕は川之石(愛媛)や熊毛(山口)の高校生俳人の進出に接するたびに、俳句もまた生活綴り方運動の一翼を立派に担い得る詩型ではなかろうかとの自信を抱き始めている。然も、この場合、従来のような文語俳句では不可能であることもまた……。

P287(S41年12月号)
私信で、自分なりに感得した句作の要諦、それは一にテーマを見付けること、二にそこへポエジィを育てること、と書かれていた。僕はそれを読んで思わずウーンと唸ってしまった。この作者は、もう「俳句の心」を完全に摑んでいるのではないかと、半ば驚き、半ば呆れたものである。
僕などは、まさみの二、三十倍もの時間と経験をかけているが、そこから得た俳句観は、まさみの俳歴一年の所感と殆ど変るところがないのだから全くダラシがない。〈みの虫〉の一句は、そうした作者の狙いの矢が的を外さずに射られている。

P314(S42年8・9月号)
【前略】俳句はつまるところ、対象から何を思い、何を考えたかという作者の連想力、想像力によって、その出来も左右するわけで【後略】

P404(S44年6月号)
【前略】見たものの面白さ以上に、表したもの(言語表現)の面白さが優位を示している。俳句とは、文芸とは、本来が、そうあるべきなのである。


 IMG_6443banpaku201302.jpg
 【2月21日万博公園の椿。終わりかけのものが多かったです。】

 最後に、とても驚いたことを一つ。

P153(S37年11月号)
【前略】十代作家は、愛媛の一辺地である川之石だけでも十名近く存在しており、弦田登志夫、和田節夫、佐野さちおといったよき教師であり、よき俳句の先輩でもある指導者が揃っているからだ。【後略】


ここに書いてある「佐野さちお」って、もしかして、高校の担任だった「佐野先生」のこと?というのも、以前に先生から「川之石高校で文芸部の顧問をしていて、部員に坪内稔典君がいた。伊丹三樹彦先生が指導に来られたことがある。」と伺っていたからです。

確かめなくてはと思っているところに、偶然、佐野先生から「年末からずっと入院してるんよ。」と電話がありました。先生は、ALS(筋委縮性側索硬化症)という難病で、長く闘病されていて、しばらく前までは「俳句ができたよ。」と電話を下さるので、拙ブログにも載せ、同級生が楽しみにしてくれていました。(参照:右列「恩師の俳句」コーナー)

早速、先生に「もしかして《さちお》というペンネームでしたか?」と尋ねたところ、確かにそうでした。まさかこの本の中で、高校時代の担任の先生の名前に出会うとは思ってもいなかったので、とても驚き、また、嬉しく思いました。佐野先生のことは、拙歌集『大空の亀』に、次の三首を詠んでいますが、母が亡くなったばかりだった私を気遣って下さった、まさに《恩師》なのです。

勉学に励まぬ理由(わけ)を日々問はれ「どうせ死ぬから」やうやく答ふ
「釈迦の四苦」師のつぶやきし一言に我の中にて流れ出すもの
夏休み四十日の感想の一日一日に師の朱筆あり


そして、同時に佐野先生の優しさと伊丹先生の優しさを、ここでご紹介した『俳句現代派秀句』の川之石高校の母親を亡くした生徒の次の俳句に感じたのでした。

P155 ちちははなし 鍬音で消す祭太鼓       宇都宮美子(S37年12月号)
P161 うなじ母似か 父の視線の中にいる      得能久美子(S38年1・2月号)
    母が欲しい 霜焼けの手で答案受け      宇都宮美子(S38年1・2月号)
P163 母なんて要らない 萎びた祖母と寝て     宇都宮美子(S38年3月号)
P164 土くさい父の手袋 はめてみる         得能久美子(S38年3月号)

テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
おつかれさまです…
俳句歴80年!
私の人生の2倍だな~スゴイな~と思いました。
長く継続する事は素晴らしいしですね。

私も、とりあえず米寿まで健康&作歌が第一目標です。
【2013/02/26 21:26】 URL | ケンジ #tHX44QXM [ 編集]

ケンジさんへ
こんばんは。
コメントありがとうございます。
この本には、坪内稔典氏の若い時(青春時代)の句がたくさん載っていて、伊丹先生が才能をほめておられましたよ。

>私も、とりあえず米寿まで健康&作歌が第一目標です。
若いのに、もうそんなことを考えているんですか?
私も、元気で、長く、作歌・作句続けたいです。
【2013/02/26 22:45】 URL | 大空の亀 #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kamenoashioto.blog52.fc2.com/tb.php/583-8b0e2bc8
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

大空の亀 

Author:大空の亀 
写真の猫は姉のハオと弟のミュー。
ハオは2006年5月5日生(伝)。
ミューは2008年10月10日生(伝)。

空と言葉と草木花が好き。
趣味は読書・文芸。

読書ノート歴33年。
年間読書冊数の平均は、学生時代は
300冊、就職後は100冊~150冊。

ブログ歴 11年6カ月
2006年 3月17日から始めました。
2006年 9月 9日カウンター22222通過
2007年10月24日カウンター77777通過
2008年 5月23日カウンター100000突破 !
2008年 9月 8日カウンター111111通過
2011年 5月 4日カウンター200000突破 !
2012年 1月10日カウンター222222通過
2014年 9月15日カウンター300000突破 !
2017年 9月26日カウンター343434通過



カテゴリー



最近の記事



最近のコメント



リンク

このブログをリンクに追加する



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カウンター



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



ブログ内検索



RSSフィード